弱虫に信託を
ニーヴェルン『ヘイリィちゃん落ち着いて…あなた今年で22歳でしょ?』
ヘイリィ「だって…ヒッグ…恐いんだもん…」
ニーヴェルン『でもこのままじゃお姉さん助けられないよ…それでもいいの?』
ヘイリィ「やだぁ~助けてお姉ちゃ~ん…」
ダメだコリャ…恐らくこの子のお姉さん、ウェンリイはたった一人の妹を過保護に溺愛してたのだろう。大事に大事に守られすぎた結果この子の精神年齢が12歳で止まったままだ…。良く言えば純粋、悪く言えばガキなのだ。どうしたもんか…。
ポミュ「ママ、どうするの??」
そうだ、水の精霊!お前がいたか!とりあえずマナを注いでこの海域を活性化させればその情報を元に何か解るかも!
ニーヴェルン『とりあえずポミュ!あなたにマナを分け与えます!水の精霊としてこの海域に命の光を灯しなさい!』
私は大地の精霊カレラに与えたようにマナの光をポミュに降り注ぐ。小魚のようだったポミュの体がみるみる…変わらない!ほんのちょっぴり大きくなっただけだ。
ニーヴェルン『え?何で?ポミュ…あなた本当に水の精霊??』
そう言うとポミュは不思議そうに頭をかしげる。
ポミュ「?ポミュは…産まれたばかりだからわかんない。」
ニーヴェルン『産まれたばかり?あなた本当に子供だったんだ…発生してどれくらいなの?』
ポミュ「うーん?お日様が3回昇ったよ?」
ニーヴェルン『3日前?!先代はどうしたの?!?!』
ポミュ「前のボクはねー…魔物に食べられちゃったの…」
ニーヴェルン『食べられた??嘘でしょ…』
精霊が魔物に食われた?こんな世界とは言え精霊を補食する程の強力な魔物がいるなんて、しかもこの数日の事らしい。精霊が死んだらその土地が完全に死滅しない限り数日で新たな精霊が発生する。逆算しても確実にこの海域には危険な魔物がいる!ヘイリィのお姉さんがますます心配だ!
ニーヴェルン『事は一刻を争うみたいね。ヘイリィちゃん!泣いてる場合じゃ無いよ!』
ヘイリィ「うぅ…お姉ちゃん…ごめんなさい…あたしが…あたしのせいでお姉ちゃんが…」
ニーヴェルン『ヘイリィちゃん!きっとお姉さんは生きて…』
ヘイリィ「あたしが…あたしが死ねばよかったんだぁ!!」
カチン!
ニーヴェルン『いい加減にしなさいよ!死んでいい命なんか無い!私の世界にそんなものある訳無い!めそめそしたっていい!絶望して立ち止まってもいい!だけど命を軽んずる事だけは許さない!!』
ヘイリィ「ひぃ…」
ニーヴェルン『あなた!あなたは勇気を持ってここに来たんでしょう?!周りやお姉さんを見返したいってバカな理由で無謀だけど、その勇気は素晴らしい!その勇気はどこに行ったの?!あなたの中の勇気だけがお姉さんを救えるというのに!死ねばよかったなんて戯言言う暇があるんなら死ぬ気で勇気を奮い起こしなさい!』
ヘイリィ「は、はいぃ!!」
ニーヴェルン『よし!いい返事だ!ヘイリィ!あなたは強く生きると約束しますか?』
ヘイリィ「…強く…あたしは強くなりたいですぅ!」
ニーヴェルン『おっけぃ!!ヘイリィ!汝に勇者の力を与えましょう!!』
周囲の海水が渦を巻き、ヘイリィを取り囲み。まるで竜巻のようにヘイリィを飲み込んだ。
強力な渦潮が海底の岩盤を飲み込みヘイリィの周りを渦巻く
ヘイリィ「きゃああああぁぁぁぁぁ!!」
ニーヴェルン『汝に問う!女神ニーヴェルンの剣となり、盟約を守る事を誓うか?!』
ヘイリィ「イヤァァァアアアアアアアア!」
ニーヴェルン『嫌じゃない!盟約は3つ!!
一つ!汝、勇気を失わず、正しき心で人々に希望の光を照らせ!
二つ!汝、愛する事を失わず、命を守り、世界に平穏の道を示せ!
三つ!邪悪な魔物を討ち滅ぼし、輪廻の理を世界に取り戻せ!
