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影闘士 改稿版  作者: たまごがわ
第1章
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第6話 現実悪夢

 五日後、結羽は退院してまた学校に通い始めた。その間はまた病院から抜け出さないように、心美と未來にしっかりと見張られていた為、結羽は大人しく病室で過ごしていた。

 そして時々、拓士も病室に来て、結羽の様子を見に来ていた。ただ、拓士は結羽が話しかけても何も言わず、いつの間にか帰っていたというのが多かったのだが。

「こんなに拓士君が気遣うなんて珍しいよ。もしかしたら、結羽ちゃんのこと……好きになったんじゃない?」

 そんなことを未來が冗談で言うと、拓士が未來を恐ろしい形相で睨んできたので、結羽は「それはないよ」と苦笑交じりに返した。




 影操者であるロベリアを倒したからか、影鬼の数が少しだけ減っていて、結羽は心美に言われた通り、一週間影鬼と戦わずに過ごした。


 それから数日経ったある日、その放課後は久しぶりに多くの影鬼が出現した。

 結羽と未來が校舎から出た時には既に、他学年の影闘士が影鬼と戦っていた。その間にも影鬼が生徒を次々と影世界に引きずり込んでいく。

 そのうちの数人は間に合わず、引き込んだ影だけが残っている。少し経てば、すぐに消滅してしまうだろう。

 そこに大剣を召喚した拓士が、躊躇わずに影の中に入っていく。そして未來も、他の生徒が引きずり込まれた影世界に入っていった。

 地上にいる影鬼がいなくなったと思った時、別の生徒が引き込まれそうになっていた。

「危ない!」

 結羽は双剣を召喚し、影を斬った。絶叫を轟かせながら、影鬼が飛び出てくる。

 結羽は瞬く間に影鬼を斬り、影鬼は消滅した。

 結羽に助けられた女子生徒はスカートに付いた砂を軽く払うと、何事も無かったように立ち上がって、校門に向かう。

 女子生徒は去り際、近くにいた結羽に感情のこもっていない声で呟いた。

「……もう少しで死ねたのに」

 彼女が校門を抜けた後、周囲にいた生徒達がひそひそと話している声が聞こえてきた。

「ねぇ、あの子って……」

「自殺志願の人だよな……」

 結羽は何とも言えない表情で、あの女子生徒が去っていった道を見つめる。去り際の彼女の表情は、肩に付かない程度の茶色の髪に隠れて見えなかった。




 それから一週間が経った休日。結羽は特に用事がなかったので、見回りがてら散歩をしていた。一応、気分転換を兼ねたものなのだが、やはり彼女のことが忘れられずにいる。

 柳(やなぎ)佳奈(かな)。それが彼女の名前だそうだ。

 以前は、おしゃべりではないものの、笑顔の素敵な少女だったらしいが、最近は全く元気が無く、笑顔も見せなくなったそうだ。その原因は少し前に、仲の良かった姉が亡くなったからだという。

 それからは何度も影鬼にわざと襲われて、自殺未遂を繰り返したそうだ。やがて業を煮やした拓士がこう言い放ったらしい。


 ―――次に同じことをしたら、もう見捨てるからな


 一週間前の、生徒たちの会話が脳裏に浮かぶ。

 この世界では、高い場所から飛び降りたり、首を吊ったりしても、死ねない可能性の方が遥かに高い。命の管理人である神々が、その人物の余命がある限り、何度でも生き返らせることが出来るからだ。

