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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第三部 リバーハイド・フルブレイカーズ
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56,エンドレス・ブレイカー


 私がまだ僕だった頃。


 僕は、勉強でも、運動でも、ささいな遊戯ひとつ取っても、姉さんに勝つ事ができなかった。

 歳はほとんど変わらない。自由な時間の長さも、学校に行っている時間も大差無い。

 一緒にいる時間だって、とても長かった。


 だのに、何故か僕は全く、姉さんに勝つ事ができなかった。


「単純な話よ。ハイドとあたしじゃ、努力の質が違うもの」

「努力の、質……?」


 今思えば、ランドセルを背負っている身分とは思えぬ偉そうな口調で、姉さんは語った。


「あたしはね、自分の努力を、自分の行為を、必ず身になると信じている。楽しい未来に繋がる【正しい事】だと信じてやっている。ハイドは違うでしょ? 目を見ればわかる。ハイドは、仕方無く、合理的な事を選択しているだけ」


 ――それの、何がいけないと言うんだろう。

 勉強も運動も、趣味嗜好・息抜きの仕方ひとつに至るまで、全部、生きていくために必要な事だからやっているんだ。

 正しいか悪いかなんて、考えた事は無い。

 そうするのが一番合理的だから、そうする様に努力しているんだ。


「ちょっと不安だわ。あんたが、いざ正しい事をしようとした時、本当にそれが正しいかどうかを判断できるのか」

「理詰めで考えれば、大丈夫でしょ?」

「馬鹿ね。人間には心があるのよ。望む望まないに関わらず、感情を抱いてしまう。理詰めだけ極めてれば良いなんて、そんな簡単な生き物じゃあないのよ。人間様は。自覚を持ちなさい」

「ふぅん……そんなものかなぁ……」

「……今のあんたみたいに理詰めだけで生きて、感情の手綱の握り方がおざなりなまま大人になってしまったら……きっと、大変な事になる」

「……僕が、感情に流されて暴走するって? 冗談」


 激情なんて、理性の欠如、理性の脆弱性が招く精神的欠陥だ。

 僕には縁遠い話だ。僕は、何時如何なる時だって、理知的に、クレバーな判断をくだせる。

 例え激情を抱いたって、すぐに理性を以てなだめてみせる。


「ねぇ、ハイド。考えてみて。そして、思ってみて。もし、人間が理詰めだけでどうにでもなる生き物なら、【考える】だけで良いじゃない。【思う】なんて機能は、何のためにあるの?」

「……………………同種同士での闘争を緩和するため、じゃあないかな。相手を思いやると言う機能によって、必要以上の危害を加える事への抵抗が湧くものだし。社会性を獲得するためにも大いに役立っている機能だね」

「……ハイド。まだわからないのなら、それはもうそれでいい。でも【思う】と言う機能を、絶対に錆びつかせちゃダメだからね?」

「まぁ、うん。わかった。前向きに努力するよ」


 他でも無い、尊敬する姉さんの言う事だ。

 できる範囲で、合理的に、努めていこう。


「ところで姉さん、僕、最近姉さんを見ているとこう……ちんちんが熱くなるんだけど、これ、病院に行った方が良いのかな」

「…………ハイド、今日からお風呂は別々に入ろうか」



   ◆



 ――何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ!!


 殺した、殺した、殺したはずだ!!


 磨り潰して殺した!!

 引き裂いて殺した!!

 押し潰して殺した!!

 花弁を喉に詰まらせて殺した!!

 四肢をもいでから殺した!!

 両目を潰してから嬲って殺した!!

 超高度から叩き落として殺した!!

 脚を掴んで振り回し仮想臓器を破裂させて殺した!!


 何度も何度も何度も何度も繰り返し繰り返し繰り返し殺し続けたはずだ!!


『……何でだ……何で……もう四四四回目だぞ……!? 何故、四四四回も一方的に残虐にくびり殺されて尚、そんな目ができる!? 何故心が折れていない!? 何故平服して許しを請わない!? 何故倒れない!?』

「ッぁ、はぁ、はぁ……!! 言った、はずだ……!! 己の正義を信じる者は……絶対に……倒れない……!!」

『ッ、う、き、君は……貴様は……貴様ァァァ!!』

「がふッ……」


 また殺した、殺したはずだ。

 もう、四四五回目のリセット。

 だのに……


「……どうした。随分と、具合が悪そうに肩が揺れているぞ。雄々しい機動兵器が形無しだな」

『ぐッ……!?』


 何故……何故このガキは、リセットの度に堂々と全裸の仁王立ちを晒せる……!?

