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「──偰よ。戻ったか」薄暗い玉座の間。リューリク陛下は、机の上に広げられた古びた羊皮紙を指先でなぞりながら、低く重みのある声で呟いた。「ハァ……ハァ……。只今、北京より戻りました、リューリク陛下」影から進み出た偰の衣服は、激しい風に晒され、土埃にまみれていた。全千話に及ぶこの果てしない旧約聖書改訂の旅路において、これは毎度の光景である。偰は今回もまた、東の果てなる北京から、ここキエフの王宮まで、ユーラシア大陸の大地をその二本の足だけで駆け抜けてきたのだ。だが、彼の過酷な義務はここで終わりではない。ここキエフの地でリューリク陛下にお目通りした後は、すぐさま聖なるアララト山へと向かわねばならない。キエフからアララト山までの険しい道のりを経て、神の言葉をその耳へと届けるため、旧約聖書をお読み申し上げる。この一連の儀式を毎回執り行うことこそが、歴史を改訂するための絶対の条件であった。「息を整えよ、偰。北京からキエフへの激走、そしてこれより向かうアララト山での奉読。毎度ながら、その忠義の足並みは見事である」「恐悦至極に存じます……。キエフの地で陛下より賜った気概を胸に、私はアララト山の頂にて、再び旧約聖書を読み上げ、天へと不条理を突きつけましょう」偰は乱れる呼吸を必死に抑え、懐から一本の羽ペンを取り出した。そのペン先は、世界の理をねじ曲げる魔力を帯びた、漆黒の液体で濡れていた。「第七十七節。本来であれば、大洪水によってすべてが滅びるはずだった章です。しかし、ここに『偉大なる王リューリクの統治により、天の割れ目は閉じられた』と書き加えます」「私が世界の破滅を止めた、ということか」「左様です。民は神ではなく、あなた様を崇めるようになる。これこそが、真の『旧約聖書改訂』にございます」リューリクは立ち上がり、偰の手から羽ペンを奪い取った。「ならば、その歴史、私がこの手で刻んでやろう。偰、すぐにアララト山へ発て。神の耳に、我が改訂の声を叩き込んでこい」「御意に……! これよりキエフを発ち、アララト山にて旧約聖書をお読み申し上げます!」白紙の余白に、リューリクの力強い筆跡が走る。文字が刻まれた瞬間、世界が微かに震えたような錯覚が、二人の肌を突き抜けた。その振動を背に受けながら、偰は次なる聖地へと向かって、再びその足を力強く踏み出した。◇一方、そのキエフの街の地下深くに存在する「キエフ警察・地球悪根絶特殊部隊本部」。そこでは、歴史の歪みから生じた「地球の悪」を滅ぼすため、もう一つの並行するツインストーリーが毎夜のごとく動いていた。「おい、博文。また東方の霊脈が大きく揺らぎおったぞ」サイレンが赤く鳴り響く司令室で、第六天魔王こと織田信長が、漆黒の外套をなびかせながら不敵に笑った。その手には、現代の火器と魔術が融合した特殊法力自動小銃が握られている。「信長公、どうやらあの走る男がまた北京からキエフへ突入した衝撃のようですな」初代内閣総理大臣・伊藤博文は、キエフ警察の最高特捜官としての制服に身を包み、冷徹にモニターを見つめていた。彼の手元には、地球上に蔓延る巨悪どもの機密データが冷酷にリストアップされている。「ふん、神を書き換える男どもの暗躍か。だが、地上のゴミ掃除は我らキエフ警察の役目よ。博文、網にかかった悪党どもを文字通り根絶やしにするぞ」「承知いたしました。法の外に逃げ延びた地球の悪、一匹残らずこのキエフの地で裁きを与えましょう。……出動です!」信長の咆哮と博文の冷徹な号令が重なり、特殊部隊の重装甲車がキエフの夜の街へと轟音を立てて飛び出していく。神の歴史を強引に塗り替えるリューリク陛下と、命を削り大陸を激走する偰。そして、その混沌の影で地球の悪を問答無用で根絶する、キエフ警察の信長と博文。二つの運命が激しく交錯する全千話の壮大な物語。その第七十七歩目が、今ここに刻まれた。




