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20、軍隊幹部会議の決定

「やっぱり変だから、ちょっと私見てきたいな」

「……ヴァーリア様お一人でですか?危険です」

「でも、一人の方が動きやすいし」

「……」

私は、軍隊の幹部会議に参加させて貰っていた。


その中で訴えたのは、猛獣遣いの担当した地帯をもう一度私の目で見回る事。

仲間を疑う様で心苦しいが、正直何かを見逃しているとなればその辺しか考えられない。


確保した猛獣をエーベルが調べた結果、恐らく猛獣の発情を促す花が森のどこかに群生したのではないかという予測が立てられたのだ。

その情報を中央に上げると、丁度ドゥランテも同じ見解を弾き出していたところだった。


であれば、話は思った以上に簡単で、花を探しだして通常の状態に戻せば猛獣も必要以上に増えない筈で、増えてしまった猛獣達だけを何とかすれば良い事となる。



軍隊(おおぜい)の前で、私も他の猛獣遣いと一緒に行動するって言えば、流石にそんな危ない事はしないんじゃないかなぁ?」


一応私、王女ですし。


私がそう言えば、隊長は頷いてくれた。

「まぁ、確かに疑いがある以上黙って見過ごす訳にもいかないしですし、逆に疑いが晴れればすっきりはしますしね」

「そうだよね」


隊長が賛成という事に喜び、尻尾をパタパタと動かしたが、エーベルは良い顔をしなかった。


「私は反対です。でしたら私も同行させて下さい」

「エーベルは猛獣の調教でそれどころじゃないでしょ?」

「悪いが、あれだけの個体数捌けるのはお前しかいないだろうが」


私と隊長がそう畳み掛けると、エーベルはすうと目を細めた。


「……あの男の、ヴァーリア様を見る目が気に入りません」

「あの男?」

「ああ、グデーラ卿の事か」

「え?ご馳走してくれたし、凄く良くしてくれてたよね?」


この町の猛獣遣い達と仲良くなる為の一歩として、私はこの町には居住を構えていない伯爵家にも挨拶がてら赴いていた。

勿論エーベルも腰巾着さながら無理して着いてきている。


グデーラ伯爵はちょび髭を生やしたヒョロリとしたおじさんで、猛獣については結構詳しく、エーベルと話が合っていた印象だ。


なのに何故?


私の銀毛も滅茶苦茶褒め称えてくれたし、悪い印象はない。

エーベルに対して、他の猛獣遣いと同じく慇懃無礼な感じはしたけれども。

何でも、猛獣調教師に憧れていたらしい。


グデーラ伯爵は正式登録された業者に猛獣を売買する権利を取得しており、北の森で保護された猛獣達は猛獣遣いや場合によっては他の町に住む猛獣調教師を通してそれぞれの適性にあった仕事をこなすように振り分けている。


なかなかの遣り手の様で、屋敷も設備も何もかもがかなりゴージャスだった。



「何と言いますか……猛獣好きであればヴァーリア様に心酔するのは当然ですし、気持ちはわかるのですが……なんかこう、純粋な慕い方というよりもっと(よこしま)な感じがしまして……」

「お前以上にヴァーリア殿下を邪な目で見ている奴がいてたまるかっ!!」


隊長がエーベルを怒鳴り付け、私を含めた皆が頷く。


「ともかく、そんなにヴァーリア殿下が心配であれば護衛をつけよう。……だが、忘れているかもしれないがこの隊で一番強いのもまたヴァーリア殿下だからな!?」


エーベルは最後まで食い下がっていたが、エーベルの不在時に猛獣が暴れて町に損害でもおきればそれは国の責任になりかねない。

という訳で、私と何人かの護衛による猛獣遣い担当エリアへの再調査同行は確定した。



ただ、私達は皆、きちんと理解していなかった。

私もまた猛獣で、しかも強くて、更に王女だから傷付けずに捕獲するのはエーベルにしか出来ないという事を。


そう、準備万端でのぞまない限りは。




***




「……う……」

頭に鈍痛がはしり、眉をしかめる。


ここは何処……?