 その目も、その立ち振る舞いにも、微塵の恐怖も感じられない……!?


 私は、テンセイオーはこの空間の支配者だ……!!

 この空間にいる限り、抗い様が無い事は重々わかっているはずだ……!!

 だのに、何故……!!


『その目を……その目をやめろ!!』

「ッ、ぬぅお!!」


 何故、まだ私の攻撃を躱そうと言う意思を持てる!?


「はァァ!!」

『!!』

「……チッ、やはり全力で殴った所で全く効いている様子が無いな……!」


 何故、この期に及んで、テンセイオーに反撃をする気概がある!?

 そんな小さな拳で殴った所で何になる!?

 一糸どころか波動すら纏わぬその裸の拳でどうして抗えると考える!?

 そもそも、テンセイオーはこの空間の絶対的支配者だ!!

 貴様が波動を纏えた所で、この装甲に傷一つ付けられない事は分かりきっているはずだろうが!?


『煩わしいぞ……!!』


 テンセイオーの桜の翼、その骨組みになっている枝を、無数に射出する。


「づ、ぐあ、ァ……!!」


 命中だ、三本。

 右足を吹き飛ばし、脇腹を貫き、頭蓋も大きく削り取った。


「ぎ、ぐ、ぉ……なん、の……!!」

『ひッ……は、這いずるな!!』


 爪で、磨り潰す。


 リセット。

 これで四四六回目。


 ――また、まただ。


 また、仁王立ちした全裸のガキが……私を、不敵に見据えている……!!


『くッ……クソッ!! クソクソクソォ!! 私は一体あと何回貴様を殺せばいい!? あとどれだけ殺せば良い!? 答えろ貴様ッ!! 答えろテンセイオー!!』

機械テンセイオーは答えてはくれないだろう。なので、俺が答えてやる。お前はひとつ、ミスを犯した。それは致命的な失敗だ」

『ミス、失敗、だと……!?』


 有り得ない話だ……確かに危ういバランスではあるが、ここまで、テンセイオーは正常に制御されていたはずだ!!


「それは、得意になってテンセイオーの能力を詳らかに俺へ教えた事だ」

『……それが……それの何処が、失敗だ。テンセイオーの能力を知った所で、貴様には絶望しか残らないはず……』

「希望が残った」

『……は……?』

「この空間で何度死のうと、現実の俺には一切影響が無い。この空間では、俺の心が折れない限り、俺自身が死の恐怖に打ち負かされて精神を閉ざさない限り、俺は、絶対に死なない」

『き、貴様は、一体、何を言っている……!?』


 り、理解が、できない。

 確かに、それは説明した。

 ここで何度死のうと、現実で死ぬ事は無い。

 ここは魂を、精神だけを殺す世界……しかし、痛覚と思考は、現実と等しく感じているはずだ……!!

 

 皮を裂かれる痛み、肉を穿たれる痛み、骨を砕かれる痛みを、貴様はしっかりと感じているはずだ!!

 リセットの度に仮想神経系も一新されるから痛みに慣れると言う事も無い!!

 常に新鮮な死を、体験し続けているはずだ!!


 数時間の一般的拷問で壊れる様な人間の精神が、果てしなく繰り返される死の苦痛に耐えられるものか!!


「死の痛みを恐れて逃げ出せば、現実でも屍同然となる。しかして、足掻き続けていれば死なないと言うのならば、足掻き続けるだけだ。足掻くのは得意なんだ。――もしこの事を知らなければ、俺はきっと、『これだけの死を体験しては、現実世界にも影響が出ているのでは……? ここでどれだけ足掻いても無駄なのか……?』と疑心暗鬼に陥り、もしかしたら、万が一の話だが、諦めてしまう可能性も微粒子レベルで存在していた。お前の説明が、その憂いを断ってくれた」

『なッ……!?』

「俺がすべき事はシンプル。お前がこの空間を解除するまで、生き続けるだけだ。だが、ただダラダラと生き続けるのは性分では無い。可能性を模索して、こう拳を握っている。理解できたか? さて、前置きはこれくらいにしてさっきの質問に答えてやろう。あとどれだけ俺を殺せば良いか、だったか?」


 このガキは……このバケモノは、一体――


「永遠よりもずっと長くだ。――何故なら、俺がこの空間で生を諦める事は、永遠に無いからな」

『何故……何故そんなに耐えられるんだァァァーーーー!?』


 理解不能!! 理解不能!!

