第28話 風煌翔陣・真形―記憶を超える者たち
――風が、吼えた。
風の契約者となったユイの内側で、力が螺旋を描いて目覚めていく。彼女の手に握られた二つの“記憶の鍵”――忘却の銀と想起の金――が風の渦と共鳴し、周囲の記憶の断片を次々に取り込み始めた。
「この風……私だけのものじゃない……!」
空を覆う記憶の嵐。その中心で、風の九聖龍〈カゼル=アルマ〉の羽ばたきがユイの背中に宿り、風煌翔陣ふうこうしょうじんは“真形”へと昇華する。
「風煌翔陣・真形――記憶連環陣きおくれんかんじん!」
叫んだ瞬間、ユイの周囲を光の羽が旋回し、仲間たちの記憶と心が風に乗って繋がる。
「今だ、秀樹さん、龍一さん、晴佳さん!」
「応っ!」
白鳥秀樹しらとり ひでき(水瓶座)、如月龍一きさらぎ りゅういち(蠍座)、稲森晴佳いなもり はるか(蟹座)の3人が、風の流れに導かれるように動き出す。
「我が水瓶の知、開放せよ――アクエリアス・リフレクト!」
「蠍の爪、貫け――スコルピオン・スラスト!」
「満ちる月の海、護りし潮――キャンサー・シェルドーム!」
3つの星座の技が、ユイの風煌翔陣に共鳴し、巨大な記憶干渉装置〈ラグナ=クリア〉を包囲する。
だが――
「干渉レベル上昇。ラグナ=クリア、強制駆動。」
夢境整序機関の仮面兵の一人が冷たく宣言すると、ラグナ=クリアが咆哮のような音を発し、周囲の景色から“記憶”が消えていく。
「消える……世界の記憶が……!」
ユイの中の“風”が、叫ぶ。
『忘れるな――この風は、記憶を守るための風。』
風煌翔陣・真形が最大出力に達し、ユイは風に乗り、ラグナ=クリアの中枢に飛び込む。
「この世界の記憶を……仲間の思いを……絶対に守る!」
鍵が光を放ち、装置を貫いたその瞬間――
「やめて、ユイ!」
ノエルの声が響く。
彼女の中に残っていたネルの記憶と、ノエルとしての意思が重なり、彼女自身が“記憶の存在”として輝きを放った。
ノエルは静かにユイの手に触れる。
「これは、私の記憶でもある。だから……私も守る。」
ノエルの身体から広がった光は、消えかけた記憶を再び紡ぎ、ラグナ=クリアの暴走を止めた。
――風が静まった。
気づけば、セレファイスの空は再び蒼穹を取り戻していた。
ユイはそっとノエルの手を握った。
「ありがとう、ノエル。」
「ううん……ありがとう、ユイ。」
その時、再び空の彼方から声が響いた。
『次なる九聖龍が、汝を待つ。』
ユイは顔を上げた。
――旅はまだ、続く。
(つづく)




