戦いと決意
皆の勧め(半ば強引に)半日程休息を取った。正直ヘトヘトだったので助かったが迫り来る魔物の事が心配だ。王宮の客間で仮眠を取った後、王室医の静止を押し切り戦いの準備を進める。
すでに国内の一部では魔物の出現が確認されているらしい…俺がどこまでやれるか解らないが今目の前にある豊かな土地、清らか水、人々の笑顔…絶望に覆われた世界にようやく見い出せた未来を失うわけにはいかない!
カレラ(遅かったな矮小な者よ。待ちくたびれたぞ?)
剣を通しカレラが語りかける、先刻の事を思い出し少しムッとするが今はそれどころでは無い。
カレラ(人里に少し雑魚が入り込んでいるようだが我が樹人形と人の部隊で抑えている。お前は雑魚など気にせず大型の魔物を狙え、さすがに奴らが雑魚と合流すれば面倒だからな。お前を今からそこに送ってやるから思う存分戦え!)
ロイ「送る?送るってどうゆう事です?」
すると聖晶剣モラプリムスが魔法に反応し光り出す。
カレラ(この魔法は我が支配する領土の任意の場所に跳ぶ魔法だ。最初だから今回は我が座標は指定する。それでは叫べ!"ブレーラ"と!)
ロイ「ブ…ブレーラ!」
その言葉と同時に俺の視界は捻れ、体は高速で天高く跳ね上がった。一瞬にして雲を突き抜け頂点へ達し急速に落下する。
ロイ「うおぉおおおおおおおおおおおおお?!?!?!」
ドシンッ!!
俺の体がようやく地面に転がる。ここはどうやら王国最北端の町のようだ。以前見た時とは風景が大分変わっているが、草に紛れた建物に見覚えがある。馬の足で丸3日の距離を一瞬で跳んで来たようだ。凄い…凄い気持ちが悪い!「跳ぶ」って物理的に「跳躍」するって意味かよ…もう二度と使わない!
カレラ(ふん!情けない!そこからは徒歩だ。そろそろ起き上がってさっさと走れ!)
ロイ「くそっ!カレラ!本当に覚えてろよ!」
カレラ(元気そうじゃないか!いいから走れ走れ!北から魔物共が来てるぞ!)
ムカつく!カレラの言う通りにするのは癪だが俺は北に向かって走り始める。こんな状態だが不思議と風のように走れる。全く息も切れない。これが女神から授かった力…。走る内に吐き気も収まり、さらに体が軽くなる。羽のようだ。
自分でも驚く程の距離を駆け抜け、暫くすると枯れた大地の渓谷に差し掛かり禍々しい気配を感じた。背筋に寒気を覚える。
ソレは岩を砕き、渓谷の地形を変えながら進んでくる。地響きを上げ此方へ向かうソレは巨大な蛇のように見える。しかし、その体には幾千もの醜い巨大な蛆のような物が蠢き、悲痛な叫びにも笑い声にも聞こえる音を発しながらひしめき合っている。
ロイ「まさか…こんな奴と…俺1人でか?!」
カレラ(そうだ。ボサッとしてないで構えろ!)
間違い無く天災級の魔物だ。一夜にして町を飲み込む魔物を伝承で聞いた事がある。王国騎士団総員であたっても絶望的なおとぎ話の中だけの魔物が今目の前にいる。
ロイ「こんな…嘘だろ…」
俺の姿をその強大な瞳で捉え、その化け物は大きく雄叫びをあげた。
魔物が巨大な口を開け、俺めがけ突進してくる。あまりに巨大だ。避けきれない!
ロイ「食われる!うぁあああああ!」
カレラ(だから早く構えろ!突っ込め!)
ふざけんな!こうなったらヤケだ!すくんだ足を抑え、俺は剣を構える。魔物が目前に迫り視界が影で染まる。最後に一太刀と思いヤツの口内に飛び込んだ!
その瞬間、魔物の脳天に一筋の太刀筋か浮かび上がり、ドス黒い血しぶきを上げる。その傷口から俺は魔物の頭部を突き抜け飛び出した。嘘だろ…生きてる?!それどころか苦痛の叫びを上げているのは見下ろす魔物の方だ。これが女神の力…勇者の力か!
頭部にパックリ開いた穴を例の蛆が埋めていく。どうやらこの程度では倒しきれないらしい。ヤツは再度俺を睨みつけ、怒りの雄叫びをあげながら次の攻撃を仕掛けてくる。目や口から黒い黒い体液が流れ始め、体液と同時に蛆をボロボロと排出しだした。蛆は俺に向かって這いずり向かってくる。意外と早い!内一匹が俺に近づき跳ねてきた。剣で切り払うか?いや…嫌な感じがする…。俺は後方に素早く身を避ける。すると蛆は空中で突如爆ぜ、紫色の液体を周囲に撒き散らした。液体は周りの岩や土、ありとあらゆる物を溶解するようだ。数滴かかっただけの俺の胸甲にポコポコと穴が空いている。
ロイ「くそ!近づけない!カレラ!どうする!?」
カレラ(チッ厄介な…まとめて消し去るぞ!奴らを集めろ!)
再び剣が光り始めた。
ロイ「まさかまたブレーラじゃないだろうな?」
カレラ(ここで逃げてどうする?それと貴様敬語を忘れているぞ!)
ロイ「それどころじゃないだろう?戦ってるのは俺だぞ!」
カレラ(うるさいな貴様!ほれ!来るぞ!剣を地に突き刺しさっさと叫べ!)
