出逢いと悲劇
東に向かって走る。向かうはスカラル領土。かなり近くまでカレラの領域が広がっていたのでブレーラで跳んでそこからはやはり足を使う。このスピードなら明日にはスカラル王国につくはずだ。
道中、小型の魔物にいくらか出くわしたがあの魔物の後だ。全く驚異ではない。歩を止める事無く斬り伏せて進んでいく。この分だとスカラルにも魔物の被害が出ているだろう。クローゼルにはカレラがいる。あいつの言動は女神と違ったベクトルで腹立つがあいつが「任された!」と言ったんだ。絶対に大丈夫だ。今は一刻も早くスカラルへ、王に会わねば。
暫く進むと少し離れた所に馬車の一団が見える。魔物に囲まれ、護衛の騎士達が馬車を何とか魔物を凌いでいるがかなり危険な状況に見える。
ロイ「クソっ!」
寄り道する時間は無いが、見捨てる訳には行かない!進路を変え馬車の一団に向かう。護衛の騎士達は漆黒の鎧に身を包んでいてただ者とは思えない出で立ちをしている。おそらく高位の騎士なのだろう6人が馬車3台を数十の魔物から守っている。しかし、多勢に無勢。腐った獣の死体が動き出したような姿の魔物に苦戦を強いられていた。
ロイ「アースバインド!」
魔物の動きを止める魔法を放つ。先刻よりも小さい根が地面から魔物の動きを止める。まだ魔法には馴れてはいないが出力を抑えて放つ事が出来た。先刻の戦いで少しコツを掴んだらしい。
身動きが取れない魔物を次々一閃し、瞬く間に全ての魔物を葬った。
一瞬の出来事に唖然とする騎士達…まぁそりゃそうだ…俺の強さに俺だって驚いてる…。
ロイ「あのー…怪我はありませんでしたか?」
黒騎士「あ…あぁ…助太刀感謝する。命拾いした!ありがとう!…しかし貴殿は一体何者なんだ?」
ロイ「良かった。俺はロイ。何というか…"ウサミミの勇者"という力を授かった者です。」
黒騎士「?ウサミミ?の勇者??…まぁ何にせよ助かった。礼を言う。時に貴殿はクローゼル人とお見受けするが、何故このような所に?」
黒騎士達は剣を鞘に納める事なく俺を警戒している。隠す事は何もない。先に俺が剣を納め、全てを話す。
ロイ「俺はスカラル王国へ向かっていました。クローゼルで起こった出来事、魔物の事、そして俺が授かった力。何もかもを話します。あなたは高位の騎士…王族騎士様ではありませんか?そうであるならば頼みがあります。助けた恩を売るつもりは無いが、何とかスカラル王に謁見する機会を取り繕って欲しい!事は一刻を争うんです!」
それから俺は今までの事の顛末を騎士達に話した…。
…
黒騎士「貴様…我等を愚弄するつもりか?そのようなくだらぬ嘘を真に受ける馬鹿がどこにいる?!」
ロイ「確かに突拍子も無い話だが事実なんだ!信じてくれ!今俺達がこうしてる間も被害は増え続けている!クローゼルとスカラルが…残された者達で協力して戦わないと…俺たちは滅びてしまう!」
黒騎士「大罪人の分際で戯けた事を!クローゼルの内乱の原因がスカラルの責任だと?ふざけるな!」
「だまりなさい!フェルケン!勇者様の話を聞くのです!」
突然馬車の中から年端もいかない少女が現れ、騎士に一喝する。高貴な身なり、整った顔立ち、長く伸びた黒髪が幼いながらも王族の気品を醸し出している。
黒騎士「いけません!中にお戻りください!」
謎の少女「フェルケン!お前も少し考えれば解るはずです。この勇者様が嘘を言ってはいない事を!密偵からの報告、突然の魔物の来襲、先ほどの勇者様の力…全て勇者様の話と繋がります。そしてスカラルの陰謀…お父様の考えそうな事です…。」