 だが、影鬼に捕食されたら、どれ程余命があろうと関係なく死に、人々の記憶から消える。おそらく、それが彼女の望みなのだ。


 そんな事を考えていた時、結羽から少し離れたところに、うつむき気味の少女がいた。茶髪の後ろ姿は、見覚えがあった。佳奈だ。

 その時、佳奈の影が円状に変わり、影世界に引き込まれそうになる。彼女は全く抵抗せず、影の中に沈んでいく。

 佳奈が完全に引き込まれた直後、走ってきた結羽も影世界に入った。


 影世界に降り立った結羽は双剣を召喚して、先に来たはずの佳奈を探す。すると、背後から妙に甘ったるい声が聞こえてきた。

「―――あらあら。美味しそうな人間と一緒に、邪魔な影闘士まで来てしまったわ」

 振り返ると、そこには若い女がいた。ツインテールにした桃色の髪。赤と黒のチェックのワンピース。そして、血の様に真っ赤な瞳。

「あなたは……」

 結羽は双剣を構えて、目の前にいる女に問う。女は冷笑を浮かべて答える。

「私の名前はザクロ。影操者ですわ。……まぁ、あなたのことは、すぐに殺して差し上げるから、覚える必要は無いと思うけど」

 その時、結羽の後ろから、今にも消えそうなか細い声が聞こえてきた。

「何で来たんですか? ……私の事なんて放っておいて下さい」

 佳奈は空虚な瞳で続ける。

「私はただ……死にたいだけなのに……」

「なら、その願いを叶えて差し上げますわ」

 ザクロは佳奈に影鬼を差し向けた。影鬼は逃げようとしない佳奈の方に真っ直ぐに向かっていく。

「させない!」

 結羽は双剣でその影鬼を斬った。影鬼を殺されてもザクロは余裕の笑みを浮かべている。

「哀れな影闘士さん、死ぬ前に一つ教えてあげるわ。私の能力は“現実悪夢”。どんな能力かは……自分の体で知る事ね」


 ザクロが指をパチンと鳴らすと、結羽の目に映る世界が一瞬で変わった。

 影世界から、見たことのない真っ白な場所に。

 結羽はすぐに警戒する。これは幻だ。こんなものを見せて何をする気なのか。

 すると、誰かが結羽の横に並び立つ。

 その姿を見て、結羽は軽く瞠目した。

 父と母だ。

「―――これで最後の戦いだ、結羽」

 死ぬ前と同じ姿のまま、父と母は、自分と同じ真紅の双剣を構えて、結羽の方を見て微笑んでいる。

 結羽は父と母を黙って睨んでいていた。たとえどれほど姿が似ていようと、彼らは偽物で、ザクロが見せている幻に過ぎない。

 襲いかかってきたら、すぐに攻撃できるようにと、結羽は双剣を構え直す。

 その時、結羽たちの前に人の形をした何かが複数現れる。それらは陽炎のように時折揺れているが、気配はロベリアやザクロと似ている。

 幻の中で影操者と戦わせて、何をするつもりなのか。

 一触即発の空気の中、父と母は前方にいる影操者の方を向きながら。

「結羽……―――」

 そう言った直後、父と母の体をいくつもの刃が貫いていた。刃はすぐに消えて、血塗れの二人はその場に崩れ落ちる。その姿は以前、ロベリアに見せられた映像と酷似していた。

「お父さん! お母さん……!」

 幻とは分かっている。だが、無言でその様を見ていることは出来なかった。

 その瞬間、父と母を貫いたのと同じ刃が、結羽の腹部を貫いた。

「―――っ!」

 喉元からせり上がってきたものを口から吐き出して、そこに血だまりができる。血まみれで倒れている父と母が動くことはない。その場から動けない結羽の耳に聞こえてきたのは、知らない男の声だった。

「お前たちは、安心して眠りにつくがいい―――――」


 その瞬間、視界が暗転して影世界に戻っていた。

 結羽は腹部を押さえ、その場に座り込む。押さえている手は、血で真っ赤に染まっていた。父も母も幻だったが、傷だけは本物だ。これがザクロの能力か。

 悪夢で受けた傷を現実に反映する能力。彼女に悪夢の中で殺された者は、残りの寿命を一瞬で刈り取られる。

「あはははは! 朱い華を散らして、とっても綺麗だわ!」

 ザクロの哄笑が響く。

 そんな中、佳奈は恐怖で震えていた。彼女も遠くから、結羽の見ていた幻を見せられていたのだ。影闘士は、こんな相手と戦っていたのか。

 そして恐怖の中、佳奈はあることに気づいた。自分の大切な姉が死ぬ原因を作った出来事。それと今見せられたものが、よく似ていた。

 あの、繰り返される悪夢に。



次話は8月24日に投稿予定です。

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