私は頭の痛みを宥めつつ、うっすら目を開けて辺りに視線を送った。


どうやら私の身体は横倒しになっているようで、目の前……頭や背中側には、猛獣用の柵がある。


暗くても問題なく見えるから、狼型のままだ。

という事は、光が差し込まない場所にいるけど昼間という事か。


手足を動かそうとすると、ガシャガシャ!!と鎖の音がした。

どうやら一つに括られている様だ。

力を入れて鎖を引きちぎろうとしても無理で、やっと動かせる様になった頭を下げて食い千切ろうとすれば、噛み付き防止用の口輪がはまっていた。


……あれ?ちょっとこの状況詰んでない?


しばし現実逃避をしようとして再び寝ようとしたが、動悸が激しくて無理だった。


ううむ、全く走り回っていないのにこの動悸って何だろう……??


身体全身が重たく、頭痛はするし動くのも億劫なので心の中で首を傾げる。


その時、ギイィ……と重たい扉が開いた音と、コツ、コツ、コツと何人かの足音がして、その人達は私の閉じ込められている檻の前で立ち止まった。


「第一王女は確か夜間に人型になるのではなかったか?」

声の主に、愕然とする。

聞き覚えのある足音だと思ってはいたが、それは、グデーラ伯爵の声だった。


「人型になれない未熟者だから、そういう事にしといたんですかね?いやぁ、今回の報酬は弾んで下さいよ?流石に猛獣とはいえ王女さんを捕獲したとあれば、俺達もヤバいんで」


ごまをすりながらグデーラ伯爵にそう言うのは、町の猛獣遣いの一人だ。



「うーむ、人型になれればまた使い道が変わったかもしれんが、深夜でもならないところを見るとそんなところかもしれんな。まぁ、この見事な毛皮に王女という肩書きがあれば、一生遊んで暮らせる金が手に入るだろう」


檻の隙間から手が伸び、私の身体を撫でる。

エーベルや子供達とは大差ない動作なのに、ぞわっと毛が逆立った気がした。


で、起きているのバレた。


「おや、ヴァーリア殿下。起きられてますな」

「……」

必殺、寝たフリ。

「おい、ヴァーリア殿下の毛をむしり……」

「起きました」


乙女の身体に十円ハゲとかやめて下さい。


身体はダルいので動かないまま、グデーラ伯爵に向けて口を開く。

口輪は、噛み付く程には大きく口を開けられないけど、話すのには支障はなかった。


「あのー、私記憶が飛んでいて、現状把握が出来ていないのですが……何があったんですか?こうして拘束されているという事は、もしかして私、暴れまわって誰かを傷付けたりしましたか?」


私は、一番恐れている事を聞いた。私の護衛はどうしたのだろう?まさか、私自身が噛み殺しては……。


「ああ、皆無事ですよ。誰一人怪我をした人間はいません」

グデーラ伯爵の返事に、私は心底ホッとする。


そんな私達のやりとりに、同席していた猛獣遣いは嗤っていた。


「王女さん、折角俺らがあの花(・・・)から遠ざけてやってたって言うのに、近付いちゃ駄目じゃないっすか」

「……あの花……」

そう言われて、私は思い出した。




***




「ヴァーリア殿下っ!大丈夫ですか!?」

心配して声を掛ける護衛から、私は自ら離れる。


「この花、変だから……っっ、私、から、離れて……誰か、エーベルをっ……」

群生していたのは、エーベルやドゥランテが予測していた花……の、変異種だった。


単に発情させるだけではなく、猛獣の知性や理性を失くして獰猛にさせる様な、猛獣にとっては麻薬のような代物。


猛獣である私はそう判断し、直ぐにその場を離れようとしたが、猛獣遣いが持っていた鎖や網が私の身体を抑えつけて、その場から逃がしてくれなかった。


グルルルル、と知らず私は私の行動を遮る全てに対して本能で威嚇する。


「護衛殿っ!ここは我々が抑えておきますので、直ぐにエーベルハルト殿を呼びに行かれて下さいっ!!」

「ヴァーリア殿下を傷付ける事は出来ませんっ!ここは危険ですので、一旦離れて下さいっ!!」


猛獣遣い達が口々にそう言い、私は違う、と思いながらも脳が痺れた様に働かなくなって、その時の私はその場で鎖や網から逃れようと暴れる事しか出来なくなった。

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