対面と恋慕
吐夢の目が真っ直ぐに捉えていたのは、こちらに向かって来る人の群れだった。
正確に言うと、元、人の群れだったかもしれない。
皮膚が赤く爛れ、所々、赤く溶け落ちた皮膚は、腐敗臭を伴い、
僕らの嗅覚を麻痺させた。
「ほんの、一握りだよ」
吐夢が言う。
「吐夢?」
その言葉に不信感がよぎった。
「一握りって?」
何を知っているんだい。
吐夢の両目は、キラキラと輝き、細い虹彩が灯っていた。
長く揺れる尻尾が、九つ。
僕と、違わない。
「他にも知っているの?」
吐夢の口の中で、細い犬歯が光った。
「颯太!」
遠くから、晴が怒鳴った。
見ると、こちらに向かって、兵士達が来る。
ここに向かって、人がいると言うのに、
火炎放射機を向けている。
「嘘だろう?」
首筋がチリチリした。
「こんな事?」
人が人を殺める?
「化け物!」
そんな意味合いの事を、兵士が叫んだ。
そうじゃない。
人なんだ。
感染し、助けを求めている。
僕らに助けを求めている。
「止めろ!」
僕は、叫んだ。
人が人に、手をかけようとしている。
「だから・・・」
吐夢が叫んだ。
「こんなもんなんだ!」
「おい!」
流石の晴も驚いた。
後から、そう言った。
僕の予想を、裏切った。
吐夢の行動。
もう、吐夢は、人の形をしていなかった。
「え?え?」
スラリと足の長い九尾の狐に姿を変えた吐夢は、兵士達の前に立ちはだかり、
火炎放射機ごと、兵士たちを軽く飛ばしていった。
その揺れる尻尾で。
「吐夢は、九尾狐だったんだ・・・」
桜咲里が、呟く。
だから、
こんな感染者が広がる世界で、たった1人、路上に居る事が出来たんだ。
「・・・という事は・・・」
兵士達を巻いて、逃げ切った晴が、僕を拾い上げる。
「そんな気がしたんだ」
桜咲里の言葉に続く。
「そういう事は、あなたと吐夢葉、兄弟?って事?」
「ええ?」
バックミラーに、倒した兵士達の上で、ゆらゆらと尻尾を揺らす吐夢が見えた。
鏡越しに僕と目が合うと、イタズラっぽく、笑う。
「弟って???」
僕の母は、居なくなったんだよ。
もはや、生きているのか、わからない。
九尾狐だったなんて、嘘か、本当か、わからない。
「多分・・・生きている」
晴が、突然言った。
僕の心の叫びが聞こえたのか?
「さっき・・・見ただろう。殺生石」
「あ・・・うん」
キザに、晴が花束を備えようとした、割れた石の事ね。
「封印が、破れていた」
「ん?」
あれは、母が封印されていたって事?
どうして、晴が?
「妖艶な女性だったって、伝説ですよね」
桜咲里が言った。
まさか。
晴。
冗談は、やめてくれ。




