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第5話 荊州をめぐる詐欺と、劉備の絶頂期

中巻開始です。

赤壁の後始末は、荊州の奪い合いから始まります。

周瑜は諸葛亮に振り回され、劉備は益州と漢中を手に入れ、ついに全盛期へ向かいます。ここまでは、です。


プロローグ ~ 赤壁の後始末が一番めんどくさい ~


赤壁の戦いで曹操を退けた孫劉連合軍。


めでたしめでたし――とはならなかった。


問題は荊州。


荊州は中国のど真ん中に位置する超重要拠点。北の曹操、南東の孫権、そして劉備。三者すべてが欲しがる土地だ。


赤壁で一番体を張ったのは孫権軍。指揮官・周瑜は「荊州は当然うちのもの」と思っていた。


ところが――


気がついたら劉備が荊州を占拠していた。


「えっ、いつの間に!?」


諸葛亮の仕業である。


周瑜が曹操軍の残党と戦っている隙に、劉備軍がスルスルと荊州の要所を押さえてしまった。


周瑜は激怒した。


「あの草鞋わらじ売りの詐欺師が!!」


だが劉備は平然と言った。


「いやあ、荊州はもともと劉表殿のもので、その縁で劉備が預かっているだけですよ。そのうちお返ししますから」


「そのうち」。


この「そのうち」が永遠に来ないことを、周瑜は本能的に悟っていた。


第一章 ~ 周瑜 vs 諸葛亮 ~ 天才が天才に負けると死ぬ ~


周瑜は三国志屈指の天才だった。


容姿端麗、音楽の才能あり、軍略は一流、赤壁の戦いの立役者。完璧超人。


だが一つだけ問題があった。


諸葛亮に勝てない。


周瑜は何度も諸葛亮を罠にはめようとした。


ある時は荊州返還の交渉を装って劉備を誘い出し、孫権の妹との政略結婚を持ちかけた。これは劉備を江東に閉じ込めて人質にする計略だった。


だが諸葛亮は趙雲に「三つの錦の袋」を渡した。


「ピンチになったら順番に開けろ」


趙雲がその通りにすると――


一つ目の袋:孫権の母・呉国太に結婚話を先にバラす。母が大喜びして本当に結婚させることに。


二つ目の袋:劉備に「曹操が攻めてくる」と嘘を言わせて帰国を急がせる。


三つ目の袋:追っ手が来たら孫権の妹(孫夫人)に叱らせる。


全部うまくいった。


劉備は本当に孫権の妹と結婚し、なおかつ無事に荊州に帰還した。


周瑜の計略は完全に裏目に出た。「劉備を人質にする」はずが、嫁と領土の両方を持っていかれた。


これが「賠了夫人又折兵(嫁を失い、兵も失った)」という故事成語の元ネタ。周瑜の大恥として永遠に語り継がれることになった。


周瑜はその後も荊州奪還を企てたが、その度に諸葛亮に読まれて失敗した。


三度目の失敗の後、周瑜は血を吐いた。


「天はなぜ周瑜を生みながら、諸葛亮をも生んだのか……!」


そして死んだ。


享年三十六歳。死因はストレス。


いや正確には持病の悪化なのだが、三国志演義では完全に「諸葛亮に負け続けたストレスで死んだ」と描かれている。


天才を殺すのは、もっと上の天才。


なお、史実の周瑜はもっと有能で器の大きい人物だったとされる。演義では「諸葛亮の引き立て役」にされてしまった気の毒な男でもある。


第二章 ~ 劉備、益州を取る ~ いい人キャラの限界 ~


荊州を確保した劉備。諸葛亮の「天下三分の計」の次のステップは益州(現在の四川省)の奪取。


益州を治めているのは劉璋りゅうしょう。劉備と同じ漢王朝の一族。


劉璋は善人だが、お人よしすぎて統治能力ゼロ。部下に「曹操が攻めてきたら劉備に助けてもらおう」と提案されて、ホイホイと劉備を益州に招き入れた。


オオカミを羊小屋に招いたようなものだ。


劉備は最初、劉璋を裏切ることに躊躇した。同族を攻めるのは道義に反する。


だが龐統ほうとうが背中を押した。


龐統は諸葛亮と並ぶ天才軍師。あだ名は「鳳雛(ほうすう=若い鳳凰)」。臥龍と鳳雛、二大天才が劉備の陣営にいた。


「主君、いつまで善人でいるつもりですか。天下を取るには、時には汚れ仕事も必要です」


劉備は悩んだ末に決断した。益州を攻める。


だが進軍中、龐統が戦死した。


落鳳坡(らくほうは=鳳が落ちる坂)という場所で伏兵に遭い、矢を浴びて絶命。


「落鳳坡」。名前が不吉すぎる。


龐統の死により、諸葛亮が荊州から益州に移動して直接指揮を取ることに。


ここで重要な人事異動が発生する。


荊州の留守番は関羽。


この人事が、後に取り返しのつかない悲劇を生む。


劉備軍は怒涛の進撃で益州を制圧。劉璋は降伏。


劉備は益州の主となった。


ゴザ売りから一国の主へ。だが劉備はこのとき五十四歳。遅咲きにもほどがある。


第三章 ~ 漢中争奪戦 ~ 定軍山の老将 ~


益州を得た劉備。次の目標は北方の漢中かんちゅう


漢中は益州の北の玄関口。ここを曹操に押さえられると、いつでも攻め込まれる。逆に確保すれば、北伐の拠点になる。


曹操は漢中に大将・夏侯淵かこうえんを置いていた。夏侯淵は曹操の親族にして猛将。その速攻は「三日で五百里、六日で千里」と恐れられた。


だが劉備軍には黄忠こうちゅうがいた。


黄忠、七十歳。おじいちゃん武将。


年齢だけ聞くとリタイア組だが、弓の腕は三国志屈指。しかも気性が荒い。「年寄り」と呼ばれるとガチでキレる。


定軍山ていぐんざんの戦い。


諸葛亮の軍師・法正ほうせいの策に従い、黄忠は高所を確保。


夏侯淵が攻めてきた瞬間、七十歳のおじいちゃんが山を駆け下り――


一刀のもとに夏侯淵を斬り殺した。


曹操軍の大将が単騎突撃の老将に瞬殺される。戦場の常識が崩壊した瞬間である。


この勝利で漢中は劉備の手に落ちた。


劉備は漢中王を名乗った。


曹操はこの報せを聞いて激怒した。


「あのゴザ売りが王を名乗るだと!?」


だが漢中は取り返せなかった。


劉備陣営の絶頂期。領土は荊州と益州と漢中。五虎大将軍(関羽・張飛・趙雲・馬超・黄忠)が揃い、諸葛亮が内政を取り仕切る。


すべてが順調に見えた。


見えた。


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