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狼王女は変態猛獣調教師に盲愛される〜大嫌いな鞭を持ってにじり寄らないで頂きたい〜  作者: 関谷 れい


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41、目出度い日

「姉様、立ったまま寝るなんて凄いよね。流石だよ」

「……」


隣で笑う弟に、苦虫を噛み潰したような顔を向ける私。

嫌味でなく本気で凄いと弟は思っているようなので、何も言えないでいた。



今朝は気付けば侍女達に「ヴィーニル殿下のめでたい日にいつまで寝ていらっしゃるのですか!準備に取りかからないと間に合いませんよ!」と叩き起こされた。


全く寝た記憶がない身としては、昨日の夜から今日の朝までタイムワープしたのではないかと疑ってしまう程だが、「エーベルハルト様がヴァーリア殿下をお部屋まで運んで下さいました」と言われて納得するしかなかった。



で、「私が主役じゃないんだから狼型でも良くない?」という訴えは無視されて朝からずっと人型を取らされ、また一人じゃ着れないドレスや装飾品を身に纏わされて、あれよあれよという間にもう妹の結婚式に参列している。



私達王族は最前列で並んでいるのだが、エーベルや次兄の婚約者はそこから三列ほど後ろに並んでいた。


うーん、エーベルが隣にいないと落ち着かない気分になる自分は、もう昔の自分とは違うのだと改めて感じる。



「そんな話より、今は目の前の綺麗過ぎるヴィーニルを愛でようよ」

「あはは、まぁ今日位は確かに」


妹の結婚式は、王城内の祭事の間で行われた。

我が国は基本的に自然崇拝の国なので、結婚式での誓いは神の元ではなく、人前による宣誓となる。


結婚式自体はとてもシンプルで、新郎新婦入場、誓いの言葉、指輪の交換、結婚証明書への署名、が済めば参列者が承認の意味を込めて拍手をするだけで、後は退場して終了だ。



妹は、新郎となる騎士と並んで最後の結婚証明書への署名をしている最中だった。


この結婚式が終われば、妹は居を王城ではなく、騎士との新居に移すこととなる。


私の脳裏に、妹との思い出がいくつも蘇る。


泥だらけで部屋の中に入って一緒に怒られたよね。

長兄や次兄と喧嘩して負けて泣いたり、初めて城下町にお忍びで出掛けた時はドキドキしながら犬の振りして寄り添って歩いた。

中央の森では二人一緒に闘って何とか倒した猛獣もいたし、森の中の毒草を誤って食べた私のピンチに慌てて助けを呼びに行ってくれた。


私のお世話をするのが何故か大好きだった妹。

何処に行くにも一緒だった。

なのに初恋をした時、弟には相談しておきながら私には話してくれずにいたのを知って、私は拗ねて一週間口を効かなかった。


全部全部、愛しくて、大切で。


私の大好きな妹が、私以上に大切にしてくれる人のお嫁さんになるんだ。


幸せに、なってね。



署名を済ませた結婚証明書を参列者に掲げて見せる二人に、私は目一杯拍手を送る。


ぬぅ、手が痛い。

愛しい妹をしっかり目に焼き付けたいのに、目の前がぼやけて仕方ない。


「……姉様、泣きすぎ」

「だってぇ……私のヴィーニルがぁ……っっ!!」

「今生の別れじゃないんだから。二人の新居なんて、王城から徒歩十分なんだし、いつでも会えるよ」

「そうなんだけどぉ……っっ!!」

「ほんっとに、姉様は感情表現がストレートだよね。ほら、人型なんだからこれで涙を拭いて」


私は、弟が差し出したハンカチで涙をゴシゴシと拭く。


「うわ、そんな拭き方しちゃ駄目だよ!押さえるように……こう」

「こう?」

「そう。うん、上手」


昼間に人型を取らない私は、ハンカチを使うこと自体稀だ。


「ありがとう」


私が弟に笑ってそう言えば、弟とは逆側に立つ次兄がため息を吐く。

「おいお前ら、後ろから殺気がするからイチャイチャするなよ」

苦情を言われて後ろを見る。


そこにはまた、正装姿で髪型もバッチリ決まった、昨日とはまた違った装いに磨かれたエーベルが佇んでいた。


うーん、こうして変態要素を抜いたエーベルは、端から見ると恐ろしい程にイケメンだ。


エーベルが私を見ながらニコリと笑い、私は小さく手を振って笑い返した。


……確かに何やら機嫌が悪そうだ。


実の弟にまで嫉妬しちゃうなんて、我が番は可愛いねぇーっっ!

