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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第三部 リバーハイド・フルブレイカーズ
58/65

55,エンドレス・リアライザー


 県立美術館より間近にある広い河川敷、名は【伏熊ふクマ川】。その昔、現在の恵朱市内に生息していた山の如く巨大な熊が匍匐前進ほふくぜんしんをした跡に水が通ってできた川、なんて伝承のあるスピリチュアルな川である。

 そんな伏熊川、夜空に煌き始めた星々を映す水面を、幾重の波紋が駆け抜ける。


 それは、衝撃。


 川原にて、二つの拳が激突した衝撃が、空気を揺らし、水面をもざわめかせたッ!


「…………!!」

「ふん、怒りに任せた拳……若いな……別段、羨ましい、とは思わんが!!」


 黒衣(学ラン)の少年と白衣の中年、相反する属性を持った二人の男が、常人では見切れぬほどの速度で何度も拳と拳を突き合わせる。


 皿助とハイド博士だッ!!

 美術館前で戦って貴重な展示品に何かあっては不味いと言う事で合意し、近場の河川敷まで移動してきた皿助とハイド博士が、今、ガチンコのステゴロで殴り合っている!!


 皿助は既に狂静怒クルセイド状態、激情を乗せた……最悪殺す事すら止む無しと言う拳!!

 対してハイド博士も同じく、悪魔駆逐の障害はすべからく駆逐されるべきと言う歪んだ信念に駆られる冷徹な殺意の拳!!


 互角ッ……全くの互角で、乱打戦が続いていた!!


 実はハイド博士、燥軋家……即ち美川家傘下の家系の者として、美川流総合武術……【波動】を修めているのである。

 本家の血筋でもなく、特別な才覚も無かったため、皿助の兄姉の様な人外めいた波動を操れる訳ではないが……しかして年の功は波動の効とも言う!!

 皿助とハイド博士、その年齢差は実に二〇近く……ハイド博士に与えられたアバウト二〇年のアドバンテージは、本家出身であり才覚ある皿助相手と言えど、波動差を埋めるには充分なのである!!


「ひぇー……もう拳の残像しか見えんガミ……」

「ベーキチー、がんばれー、クマー」


 傍から見れば、ただの熾烈な殴り合い。例えるならば猫パンチのボクシングか。

 ……しかし、それはあくまで素人的一般人の視点に立った場合の話。

 実はお互い、使える限りの波動を纏った、全霊の波動疾走オーバードライブの乱打戦……そう、実際の所を例えるならば、カンガルーのバーリトゥード状態なのだ!!


「……波動の技量では私に一日程度の長が僅かながらある様だが、教鞭を取ってからの体力低下は予想以上か……体力勝負では私が劣る様だ」


 激しい乱打戦の最中にあっても、ハイド博士は冷静に戦況を分析する。若くしての大学教授は伊達ではない。


 そしてその分析通り、徐々に体力面の差が出始めた。

 皿助の拳が一閃、ハイド博士の迎撃の拳を躱し、博士の頬を掠めたのである。


 ハイド博士の頬に、一文字の浅い裂傷が走るッ!!


「チッ……シェアア!!」

「!!」


 ハイド博士、短い雄叫びと共に足を高く振り上げ、そして地面に叩き突ける様に振り下ろした!!

 さながら、力士の四股ッ!! ただでさえ神聖なる四股の動作に、破壊力を強化する【豪鋼破断の(アイアンガイスト・)波動疾走オーバードライブ】を纏わせたその一動作は……もはや一撃ッ!!

 ハイド博士が踏み付けた地面が、まるで地雷が炸裂したかの様にドッパァンと爆ぜたッ!!


 土が目に入っては不味い、と皿助は両腕を前面に出して全力でぶん回す。

 腕の高速移動で竜巻を起こして盾とする防御用の波動【円皿状の(ディッシュリング・)波動疾走オーバードライブ】だ!!