3つの盟約は汝の魂を縛り、奇跡の力と変わる。今これより女神ニーヴェルンの神託を“クマノミの勇者”ヘイリィ=ファウンデッドが受け取り、魂の契約と成す!』
その瞬間、ヘイリィを巻き込んでいた渦は徐々に沈静化し光に包まれた彼女がゆっくりと姿を現した。さすがに気絶しているみたいだ。
ポミュ「ねぁママ。こうゆうのって本人の同意って普通必要だよね?」
信託の光景を見ていたポミュが恐ろし気な表情でこちらに尋ねる
ニーヴェルン『あ~ダイジョブダイジョブ♪信託はぜ~んぶ私の匙加減だし~♪』
ポミュ「ある意味悪魔の契約より悪質だと思うの…」
ニーヴェルン『うるさい!それより時間無いからさっさと起こさないと…』
そう言っている間にヘイリィが目を覚ました。
ヘイリィ「う…ん…私夢を…そうだ…あれは全部夢だったんだ…」
ニーヴェルン『夢なんかじゃありません!さぁ目を覚ましたならさっさとお姉さんを探しに行きますよ!』
ヘイリィ「ひぃぃ!!!」
ニーヴェルン『あーそれはいいから!もう飽きたから!シャキッとしてお姉さんと生き別れた場所に案内する!さぁ早く!さぁさぁさぁ!』
混乱するヘイリィを無理やり連れまわし、2人と1匹は深い海底へと瞬く間に姿を消したのだった。
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あわわわ…一体どうしてこんな事になっちゃったんだろう??私はいっつもそうだ。何かやろうとしても結局何一つうまく出来ない。半漁族なのに泳ぎもうまくない。勉強もダメ。もちろん戦いも怖くてできない。私なんか産まれてこなければよかったんだ。ずっとそう思ってた。
そう思っていたのに…
魔物に出くわしてしまったとき思ってしまった。(死にたくない)って。死にたくなくて恐ろしくって無我夢中だった。そして気づいたんだ。お姉ちゃんが私を助けるために囮になってくれた時、心の底から安心してしまったんだ。助かるんだって。生きられるんだって。お姉ちゃんがどうなるか少しも考えちゃいなかったんだ。
許せない。許されるべきじゃ無い。私は私が許せない…。
ニーヴェルン『いや、普通でしょ。みんな普通そうゆう風に思うよ。当たり前。てゆーかあなたも深手負ってたんだよ?まともな思考なんてそれこそ無理無理!』
ヘイリィ「え?なんで…」
ニーヴェルン『お察しの通り私は神様!あなたの考えてることはお見通しよ!』
??????
わからない…頭がぐるぐるする…銀髪のおねえさん。突然現れて…。神様???
ニーヴェルン『あっはっは!混乱してるねぇ!私はニーヴェルン!一応創造神やってるんでヨロシク!っと、そろそろお姉さんと別れた海域はこの辺?』
気づけば記憶に新しい…あの悪夢みたいな場所が近づいていた。
一瞬凍り付いた。
そこは暗く、澱んだ水が漂う死の海域で、私が漁に来た時はまだ魚が住める程度に奇麗だったのに…さほど時間は経っていないはずなのに…。
ニーヴェルン『魔物の影響ね。急いでウィンディちゃんを探さないと!ポミュ!何らかの痕跡は残っていないか探せない?』
ポミュ「う~…。ごめんなさい。ちょっとわからない…。」
ニーヴェルン『そう…仕方ない。ヘイリィ!何か覚えていない?どっちへ向かったとか。ざっくりでいいの!教えて!』
ヘイリィ「えっと…えっと…」
ニーヴェルン『落ち着いて!ゆっくり思い出して!』
思い出さないと!思い出さないと!お姉ちゃんが!お姉ちゃん。確かあっちに…。いえ、あの岩の形…どうだっただろう…。そうだ!あの方向だったような…。でも違ったら?お姉ちゃん…どこ?どこにいるの?お願い!生きてて!お願い!!
ニーヴェルン『お、落ち着きなさいって!とりあえず深呼吸!水中だけど…とりあえず落ち着いて!』
どうすれば…どうしよう…どうしよう…どうし…
ニーヴェルン『あーもう!』
パチン!
