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勇者の血肉は美味しいか?  作者: 彩鳥 奇麗


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第四話 英雄


 王国が血眼になって行っている勇者狩りの真相。

 それは、再び悪種殲滅を掲げて魔族に戦争を仕掛けるための軍備の増強だった。

 勇者を召喚し、殺し、喰らうことで、人は英雄に成ることができる。

 しかし、誰しもが超人めいた力を発現させられるとは限らないらしい。むしろ英雄に成れるのは、ほんの一握りの人間だけなのだとか。

 原理は不明だが、人によって勇者の力に対する適正があるのだろう。

 力を発現できなかった者もいれば、身体能力のみが向上する者が大半だと聞く。

 そういった者達は勇士(ゆうし)と呼ばれている。

 とは言うものの、やはり一番危惧すべき存在は英雄だ。

 勇者と同じ身体能力を授かった上に、絶対的な奇跡すらも思うがままに振るう、まさに勇者に取って代わる王国の剣。

 ──故に、今後も王国は勇者を召喚し、殺し続けるだろう。

 そして揺るぎない信仰のために、魔族すらも殺し続けるのだ。

 自分達だけが、救済神の作り上げる楽園(リミリス)へと至るために…。


「……狂ってるな。自分達の信仰を歪めてまで、楽園に行きたいのか。他の世界の人間を殺してまで…」


 苦難を共にした白い矢を片手に、真実を知った薬芽は憤っていた。 

 勇者を負傷に追いやれる真っ白な矢。それは薬芽にとって忌まわしいはずの代物であったが、いまはこの忌み物に対して腹立たしさも湧いてこない。むしろ、憐憫の情を抱いている。

 なにしろ、ホープから知らされた矢の正体。なんと驚くべきことに、勇者の骨を加工して作られたものだった。

 自分と同じ王国の被害者。殺されて、喰われて、尊厳まで踏み躙られた、罪のない人間の成れの果て。

 彼か彼女か、この人にも自分の人生があったはずなのだ。もしかしたら幸福の絶頂期だったかもしれない。

 それを王国は平然と奪ったのだ。

 薬芽は矢を握りしめながら、ただ静かに憤っている。

 

「王国の奴ら、本当に許せねぇ…」

「彼らは善行のつもりでやっているんですよ。異世界から招いた勇者を殺しても、食べてしまえばその魂は身体に宿ると信じられている。実際に力まで授かってしまうのですからね。王国(あちら)の言い分としては、箱庭(リミリス)に連れてってやるんだから感謝しっろってところなのでしょう」

 

 ラウルの言葉は、どこか疲れていた。

 彼だけではない。

 いまはゆっくりと休息をとっているが、ホープやリーベからも疲弊の色が窺える。

 勇者にとってリスクのある場所で、ずっと神経を尖らせているのだから無理もないだろう。

 そも、彼女達の目的は薬芽の救出などではなく、王城の最上階にある召喚魔法陣の破壊だったらしい。

 召喚の間の爆発は彼女達と協力者の仕業だった。

 言わば、薬芽の救出はついでで、助けられれば御の字と言ったところだった。

 ホープ達は召喚魔法陣の破壊という任務を無事達成。

 そのお陰で危うく瓦礫の下敷きになるところだったが、こうして命を拾ったのだから、ついでであったとしても危険を冒してくれたことには変わりない。

 薬芽は感謝をすれど、恨もうとは微塵も思わなかった。

 

「ところで、俺達はいつまでここでこうしているんだ?隠れてるってことは、まだ危険地帯を抜けたわけじゃないんだろ?」


 薬芽のふとした疑問に、ラウルが爽やかな笑顔で答える。

 

「仲間の一人に時空を(また)ぐことのできる聖剣使いがいるんです。ですので、彼女が道を開いてくれるその時まで、僕達はここで待機ということになります」

「へぇ、聖剣ってそんなスゲーことまでできるんだなー」


 俺も聖剣使えるのかなーと、薬芽は僅かながらに少年心をくすぐらせる。

 尚、ラウル曰く、時空を跨ぐことのできる聖剣であったとしても、世界を超えて元の世界に帰ることはできないらしい。

 そう説明するや否や、ラウルは残念そうに肩をすくめた。

 薬芽も同意しながら嘆息する。

 さておき、今はやれることは何もない。

 回復はしたものの、元気に見えて血が足りてない薬芽は、次の事態に備えてしっかりと休息を取ることにした。


 ★☆★☆★☆


 海と大地の境界線。

 砂浜に何度も乗り上げる波の音が、ざあざあと心地の良いリズムを刻んでいる。

 風が運ぶのは海の香りと、ちょっぴりしょっぱい風味の空気。

 踏みしめる度に足を優しく包み込むのは、きめ細やかな砂のクッションだ。

 故郷の世界では見ることのできない景色に、ヒャティ・ヒャンプティの心は何度も感動の渦に飲み込まれる。

 上流階級のみが独占していたという水の宝庫。

 それをいま、独り占めしているような気がして、少しだけ高揚しているのが自分でもわかった。 

 王国からおよそ350キロ離れた地点にある、エルロダイス王国の手が及ばない隣国の安全地帯。

 そこにて、ヒャティとその仲間達が予定された時刻を待っていた。


「ヒャティの姉御。見てください、時間です!」


 一人の少年が水平線を指差しながらそう告げる。

 水平線からじわじわと日が昇り、薄暗かった空を優麗な朝焼け色に染め始める。

 その日の出こそが、予定された時刻の合図だ。

 

