僕の選択が正しかったと思いたい。
桜咲里が、廃墟に戻ってきた。
1人で。
真凜の顔を見ると、
「ごめん」
一言だけ言った。
「わかっている・・」
そう答える真凜の目は、深い悲しみを宿していた。
こんな事がなければ、
高級官僚の令嬢として、
生活する事ができたんだろう。
結婚するまでの、花嫁修行として、
研究室で、勤めて。
恋人は、優秀な研究員で、
悲しみで、青ざめる真凜の首筋に浮き上がった、
細やかな数字が、無性に悲しかった。
無意味になったのか。
肝心な所に、
吐夢に付けられた傷が、
痛々しく残っている。
何もかも失った真凜に、そっと、桜咲里が、渡した小さな包みがあった。
「これを・・・」
黙って、包みを開いた真凜の顔が、
くしゃくしゃになった。
涙と嗚咽が、
廃墟に、響いていった。
何を言ったら、いいのか。
母さんが、そっと、真凜の肩を抱いた。
そして・・・。
言った。
「方法はある」
「方法って?」
みんな、驚いて、華さんの顔を見た。
どうして、
今まで、黙っていたのかって。
「吐夢を止めて、この感染を止める方法」
「いや・・・待てよ」
晴が止めた。
ずっと、晴は、その答えに気づいていようだった。
「ダメだ」
首を振る。
「もう、限られているから、役に立ちたい」
「いやいや・・・無理だって。もう、戻って来れなくなる」
「ちょっと・・それって」
音羽が、口を挟んだ。
「九尾狐で、始まった事なら、終わりも」
「母さん?」
母さんが、何をしようとしているのか、わかった。
「私は、もう、十分だから、止めましょう。この感染も」
「いやいや・・・そういう事でなくて、方法は、まだ、他に」
「今世で、終わり。死んでしまうの。戻って来れないのよ」
音羽は、ムキになる。
「やっと・・・。颯太に逢えたのに」
吐夢の肉親が、そうだった様に、母さんは、自分の身を犠牲にしようとしている。
「吐夢華、私しか、いない。吐夢に無理強いはできない」
「・・・だからって」
僕は、唾を飲み込んだ。
「僕が行く」
まだ、僕だったら、戻って来れる。
生き抜くチャンスは、まだまだ、ある。
ここで、母さんを犠牲にしたくない。
「颯太は・・・。純粋な九尾狐でないから、どうなるか、わからないぞ」
案の定、晴が止めた。
「できるのは、吐夢華、一の葉だけだ・・・」
みんなが、黙った。
「大丈夫。解決方法は、あるから」
空気を読んで、真凜が、声を上げた。
僕や、母さんの事を思って。
「・・・僕に賭けて・・・」
「そう・・・ね。颯太。一の葉は、弱っているから、颯太にかけるしかない。半分は、九尾狐なんだから・・・」
僕を見つめる音羽の瞳が、悲痛だった。そう言いながら、自分を納得させているのが、わかる。
「大丈夫・・・」
「自分を賭けるのか?上手くいかないかもしれないんだぞ」
何度も、確認する晴。
こんな展開、知っている筈でしょ。
この先、どうなるのか。
もしかしたら、もっと、僕は、化け物になるかもしれない。
それでも、母さんを失うよりは、マシ。
やっと、逢えたんだから。
母さんの目から、逃れるように、僕は、廃墟の窓から、飛び降りていった。