 爆ぜ飛んだ土や草葉を、竜巻の盾で四方へと薙ぎ払う。


「!」


 土と草葉の幕が取り除かれると――既に、ハイド博士は遥か後方へと距離を取っていた。


 これは少々、皿助予想外。

 てっきり、ハイド博士は次の一撃のために目潰し、最低でも目隠しとして今の技を放ったと構えていたのだが……


「どうやら、このまま殴り合っていても私に勝目は無さそうだ。素直に認めよう。妙な意地や尊厳に拘泥しない冷静な現状把握は合理的だと考える。そして勝目が無い土俵で立ち回り続けるなんて非合理、私は容認できない」


 そう言って、ハイド博士が白衣のポケットから取り出したのは――サクラ色の、指輪ッ!!


「あ、あいつ殺尽機ジ・キルを使う気クマ」

「そうとも。未完成……調整の甘い品を使うのは一抹の不安もあるが……私は君を強敵とみなし、その排除を最優先事項とした。ここは手っ取り早くいかせてもらう」


 構わん、ならばこちらも、と皿助もDAIカッパーの起動トリガーとなる赤銅のメダルを取り出す。


「ふッ……悠長に構えるじゃあないか。止めなくて良いのか? 私にこれを使わせれば、その時点で君は【死ぬ】。つまり私に【殺される】。これはほんのちょっぴりの良心からくる警告だが……後悔する事になるぞ」

「……俺は未熟者だが美川の者だ。この血を誇る。どれだけ冷静さを欠いても、礼節を欠く訳にはいかない」

「そうか。大仰な血統持ちと言うのも大変だな。才覚や権力と引換に、非合理的しがらみに束縛される……哀れもう、その魂の在り方を。そして、せめてもの救済を、ここに。祝福しよう。歓喜せよ、君は今宵、血統の呪縛から解き放たれる。君の魂は壊れ、砕け、腐敗し、やがて消滅す(解放され)るだろう」


 ハイド博士が、右手中指に桜色の指輪を嵌めた。

 そして、静かにつぶやく。殺尽機ジ・キル起動のための言霊キーワードを。


「――永遠より持続する無限の輪廻流転、瞬く間に繰り返される終焉おわり起始はじまりの連続。夜闇は陽に切り裂かれ、またとばりを下ろす。覆水は盆へと返り、また溢れ落ちる。枯れ花は頭をもたげて、また朽ち果てる。我がに掴む万象これ全て廻り廻り、擦り切れ失せるまで止まる事は無い」


 星の光を受けて煌く指輪が、天高く掲げられる。


めぐり殺せ」



   ◆



「…………?」


 不思議な事が、起きた。


 いつの間にか、皿助は――素っ裸になっていたのである。


「なッ……!?」


 慌てて自らの身体をくまなく観察するも、やはり一糸も纏ってはいない!!

 お気に入りの学ランも、ズボンも、下に付けていたシャツもトランクスタイプのおパンティーも、靴下すらも!!

 ああ、手に持っていた赤銅のメダルも無い!!


 皿助は今、生まれたまんまの姿で、逸物をぶらりぶらぶらとさせてしまっている!!


「ぃ、一体何が起きて……いや、待て……まず……ここは、何処だ……!?」


 ふと辺りを見渡せば――ここはまるで、銀河の中心だ。

 無数に煌く綺羅星に三六〇度包囲された黒い海、目には見えない床の上に、裸の皿助は立っている。


「まるで……床にまで液晶を仕込んだ近代プラネタリウムに裸で放り込まれた気分だ……」


 先程まで、学ランを着て夜空を仰ぐ河川敷にいたはずだのに……


「! そうだ、クーたんも、ガッさんも……ハイド博士も、何処に……!?」

『対象思念体摘出、完了。仮想体構築、完了。因果律遮断、完了。空間固定、完了。時流隔絶、完了。仮想空間安定化…………完了』

「!!」


 突如、謎のプラネタリウムめいた空間に、ハイド博士の声が響く。


『……現実空間領域、川底付近にて巨大な次元断層を発見。謎の異常数値を確認。本機の高度時空干渉による影響と見られるが、具体的要因特定不可能。不可解な現象である。何か巨大な高次元生物でも眠っているのか……? しかしてこの程度の異常発生は想定内、対応は可能。出力を低下させて対処――異常数値減退……減退……正常化を確認。問題無し』