ニーヴェルンの掌が勢いよくヘイリィのほほをはじく。
ニーヴェルン『神様のありがたーいゴッドビンタを味わったら少し頭を冷やしなさい!いい?気持ちを集中して!あなたには才能がある。私の見立てでは歌と占いの才能が!だからあなたに力を授けた!あなたがその気になればこの世で見つけられない真実は無い!あなたが頼りなの!お願い!集中して!』
ヘイリィ「わた…しに?そんな力…無い…」
ニーヴェルン『いえ!ある!何?全知全能の創造神の私が間違えると?そんな事は絶対にない!信じなさい!あなたには占いの才能がある!そしてあなたは私が勇者の力を与えた!あとはあなた次第!めそめそしてたら勇者の力は出せないの。勇気を振り絞るの!お姉さんの為に!』
ヘイリィ「グス…で…でも、わたし…占いなんて…やり方知らない…」
ニーヴェルン『ゆっくり目を閉じて!集中して。お姉さんを思い浮かべて!そして知りたいと願うの!どのこにいるのか。さぁ!やって!』
ゆっくり目を閉じ、願う…どこ?お姉ちゃん…
閉じた瞼の裏にぼんやりと浮かぶ光景。あの巨大でおぞましい怪物の軌跡。必死で逃げるお姉ちゃん…。
見える…あの光景が今ははっきりと!これが私の力?
ヘイリィ「あ…あっち…かも…」
ニーヴェルン『よっしゃ!そのまま占い続けて!いくよ!!』
勢いよく私の手は引っ張られる。きっとものすごい勢いで神様に引っ張られてるんだ。むしろ…今目を開けるほうが怖い…。…
……
………
ヘイリィ「次は…あっち!」
ニーヴェルン『がってん!』
どのくらい進んだんだろう…神様に手を引かれて信じられないくらいのスピードでお姉ちゃんの軌跡を追って…
その時だった。
次に頭に浮かんだ光景。
あの醜悪で恐ろしい化け物がたたずむ光景。
この軌跡が向かう先に…奴がいる!
ヘイリィ「神様!この先!この先に…」
ニーヴェルン『近いんだね!よっしゃ任せとけぃ!』
ヘイリィ「違ぁあああああ…」
さらにスピードアップした体が私の言葉を遮った。もうすぐだ。もう目の前にあの化け物が…
ニーヴェルン『ヘイリィちゃん今度はしっかり目を開けて見ておきなさい。あなたに力を授けた神の力を』
なんて力強い言葉だろう。私は恐る恐る目を開く…。
そして広がる絶望。昔おとぎ話で聞いた…。山を飲む神獣「クジラ」。きっと「クジラ」ですらこれほどの大きさでは無いだろう。何本も体から延び出る触手。体の半分ほどまで裂けた巨大な口を開きこちらを威嚇してくる。
違う…
私とお姉ちゃんを襲った化け物はこんなんじゃない!
ニーヴェルン『あれを見て。ヘイリィちゃん』
神様が指さした先には何本も伸びる触手の先から分離するように別の魔物が切り離されている。烏賊に似た化け物。あの化け物は!
ニーヴェルン『どうやらあなた達を襲ったのは魔物の本体では無く一部だったって事ね』
あれで一部…。あの烏賊ですらどうしようもないくらい恐ろしいのに、本体の化け物は…。
ニーヴェルン『さーて!やる気満々みたいだし始めようか!うーん…海中でフルングニルはまずそうだね~…。ならコイツだ!!かも~ん!霊杖ガノトコ!!』
そう神様が叫ぶと地響きとともに海底が割れ、切れ目から不思議な形の杖が現れた…
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霊杖ガノトコ。昔の職場で杖ブームが起こった時にノリで買ったまぁまぁお高い杖。こんなところで役に立つとは…。人生とは何があるかわかりませんな!
「キュエエエエエエェェェェェェ!」
巨大な魔物は全身を震わせ雄たけびを上げている。さすがにこの杖の危険性がわかるみたいだね。
次の瞬間。触手先端の子機(?)の魔物を一斉に射出してきた。小賢しい!
ニーヴェルン『いでよ!クリスタル・ビースト!』
黒水晶で形作られた偽りの獣。この濁りきった海底にわずかに届く光を吸収し、増幅し、美しく輝くクリスタルビーストはいやに幻想的だ。そうか、この武器はこんなシチュエーションにぴったりだったんだ。初めて気づいた
そんなことを考えてる隙に魔物の大群は勢いよく迫ってくる。ざっと500~600くらいかな?余裕余裕!
ニーヴェルン『行け!クリスタル・ビースト!』
高速で飛び出すクリスタル・ビースト。魔物の軍勢に飛び込むやいなや次々と魔物を消滅させていく。
霊杖ガノトコから作り出される黒水晶。この物質はネガティブなエネルギーを吸収する特性を持っている。つまり負のエネルギーの集合体である魔物にとってはこのクリスタル・ビーストは成す術無く消滅させられる天敵という事になる。
ニーヴェルン『雑魚はもうすぐ片付くわよ~。どうする本体!これで終わりじゃないでしょうね!無駄にでかい図体しやがって、一矢報いてみろ!』
クリスタル・ビーストはすでに数百の魔物をその体内に取り込み黒く、淡い輝きを増していた。




