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「──これで、本当に歴史が書き換わると思うか?」薄暗い玉座の間。リューリク陛下は、机の上に広げられた古びた羊皮紙を指先でなぞりながら、低く重みのある声で呟いた。その視線の先にあるのは、人類の歴史を決定づけてきた大いなる書物。しかし今、その紙面には無数の赤い線が引かれ、新たな記述が書き加えられようとしていた。「書き換わるか、ではありません、リューリク陛下」影から静かに進み出たのは、偰であった。彼の瞳には、狂気とも至高の知性ともつかない、鋭い光が宿っている。「我々が書き換えるのです。神が残した言葉が絶対であるならば、その言葉を書き換える我々は、神をも超える存在となる」リューリクはふっと不敵な笑みを浮かべ、背もたれに深く体重を預けた。「ふん……相変わらず不遜な男だな、偰。だが、その言葉、嫌いではないぞ」「恐悦至極に存じます」偰は恭しく一礼すると、懐から一本の羽ペンを取り出した。そのペン先は、ただのインクではなく、世界の理をねじ曲げる魔力を帯びた、漆黒の液体で濡れていた。「第七十七節。本来であれば、大洪水によってすべてが滅びるはずだった章です。しかし、ここに『偉大なる王リューリクの統治により、天の割れ目は閉じられた』と書き加えます」「私が世界の破滅を止めた、ということか」「左様です。民は神ではなく、あなた様を崇めるようになる。これこそが、真の『旧約聖書改訂』にございます」リューリクは立ち上がり、偰の手から羽ペンを奪い取った。その圧倒的な覇気に、一瞬だけ偰の眉が動く。「ならば、その歴史、私がこの手で刻んでやろう」白紙の余白に、リューリクの力強い筆跡が走る。文字が刻まれた瞬間、世界が微かに震えたような錯覚が、二人の肌を突き抜けた。歴史の改訂は、今ここから始まる──。