なんてニマニマしていたら、しっかりとそれもエーベルに伝わってしまったみたいで、その夜散々ゴメンナサイさせられるとはこの時の私は思ってもいなかった。




***




妹の結婚式は恙なく午前中に終わり、直ぐにパーティー会場へと場所が移された。


王城内の中庭までが国民にも解放され、夫婦となった妹とその旦那様は何分か置きにバルコニーから民衆に手を振り、その間はずっと祝福や歓声が絶えず聞こえてきた。


また、パーティー会場では主役の二人は挨拶に来た貴賓や他国から来賓された方々への対応で常に忙しくしており、私やエーベルは兄弟達と並んでその様子を眺めるに留めている。


しかし個人的に、午後のまったりとした穏やかな時間が訪れる頃にはある意味限界が来ていた。


「朝からずっと人型とか、もう無理なんだけど」

「ヴァーリアの婚約発表まで後少しだよ、頑張って~」


気を抜けば直ぐに狼型になってしまいそうで、私は人型を維持するのに必死だ。

集中!集中!!


……というか、父も長兄も、午後に入って他国の方々と会話をする機会が減ってから、ずっと狼型だ。


何故私だけ駄目なんだ!


「いや、もう狼型でも良くない?だって私、普段狼型じゃん」

私が口を尖らせて言うと、「それは流石にお前の婚約者が可哀想じゃないか?」と次兄がすかさず口を挟んだ。


ふと、私の脳裏に過去に言われた言葉が浮かぶ。


──並んで歩いていても、恋人が犬と間違えられる、なんて恥ずかしい思いはさせません!──


確かに、(エーベル)に恥ずかしい思いをさせたくはない。

私がそうだね、と答えようとした時、今度はエーベルが口を挟んだ。


「私としては、ヴァーリア様のお好きにして頂いて構いません」

「人型じゃなくても良いってことか?」


次兄が鼻を鳴らしながら聞けば、エーベルは真顔で頷く。


「はい、勿論です。今でも十分に美しいですが、狼型のあの神々しさを本日いらっしゃる皆さんに感じて頂くのもまた幸せなことかと思います。ただ、ヴァーリア様が狼のお姿ですと私がひれ伏したくなるのが難点と言えば難点でございますね」

「……お前の婚約者、聞いていた以上に変な奴だな」

「いつもはもっと変だよ」


他国からの来賓や自国の貴賓の前で、エーベルが私の毛並みを撫でてはうっとりし、そのまま顔を近付けてスハスハしているところなんてエーベルの為にも他人に曝してはならない。


改めてそう感じて、私はこのまま人型を保つ努力を続けることにした。




***




婚約発表は、そのパーティー会場で引き続き行われた。


大法官という身分の者が、父と母の代理として声明を読みあげるという、非常にシンプルで簡単なセレモニーだ。


会場が静まりかえる中、注目を浴びた大法官の朗々とした声が響き渡る。

何人かの通訳の密やかな声だけがその後に続くところで、最初に次兄とその婚約者さんが演壇に上った。


ガチガチに緊張して、一歩一歩躓きそうになりながら進む婚約者さんを、次兄は優しく笑いながらエスコートをしていて。



お調子者で、力自慢をするのが好きで、かけっこでズルして、ふざけてイタズラばかりしていた次兄も大人になったんだな、なんてちょっと感慨深いものがある。


五人全員が一緒にいなかった期間、それぞれが確実に何かを得て、そして成長したのだ。


私が兄妹に対してその変化に驚くように、私も兄妹から見て驚くような良い変化を成し遂げることは出来たのだろうか?


私がそんなことを考えていると、一斉にワッと拍手喝采が起こった。

結婚式とは違い承認の為の拍手は必要としないが、その場にいる皆の祝う気持ちが形になってあらわれたのだろう。


私も、妹の結婚式の時と同じように次兄とその婚約者さんへ目一杯の拍手を送った。


さっきまで狼型に戻りたいと思っていたけど……拍手が出来るのであれば人型でいた甲斐もあったと感じる。



次兄達が演壇から下りて、続いて私達の婚約発表を大法官が行った。

「ヴァーリア様」

エーベルが私の手を取り、二人一緒に演壇へと上がる。


歓声と拍手に包まれ、貴賓来賓に手を振り返しながら、「……こんな日が来るとは思わなかったな」と漏らせば。


「……私もです。まさか夢が現実になるとは」

とエーベルも笑顔を振り撒きながら、囁いた。


私達はこうして、正式な婚約者同士として皆に認められ、そして祝福を受けた。

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