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狼王女は変態猛獣調教師に盲愛される〜大嫌いな鞭を持ってにじり寄らないで頂きたい〜  作者: 関谷 れい


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37、東国のお家騒動

「ふむ?しかし、ヴァーリア殿下はまだ婚約発表をされていませんよね」


何でそういうところだけ情報通なんだよ、この男は!!


ふと、この男は嫁探しも兼ねてこの国に来たのかもしれない、という考えが過る。


であれば、もし婚約発表をしていない貴族の女性が捕まっていたのならば、さぞかし断りにくい状況だっただろう。

ある意味目を付けられたのが私で良かったのかもしれないな、何て思ってしまったのだが。



笑顔のエーベルが私と第四皇子の間に割って入るようにして立ち、何かを言う。


私はこっそりとエーベルが鞭を扱えないよう、柄に掛けたエーベルの手に自分の手を乗せた。


ピク、と反応するエーベル。

よしよし、どうやら冷静ではあるようだ。

何故狼の私が人間をどうどうするのか意味不明ではあるが。



私がそんなことを考えている間にも、直ぐに何かを言い返す第四皇子。

また言い返すエーベル。


……うん、何を言っているのか全くわからん。


丸く収まると良いなと思いながら、私はエーベルが先程別れた時と衣装を変更していることに気付いた。


……うわぁ、エーベル……今日は益々カッコいい。


そう意識をし出すと、エーベルがキラキラ輝いて見える。

私は顔を赤くして俯き、胸の動悸をおさめようとした。


「う~ん、ややこしいことになったね~」

「え?」


いつの間にか長兄が私の横に立ち、ポツリと呟く。どうやら長兄も東国の言葉がわかるようだ。


「ヴァーリア、止めないで良いの?このままいくと、エーベルとドラゴンが決闘……というか対峙することになるけど」


……はああ!?何でそうなる!?

冷静に話し合っていたんじゃなかったのか!?


私は開いた口が塞がらなかった。




***




「もう駄目だ。死ぬ。エーベル死んじゃう。どうしよう!!」


私の大事な番がっ!!


私がしくしくベッドに突っ伏して泣いているのに、エーベルはニマニマ笑って喜んでいやがる。

これ位の付き合いになると、見なくても気配でわかるのだ。



「エーベル、ドラゴンは本当にヤバイよ?猛獣の比じゃないよ!?私でも絶対に負けちゃうもん!」

私が余裕をかましているエーベルの胸ぐらを掴んでガクガク揺らすと、エーベルは揺らされたまま私の頭を撫でた。


器用だな。


昔なら「気高きヴァーリア様の頭部に触れてもよろしいでしょうか?」とか聞いてきたのに、今となっては当たり前のように触れ合う。

その変化が嬉しくも、何だか恥ずかしい。


「ああ、気高きヴァーリア様の頭部をさりげなく触れることが出来た幸運に神よ感謝致します。いえ、神でなく私の女神に感謝致します」


うん、何の変化もありゃしなかったわ。



あの後、私とエーベルは無事にダンスを披露した、らしい。

私はきちんと他国からいらっしゃった来賓にも挨拶周りをした、らしい。

エーベルだけでなく皆が口々に「まるで女神が降り立ったかのよう」と誉めそやしてくれた、らしい。


頭が真っ白になっていた私はなーんも、覚えていない。


気付けば、いつも通りエーベルのお家に押し掛け、勝手に第四皇子と話をつけたエーベルを責めまくっていた。


エーベルの血を見る位なら、第四皇子の血を見た方がまだマシだ!!

一緒に逃亡するよ、逃げ足には自信がある!!


──のだけど、開いた口から魂の抜けた私を置いて、エーベルだけでなく父や長兄、東国の人達を巻き込んで、エーベルと第四皇子……の代わりのドラゴンが決闘することになってしまったのだ。



私の気持ちは百パーセントエーベルにしか向いてないんですけどね!?

腹が立つから言ってあげないもんね!!


「エーベル、何でそういう話の流れになったのか、きちんと教えてよ!」


私がジト目でエーベルを見ると、「はうっ……!何ですかその瞳は、私を誘っていらっしゃるのですか!?ヴァーリア様の誕生日が過ぎたことでもう私の歯止めがきかないのをご存知な筈なのに、罪作りな女神ですね……!!」とエーベルは赤面しながら胸を押さえた。


ドラゴンの代わりに、今私がエーベルの血を見せて貰ってもよろしいだろうか、と本気で一瞬考えた。




***




エーベルは「ひとまず、今日もお胸のマッサージをしながらお話致しましょうか?」と言い、私をベッドへ誘う。


「今日は本当にお疲れ様でした、ヴァーリア様」

エーベルがそう言ってくれるから、私はウンウン頷きエーベルのベッドにダイブした。


「昼間に人型であんな長時間服着てたことないから、すっごく疲れたよ~」

シーツから、エーベルの良い匂いがして思わずフンフンと嗅ぎつつ顔を擦り付ける。


マーキング、マーキング~!


