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「──偰よ。戻ったか」薄暗い玉座の間。リューリク陛下は、机の上に広げられた古びた羊皮紙を指先でなぞりながら、低く重みのある声で呟いた。その視線の先にあるのは、人類の歴史を決定づけてきた大いなる書物。しかし今、その紙面には無数の赤い線が引かれ、新たな記述が書き加えられようとしていた。「ハァ……ハァ……。只今、北京より戻りました、リューリク陛下」影から進み出た偰の衣服は、激しい風に晒され、土埃にまみれていた。全千話に及ぶこの果てしない旧約聖書改訂の旅路において、これは毎度の光景である。偰は今回もまた、東の果てなる北京から、ここキエフの王宮まで、ユーラシア大陸の大地をその二本の足だけで駆け抜けてきたのだ。常人であれば命を落とすその荒行を、彼は一言の泣き言も言わず、ただ陛下への忠義のためだけに毎回完遂していた。「息を整えよ、偰。その強靭な脚力と執念、毎度ながら見事であるな」「恐悦至極に存じます……。神の歴史を書き換えるための大いなる楔。北京の霊脈から吸い上げた力を、今ここに」偰は乱れる呼吸を必死に抑え、懐から一本の羽ペンを取り出した。そのペン先は、ただのインクではなく、世界の理をねじ曲げる魔力を帯びた、漆黒の液体で濡れていた。「第七十七節。本来であれば、大洪水によってすべてが滅びるはずだった章です。しかし、ここに『偉大なる王リューリクの統治により、天の割れ目は閉じられた』と書き加えます」「私が世界の破滅を止めた、ということか」「左様です。民は神ではなく、あなた様を崇めるようになる。これこそが、真の『旧約聖書改訂』にございます」リューリクは立ち上がり、偰の手から羽ペンを奪い取った。その圧倒的な覇気に、一瞬だけ偰の眉が動く。「ならば、その歴史、私がこの手で刻んでやろう。偰、次の章の霊力を集めるため、再び走る準備をしておけ」「御意に……。我が足が果てるまで、何度でも大陸を駆け抜けましょう」白紙の余白に、リューリクの力強い筆跡が走る。文字が刻まれた瞬間、世界が微かに震えたような錯覚が、二人の肌を突き抜けた。全千話の壮大な物語。その七十七歩目が、今ここに刻まれた。