黒騎士「…は!出過ぎた真似を申し訳ありません!陛下!」
謎の少女「私の臣下が失礼を致しました。でもこの者も私への忠義の為の発言だったのです。許してやって下さいね。自己紹介が遅れました。私はスカラル王国第一皇女メルヴィ=ドゥ=スカラル。以後お見知り置きを。」
やはりか!この物々しい騎士達の護衛。それなのにいかにもカモフラージュですよと言わんばかりの荷馬車3台…もしや王族が乗っているのでは無いかと思ったので言ってみたが大当たりだ!しかし何故皇女がこんな所にこんな少数の護衛で?嫌な予感が脳裏をよぎる…。
俺は皇女様の前に跪き頭を垂れる。
ロイ「お初にお目にかかり光栄で御座います陛下。改めまして女神より"ウサミミの勇者"の名を承りしロイ=ヴァグ=ハンに御座います。つかぬ事をお伺いしますが、貴女様がこのような場所におられると言う事は、スカラル王国は今…」
メルヴィ「頭を上げて下さいませ勇者様。ええ…察しの通り我がスカラルは大型の魔物の襲撃に逢い、瞬く間に蹂躙されました…。」
フェルケン「我らはメルヴィ様のお母上であられる王妃様の計らいで間一髪逃げおおせ、秘密裏にクローゼルに亡命する予定だったのだ。」
メルヴィ「恐らくは母上も…もう…」
メルヴィ皇女の目に涙が滲む。当然だ、先程までは毅然とした態度であったとしても年端もいかぬ少女。それでも彼女は涙を見せようとはしない。とても強い子だ…。
ロイ「そうですか…遅かった…。
…いや!まだ諦めるのは早い!きっとまだスカラルにはあなた達みたいに生き残り、今も戦っている人がいるかもしれない!カレラ!聞こえるか!?」
俺は剣に向かって語りかける。
カレラ(む!貴様!我はこっちに集中するって話をもう忘れたか!我は今忙し…)
ロイ「状況が変わった!今からお前の領域にスカラルの皇女様が行く!お前のゴーレムで守って欲しい!」
カレラ(なに?皇女?どーゆー意味だ?それを助けるとこの状況がどう変わる?)
ロイ「何とか彼女と王を引き合わせたい!それで人の争いが終わるかもしれない!」
カレラ(何を言っとるかわからん!とにかく我は今忙しい!ヒトを傷付けないようにヒトからヒトを守り魔物を狩っているのだ!それに我はヒトの見た目の違いなどわからん!いくら我の領域に入ろうと特定のヒトを見分ける事などできん!そんなに守りたきゃお前がゴーレムを作って守れ!)
ロイ「出来るのか?…わかった!魔法を教えてくれ!」
カレラ(そこに木はあるか?枯れてても何でもいい。)
ロイ「アースバインドの根がある。それでいけるか?」
カレラ(構わん!剣を根に軽く当て、お前が思う強き者を思い浮かべながら言え"クリエイトゴーレム"と)
すると再び剣が輝きだす。俺はカレラの言われた通り剣を構え強き者を思い浮かべる…強き者…俺は剣の師匠を思い浮かべた。高齢ながら恐ろしい剣さばきで、全く手が出ない凄まじい達人だった…よく見所が無いとしばかれたよ…そんな事を考えながら俺は静かに唱える。
ロイ「クリエイトゴーレム」
魔法の発動と共に、魔物を抑える役目を終えたアースバインドの根がバラバラに砕け散り新たに形を作り始める。そして現れたのは俺が若き日に恐れおののいた剣聖の姿をした木人形。俺の記憶のまま、しかめっ面で俺の前に仁王立ちしている。
カレラ(もういいな!あとはそいつに命令しろ!簡単な命令なら自動で実行する。これでいいな!我は我の仕事に戻る!)