「その声……ハイド博士か!? 一体……俺に何をした!? そして先程から、一体何を言っている!?」

『ああ、失礼した。何しろ、この機体は今回が初の運用でね……少々、即応調整に手間取ってしまった』


 率直な謝罪の後、プラネタリウム的空間に、変化が訪れる。


「……これは……桜の、花弁……?」


 何処からともなく、星の海に踊り始めた優雅な桜吹雪。

 ひらひらと舞うそれは、突如として逆巻き、ある形を形成した。


「――なッ――」


 それは、裸の皿助を高みから見下ろす、巨大な機動兵器。

 大まかなシルエットとして、上半身はよくある人型だが、脚が無く、腰部から一本の長い刺が――まるで、釣り合い人形――弥次郎兵衛やじろべえの様だ。

 側頭部には、羊の角の様に捻れ曲がった角が左右一本ずつ、合計二本。


「それが……お前の殺尽機ジ・キルか……!?」

『ああ、これが悪魔駆逐の最終兵器、殺尽機ジ・キルの終着点……』


 弥次郎兵衛めいた機体の背面から、ゆっくりと何かが伸びていく。

 それは……茶色く太い……木の幹だ。二方向へと広がっていく木の幹はやがて細い枝を周囲へと拡散。

 そして、枝と枝の間に膜を張る様に、桜色のビームウイングが展開された。


 その開翼した姿は、まるで、背中に二本の桜の木を背負った天使――いや、側頭部を穿つ捻れ角からして――悪魔の如く。


輪殺特化型エンドロスオーバーエンド殺尽機ジ・キル臨峰リンネ天殺征桜テンセイオー】』

「エンドロス……オーバー……エンド……その機体が、この空間を作り出し、俺の服を脱がせたのか!?」

『ふん……この機体のスペックは、説明するよりも、実際に体感した方が早いだろう』


 そう言って、ハイド博士の殺尽機ジ・キル、テンセイオーが桜の翼を振るう。

 すると、一瞬にして、その巨体は皿助の眼前へ。


「なッ――」

まずは(・・・)、さよう……ならだ!!』


 皿助は咄嗟に波動で防御を――


「ッ、波動が……練れない……!?」


 不可解ッ!! 皿助の素っ裸な身体は、何故か波動を全く使えなくなっていた。

 だが、そんな皿助の都合など、ハイド博士が待つ訳も無し。


 テンセイオーの鋭い桜色の爪が、皿助へと突き刺さる。


「ごッ、ぁ、あ」


 三〇メートル級の機動兵器からすれば、身長二メートルに届くかどうかの皿助なぞ、掌で踊る小動物。

 その爪先は皿助の腹を抉り、やがて全身を磨り潰す。

 まるで人がプチトマトを指圧で潰すかの様に、皿助は赤い汁と無数の断片へと変貌した――



   ◆



 不思議な事が起こった。


「……!?」


 今、確かに、皿助はテンセイオーによって巨大な爪を突き立てられ、磨り潰されたはずだ。そのはずだった。


 しかし、皿助は今、また、プラネタリウム的空間に、裸で立っている。

 その腹には、先程の傷の痕跡など存在しない――身体の何処にも、血の一滴たりとも、付着していない。

 腹から押し上げられ、口や鼻から吹き出した血や胃液の匂いも味も、しない。


「ば、馬鹿な……!? 俺は、今、確かに……!?」


 テンセイオーによって、殺された――はずだった。

 痛みも、確かにあった。

 筆舌に尽くし難い激痛だ。脳が覚えている。とても、とても痛かった。

 過去に何度も経験した、身を深く裂かれる激痛――幻覚などではなく、確かに感じだ。


そして(・・・)、おはよう。美川皿助。どうやら、テンセイオーは正しく機能している様だ』

「……ッ……どう言う、事だ!?」

『実際に体験した事で、理解しやすくなっただろう。では、説明する。このリンネ・テンセイオーのスペックをな』


 ハイド博士のテンションは、己が発明品を世間へ向けどや顔で公表する科学者のそれ。


『テンセイオーの能力は、対象の意識をテンセイオーが支配する【作為的亜空間】、【特異的思念流積空間ユニーク・イマジネーション・バース】へと【イメージ拉致】する事にある』

「ゆ、ユニーク・イマジネーション・バース……だと……!? 何だそれは!?」

『それはテンセイオーが全てに置いて最優位に君臨する一種の別世界であり、現実世界とは空間座標も時流も次元も完全に隔絶されている空間だ。つまり、ここだ。この宇宙めいた世界の事だ』


 このプラネタリウム的空間の事か!!


