第27話 記憶の嵐と風契の羽音
――風が、歌っている。
それは遠く、記憶の奥から届いた声だった。
風の契約を交わしたユイの耳に、確かに聞こえた。
目を開けたその瞬間、彼女のまわりの世界は変わっていた。
星都セレファイスの空は、翡翠の光を帯びた風の渦に包まれていた。
空中には無数の記憶の断片――過去の光景、語られなかった想い、未来の夢――が花びらのように舞っている。
「これは……“記憶の嵐”……?」
ユイの足元から広がる風は、彼女の心と繋がっていた。
風はただ吹くだけではない。
それは触れた者の心を映し、過去の記憶を呼び覚ます。
「……ユイ……」
ふと、後ろから呼ぶ声に振り返ると、そこには――ノエル。
ネルの姿から変化したあの少女は、淡い光を纏いながら立っていた。
けれど、彼女の瞳はどこか虚ろで、戸惑いが混じっていた。
「私は……ノエル……?それとも……ネル……?」
ユイは静かに近づき、彼女の手を取った。
「あなたは……あなたよ。どちらでもあって、どちらでもない。大切なのは、これからどう在りたいか。」
ノエルの目に、うっすらと涙が滲んだ。
その瞬間、空気が凍った。
――「記憶干渉プロトコル・起動確認。対象:Noel-Unit。エリア制御、侵入開始。」
空の上から、銀色の仮面をつけた人物が数名、黒き風と共に降り立った。
「夢境整序機関……!」
ユイは咄嗟にノエルを背にかばうように前へ出る。
「ユイ=ミツルギ、貴女の“認識領域”は第7段階へ到達した。
これ以上の干渉は危険と判断し、対象を確保する。」
彼らの言葉は機械のように冷たい。だがその眼差しの奥には、妙な焦りが見えた。
ユイは右手に“想起の金”、左手に“忘却の銀”の鍵を構えた。
「この世界を、記憶を、私の仲間を……誰にも傷つけさせない!」
その瞬間、風が叫んだ。
『――風の契約者よ、羽ばたけ。記憶を抱いて、真実を貫け。』
カゼル=アルマの声が、空に響く。
ユイの背中から、風の羽根が具現化し、旋回する風と共に舞い上がる。
「風煌翔陣――!」
ユイが叫び、記憶の嵐を断ち切るように風を放つ。
仮面の男たちは一瞬怯んだが、その内の一人が無感情に手を伸ばす。
「ならば……記憶消去装置“ラグナ=クリア”を投入せよ。」
その名を聞いたノエルの顔色が一変した。
「ダメ、それは……すべてが消えてしまう……!」
――その時。
「邪魔するでないよ、銀仮面の連中!」
声が轟くと共に、雷鳴のごとき槍が地を貫いた。
そこに立っていたのは――白鳥秀樹、水瓶の正義の戦士!
続いて、風を裂くような勢いで如月龍一と稲森晴佳がユイの前に立ちはだかった。
「ユイちゃん、ここから先は俺たちに任せな!」
「あなたは、ノエルさんを……!」
三人の星座の光が、風と重なりあい――
運命の戦いが、始まろうとしていた。
(つづく)