「エーベルの匂いだ~、落ち着く~」

「……あの、現物がこちらにおりますが」

あ、そうだったね。でもあまりに疲れ過ぎてうつ伏せになったまま動きたくない……。普段遣わない気を……遣いまくったせいで、今にも……瞼が落ちそうだ。


しかし、今……寝るわけには……いかない。

エーベルとドラゴンの……対決は……明日の催し物として開催……されることが急……遽決まった……のだから。



エーベルの……命は……明日で儚く……「ヴァーリア様?そのまま私のピーを突っ込まれて処女散らされて犯され続けたくなければ、寝ないで下さいね」


「は、はいっ!」


私はクワッと目を見開き、優等生のお返事をする。


危ない、涎垂らして寝るところだった。


「今日はお胸だけでなく、全身マッサージ致しますね」

「おお、ありがとー!」

宿屋でよく全身マッサージして貰っていたな、と思い出して嬉しくなる。

まぁ、あの時は人型じゃなくて狼型だったが。



「で?何でそんな話になったの?あのドラゴンって、元々決闘()のつもりで連れて来たってことなの?」

東国や帝国の文化では、誕生日を迎えた人にプレゼントを贈る習慣があるらしい。


この国では誕生日になると、誕生日を迎えた側がお世話になった人を招いてもてなしをするのが普通だから、東国や帝国の要人の誕生日パーティーに呼ばれた際には要注意だそう。


手ぶらでいくと、間違いなく田舎者扱い……ならまだ良くて、非常識扱いされるのだ。



だから今回第四皇子がドラゴンを連れて来たのを見た時は、人にあるまじき行為だがドラゴンをプレゼントされるのかと思った。


けれども、第四皇子が「ドラゴンの芸」を披露する、と言った時点で我が国への牽制若しくは権力誇示目当てなのかと思いなおしたのだ。


だとしても普通、人対人の決闘にドラゴンを出すのは可笑しすぎる話だ。



「陛下から耳にした話なのですが、第四皇子はドラゴンを手にしてからというもの、東国で確かに後継者としての順位が上がったそうです」


まぁ、それは理解出来る。


東国は元々ドラゴンを崇め奉る国だから、逆に今までドラゴンと上手く線引きをしてそれぞれが侵略し合うこともなく平和にやっていたのだから。


ドラゴン崇拝の強い国で、ドラゴンを操ることが出来るとすれば、それは何より注目される要素になるだろう。



「本来この国に来る予定だった第一皇子を出し抜いて第四皇子がいらっしゃった訳ですが……当然、第一皇子の心証は最悪ですし、更には東国の皇帝すらも第四皇子を問題児扱いしているそうです」

「へぇ~」


それはつまり……ドラゴンの扱い方を問題視しているか、不当にドラゴンを得たかということだ。

ドラゴンを本気で怒らせれば、東国は滅亡しかねない。

それを第四皇子が理解しているとも思えない、とあの短い時間で十分伝わった。



「でも、本当にドラゴンが第四皇子の言うことを聞くなら、東国の人達は誰も手も足も出ないよねぇ」


狼である私ですらびびって尻尾を巻く相手だ。

普通の人間であれば、ひとたまりもない。


まぁ、普段新種の猛獣を相手にしてその弱点を見抜くようなエーベルクラスの猛獣調教師が見ればまた話は違ってくるのかもしれないが。



「……って、ん?もしかして、東国ではドラゴンを持ち出されると歯がたたないから、この国で何とかしてくれって頼まれてる?」

「まぁ、歯に衣着せぬ言い方をすれば、そうですね。陛下に密書が届いたようで、ドラゴンの問題を解決出来れば後百年は我が国は東国に対して有利な貿易が可能でしょう」

「おぉ、マジかー」


国の滅亡と、むこう百年の貿易による損失。東国は後者を選んだ訳だが。


が。


「え?エーベルが何とかするレベルの話か?それ!!」

思わず突っ込んだ私は間違ってない、と思う。

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