我が子の記憶
ずっと、自分の中に入ってきた意識が何なのか、わからなかった。
記憶は、断片的だったが、悲しく筆舌できないものだった。
「あ・・自分と似ている」
音羽は、理解した。
どうして、自分なのか。
あまりにも、その記憶は、自分と似ていた。
異なるのは、その意識の中に、熱い思いがあった事。
母親の感情なのか。
音羽には、まだ、理解できなかった。
誰への想いなのか。
どこに残してきた子を思うのか。
グッと、込み上げる思いが、何だったのか、気付いたのは、しばらくしてからだった。
「親の心は、わからないものね」
音羽は、言った。
「自分の気持ちだけしか、わからないものね」
音羽が言った意味を、理解できたのは、ずっと、後からだった。
音羽の中に、あの人がいたなんて。
九つの生を持つという九尾狐。
その一つを、この世界で費やそうとしていた。
今、何が起きているのか。
一の葉は、理解できていた。
このまま、侵略者達の思う様に、させてはならない。
真凜を無事に届ける。
それが、颯太を救う事になる。
自分ができなかった分。
しっかり、颯太の命を繋ぐ。
瀕死だった自分が、殺生石から、抜け出し、ここに現れたのも、
全て、颯太を救う為。
「ここを抜け出すにも、覚悟がいる」
真凜の命を回らなくては、ならない。
自分は、ともかく、熱感知で、ここに生命体が居る事がバレてしまう。
敵は、少ない方がいい。
「少し、眠ってくれる?」
一の葉の尻尾に触れると、真凜は、眠りに落ちた。
何をするんだろう。
一の葉の意識の中で、音羽は、彼女の感情を、感じていた。
「母は、いない」
颯太が、そう、呟いた。
生まれた時に、自分が、殺めてしまったと思っていた様だ。
異なる能力。
母が、何者かも知らず、自分を責め、幼年期を寺で過ごした。
何も言わず、寺に幼い颯太を捨てた父親。
どちらの両親も冷たいと聞いていた。
実際、自分に入ってきた一の葉の感情の中には、
颯太への思いが溢れていた。
颯太に会いたくても会えない事情があった。
閉じ込められた一の葉の意識の中で、音羽は、彼女の過ごしてきた時間を知る事になる。
「晴の奴・・・」
音羽は、舌打ちした。
晴が、淡い恋心を抱いた日があった事を。
闇は、深くおり、熱感知のドローンが飛び交う中を、姿を変えた一の葉が、空を駆け抜けて行った。




