42、そして平和な日常へ
※R15描写あり、ご注意下さい※
作者はR15相当だと思っていますが、過度な表現と判断された場合は予告なしにこの章はカットします、よろしくお願い致します。
「疲れた~疲れたよ~」
「本当にお疲れ様でした、ヴァーリア様」
昨日ドラゴンと闘っておきながら、エーベルは疲労を見せる様子もなく正装の詰襟を寛げて私を労った。
すまんね、エーベルの方が本当はきっと疲れているだろうに。
私達は早めにパーティー会場を抜け出し、早々にエーベルの家に帰宅した。
既に私は狼型に戻っており、日が暮れるまではずっと楽な狼型でダラダラする気満々だった。
因みにもう夜にこっそりお忍びで遊びに来ることはない。
名実ともに私達は婚約者として発表されたので、城内の自分の部屋でも、エーベルの部屋でも、好きに行き来していいらしいのだ。
「ヴァーリア様、城の厨房から夕食になるものを詰め合わせて頂いてまいりましたが、少し召し上がられますか?」
エーベルの問いに、私のお腹の虫がぐうううう、と返事をする。
「何か良い匂いがすると思ったら!流石エーベル、お腹ペコペコだよ~!」
私は羞恥で顔を赤くしながら、エーベルの家の戸棚を鼻先で開けて、自分用の皿をパクっと咥えてすすっと取り出した。
「私がやりますので、ヴァーリア様は休んでいらして下さい」
「うん、ありがとう~」
人型になれば手伝えるのだが、不思議と手伝えば手伝う程、食事の量や皿の枚数が減っていくのだ。
私が不器用なのではなく、単に人型で手を細かく動かすのに慣れていないのだと信じている。
うん。
ともかくエーベルのお言葉に甘えて、私は『ヴァーリア様専用ソファ』に座らせて貰った。
エーベルの家でもお手伝いさんの女性を一人雇った筈だが、今日はお休みのようだ。
外はお祭り騒ぎでドンチャンやっているのだから、お手伝いさんもお休みを貰って遊びに行くには丁度良かっただろう。
何処かへ行って戻ってきたエーベルは手際良く食事を並べてくれる。ちょっとお皿に盛るだけなのに、料理がとても美味しそうに見えてそんなところにもエーベルのセンスが光った。
料理を詰め合わせたバスケットをひっくり返して皿に移すつもりだった私、反省。
「ヴァーリア様、お待たせ致しました」
「うん、ありがとう。では、いーただーきまーす!」
お腹の空いた私が行儀悪くはぐはぐ食べているのを、エーベルはニコニコしながら見ている。
あまりに見られ過ぎて顔に穴が空きそうだ。
「エーベル、どうしたの?」
「いえ、幸せを噛みしめておりました」
「そうかそうか、私も幸せだよ」
速攻で皿を空にした私は、ペロリと口の周りを舐めて欠伸をひとつする。
あー、美味しかった。
「ヴァーリア様、今『ヴァーリア様専用湯浴み』にお湯を溜めておりますので、後で入られますか?」
「ありがとう~」
「では私がヴァーリア様の身体を全身隈無く清めさせて頂きますね」
「うん……」
エーベルがゆっくり食事をしているのを、前足に顎をのせてぼーっと眺めた。
一昨日の誕生日からこの三日間、バタバタとしていて気も張って中々寛げなかったので、ゆったりと時間が流れていく今がとても貴重な時間に思える。
カチャ、カチャ、とたまに鳴る食器の音を心地好く聞きながら、私は瞼を閉じた。
***
身体をフワフワした感触に包まれ、私は気持ち良くてそれに頭を擦り付けた。
「お目覚めですか、ヴァーリア様」
「……んー……あれ?エーベル?」
「ヴァーリア様がお眠りになられている間に、勝手とは思いましたが湯浴みさせて頂きました」
「……」
エーベルが鼻の下を伸ばしてハァハァ言いながら私の全身を拭いているところを見ると、いつもの変態ストーカーっぽくて安心する。
イケメンエーベルも素敵だけど、狼型の私に欲情するのは世界中を探してもきっとこの目の前の変態さん位だろう。
「……エーベル……する?」
そう聞けば、エーベルは目をクワッと見開いて私を見た。
今は発情期ではない。
けれども、エーベルにされるのは気持ち良くて、ここ最近は発情期でなくてもいつの間にかお互い発散し合うようになっていた。
私の身体を洗い清めてくれたエーベルの股間は、今日も元気に布地を押し上げていた。なんなら、鼻先まで匂いが漂ってくる程だ。
こくり、と唾を飲み込んだエーベルは、
「それは……勿論」
と言って私専用のソファからおり、イソイソと全裸になる。
……ちょっと脱ぐの早くね?湯浴みは?お風呂先じゃないの?
