第25話 星都の扉、記憶冠冕(クラウン・オブ・メモリーズ)
ついに星都セレファイスの中央、記憶の冠冕〈クラウン・オブ・メモリーズ〉が開かれようとしていた。
ユイと“もう一人の自分”は、対になった光の中で互いを見つめていた。どちらの目にも、やわらかい不安と覚悟が宿っている。
「あなたが…私?」
「うん。でも、あなたが前に進んでくれたから、私もここに来られたの」
声は同じで、響きも同じ。それでも、違う時間を生きてきた二人のユイは、別の記憶と夢を持っていた。
彼女たちの間に浮かぶのは、光の冠――それは記憶の結晶が編み込まれた意識の王冠だった。
「これは…“わたしたち”の記憶…?」
「そう。そして、ここから新しい扉が開く。私たちはまだ生まれていない夢の中にいる。でも、きっと願えば届く。だって――」
ユイはその手を伸ばす。光の冠がゆっくりと降りてきて、二人のユイの額に同時に触れた。
瞬間、星都セレファイスが震えた。
空に輝く星々が逆回転し、都市の形が静かに変化を始める。すべてが、夢の記憶に書き換えられていく。
「始まるよ、“記憶の扉”の先へ」
――その声とともに、記憶の冠冕は融合し、新たな姿へと変貌した。
それは一対の鍵。左は「忘却の銀」、右は「想起の金」。
「これが…“記憶の鍵”……」
ユイは静かに頷く。そして、銀の鍵を手に取り、遠くに浮かぶ巨大な門へと目を向けた。
その門は「記憶の大門」――
未生の領域の奥に隠された、星都の本質を解き放つ扉。
一方その頃、星都の地底では、歪んだ時空の隙間から奇妙なノイズが流れていた。
「……記憶干渉反応、異常値。対象ユイ、認識領域拡張中」
“夢整序機構”の一端が、密かにこの領域へと侵入を始めていた。
「もうすぐ…来る。やつらが……」
ユイの背後に現れたのは、情報の影のような存在。
彼女は振り向く。そこには、ネルの姿があった。けれどその表情には、何かが欠けている。
「ネル…? どうして……」
「ワタシハ……ネル……記憶ニヨリ構成……サレ……」
その声が崩れた瞬間、ユイの瞳に何かが映る。――かつての“ノエル”の記憶。
「待って……あなた、ネルじゃない……ノエル……?」
混線する記憶。開かれるはずのなかった封印。
冠冕の鍵は、予期せぬ“記憶の扉”をも開き始めていた。
そして、空の遥か遠く。
星々の外れに封じられていた“九聖龍”の一柱が、眠りから目覚めようとしていた。
――「風の九聖龍、目醒めの時」――
つづく