「やっぱり、いつ見ても絶景だねぇ…」


 瞳に焼き付けるように、ヒャティは朝日を正視する。

 しかし直後には、気を引き締めた様子で踵を返して。


「よしっ!お前たち、これから()()()()()よ!ラウル達の凱旋を盛大に出迎えてやんな!」


 その視線の先にいるのは、十名にも満たない王国の悪習から生き延びた老若男女の勇者達だ。

 彼らは、この瞬間を待っていましたと言わんばかりに歓声を上げる。

 まるで何年もあっていない同胞との再会──と思うだろうが、実際はホープが任務に旅立ってから三日しか経過していない。

 ヒャティの聖剣。


『──聖剣:舞 飛 (おどり、まい、)夢 果 (とびたとう)


 空間を跳躍できる、勇者の中でも稀有な空間操作系の力だ。

 その力を例えるならば、某アニメのどこでもドアである。


「おや?どうしたんだい、クルト」


 仲間達が喜び勇んでいる一方で、ヒャティは仲間の一人がオロオロと顔を曇らせていることに気づく。

 可憐な勇者の少女だ。

 彼女はどこか心配そうに、ヒャティを見上げて言った。


「ヒャティの姉御〜。ホープさん達はちゃんと無事でいるでしょうか……」


 呆れたと言わんばかりに、ヒャティは嘆息しながらクルトの頭を撫でた。

 ここに生存している勇者は、聖剣の稀有な能力が故に、王国に生かされていた者が大半だ。

 難病や大怪我すらも癒す、リーベが良い例だろう。

 逆に、その強力な聖剣を振るい、自らの力で王国の魔の手から脱した者もいる。

 ヒャティは聖剣の力で、間一髪のところ難を逃れた勇者だ。

 そして、ラウルとホープもその一人。

 当時、王国に囚われていたリーベや他の勇者達を救ったのも、他ならぬホープとラウル、そしてヒャティだった。

 すなわち、この三人は勇者の先鋭にして要だ。

 ホープとラウルが簡単にくたばるようなヘマはしない。

 そう、二人に絶対の信頼を置いているからこそ、ヒャティはクルトに断言する。


「大丈夫だよ、クルト。ホープとラウフなら無事だって。それに、もし負傷したときてもリーベがついてるんだ。そう簡単にくたばったりしないよ」

「……そうですよね。それに、もしかしたら新しい仲間が増えているかもしれません!」


 きっと心配いりませんね!と、少女の表情は少しずつ明るくなった。

 そんな時、鬱蒼と騒がしかった仲間達が水を打ったように静まり返り、一人ずつ一点を見つめ始める。


「ん?どうしたんだい、お前達」

「いや、その。ヒャティの姉御、あれを…」


 怪訝に顔をしかめる仲間の視線の先をヒャティは目で追う。

 すると、浜辺からこちらへゆっくりと近づいてくる一人の男が見えた。

 男は白かった。

 服が白かったというのもある。丈長のコートにも似た、それでいてどこか神々しさを覚える純白の(よそお)いだ。

 しかし着眼すべきはそこじゃない。

 日の出の光を吸い込んで煌びやかに輝く長い白髪に、雪を欺く純白の肌。

 そして、赤を煮詰めたような真紅の瞳が、まっすぐとこちらに向いている。

 ヒャティにとどまらず他の勇者達ですら、人間なのかと疑うほどに男が神々しく見えていた。

 男は勇者達から十歩ほど離れた位置で止まる。

 しばらくの沈黙。

 男は品定めでもするかのように、勇者達を一人ずつ目でなぞっていく。


「………う〜ん」


 そして、顎に手を当てて考え込むようなそぶりを見せたあと。

 ようやく口火を切ったかと思うや否や、ずるりと──虚空から自身の姿身にそぐわない、雪白の大鎌を引っ張り出した。ただし、鎌の柄の先端に淡紫色の巨大な眼球が覗いていることを除けば……だが。

 

(まさかコイツは…)


 その瞬間、ヒャティの背筋に緊張が走る。


(英雄!)


 男は軽薄そうな笑みを浮かべ、首を傾げながら問いかける。


「あー、つかぬことお伺いするけれど……」




「君たち……()()()()?」

 



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