第27話 残酷な判決
「被告人、アキト・リブロを死刑に処す」
最高裁判長は厳粛に告げた。
僕は、俯きながら、その判決を聞く。
傍聴人席では、七海が大声で反論している。
残酷な世界の中で、彼女の声だけが美しく思えた。
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話は数日前に遡る。
僕たちは、太陽が真南に昇りきる前に、王都エスパーダに到着した。
目の前には、鉄で造られた高さ数十メートルもの巨大な城壁。
「すごい……鉄壁の防御とはまさにこのことね……」
七海が感嘆の声を漏らす。
「なんといっても王都だからね。外敵の侵入を防ぐために、国王様主導で建設したんだって」
「おい、お前ら、無駄口はいいからさっさと行くぞ」
シヴァ兄が早く歩くよう催促してきた。
「え……でもあの行列、すぐに入れるとは思えないけど……」
王都に出入りするための門の前には、いくつもの行列。
商人風の出で立ちをした人が最も多いようだ。馬車もたくさん並んでいる。
行列の先頭では、衛兵が一人一人に厳しい身体検査・荷物検査を行っている。
「バカ、軍人は別なんだよ」
そう言いながら、シヴァ兄はさっさと足を進める。
彼の部隊の面々と僕達は、その後を急いで追った。
行列を横目に門の前に到着すると、衛兵の詰所から一人の軍人が飛び出してきた。
「これはシヴァ少尉! お待ちしておりました! お話は伺っておりますので、詰所にてお待ちください」
「おう、ご苦労さん。待たせてもらうぜ」
「待つ? シヴァ兄、何を待つの?」
「いいから黙って待っとけ」
「……分かった」
シヴァ兄の有無を言わさぬ言葉に従って、僕たちは詰所の中で待機した。
そして待つこと10分、王都の中から迎えが到着した。
「こ、これは……」
僕たちの前に現れたのは、複数の軍人に先導された、馬2頭引きの、大きな馬車だった。
しかし、通常の馬車と決定的に違うのが一箇所。
その車体は、鋼鉄に覆われていた。
そう。囚人護送用馬車だ。
「おいアキト、さっさと乗れ。付き添いは俺だけでいい。他の部隊員は先に基地に戻ってろ」
「「「了解!」」」
部隊員たちが勢いよく敬礼する。
「シヴァ少尉、私たちは……」
「椎野特務曹長は乗せるわけにはいかない。関係者ということで後日取り調べがあると思うが、それまで王都内に滞在してくれ。連絡用に一人つける。おい、クロエ」
「はっ! それでは椎野特務曹長、こちらへ」
クロエと呼ばれた女性軍人が七海を誘導する。
ちなみに、ファロールは七海のカバンの中に収納されている。
ファロールも最初は渋々といった感じで詰め込まれていたが、七海のカバンは意外に居心地が良いらしく、今では四六時中居座ってスヤスヤ眠ってる。
ファロールの扱いについては、王都までの道中、シヴァ兄と七海がいろいろと議論していたようだ。
結局、猫を取り調べするのはエスパニアの法律上難しいため、とりあえず七海が厳重に管理する、ということで落ち着いていた。
「……わかりました。ですが、必ず私にも取り調べを受けさせてください。アキトとこの猫もどきについて、事実を証言しなければなりませんので」
「ああ、約束する」
「お願いします」
そう言って、七海はクロエという女性に連れられて、王都に入っていった。
僕は、黙って囚人護送用馬車に乗り込んだ。
シヴァ兄も続く。
やがて、馬車はゆっくりと走り始めた。
ガタゴトと揺れる密室。
鋼鉄の幌に覆われた馬車に窓はなく、重たい沈黙が横たわっている。
セトから王都まで数日間旅をしてきたが、こうしてシヴァ兄と二人きりになったのは初めてのことだろう。
「……おい」
長い沈黙が続いた後、シヴァ兄が口を開いた。
「……何? シヴァ兄」
「覚えてるか? 初めて俺とサティがお前の屋敷に行った時のこと」
「うん、覚えてるよ。ルーカスおじさんが二人を連れてきてくれた」
「そうだ。あの時、サティは緊張してた。金持ちの家に入るのは初めてだったからな」
「そうなんだ……僕も最初は緊張してたから、そこまで気付けなかった」
あの頃の僕は本当に人見知りだった。
今だって愛想を振りまくのは苦手だけれど、当時は今の比じゃないくらいそうだった。
リブロ家にはよく人が出入りしていたけど、誰とも目を合わせなくて済むように、いつも父さんの後ろに隠れてたな。
「あの時、おっさんに『サティをお前と遊ばせていいか』って聞かれてな。正直、嫌だった」
「え……そんな……」
シヴァ兄がそんな風に思っていたなんて、今まで知らなかった。
「今でも後悔してるよ。あの時、なんで安易に了承したんだろう、ってな」
「そうか……そうだよね……」
「サティがお前に近づかなければ、サティが死ぬこともなかった」
「……うん。僕が、サティを死なせてしまった……守れなかった……」
「ただ、俺はサティに『生きるのは楽しい』ってことを教えてやることもできなかった……」
「そんなこと……! サティはシヴァ兄のこと、いつもすごく大事に「うるせぇ、黙って聞け」
「……はい」
「俺はな。サティの人の見る目を信用したんだ。コイツなら俺がサティに教えてやれなかった『生きる楽しさ』を教えてくれるかもしれない。俺がいなくてもサティの幸せを守ってくれるかもしれない。いつからかそう考えるようになった。めちゃくちゃ悔しかったがな」
シヴァ兄のその言葉に、僕は沈黙するよりなかった。
確かに、サティとの日々は楽しかった。
僕が言うのもおこがましいが、きっとサティも楽しんでくれていたと思う。
だけど……
「サティの命を守れなかったお前はやっぱり許せねえ」
「うん…」
「だが、俺は自分のことも許せねぇ。サティが死んで何もかもを見失っちまってた。もしかすると、サティが一番嫌がることをしようとしてたかもしれない」
「どういうこと?」
「事故の原因がお前になかった場合だ。俺は自分の復讐心を満たすことだけを優先し、お前を殺そうとした。けど、それは間違いだった……アキト、お前、輪廻転生ってわかるか?」
輪廻転生? 僕にはシヴァ兄が何を言いたいのかがよくわからなかった。
「俺の生まれた国の考えではな。肉体が死んでも魂は死なずに、一定期間を経て新しい肉体に宿ると言われてんだよ。まあ、いわゆる生まれ変わりって奴だ」
「生まれ変わり……」
「だから、サティは死んでも死んでねぇ。あいつのことだから、のん気にそのへんフラフラしてるはずだ」
そっか。
「サティの魂は生きてる……うん! きっとそうだよシヴァ兄!」
「ああ。だから、俺が何も考えずにお前を殺すと、きっとまたサティを悲しませちまう。そうさせねぇためにも、今はまず真相を暴く。もし実験を意図的に失敗させようとした奴がいるなら、事故の裏で何らかの意思が働いてた可能性があるなら、俺はそいつを突き止める」
「うん! 僕も真実が知りたい。なんであんな事故が起きてしまったのか」
「ああ……だが、もし事故の原因がお前だと確定した時、俺は容赦しねぇからな」
「わかってる。その覚悟は、できてるよ」
僕は両の拳をぎゅっと握りしめた。
一定の速度で進んでいた馬車が不意に停車した。
「さて、ようやく到着だ」




