このまま、逃げてしまおうか。
何もない。
時間の感覚も、
自分と他人の境界もない世界。
どこまでも続く砂漠。
と。
蒼空。
そして、ど真ん中にあるオアシス。
簡易的なベッドに。
真凜は、いた。
「大丈夫・・」
音羽は、オズオズと声を掛けた。
声を掛けた女性は、あの時と、雰囲気が違う。
真凜は、一瞬、戸惑った。
「え・・・」
声を上げようとして、痛みに唸った。
うつ伏せの状態。
傷は、どうなんだろう。
白い羽織ものが、掛けられ、どうやら、晴が応急処置を行った様だ。
「復旧は、無理だな」
ため息をつく。
「何本かの爪の後が、不味かった」
背中の大きな傷。
吐夢の爪の後が三本。
大きく、斜めに走り、
恐らく重要な箇所は、全く、読めなくなっていた。
「聞きたい事がある」
これだけの情報の筈がない。
誰もが、考えた。
「これを描いた人は、どこにいる?」
勝浦の娘だから、託したのか。
伝達方法が、これしかなかったのか。
他にないのか。
色々考えたが、
当の本人を探し出した方がいいかと考えがまとまった。
「これは・・・」
真凜自身、自分の背面にある図面に気づく事はなかった。
それは、一定の体温が下がる事で、浮かび上がる。
真凜、その者が、体調の良い時には、決して、現れない生きた設計図。
「一体いつ?描かれたのか・・・わからない」
それもそうだろう。
後から、わかった事だが、
その人。
真凜の恋人は、
真凜を眠らせた間に、印を彫っていた。
当の真凜が気付かないように。
真凜だけを逃し、
勝浦の元に、たどり着ける様に。
「彼は・・・?」
そう、呟いたが、
彼がいない現実に、気付き、
涙した。
「これを描いたのは、彼なのね」
一の葉が、真凜の顔を覗き込む。
「もしかして・・・」
あの時、助けてくれたのは、音羽でなく、この人。
顔は、違くても、瞳の奥に宿る灯りで、気がついた。
「助けてくれてありがとうございます・・・でも」
自分だけ、助かっても・・。
そう言いたいのか、真凜の両目から、ハラハラと涙が、溢れた。
「探すか・・」
と晴。
「だけど・・・」
生きているのか。
言葉に出せず、目配せした。
「いえ・・・」
一の葉が、首を振った。
「どこを探しても、いない。もう、気配がないの」
光となって、消えていった。
「ワクチンは、諦めるしか・・・」
「最悪な事に」
一の葉は、続ける。
「この子の父親が危ない」
勝浦の事だった。




