エピローグ1
「戦争」と呼ばれたあの日。
爆弾が破裂するように起こったマフィア間の抗争だが、実際その戦いは僅か一日で終わったのだった。
マフィアの一派が弱体化したとはいえ、この街──ゴット・シュヴェルツェンが浄化されるわけもない。数日後には相変わらず殺人とドラッグが横行し、銃声が狭い路地裏にまで響き渡っていた。
ここに『ネーベン・ガッセ』という名の店がある。
裏道という意味があるのだが、誰もその店名を呼びはしない。店長であるKの歯に衣着せぬ遠慮のない物言いからその店は『シリアルK』と呼ばれていた。
戦争から一ヶ月──固く閉ざされていた『シリアルK』の扉がそろりと開いた。待ちかねたというようにピンクのカラーコンタクトをつけた男がそのドアを開けて中に入って行く。
「マスター、弁当か何か作ってよ。テイクアウトで二つ」
「おや、医師・咲良。お久し振りです」
全身黄色の衣服に身を包んだ小男が店内を忙しく駆け回っていた。
久々の開店という事で、店は賑わいを見せている。
客達の間をKを始めストリッパーの樹楽が駆け回っていた。
あいまにKはカウンターの中に入って調理にも勤しむ。
「とにかく人手が足りないんですよ。アールット咲良もウエイターのバイトをしませんか。調理の方でも大歓迎ですよ」
Kが駆け寄って来た。
決して暇ではない筈なのに、無駄口を叩く事は怠らない。
咲良は苦笑いを返した。
「しばらくステージは封印ですね。樹楽さんにもホールを手伝ってもらいます。まったく、苦労をかけますね」
「あーい。マスターのためならエンヤコラよ」
胸を揺らしながらの返事に、Kは分かりやすく頬を赤らめる。
オイオイと薄ら笑いを浮かべる咲良の前で、コホンとわざとらしく咳払い。
「カンナさんが歌を再開してくれたら良いんですがねぇ。できれば兄さんにも手伝ってほしいところです。いくら不器用といっても、電子レンジくらいは扱えるでしょう」
その言い方は実の兄弟とはいえあんまりなと、咲良が抗議の声をあげかけた時だ。
「マスター、知らないでしょ。ブラッドは電子レンジの扱いにかけちゃ右に出るものはいないんだから」
凛とした声が、カウンター席からあがった。
薄緑色の髪をした若い女が両手を腰に立ち上がる。
女の隣りには大柄な男の姿が。
背を丸めて座るものの、立ち上がった彼女と頭の高さはそう変わらない。
大きな身体を縮めるようにしながら、男は眩しそうに薄緑の女を見つめる。
「カンナが電子レンジの使い方を教えてくれた。何でも自分でできるようにならなきゃいけないと言って。簡単だ。冷凍食品の袋に書いてある分数をセットするだけだ」
「何言ってるの、ブラッド! それが基本なの。そして世の中には、基本を疎かにする人が多すぎるの」
ああ、そんな人に君が温めた完璧な冷凍ピラフを食べさせてあげたい、とカンナは大袈裟に首を振っている。
そうかと思うと、突然ハッと息を呑んでポケットから取り出した紙に何やらメモをとりだした。
そんな彼女を見やる、ブラッドの頬にはやわらかな笑みが。
「カンナは今、充電期間中だ。創作にはいんぷっととあうとぷっとの期間が必要で、歌えと言われてハイそうですかと曲が出てくるものじゃないと言っていた」




