僕には、選択する資格はない。
晴の与えてくれた時間に感謝する。
逃げる事も出来たけど。
向き合う時。
この場面になって、
僕は、ようやく母さんの気持ちに触れる事ができた。
僕という命が宿った時の母さんの動揺を知った。
母さんは、
知っての通りの九尾の狐。
大陸の王朝を混乱に陥れた、誰もが知る妖怪。
九回、行き帰り、
あらゆる男性を惑わし、
混乱した。
とんでもない。
妖女。
・・・・だった。
転生するにつれて、
猛毒が薄まるように、
母さんは、変わっていった。
もう、最後の転生の時。
母さんは、日本に居た。
以前も居たらしい。
懐かしむように、過ごす日本で、
1人の男性に出会った。
それが、
僕の父親になった人。
まさか。
母さんは、僕を宿す事になるとは、思っていなかったらしい。
僕だって、
どうして、
母さんに、降りて来たのか、わからないよ。
九回目の人生で、
初めて、穏やかな人生を送る事になった・・・。
そう思いたいよ。
三人で、
普通の家族として、
生きる事ができたら・・・。
もしかしたら、
僕も、
普通の青年として、
生きる事ができたかもしれない。
「今からでも、遅くないよ」
晴は、小さな声で、呟いた。
母さんも、
三人で、暮らせるかも。
そう、思っていた。
そこに現れたのが、
吐夢だったんだ。
吐夢は、母さんの八回目の人生で、
大陸で逢っていた。
母さんに拾われていたんだ。
「因縁って、言葉があるだろう」
晴が言う。
桜咲里が、僕を追い詰めたのも、それだし、
晴が、母さんに惹かれたのも、それだし。
僕が、音羽と出会ったのも、それだし・・・。
吐夢と母さんの因縁。
何よりも、
この国と、吐夢との因縁。
吐夢は、かの大戦時に、
親や友達を亡くしていたんだ。
孤独になっていた。
母さんが、拾い育てた。
吐夢が、孤独になった原因。
大陸で、行われていた。
生物実験。
その犠牲になっていた。
彼は、全てを憎んで、僕らの前に現れた。
この国を憎み。
母さんの子供の僕を憎んだ。
「知らない間に、憎まれるんだな。憎悪って、人間だけが、持つ感情じゃなかったのか?」
「人といたから、学習したのかもしれない」
母さんが、呟いた。
「弱っていた吐夢を見捨てる事はできなかった」
生まれ変わる度、母さんは、人に近くなっていったんだ。
母さんは、愛情を知って、吐夢は、憎しみを知った。
「切ないよな。人に、近くなった途端に、終わりが来るなんて」
晴の目が、本当に、切なそうだった。
表には、出さないけど、晴なりの、歴史があるんだろうな。
晴の世界で、真凜の回復は、目覚ましく、僕らもそろそろ、現実に戻る時が来た。
元の世界に戻れば、母さんの残りの時間は、少なくなっていく。
それでも、
僕らは、元の世界に戻る事にした。
桜咲里が、戻ってきたから。
たった・・・1人で。