そう言ってカレラの通信は途切れた。礼も言ってないのに…すまない、ありがとうカレラ。
ロイ「ゴーレムよ!皇女様逹を守り、クローゼル王の元に導け!」
ゴーレム「ガ…ガガ…ガ…」
ゴーレムは軽く頭を下げ、皇女のそばに立つ。うまく命令を理解してくれたみたいだ。呆気にとられる騎士達。そんな中メルヴィ皇女は目を輝かせていた。
メルヴィ「勇者様!これはこれは一体どんな魔法なのでしょうか?私このような魔法は初めて拝見致しましたわ!それに先程剣とお話されていたようでしたが…もしや女神様ですか?」
ロイ「俺も初めて使いました。これはゴーレムと言って貴女様をお守りする木人形です。こいつが貴女様を守ります。それとさっきのは女神では無くて精霊のカレラです。元々魔法が使えない俺に色々教えてくれるんですよ。」
メルヴィ「左様で御座いますか!その精霊様ともいつかお会いしたいものです。」
ロイ「あと勝手に話を進めてしまいましたが皇女様。是非クローゼル王と会って頂きたい!今クローゼル国内は魔物の被害だけでなく、クローゼル人とスカラル人との争いも本格的になり混乱を極めているのです。何とかカレラが両方を抑えていますがそれも時間の問題です。皇女様がクローゼル国内のスカラル人にお声をかけて頂ければ状況は変わるかもしれないのです!」
メルヴィ「承知しております。元より母上のお望みでもあります。クローゼル国内の協力者が私を王の元に案内してくれる手筈でクローゼルに向かっておりました。私共はこのまま目的地まで急ぎます!かわりに…勇者様…どうかスカラルを…」
ロイ「ありがとう!任せて下さい!」
そう言って俺は再びスカラルに向かって走り始めた。
夜はアースバインドの根でテントを作り、先の戦闘で使ったメイクフォレストの大樹の実を食べた。あの蛆の形をしたおぞましい実だが意外と味は悪く無く、何より活力が湧いてくる。メイクフォレストの大樹は俺の眷属で剣で召喚すればいつでも実を転送できる。これもカレラから教えてもらった事だが、メイクフォレストと言う魔法は取り込んだ物質や生物の性質を反転してそれぞれ異なった果実を実らせるらしい。あの蛆の魔物の性質は「命を消滅させる」、それを取り込んだメイクフォレストの性質は「命を活性化させる」。原理は解らないがこの実を食べれば体力や魔力が回復し、地面に埋めれば一帯が豊満な土壌となる。見た目キモいがとても優秀な果実だ。
そうして夜が明け俺は再び走り始める。だんだん出くわす魔物の数が増えてきた。スカラルは近い…。
…
……
………
火に包まれる町…民家は倒壊し、あたり一面瓦礫の山と化している。硝煙で一寸先も見えない程だ。クローゼルの被害の比では無い。酷い…こんな状況じゃ生存者は…絶望的だ…。
ロイ「誰か!誰かいないか!返事をしてくれ!」
すると煙に紛れうっすらとヒトの影が現れる。ユラユラと揺らぎながら此方に近づいて来る。
ロイ「良かった!おい!ゲガは無いか?!他に生存者は?!」
人影に近づくとソレの正体が明らかになった。スカラル人…だが目は虚ろで明らかに生気は無い。それに体中に紫色の血管が伸び、胸の部分にドクンドクンと歪な物体が脈打っている。
「グるじぃぃ~…た…助ゲて…」
「痛いイだぃぃ…」
俺を囲むようにソレはワラワラと集まって来た。ソレは鎧を纏った者がいたり、女、子供までいる…。
ロイ「おい…大丈夫なのか?…」
俺は一人に近づくとソレは俺に噛み付いてきた!とっさに振りほどこうとするが異常な力で俺を押さえつけてくる。
ロイ「ぐっ…操られてるのか!おい!やめろ!」
「あ゛あぁぁぁあ…」
ロイ「くそっ!駄目か!」
何とか男を引き剥がし、素早くその場を離れる。男は突き飛ばされ暫くうずくまるが、再び起き上がり盲目的に此方にゆっくりと向かってくる。くそっ!どうすればいい?
