手繰り寄せられる運命の糸
勝浦が感染した。
桜咲里の声は、震えていた。
「戻れる?」
颯太は、聞いた。
助けに行けるかもしれない。
そう言おうとした瞬間、音羽と目が合った。
「時間がない」
その言葉は、今、追い詰められている状況を指していると思っていた。
「よく見て」
一の葉の事だった。
九尾狐は、九回、生まれ変わる。
「もう、十分に永く生きたから」
もう、生まれ変わることなんて、できない。
後がない事を、知った。
「本当に消えてしまう」
颯太に逢いにきたのも、残りの時間を知った上だった。
「颯太が、居ない間に、消えてしまうかも」
そう、音羽は、囁いた。
折角、逢えたのに。
親子の時間も、十分にないまま、別れる事になる。
「1人で、何とか、来れそう?」
発症した大の男を連れて、
ここまで、来るのは、無理だろう。
行けるのは、音羽。
「行かないよ。私に頼むの?」
もちろん、そう言うだろう。
「いや・・・。桜咲里。こっちは、大丈夫だから」
言いながら、何が、大丈夫なんだろうと考えた。
負傷した真凜の回復を待ち、仙台に向かう。
防衛省の研究機関が、そこにあった。
一部分は、欠けているが、無いよりは、マシだろう。
勝浦から、聞いた場所に向かうと、桜咲里に告げた。
「何処かに、潜んでいて」
いつまで、桜咲里が、感染しないでいられるか、わからない。
勝浦が、感染したのなら。
もしかしたら。
危うく、体が、動きそうになった。
「行きたいなら、行ってもいい」
音羽の言葉に躊躇した。
そんな訳でないのに。
「待っているから、行ってきなさい」
母さんが言う。
「一緒に過ごす事ができた・・・それだけで、十分。ずーっと、長い間、1人で、生きて来たんだよ」
その言葉が、重かった。
「この辺で、終わりにしていいと思っている」
「やっと、逢えたんだから、もう少し、そばにいて」
心の中で、呟いた。
桜咲里、ごめん。
何か、一つ、償いをしたかった。
けど。
母さんの残りの時間が、少ない事がわかった。
今世が、最後なんだろう。
桜咲里の生きる希望を奪った謝罪をしたかった。
「少し・・・静かな所に来ないか?」
晴が、僕らに声を掛けた。
「現実と、離れる時間も、必要だよ」
晴の後ろの景色が、縦二つに割れていた。
蒼空と砂漠が見えていた。
「俺達には、休憩が必要だろう?」
音羽が、静かに笑った。