『テンセイオーは、この固有空間に対象者の思念体を引きずり込み、仮想イメージの肉体を与える。だが、所詮はただのイメージでしかない。実体は無く、いくらそのイメージ体を破壊した所で、現実には何の影響も及ぼせないだろう。今の君のその身体は、ただ君の思考と痛覚を宿しただけの幻影に過ぎない』

「感覚と思考だけを宿した幻影――……!! ま、まさか……!!」

『ふッ……今の説明だけで、大体は察した様だな。君の様に勘の良いガキは、嫌いではないよ』

「そんな……そんな、悍ましい事を……よくも考えつく……!!」


 感覚と思考だけを持った、死なない身体……いや、何度死んでもリセットされる身体。

 それはつまり、痛みと言う感覚と、痛みにかき乱される思考を何度味わおうと、決して壊れる事の無い身体。

 何度無惨に切り裂かれ様と、踏み潰され様と、この空間に置いて、皿助は死なない。生き続ける……いや、死に続ける。


 死の苦痛と恐怖が、永遠に続く――いや、永遠よりも持続する。


 テンセイオーが、現実世界に及ぼせる影響などない。

 だがしかし、殊この空間に置いて、テンセイオーは殺し続ける、生かし続ける。そしてまた殺し続ける。


 敵と見なした者の精神を、魂を、無限に磨り潰し続ける。

 肉体に一切危害を加える事なく、魂だけを殺し尽くす兵器――それが輪殺特化型エンドロスオーバーエンド殺尽機ジ・キル臨峰リンネ天殺征桜テンセイオー!!


 魂を砕かれた者が、現実の実体の戻された所でどうなるか――想像に難くはない……!!

 それは実質、現実の死と同義……!!


『今はまだ、君ひとり引き込むだけでも計器があちこちレッドゾーンだが……いずれ完成した暁には、この人間界に暮らす全ての生命をこの空間に引き込める様になるだろう。そしたら、選別だ。悪魔を、悪魔だけを選んで皆殺しにする……皆殺しにし続ける!! そして悪魔の駆逐は成就される……!! 世界中の弟達を、この私が救済するゥゥゥ!!』

「……掲げる主張も、そしてそれを為すための手法も、かなり【悪役】めいているな……!!」

『悪? ……ああ確かにな。今の所、私は【悪の科学者】と言われても妥当だろう。間違っている、と批難される事も致し方ない。だから君の様な敵対者の存在にも納得し、戦っている』

「……は……?」

『事情はどれだけ大義に満ちてい様と、殺戮は、今の所、法に触れる行為である事には間違い無い。そこは勿論、承知しているとも』

「何故、それを理解した上で……」

『だが、それはやがて世界の正義になるさ』

「なッ……」

『先にも言った。このテンセイオーが完成した暁には、世界中の全ての生命を私はこの空間へイメージ拉致できる。私は実質、この世界の覇者になるだろう。法など、その後で変えてしまえば良い。変えさせてしまえば良い』

「正気で、言っているのか……?」


 それは、悪魔の駆逐を大義とするために、この世界を征服すると言っている様なものだ。


『いつの時代もそうだ。勝者が世界を歪め、己に肯定的世界を生み出す。正義とは勝者!! そして、悪とは敗者の事だ!! テンセイオーは、私の正義を世界の正義へと置換する装置でもあるのだ!! くはは、くははははははは!!』

「…………………………」

『……おや? 何だ、その反応は』


 皿助は、驚愕するでもなく、畏怖するでもなく、ただひとつ、呆れた様な溜息を零した。


「見下げ果てたぞ。ハイド博士。まさか、そんな【半端な意思】で事に臨んでいたとはな……お前は、天跨テンコ以下の下衆者だ」

『何だと?』

「敗者が【悪】、それじゃあやはりお前の事じゃあないかァーッ……と、叫んでも良い所だが……俺はその理論ロジック、明確に否定する」

『ほう……理由を述べてみろ』

「簡単な話だ。負けた方が悪…つまり勝った方が正義? 違う。間違っているぞ。己の掲げる正義を信じる者は、絶対に倒れない。だから負けない。勝つ。【勝った方が正しい】ではない……【正しきを成さんとする者だからこそ勝つ事ができる】んだ!!」

