二つの顔
「ほ?」
誰もが、一瞬、顔を見合わせた。
鼻血を噴き上げ、恐怖に震える姿は、もはや、人間ではない。
顔を突き合わせた兵士も、僕らも、
一瞬、どうしたらいいのか、我を忘れた。
晴が、早かった。
検問をぶっちぎり、車を加速させた。
「ぼ・・・????」
僕が、一番、わからなかった。
僕と同じ?
何で?
人間の子供ではなかったのか?
確かに、不自然な出会いだった。
こんな腐敗した危険な世界に、子供が1人で、落ちているなんて。
いろんな思いが、駆け巡り、
一つに、たどり着いた。
晴。
知っていたのか?
晴は、不自然な事を言っていた。
吐夢が、人間でない事を知っていた。
しかも。
僕と同じって事は?
大陸から渡ってきた、九尾狐は、他にもいるの?
それとも。
いやいや・・・。
母は、存在しない。
あの日。
僕が、殺してしまったのだから。
僕は、唾を飲み込んだ。
「知っている?」
僕は、状況に関わらず、話しかけた。
「待ってろ!」
そう言う晴の顔が険しい。
そうだよな。
検問を突破した車を、追いかける兵士達。
優しく引き留めて、事情を聞くような、穏やかだった日本のやり方ではなく、
激しく銃を撃ち込んでくる。
「ははは・・・どこまで、持ちこたえるかな」
「車の事?大丈夫、私の車は、装甲車並みの装備だから」
シートの間に、身を潜め桜咲里が、笑う。
「いやいや・・・そうじゃなくて」
晴は、笑った。
そうだ。
晴も限界なんだろう。
人のふりをしているのが。
永い間、古い土蔵に眠っていた邪神。
代々の主人に、取り憑き存在し続けていた。
晴の顔をは、別の顔。
この激情の中で、堪えているのは、晴だけでは、なかった。
「むぐうう・・・!」
幼い怪獣が先だった。
この小狐は、やはり、感情を抑えられない。
「我慢できない!」
「止めろ!」
晴が叫んだ。
僕の手が、空を掴む。
間も無く、
小さな吐夢の体は、飛び出していった。
もはや、
人の形ではなかった。
そこに飛び出したのは、
九つの尻尾を持つ、
いつだったか、古書で見た
大陸の妖怪だった。




