第29話 記憶守護の誓い――星霊たちの暁
――風が止み、空が、澄んでいた。
セレファイスの空を覆っていた“記憶の嵐”が静まり、再び蒼穹の色を取り戻したその瞬間、ユイは空を見上げ、そっと息をついた。
「終わった……のかな……?」
だが彼女の手の中に残る“記憶の鍵”は、なおかすかに光を放ち続けていた。
忘却の銀、想起の金――この力が求める先は、まだ遠くにある。
「次なる九聖龍が、汝を待つ。」
空の彼方から響いたカゼル=アルマの声は、未来を示す風となり、彼女の背中を押す。
その傍ら、ノエルは静かに座り込んでいた。
記憶の暴走を止めたあと、彼女の体力と精神は限界に近かった。
「ノエル、大丈夫……?」
ユイが問いかけると、ノエルはうっすらと目を開き、小さく頷いた。
「……うん。ちょっと疲れただけ……。でも……心は、軽くなった。」
その表情は穏やかで、ネルとノエル、両方の記憶が融合したような優しさを湛えていた。
そこに、駆け寄ってきた3人の仲間たち――白鳥秀樹(水瓶座)、如月龍一(蠍座)、稲森晴佳(蟹座)が姿を現す。
「よかった、無事だったか!」
「ユイちゃん、ノエルちゃん、ほんと無茶するんだから!」
「でも……おかげで、セレファイスが守られた。」
彼らの言葉に、ユイは胸が熱くなる。
――私は一人じゃない。
風は仲間の心を運び、記憶を繋ぎ、未来を導いてくれる。
その時、セレファイスの地脉から、新たな震動が走る。
「これは……?」
地面の亀裂から立ち昇る光。その中に、微かな“星の鼓動”が感じられた。
ノエルが目を細め、囁く。
「……次の九聖龍が……目覚めようとしてる。」
ユイは頷いた。
「行こう。きっと、その先にまた……守るべき記憶がある。」
そして――
星都セレファイスの遥か地下、“封じられた記憶の回廊”の奥に、ひとつの影が目覚める。
「……風の後継者か。面白い……だが、記憶は希望ではない。災いにもなり得るのだ。」
その影の名は、〈夢境整序機関・第五位“メモリア=グレイヴ”〉。
記憶と忘却の狭間で、次なる戦いの予兆が静かに揺らめいていた――。
(つづく)




