第3章 月曜日の奇跡と、背徳の夜
そしてやってきた、事件前日の月曜日。
朝の朝礼のために二階のカウンター前に集まった瞬間、僕は自分の目を疑った。
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(っ……な、なんだあれは……っ!?)
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普段の遥ちゃんは、落ち着いたロングスカートかパンツスタイルが定番だ。
だが、その日の彼女は奇跡的なまでに膝上丈の短いミニスカートを穿いて出勤してきたのだ。
タイツもストッキングも穿いていない。朝の光を反射して眩しいほどに輝く、生の太もも。
膝裏からふくらはぎにかけて描かれた、柔らかくも引き締まった女性らしい脚のライン。
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お尻に群がる新田仁太や、胸の形状を数値化する三田とは違い、僕のフェティシズムの原点はどこまでも「脚」にある。
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遥ちゃんが棚の下段にある文庫本を整頓しようと膝を折り、
しゃがみ込んだ瞬間!
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スカートの裾がわずかに持ち上がり、太ももの白い肌が惜しげもなく露わになった。
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(あ、圧倒的じゃないか……! なんで今日に限ってこんな格好を……? まさか、僕がいつも『古着のスカートも似合いそうだね』って言ってたのを覚えていてくれたのか……? 僕に見せるために、わざわざ……?)
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足フェチとしての欲望と、自分都合の猛烈な自惚れが頭の中でグチャグチャに混ざり合い、僕の正気は完全に削ぎ落とされていた。
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その日の一日、僕は彼女の生の太ももから視線を外すことができず、話しかけられても不自然に挙動不審な態度をとるのが精一杯だった。
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__そして20:00。閉店を告げるBGMがフェードアウトし、最後のお客様を送り出してから1時間。
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各フロアのレジ締め、売上金の過不足チェック、フロアの簡単な掃き掃除を終え、すべての締め作業が完了した21:00。
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一階の照明が半分落とされたレジ前で、各フロアから回収した精算日報とドロアーの鍵をファイルに挟み、売上金の集計袋を抱えた同僚の笠原正が、参ったというように首をすくめて暗いガラス扉を仰ぎ見ていた。
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笠原は190センチ近い長身を丸めるようにして、いつも飄々と笑っている。
その見上げるような巨体とは裏腹に、性格は至ってズボラで能天気な男だ。
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「うわぁ……山田先輩、見てくださいよこれ。マジで土砂降りじゃないすか」
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ガラス扉の外からは、激しい雨音が不気味に響き渡っている。これから笠原が売上金をバックヤードの耐火金庫へ納めに行き、そのまま21時の完全退勤となるところだった。
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「すごいな。夕方から降るって天気予報で言ってたろ。笠原、傘持ってきてないのか?」
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「いやぁ、朝出るとき降ってなかったんで『まあ大丈夫だろ』って高くくってたんすよね。最悪だなぁ、折りたたみ持ってくるんだった……」
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「お前は昔からそういうところがズボラなんだよ。ほら、売上金を金庫に入れたら僕の予備のビニール傘、貸してやるよ」
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「え、いいんスか!? 山田先輩マジ神……あ、でも待てよ」
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笠原は頭をポリポリと掻きながら、ヘラヘラと苦笑いを浮かべた。
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「あー……すみません、俺、明日休みなんすよね。山田先輩から傘借りちゃうと、家に持ち帰ったあと絶対返し忘れて、借りっぱなしになっちゃいそうなんで……。いいッス! 駅まで5分だし、走って帰ります!」
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「正気か? 5分でもこの雨の中走ったら一瞬でずぶ濡れだぞ。風邪ひいても知らんからな」
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「大丈夫ですよ! 俺、バカだから風邪ひかない体質なんで! 頑丈だけが取り柄ッスから!」
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ケラケラと呑気に笑う笠原。 金庫の施錠を済ませてバックヤードから戻ってきた彼は、「お待たせしました!」と元気よく声をかけてきた。
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「たく、お前は本当に能天気だな」と僕は呆れたように笑いながら、重い金属シャッターの下降ボタンを押した。ガガガガと重低音を響かせてシャッターが下り、僕たちを暗い店内に閉じ警備をセットする。
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「じゃ、売上金の金庫保管も施錠点検もバッチリです! 21時ピッタリッスね。お疲れ様でした、山田先輩!」
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「おう、お疲れ。風邪ひくなよー」
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濡れたアスファルトの匂いと雨音の中へと、笠原は「うおーっ!」と声をあげながらダッシュで消えて行った。
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僕は手に持った傘を開き、夜の雨の中を一人、アパートへの帰り道を歩いた。
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だが――その夜、自室に戻った僕を待っていたのは、耐え難いほどの「背徳の苦しみ」だった。
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部屋の明かりを消し、ベッドの中に潜り込んだ瞬間、閉じた瞼の裏にあの光景が鮮烈に蘇ってきたのだ。
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朝、光の中で眩しく輝いていた遥ちゃんの生の太もも。屈んだ瞬間に見えた、柔らかそうな肌の質感。
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(ダメだ……考えるな……遥ちゃんは僕を信頼してくれている後輩なんだぞ…
…こんな邪心で彼女を見るなんて……っ)
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頭では自分を戒めながらも、右手が勝手に下半身へと伸びていた。 暗闇の中、激しい呼気とともに手を動かし続ける。脳裏に浮かぶのは、ミニスカートから伸びる遥ちゃんの生の太ももと、僕に向かって微笑む可憐な顔。
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「っ……ふぅ……っ、遥ちゃん……っ!」
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果てた瞬間、部屋の中に重い沈黙が落ちてきた。 ティッシュで汚れを拭き取りながら、僕の胸を押し潰したのは、凄まじい自己嫌悪と罪悪感だった。
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(なんてことをしてしまったんだ……。僕を頼れる先輩だと慕ってくれている彼女に対して、僕は自分の醜い欲望をぶつけてしまった……。彼女の聖なる身体を、僕の汚い妄想で汚してしまった……っ)
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だが、その激しい罪悪感すらも、僕の脳内ではどこか歪んだ美学へと変換されていた。
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(でも、それだけ僕の中で遥ちゃんの存在が大きくなっている証拠だ。こんな罪深い後ろめたさを背負ってでも、僕は明日から彼女を優しく守り抜いてみせる。どんな過去や罪があろうと、僕が彼女の一番の理解者であることに変わりはないのだから……)
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自分の醜悪な行為を「罪深き男の葛藤」として勝手にロマンチックに美化しながら、僕は重い瞼を閉じた。
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明日、どんな顔をして彼女と目を合わせればいいのかという、甘い焦燥感を胸に抱きながら。
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__この時、僕らが鍵をかけたあの店で、翌朝あんな恐ろしい狂気が幕を開けるとは、僕は微塵も思っていなかったのだ。
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第4章へ続く