 人間が、人間の精神が、この永遠よりも続く死に耐えられるはずがない!!

 そう言う設計なんだ、このテンセイオーは!!

 テンセイオーに殺せない生命なんて、存在するはずが……


「何故か? 決まっている。俺は常に自分の選択を【正しい事】だと信じている」


 ッ、そ、の、言葉、は……!!


「耐えて、耐えて、生き続ける事。それがきっと、正しいと、俺が辿り着きたい未来に繋がっていると信じている。そう思う。だから、耐えられる」

『ぎ、……き、貴様は、貴様はァァ……無様に怯え「俺にそばに近寄るなアアーーーッ」と叫んでいれば良いんだァァァ!! ちくしょう!! ちくしょう死ね!! 死ねよ!! 早く死ねよぉぉぉおおお!!』


 磨り潰す、磨り潰す、滅茶苦茶に、滅茶苦茶に……!!


『死ねェ!! 死ねェェ!! 私に負けて死ねェェェ!!』

「…………死ん……でも……負けない……さ……」

『ひっ……』


 う、ぅそ、だ……!

 そんぁ、そんな……グチャグチャに歪んだ指で、どうしてテンセイオーの爪を掴む事ができる……!?


「……? ほ、ら……どう…した……? 手…が止まって、震えて…いるぞ……」

『あ、あぁああ、う、ああああ……!!』


 ッ………………ぃ、今、私は何をした……?

 ひ、退いた……? 情けない狼狽をしながら、後ずさりをしたのか……?

 この空間の支配者である、テンセイオーが……!?


「情けない……ザマ……だ、な……俺に、挑む、な、ら……覚悟を、決めろと……言った、はず、だ……!」

『ッ――』


 血を滴らせながら、もげかけの右足と、腹から飛び出した臓物ハラワタを引き摺りながら、何故、立ち上がれる?


「さぁ……覚悟を以て……俺に……挑んで、みろ……悪の科学者ァァァ……!!」

『や、やめろ…来るな…』


 ――ああ、ここは現実世界とは完全に隔離された空間。

 ここでは、どんな生命体も死ぬ事は無い。故に、テンセイオーは何度も対象を殺す事ができる。終わりがないのが終わり。

 直接の肉体的殺害ではなく、精神的殺害による結果、肉体的殺害を目的とした世界。


 逆に言えば、対象は何度殺されても、精神的に死なない限りは、絶対に死なない世界。

 その意思が続く限り、永遠に、終わり無く立ち上がり続ける。


 心が折れない限り、この亡者は終わらない。

 そして、終わらない限り、この亡者の心は折れない。


 折れなきゃあ終わらないのに、終わらなきゃあ折れない。

 脱出不可能な無限ループ。


 いくら殺し続けても、終わらない。

 永遠に殺し続けさせられる。


 ――私は、このバケモノを無限の死へと誘ったはずだった。


 しかし逆だった。


 無限に廻る地獄へと引きずり込まれたのは――私の方だったんだ。


『来るんじゃあ……ない……!! わ……私のそばに近寄るなアアーーーッ!!』



   ◆



「……!」


 皿助の手に握り締められていたのは、赤銅のメダル。


「ベーキチ、何をぼーっとしてるクマ?」

「そうガミ!! 前を見るガミ!! 敵はもう殺尽機ジ・キルを起動しているガミよ!!」

「クーたん、ガッさん!!」


 クマリエスにガミジン……間違い無い。

 そして、皿助は学ランを身に纏い、その手には赤銅のメダルを構えている。

 ここは、伏熊川の河川敷だ!!


 相対するのは……最早見慣れたもの、桜の翼を広げたリンネ・テンセイオー。

 肩を上下に揺らし、明らかに畏怖の感情を皿助へと向けている。


「ふむ……思っていたより、早く心が折れた様だな。ハイド博士……いや、悪の科学者」

『ぐッ、き、貴様……!!』

「所詮、そんなモノだ。悪党の気概など」


 歪んだ正義の元では、信念も何も立ち行かない。

 永遠に敵を屠り続ける、果てしない殺戮行為を強制されると言うストレスにも、当然耐え切れはしない。


「……さぁ、新たに覚悟を決めろ、悪の科学者!! 俺に挑む覚悟改め、俺に敗れる覚悟をな!!」


 いざ、久方ぶりのお披露目である!! お待たせ!!