カレラ("アースバインド")
ロイ「アースバインドォォォ!」
突如地面から無数の大樹の根が突き上がり蛆を一カ所にまとめあげる。さらに根は細かな根を生やし、蛆に絡まり身動きを止める。剣は輝きを止める事なく次の魔法の使用に備えた。
カレラ(次だ!"メイクフォレスト")
ロイ「メイクフォレスト!!」
枯れた大地を砕き樹の幹が蛆どもを飲み込みながら成長する。みるみる一本の大樹となり青々とした葉を広げた。生い茂った樹冠の部分には実が成っているように見えるが…あれはあの蛆か?…蠢く蛆は暫くもがくと体表が黒から水色に変化し地面に落ちる。実が地面に触れ弾けるとそこから小さな草花となり広がっていった。
ギャアアアアアアアァァァァ!!!
魔物は悲痛な叫びをあげた。生まれた大樹は魔物の体内の蛆を求め、根を伸ばして魔物の体を縛り付けている。
カレラ(カッカッカッ!よほどヤツがいい養分だったみたいだな!ヤツめ、大きさが最初の半分位になっておるわ!そろそろ留めといくぞ!)
ロイ「まて!様子がおかしい!」
魔物は根に体をとられながら体をよじり丸く膨らみ始めている。まさか…自爆してあの紫色の溶解液を撒き散らすつもりか!
カレラ(させるか!ゆくぞ!ありったけ魔力を使う!叫べ!)
カレラ("ガイアブラスト"!!)
ロイ「ガイアブラストォ!!!!」
体中の力が剣に吸い込まれる感覚。次の瞬間ひときわ輝く聖晶剣モラプリムスの切っ先から魔物めがけて強大な波動が放たれる。俺の体は衝撃で後方に吹き飛ばされそうになるが何とか踏ん張り剣を支えた。魔物は波動に飲み込まれ為す術無く消滅していき、波動の放出が終わる頃には欠片も残されていなかった。後に残ったのは蛆を飲み込んだ大樹と地平線の彼方まで続く波動の軌跡のみだ。
カレラ(よし!ヤツは消滅し、捕らわれていたマナも大地に還った。次いくぞ次!)
ロイ「ちょ…ちょっと待ってくれ!ハァハァ…流石にすぐは無理だ…」
カレラ(ふむ、魔力切れか。仕方ない。だが少し休憩したら次の場所に行く!ゴーレムでは抑えきれん所が出始めているからな。犠牲を増やしたくなかったらここが踏ん張り所だぞ!)
ロイ「ハァハァ…わかった…」
カレラ(時に貴様。何故貴様等は同族同士で殺し合っていたのだ?)
ロイ「戦争の事か?…こんな世界だ。こっちは少ない物資を守りたい。あっちは奪いたい…そんなとこだよ。皆生きるのに必死なんだ。」
カレラ(成る程な…各地をゴーレムを通して見ておるが、てんでバラバラな動きをしておるからそれが原因かの?)
ロイ「そういえばさっきから軽くゴーレムとか言っているが、それは一体なんだ?」
カレラ(我が魔力で作った自律型対魔物戦闘人形よ、簡単に言えば魔物を自動で攻撃する意志持たぬ木人形だ。所々で我が直接操って貴様の同胞に指示を出しておるが全く苦労しておる…ヤツらゴーレムを魔物と勘違いして襲ってきたり、脅えて逃げ出したり…ほぼ役に立っとらん!おまけに目の前に魔物がおると言うのに同族同士で殺し合う輩もおる。先に言っておくがこの先も魔物との戦いは続く、この地に女神ニーヴェルン様のご加護がある限り最後の一匹までヤツらはここを目指しやってくるぞ。貴様等は殺し合っている場合じゃ無いと思うがな。)
ロイ「…カレラの言う通りだよ。今はお互い助け合わなきゃならない。だけど簡単じゃないんだ、俺たちにしちゃここ数日の変化は劇的すぎて理解出来ない事ばかり起きてる。俺だって戸惑ってる…。俺達はそんな賢くないから…だから急にそれまでの確執を忘れて今日から助け合いましょうって言われたって無理なんだよ。」
カレラ(ふん!我は今ニーヴェルン様をお守りしながら貴様を助け、ゴーレムを操っている。一人三役もさせておいて自分は「賢くないから」って理由で厄介事から逃げるつもりか?愚かなら愚かなりに足掻いて見せて欲しいものだ。)
ロイ「オイ!なんだその言い草は!まるで俺一人の問題みたいに言うじゃないか!問題はもっと複雑なんだよ!」
カレラ(当然だ。貴様は女神ニーヴェルン様に選ばれし者。神の力を授けられ、人知を超える存在となったのだ。力には責任が伴う、今貴様の同胞が一つにまとまらんのならそれは貴様の責任だ。突然だとか、愚かだからだとか…そんなものは理由にならん。それが責任を負うと言う事だ。)
ロイ「責任…か…。そうかもな…。」
カレラ(そうだ!それを踏まえた上で…貴様が今やるべき事は何だ?)
ロイ「…カレラ頼みがある。さっき抑えられない場所があるって言ってたがそこはお前に任せたい。俺の事はいいからそっちに集中したら何とかならないだろうか?」
カレラ(…で、お前はどうするのだ?)
ロイ「俺はスカラル王国に向かう。何とかスカラル王に謁見し、二つの国の意志を一つにする!」




