クロスファイア(1月11日・2)3
「しかし……予想以上に酷い状態だな」
強盗と化した暴徒と警察特殊部隊が銃撃戦を展開している廊下の向こう側。
腰を屈め、真霧の手を引いて走りながら彼の脳裏には早くも後悔の思いが過ぎっていた。
警察署に逃げ込んだのは失敗だったか?
しかし引き返したところで新たな目的地を街のどこに設定すれば良いというのだ?
彼が難しい顔で考え込んだからだろう。
真霧の表情が不安に曇る。
「シル、大丈夫だよ。真霧、足手纏いにならないようにするから」
「真霧……」
保護者である筈の自分が逆に気を遣われている事に、彼は落ち込む。
「約束する、真霧。何があっても……」
君は俺が守る、と言いかけたその言葉は途中で消えた。
少女の視線が彼を通り越して向こうに行ってしまったからだ。
「ガーネットさん?」
「え?」
少女の視線の先には赤い姿の女。
周囲の警官に向かって偉そうに怒鳴っている。
「どっかのバカが警察署爆破なんて寝惚けたことを画策したから。だから余計に人員が少ないのよ! それでなくとも人手が足りないのに。裏のバリケードもじきに破られるわ。アンタたち、何とかしなさいよ!」
ヒステリックに叫んでいるのは、間違いなく探していたその人物である。
シルヴァー+クロイツ的にはこの女は苦手なのだが、真霧はほっとしたように彼女の方に駆け出した。
「あら、真霧ちゃんじゃない。危ないじゃない。どうしてここに? あのバカは……?」
「あの……」
真霧が口を開く。しかしその声は凍り付く。
2人の後方の壁を銃弾が一発、穿ったのだ。
「真霧、そいつから離れろ!」
「シ、シル……?」
硝煙をあげているのはベレッタの銃口だ。
真霧の全身が硬直した。
信じられない、というように銀髪の青年を振り返る。
そして彼の銃口がガーネットに──もちろん自分にも──向けられていないことを確認して、小さな吐息をつく。
シルヴァー+クロイツの銃口の先には、クロスファイア・ショットガンが。
彼は赤い女の直ぐ側に見覚えのあるショットガンを見付けたのだ。
そう、それはあの時の男が持っていたのと同一の型だ。
それはアメリカのスペシャル・サービス・アームズ・マニュファクチャー社が開発、限定生産している特殊コンビネーション・ショットガンである。
近距離目標に対しては12ゲージ・バック・ショット散弾、遠距離目標にはライフル弾薬に切り替えて使用出来るという高価なショットガンだ。
自分を拉致し、ゴルト派に売り渡した張本人がそこに居る。
銃の持ち主である脱色頭の顔は曖昧にしか覚えていない為、同一人物か判別し難いところだが。
いや、こんな銃が街に何本もあってたまるか!
相手もこちらに気付いたようだ。
「レオ、何やってるのよ」
ガーネットの言葉など2人の耳には届かない。
双方の銃口が互いを指す。
しかし引き金を引く瞬間、躊躇ったのはシルヴァー+クロイツの方だった。
二人の間に真霧とガーネットが居るのだ。
自分の腕には絶対の自信がある。
目標物以外を撃つ事はないと確信していても、だからと言って彼女達を挟んで撃ち合うわけにはいかないだろう。
従って銃声はクロスファイアのみのものとなった。
一瞬の躊躇いが命取りになる危険性もある。
後方の壁が壊れる一瞬前に、シルヴァー+クロイツはその場を飛び退いた。
「あぁ……」
至近距離でクロスファイアを撃たれて、ガーネットがフラフラと倒れ込んだ。
衝撃波で脳震盪を起こして失神したらしい。
真霧は射撃の瞬間、頭を抱えて床に蹲ったのが分かった。
「お前が幾らの金になるか……」
新たな弾丸を装填して、レオは銃職人の元へ走り寄る。
シルヴァー+クロイツは観念したのか、ベレッタの銃口を下げた。
獲物の威力が違いすぎる。
この場合、いくらヨーロッパ最強の銃職人とて反撃は難しいだろう。
レオの行動には余裕すら伺えた。
シルヴァー+クロイツの腕は狙わない。
動きを止める為、足に狙いをつけるのだ。




