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ep.2


「もう来ていたの、レイア」

「エスティラ!」


冬の月、天気の良い日の昼下がり。

外は指先がかじかむくらいに冷える季節だったが、大聖堂の植物園は魔道具のおかげで非常に過ごしやすい室温に保たれていた。見回す限りの緑と、それを彩る様々な色の花が視界を埋め尽くす。

その中心にお茶会が出来るテーブルや椅子を設置することを決めたのはエスティラだという話を聞いた。本人曰く「ここなら誰も来ないから秘密のお話も出来るのよ」ということだった。

確かにこの植物園は貴重な花も多く保管されている。ゆえに入口には衛兵が立っているし、そもそも地位のある人と、その人から許可された人しか入れない。

確かに秘密の話を交わすには丁度いい場所だった。

そんな場所でお茶会をしようと招かれて、今に至る。


エミリーがエスティラと私、二人分のお茶を入れて植物園を出ていく。付き人のような扱いの聖徒でさえもここで交わされる話を聞くことは許されないのだ。

そんな場所で一体何を聞かれるのか、僅かな緊張を浮かべながら私は熱い紅茶の入ったカップに口をつける。


「それで本題なんだけれど……レイアには伴侶は居なかったのかしら?」


口に含んですぐの紅茶を吹きかける。飲み込むにはあまりに熱いそれを無理矢理に飲み込んで、ぶんぶんと手を振る。


「は、伴侶!?……なっ、ないない!伴侶どころか彼氏も居なかったよ!」

「まぁ、そうなの?レイアの年頃ならもう結婚していてもおかしくないと思ったのだけれど」

「確かに、こっちの世界ではそうかもね。でも私の世界で、18歳で結婚している子なんかほとんどいないよ!みんな彼氏がいるくらい。それも付き合ってすぐ別れちゃったりするし」

「まぁ……!」


一度交際して破局するなど、世間体を重視するこちらの世界では大事だ。特に女性は傷が付いたと指を差されることすら珍しくない。

が、私の世界では付き合って三日で破局という、交際と呼べるか怪しい期間で別れてさえ笑い話で済む。こんな価値観の違いに慣れてきたのも最近のことだ。


「エスティラは?こんなに美人だし優しいし、誰だって結婚したいはずだよね」

「まぁ、レイア。教皇は結婚はしないわ。生涯のその全てを、唯一女神に捧げる身だもの」

「えっ……」


しまった、と思った。知らなかったとはいえ不躾な質問だったかもしれない。しかしエスティラは悪戯に笑う。


「外でそんな話をしたら大騒ぎよ。だから今日はここを選んだの。じゃあ私も内緒話をしましょうか……」


確かに聖徒だろうと、いや聖徒だからこそもし聞かれたら教皇への侮辱と取られかねない発言だった。冷や汗を垂らしながらエスティラの話の続きを待つ。


「実はね、歴代の教皇にもご落胤は珍しくないのよ」

「エスティラ!!」


なんという爆弾発言。

ご落胤……つまり教皇がどこかの女性と子供を設けていたと、そういう話だ。爆弾すぎる。こんな話、もし誰かに聞かれでもしたら首が飛びかねない。私の首が。

慌てる私を、エスティラが笑って眺める。黙っていれば他者を寄せ付けない孤高の氷の女王のように美しい、しかし一度笑えば氷の花が咲くように朗らかな。そんなエスティラが大好きだった。


「それにしても、少し安心したわ。貴女から家族のみならず愛した男性まで奪ってしまっていたらと思うと」

「エスティラ……」


彼女は今でもこうして聖女召喚の失敗を気に病んでくれている。事あるごとに申し訳ないと口にさせてしまって、私も申し訳なくなってくる。


(エスティラが悪いわけじゃないのに……)


元の世界に帰りたい気持ちは本物だ。しかしこうしてエスティラと過ごす時間も今や私の大切な時間になっていた。私はゆっくり首を振る。


「平気だよ、いつかきっと帰る方法が見付かる。エスティラと離れてしまうのは寂しいけど……」

「私もよ。――ねぇレイア、貴女が帰るその日までに私はプレゼントを用意しておくわ。もしそれを持ってあちらの世界に帰れるのなら、私のことをいつでも思い出してくれるでしょう?」

「嬉しい、私も……刺繍とかはまだ出来ないけど、必ず何か用意するよ。私も、ずっとエスティラに覚えていてほしいから」

「ふふ、世界を越えたって私達はずっと友達よ。レイア」



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