FAVスコーピオン(1月11日・3)1
記憶の中で打ち鳴らされる警鐘。
例えようもない違和感。
それはすべてあの戦場に端を発していた。
忌まわしいすべての記憶、炎の向こう──。
周囲三六〇度。
動くものすべてに銃口を合わせてしまう。
それは熟練した兵士としての本能だ。
その先に居るのが動物、風に揺れる木の葉、女性や子供であっても、戦場に生きる者にとっては関係ない。
指は無意識に引金を引いてしまう。
一瞬でも早く、撃つ。
そうしなければ殺されるのはこちらなのだ。
シルヴァー+クロイツは思う。
あの時──真霧を拾ったあの戦場で、俺は無感動に銃弾を撒き散らしていた。
いつもの戦闘を繰り返していたのだ。
敵を追って森の向こうに照準を合わせ、サブマシンガンの引金を引き続けた。
弾丸の行先で人が倒れる確かな手応えも腕に感じたものだ。
何とも言えない嫌な感覚が忍び寄る。
眸から血を流して泣きじゃくる少女の姿が、今尚鮮やかに記憶に蘇る。
泣きじゃくる少女の足元には人が倒れていた。
それはまだ若い女性だ。
額を撃ち抜かれて、即死なのは明かだった。
「お母さん……」
そう言って白い少女は泣いていた。
民間人の少女が何故こんな戦場に迷い込んだのかと思っていた。
彼の記憶には真っ白な霧がかかっている。
徐々に晴れる霧の向こうに「違う」という意識が見え隠れする。
違う。少女が迷い込んでいたのではない。
──俺だ。
敵勢力との小競り合いを繰り返すうち部隊とはぐれてしまい、敵に追い詰められ逃げるように近くの農村に入って行ったのは自分だった。
そこに人が住むのは当然の事。
一般人を巻き込む戦闘はなるべく避ける──それは正規軍ではない兵士達の間でも暗黙の了解だった。
それなのに、追い詰められた自分は……動くものすべてに……引金を……。
あの時、撃ったのは自分だろうか。
少女の母を、そして村の人間達を撃ち殺したのは自分だったのか。
そのショックで彼女の眸は見る事を拒むようになったのだろうか。
真っ白の霧が晴れるにつれ、眼を背けたくなる真実が現れ、シルヴァー+クロイツは絶望した。
※ ※ ※
唇を噛み締め、呻き声を押し殺す。
腿の外側を9ミリの弾丸が掠ったのだ。
傷は深くはないが、肌の表層を抉られたらしい。
毛細血管の損傷が激しい。
血液が噴き出る。
慌てて布を巻いて止血したのだが、その場に血溜まりが出来てしまった。
舌打ちする。
戦場ならこれで命取りになるだろう。
血の匂いで敵に居場所を悟られてしまう。
敵は先日彼を拉致した男──ガーネットの連れの新人刑事で、名をレオというらしい──奴だけではなくなっていた。
今、自分を追っている警官は総勢二十名程になろうか。
相当数の警官がマフィアと通じているのは知っている。
彼等にゴルト派とキング派の境界はない。
その時々に応じて両派を自在に渡り歩くのだ。
組織にとって『シルヴァー+クロイツ』の商品価値は計り知れないと知っている。
逆に言えば奴等が問答無用で自分の命を奪いに来るわけではない事は強みだ。
両腕と、死なせるわけにはいかないので頭と心臓を狙われる事はないだろう。
だからと言って両足を撃たれて抵抗を封じられてマフィアに売り渡されるのは御免だ。
「皮肉なもんだな」
腿を撃ったのは自分が造った銃であると彼は気付いていた。