「ではヴァーリア様のお気持ちが変わる前にっ!!」
横になる私に手をワキワキとさせてガバッと覆い被さってくるエーベルに驚き、私は慌てて「あと少しで日没だからさ」と人型になるまでしばし待てをした。
人間なのはあっちなんだけども。
けれどもエーベルは、きょとんとした顔をして「日没まで待たないといけませんか?」と宣う。
は?いや、今私狼型だけど!?
確かにエーベルの息子は元気なようだが、まさか狼相手にする気か?
私が顔をひきつらせながら、恐る恐るオブラートに包んでそう問えば、エーベルは満面の笑みで「はい」と即答した。
どうやら、狼型へのエーベルの本気度を私は読み違えていたらしい。
マジかー。
「今のその神々しい銀狼のお姿でも、また魅力的な女性のお姿でも、ヴァーリア様はヴァーリア様ですから……狼型だからと躊躇する理由がございません。むしろ狼型の方が馴染み深いお姿ですしね」
ぎし、とエーベルが私の上にのし掛かり、私の顎に手をかけてそっと私の顔を上に向けた。
視界に入ってきたエーベルの唇に、自分の長い舌を伸ばして舐めれば、エーベルは歓迎するかのように舌を差し出して絡ませ合う。
「……私はずっと、ヴァーリア様の背中だけを見てきました。見ているだけで満足だと最初は思っておりましたが、ヴァーリア様の可愛らしさや純真さ、真っ直ぐなところ……どれを取っても愛しすぎて、誰にも渡したくないという独占欲が膨れ上がり過ぎてもう限界です。私のヴァーリア様だという浅ましい欲を、少しだけ満たせて下さい」
「う、うん……?」
あまりにストレートなエーベルの物言いに、私は引くことも出来ず頷くしかなかった。
する?と聞いてしまったのは自分だ。まさか狼型でするとは思わなかったが。
いやマジで。
「今は狼型のヴァーリア様とのスキンシップを堪能させて下さい」
エーベルはそう言いながら、私の毛に顔を埋めクンカクンカと匂いを嗅ぎつつ、後ろから背筋や首、耳、お腹、背中と触ってきた。
マッサージに近い愛撫に私は気持ち良すぎて目を細める。
性的に感じる、という訳ではないけれども、エーベルが私に触れる手から私への愛情みたいなものが伝わってきて、それが何よりも幸せな気持ちにしてくれた。
身体の力が自然と抜け、リラックスモードに入る。
うーん、エーベルが猛獣調教師として能力が高いのは、もしかしたらこうした相手への愛情や尊敬、畏怖といった感情を惜しみなく伝えることに長けているからかもしれない、なんて分析してみたりして。
そりゃ、猛獣だって心を開いたり、絆されたりするだろ。
後ろで、エーベルがフッと笑った気配がした。
「……ヴァーリア様……ご自分から誘っておいて寝るおつもりですか?」
「ふぁ?」
眠気が襲ってきて、変な声が出た。
その後、私がどれだけギブアップを訴えても、エーベルは素知らぬ顔で「まだまだイけますよね?」と笑顔で宣った。
その笑顔が不自然な気がして……「もしかして、何か怒ってる?」と聞けば、エーベルはスンと真顔で「いいえ、決して妹殿下の結婚式で弟殿下とベッタリしてたなとか一度しかこちらを気にして頂けなかったな、なんて気にしておりませんよ」と一息に返事をする。
……めちゃ気にしてんじゃん。
私が思わず笑いを堪えると、「もう遠慮は致しません」とエーベルは今度こそ笑顔で言った。
逆に私は青くなる。
「ごめん!ごめんてエーベル……っっ!!」
「そんなおざなりな謝罪は受け付けておりません」
珍しくエーベルご立腹。
というか、普段エーベルからどろどろに甘やかされた私がエーベルの怒りをこの身に受けるのは初めてかもしれない。
もう、この嫉妬深い番を放っておいちゃいけないと散々身体に覚え込まされて。
「……ヴァーリア様、愛してます」
「~~っっ」
エーベルに愛を囁かれ、私の心に喜びが満ちていった。