カレラ(そやつらは最早手遅れだ…)
唐突にカレラが俺に語りかける。
ロイ「手遅れ?手遅れってどういう意味だ?!」
カレラ(そやつらは既に死んでおる。亡骸に魔物が取り憑き生きているように見せているだけだ。胸の部分に魔物の核が見えよう?それを潰せばいい。そやつらを楽にしてやれ…)
ロイ「…何言ってる?…嫌だ!このヒト達に罪は無い!罪無き者は殺せない!何とか助ける!」
カレラ(無駄だ。死した者を救う手は無い。せめてお前の手で安らかに大地に還えしてやれ。)
ロイ「嘘だ…あんな…あんな小さな子供まで…嫌だ!」
カレラ(…お前がやらねばやつらはこのまま魔物に捕らわれ続け、永遠の苦痛を味わう事となる。それは死ぬより辛い事だ。)
ロイ「でも!…何とかしろよカレラ!!」
「いヤ゛だぁぁあ…た…ジけて…」
「痛いよぉ…苦シイよぉお…お…」
カレラ(見てられん!貴様!早く救ってやらんか!)
でも!でも俺には出来ない!あんな小さな子供を殺すなんて…例えもう死んでるとは言え…俺には…
「お…ジちゃ…ん…助け…テ…」
ロイ「うぁああああああああああ!!!!」
俺はその言葉で咄嗟にアースバインドを放つ。根は彼らを捕らえ身動きを止めた。でもどうする?どうすればいい?助けたい!俺には出来ないのか?
カレラ(火の手が回ってきておる。我の魔法は火には弱い。そんなに長くは抑えられんぞ。)
そんな事はわかってる!黙ってろ!このヒト達を救う方法…本当に無いのか?考えろ!考えろ…。そして一つの可能性を思いついた!メイクフォレスト!この魔法で魔物だけ取り込めば!「殺して操る」性質を「生き返らせて自由にする」に反転させれば!それしか…それしか無い!
ロイ「頼む!眷属よ!俺の願いを実らせてくれ!メイクフォレスト!!」
地面を割いて大樹が生まれる。そして大樹は俺の命を受け、人々の胸に埋め込まれた魔物だけを取り込み果実を実られせた。俺は急いでその実をもぎ取り一人の少年の元に駆け寄る。魔物が抜けたせいでぽっかり空いた胸の穴に実を近づけた。頼む!後生だ!うまくいってくれ!
その実は少年の胸の中に静かに溶け込み、傷口を塞いでいく。やった!成功だ!と思った瞬間少年の体は光に包まれ静かに消えて行った。
…どういう事だ?何が起こった?…
カレラ(その少年はやっと魔物から解放されたのだ。…よくやった。)
するとメイクフォレストの実は人々に次々降り注ぎ、人々は光となって消えてゆく。
ロイ「何で…俺は彼らを助けようと…」
カレラ(…貴様はやつらを助けたのだ。あの魔物の性質は「死後の魂を捕らえ苦しめる」。貴様はそれを反転させ「魂を安らかに眠らせる」にした。やつらも貴様に感謝しとるだろう…)
ロイ「違う!…俺は…俺はこんなの望んで無い!…嘘だ…嘘だぁぁ!!」
カレラ(立て!この悲劇を終わらせる!お前はそのために此処に来た!そうだろう?!)
ロイ「うぅ…くっ!…」
カレラ(今は耐えろ!貴様の助けを待つ者達が大勢いる!貴様にしかできない事だ!行くぞ!勇者ロイよ!)




