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第17話 飲み会①

「「かんぱーい」」


 かーん、とグラス同士がぶつかり合う小気味いい音が響く。


 七海のグラスには、琥珀色のブランデーがなみなみと入っている。

 こんな強いお酒、よく飲めるなー。

 漂ってくる匂いだけで酔いそうだ。

 ちなみに、僕のグラスに入ってるのは水だ。

 

 目の前には七海の故郷の料理が並んでいる。

 それでは


「「いただきます!」」


 僕は真っ先に、こんがりと揚げられた鶏肉にフォークを伸ばす。

 ずっと気になっていた一品だ。


 ぱく

 カリッ

 じゅわー


「なにこれ! 初めて食べたけど、すっごい美味しいよ!」


「でしょ?

 それは唐揚げといって、私の故郷では代表的国民食として愛されてるのよ。

 10代の男子なら週5で食べると言っても過言ではないわ」


「カラアゲっていうのかー!

 外はカリッとしてるのに、中からはじゅわーって肉汁が溢れてくる!」


「そうでしょうそうでしょう。

 二度揚げと呼ばれる秘伝の技を使ってるからね」


「あー、2分間揚げて、一度取り出して、5分冷ましてから、火力を強めてもう一回揚げるやり方だね!」


「うぐ。

 秘伝の技をこうも簡単に完璧に盗まれるとは……

 そういえば火をつけた後、揚げるとこも見られてたわね……

 そ、それより、サラダと海鮮丼も食べてみて」


「じゃあサラダから。

 いただきまーす」


 僕はレタスがたくさん乗ったサラダを自分の皿によそった。


「わ、これも美味しい!

 白ゴマとオリーブオイルがよく混ざってて、すごく香ばしいね〜。

 あとは、塩と酢に……うーん、一個だけ初めての調味料が混ざってる」


「あなたの味の感覚どうなってるのよ?

 鋭すぎるわよ」


「一人で家にいることが多かったからね。

 自分で料理しては味見してたから、大体のものはわかるよ。

 ねぇ、それよりも、もう一つの調味料は何?」


「まあ、そこまで深く味わってもらえるなら本望よ。

 もう一つの調味料はね……これよ」


 そう言って、七海はテーブルの上の円柱形の容器に入った、黒い液体を指差した。


「……これ? この黒いソース?」


「そう。

 それは醤油と言って、日本を代表する調味料の一つ。

 大豆が原料よ」


「大豆が原料!?

 僕の国ではスープに入れたりはするけど、こんな黒いソースになるなんて初耳だよ」


「麹菌を入れたり、発酵させたり、複雑な工程を経てつくられるからね。

 ま、それはいいから、早くそっちの海鮮丼も食べてみてよ」


「うん。あ、ちょっと気になったんだけど、七海の故郷では生で魚を食べるの?」


「もちろん。

 もしかして、アキトは初めて?」


「そう、だね……

 一部の国では生魚を食べる習慣があるって噂で聞いたことがあるけど、僕は初めて……

 ちょっと勇気がいるね……」


「騙されたと思って食べてみなさい。

 そのために、わざわざあなたに法魔術で検査してもらったんだから」


 実は、七海が調理を始める前に、彼女に頼まれて、僕は全ての食材に法魔術をかけた。

 毒性検査(トキシグザム)という、人間に対して毒性があるものが入っていないかを調べるための魔術だ。

 一応、全ての食材がこの検査をクリアしている。

 ただし、お酒は除く。

 アルコールは"酔い"という症状を引き起こすため、毒性検査(トキシグザム)では必ず引っかかってしまう。


 話がそれたが、魚を生で食べても、肉体的に問題がないのはわかっている。


 僕は勇気を出して、スプーンに一口分を取った。

 ご飯の上に新鮮な生魚がのり、上からショウユがかかっている。


「よし……いくよ……」


 ぱくり


「どう?」


 もぐもぐ。

 ごっくん。


「……これ……」


「……これ?」


「……これ、めちゃくちゃ美味しいよ七海!」


 僕は夢中でカイセンドンを駆け込む。

 なんだこれ!

 生魚ってこんなに美味しかったのか!

 脂の乗った身と、もっちりしたご飯と、そしてショウユが口の中で小踊りしてるみたいだ!


「だから言ったでしょ。日本食はすごいって」


 彼女は物凄く自慢げな表情だ。

 右手で小さくガッツポーズをしているのが見えた。


「美味しい!

 ニッポンの人は、毎日こんな美味しいものを食べてるの!?」


「当然よ。日本人は世界一、食にうるさい民族なのよ」


「すごい!

 僕も唯一の趣味が料理&食べることだから、気が合いそうだね!」


 そんな美食の国があるのか。

 旅には興味がない僕だが、七海の故郷ということもあり、いつか行ってみたいと思った。

 

 七海の料理に舌鼓を打ちながら、僕たちは食事を終えた。


「七海の故郷の料理がすごいのはわかったけど、他にはどんな特徴があるの?」


 僕はそう切り出した。

 彼女は手元でブランデーをくゆらせながら、残った唐揚げをつついている。

 酒の肴として取っておいたのだろう。


「私の国はね、とにかく美しいところ。

 一年に四つの季節があって、

 春には咲き乱れる花を愛で、

 夏には海や山を楽しみ、

 秋には紅葉を味わい、

 冬にはしんしんと降る雪と戯れる。

 自然と共に生きる国ね」


「そうなんだ。

 綺麗なんだろうなぁ」


「ええ、とても。

 ただ、自然と共生する一方で、科学も発達してるわ」


「カガク?」


「この世界で言う法魔術みたいなものね。

 ちょっと原理は違うけど。

 科学のおかげで、狭い国土でも豊かな暮らしを実現してるわ。

 私の世界にはちゃんと空を飛ぶ技術もあるのよ」


「飛行方法を確立してるんだ」


「ええ。

 それに、インターネットという情報通信網が発展してるから、家にいながら世界中の情報にアクセスできるわ。

 ネットを使って、家にいながら買い物もできるし。

 買った物は指定の日時に配達してくれるわ」


「それ、最高じゃないですか」

 

 出不精の僕にとっては、まさに夢の国かもしれない。

 

「便利であることは間違いないわね。

 ……でも、日本という国の一番の美点を挙げるなら、それは国民の精神性かもしれない」


「国民の精神性?」


「そうよ。

 私たちの国は、何度も危機に瀕している。

 戦争で全国が焦土と化したり、

 頻繁に起こる地震や津波などの自然災害で壊滅的な打撃を受けたり。


 でもね。

 その度に同胞と手を取り合い、努力し、何度でも立ち上がれるのが、私たち日本人の一番誇るべき点なのよ」


「それは…すごいことだね…」


「もちろん、一部にはそうで無い人もいるけどね。

 でも、この精神性があるからこそ、今の世界的危機にも必ず打ち勝つはずよ」


「今の世界的危機?」


「あ……

 聞かなかったことにして、とは言えないわよね?」


「はい。気になって仕方がありません」


「はあー、お酒が入ると余計なことまで話し出すからダメね」


「お願いします、先生」


「もう、わかったわよ。

 知りたがりの生徒くんに、先生が教えてあげる」


 そう言って4杯目のブランデーを飲み干した彼女の頬は、うっすらと上気していた。

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