クロスファイア(1月11日・2)4
「生け捕りにしたいからな」
再び引き金に指を掛けた瞬間、白い影が過ぎった。
「うっ!」
撃つ直前に予想外の方向から白い少女がレオに体当たりしてきたのだ。
クロスファイアを取り落としかけて、焦る。
「真霧、止せ!」
シルヴァー+クロイツの叫びには悲痛なものが混じっていた。
お荷物にはならないと言った彼女の気持ちは分かるが、無茶は止めてくれ。
しかし彼の思いとは裏腹に、少女はケロリとした顔でこちらに駆け寄って来たのだった。
「シル、大丈夫?」
「………………」
無意識に舌打ちを繰り返しながらも、シルヴァー+クロイツは少女の手を取った。
新人刑事のクロスファイアの銃口が、今度こそ完璧にこちらを捕らえた事に気付いたからだ。
咄嗟に側の通路に転がり込む。
真霧を抱えて細い階段を駆け下り、その場に伏せた。
頭上を駆けるシュンという不吉な飛来音は、間違いなく12ゲージ・バック・ショット散弾が飛ぶ音だ。
二人の直ぐ手前に着弾し、眼前の壁が音立てて崩れ落ちる。
「グッ……真霧、大丈夫か」
「うん………………」
土煙が視界を遮る中、銀髪の青年は俊敏な動きで身を起こした。
次の攻撃に備える場所を探そうにも、そこが細い通路の続く特殊な場所だと悟って愕然とする。
左右には厚い壁。
そして鉄格子の付いた頑丈な扉だ。
「しまった……!」
道理で通路も階段も狭いわけだ。
そこは留置場であった。
容疑者の脱走を防ぐ為、その一画の出入口はたった一箇所。
しかも細い通路となっているのが警察署という建造物の造りとして一般的なものであった。
それはつまり、逃げ道がないという事。
ショットガンをぶっ放されたらお終いだぞ、こんな狭い所。
そう考えた正にその瞬間。
再びの銃撃──爆撃と表現してもいい。
同時にけたたましい悲鳴が狭い通路に響く。
柱の影に身を隠してそれをやり過ごしてから、シルヴァー+クロイツは立ち上がった。
何だ、今の叫び声は。
「出して! ここから出してよ!」
その悲鳴と同時に大勢の叫びが津波のように通路を満たす。
さすがに呆然とその場に立ち尽くしたシルヴァー+クロイツだが、この状況を打破する起死回生の策として側の独房扉の蝶番を撃ち壊した。
扉に体当たりするようにして開けて、けたたましい悲鳴をあげて出て来たのは日本人の男だった。
その後ろから更に一人二人と、街のゴロツキといった風体の男が飛び出して来る。
あまりにも犯罪者が多いため、独房に二人三人と詰め込まれていたらしい。
「ま、真霧ちゃん?」
出口に向かって逃げ出しかけていた日本人の男が足を止めた。
シルヴァー+クロイツの背後に隠れる少女の姿に気付いたのだ。
何だ、こいつは。
シルヴァー+クロイツは手にしたベレッタで男の足に狙いを付けた。
ところが真霧はひょこっと顔を出すと「あっ」と呟いたのだ。
「その声は……麻倉さん?」
「咲良だよ。ドクター咲良」
降夜と共に警察署爆破に失敗して以来ここに捕まっている美容整形医であった。
ピンクのカラコンはさすがに外している。
もちろんシルヴァー+クロイツがそんな事情を知る由もない。
「知り合いか? ……俺が居ない間に何、交友関係を広げてるんだよ」
ヘヘ……、と少女は引き攣った笑みを浮かべた。
違和感に気付いたのはその時だ。
彼女は今こう言った。
──《《その声は》》麻倉さんだと?