『!!』

「お前は言ったな……自分は法に触れていると。悪と言われても、間違っていると批難されても仕方が無い、と」


 それはつまり、


「今のお前には、お前自身ですら弛み無く信じ抜ける【正義】が無い!! お前が謳う正義は、お前自身ですら今は不完全だと思っている歪なモノだ!! 即ち今のお前は、己の主張を正義としてどうにか取り繕おうとしている、醜悪でしかないッ!!」


 今まで皿助は、何度も下衆と呼べる相手と戦って来た。

 その誰もが、下衆なりに、自分の中に正義を持っていた。自分が間違っているなどとは思わず、法に触れているのならば法の方を否定し、躊躇いなく前進する者達だった。


 しかし、ハイド博士はどうだ。

 今、自分は間違っているかも知れない。世間的には正義とは言い難いかも知れない。でも、その内、正義にしてやるさ。法に触れているのなら、後でどうにか法の方に融通を効かせてもらうよ。


 なんと軟弱、なんと半端!!


 ああ、思い返せば確かに、ハイド博士は戦い始める前から「どれだけの批難を浴びようと」なんぞと言っていた。

 あれは例え話による意思の硬さアピールではなく、「実際にそうなるだろう」と言う認識の上での言葉だったらしい。


 つまり最初からこの男は、自分の掲げる正義の紛い物が正しいだなんて、思っちゃいなかった。

 ただ「これはいずれ正義として認められるから、大丈夫だ」などと、そんなヤワな気持ちで動いていたんだ。


 己の中に明確化された正しさや筋を持たず、世間的な正悪の物差しを基準とし、それにすら反していると自覚していた。

 その内、いつか、明日から、きっと正しくなるから……などと宣い、漫然と行動に移す……そんな生半可な覚悟で、心意気で、事を為そうとしていたなど、言語道断甚だしい!!


「俺は今、俺が為そうとしている事を肯定する!! 俺が俺として正しくあるための道を進んでいると、誰にも恥じずにいられる結果を招くための行動であると!! 胸を張り、大地を踏みつけ、声高らかに宣言しよう!!」


 それが、正義を為す者に必要な覚悟と意思と、自信だ。


 そうは言っても人間、結果として間違う事はあるだろう。

 だが、最初から間違うつもりで間違えるなど、真っ当な所業であるものか!!


 自分は完璧超人ではない。ミスも失敗もする。

 それでも成功だってする。正しいと思った事をまさしく正しく為し切る事もある。

 だから皿助は、正しいと思った事が正しく為される様に全力で努めるのだ!!


 自分の正義を絶対と考えるのは傲慢だろう。

 だがしかし、自分の正義を信じられぬはただの卑屈!!


 正義は絶対無二では無い。

 正義は無数数多に存在する。

 その無数の内のひとつに数えられるのが自分の正義だと、皿助は自信を持っている!!


 正義と正義と衝突なら、勝敗はわからなかっただろう。

 鳴子との戦いの時の様に、ほんの少しの要因で勝敗が傾く事も有り得ただろう。


 だが今は、そうではない。


「覚悟してかかって来るが良い、【悪の科学者】。正義を持たず、敗けるべくして敗ける者よ!! お前の目の前にいるのは正真正銘、己の正義を信じて疑わぬ【勝つべくして勝つ者】だ!!」


 素っ裸な事など気にもとめず、皿助は胸を張り、大地を踏みつけ、声高らかに宣言する。


「自己の主張にすら否定的な敗者おまえが、この勝者おれに、勝てるものかッ!!」

『……ああそうかい。じゃあ、勝ってみろ、正義のヒィィィロォォォオオオオオ!!』

「当然だ!! 言われずとも勝ごぉはァァァッ!!」


 こうして、テンセイオーによる皿助殺害ループが始まった。


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