 皿助は赤銅メダルの首掛用布紐ネックストラップを首にかける。


「俺の意思に応えろ、【DAI(ダイ)カッパー】!!」


 にっこりと笑顔を浮かべて、赤銅のメダルを一齧り!!

 直後、メダルが粉々に砕け散り、赤銅の粉塵へ!!


 赤銅の粉塵は皿助の額にこびり付き、円の中に収まった五芒星を形成!!

 その【魔法陣】を起点として、皿助の全身に、素敵なパワーが迸る!!


「今!! 全力全霊を以て、ハイド博士の歪んだ正義を、醜悪な意気を、打ち砕くッ!!」


 皿助の額の五芒星が煌き、赤銅の光で形成された無数のカブトムシ達を放出!!

 無数のカブトムシ達は統率された動きで渦を描き、その渦中に皿助を取り込む!!

 そして、赤銅カブトムシの渦が、轟音と共に拡散する!!


 顕現したるは赤銅に輝く極厚装甲を纏った巨人。額を穿つのは天をも砕かんとするカブトムシの角めいた形状の雄々しい一本角!!

 胸部中心と両腕の前腕部には怪しく輝く紅い宝玉!!


 久々の登場!!

 変態戦闘と言うコンセプトを元に、変態昆虫であるカブトムシの意匠を施された悪魔的機動兵器【魔機鞍マギア】。

 より正確に言うならば、多目的戦闘対応型マルチマッチタイプ魔機鞍マギア最新試験機プロットテスター!!


 DEMONS(デーモンズ)ASSAULT(アサルト)INVENTION(インヴェンシャン)COPPER(カッパー)!!

 意は【悪魔的力を以て敵を討つために生み出された赤銅色の機兵】!!


 魔動紅銅機兵まどうこうどうきへいDAI(ダイ)カッパー】!!

 その豪力特化近接戦闘形態、DAIカッパー1【レヴィルアタン】!!


『クソ……クソクソクソ!! 魔機鞍マギア……忌々しい悪魔の力ァァァ!!』


 テンセイオーが桜の翼を振るい、高速機動でDAIカッパー1へと襲いかかる。


『遅い!!』


 しかし、DAIカッパー1はあっさりとその高速機動を見切り、テンセイオーの顔面に張り手を一発!!


『が、ふぅ……!?』


 クリーンヒット!!

 テンセイオーの顔面を覆っていた桜色の装甲が一気に砕け散る!!


『最早、お前には拳を使うまでもない!! お前へ向かう感情は、怒りから呆れへと変わり果てた!! 平常運転でキメさせてもらうぞ!!』

『な、何故、だ……!! 何故、私の考えが……わからない……!? そも、そもだ!! 何故、異種とそんなにも仲良くしたがる……!? 仲良くする必要がある!? 住む世界が違う! パラダイムが違う! 共にいる事は苦労も多いだろう! だのに何故わざわざ……わざわざァァァーーーッ!!』


 半狂乱めいたハイド博士の問いかけに、皿助は「愚問だな」と小さくつぶやいた。


『その愚問に答える必要性こそ存在しない。だが、ひとつ訂正しておくぞ。俺は、例えクーたんが人間だろうが妖怪だろうが悪魔だろうが、種に関係無く友達になっていた自信があるッ!! 異種とわざわざ友達になっている訳では無いッ!! 友達になりたいと思った相手がたまたま異種だったに過ぎないッ!!』

『!!』

『確かに、種の隔たりによる弊害を味わい、死にかけた覚えはある!! 同種同士の付き合いより、苦労は少なからず多い!! だからなんだ、それがなんだ!? それでも、友達と一緒にいたいに決まっているだろうが!!』

『ぐ……その感性が理解できんと言っているんだァァァーーッ!! 平行線か、この議論はァァッ!!』

『そうだろうな……だからお前は、お前の姉の【本質】も理解できない……いや、気付いてすらいない!!』

『な、なにィ!?』

『最初に【説教をする事がある】と伝えたな……お前を完璧に捩じ伏せてからにするつもりだったが、良いだろう。先に言ってやる!!』


 テンセイオーの胸ぐら、装甲の出っ張りを凄まじい握力で掴み上げ、DAIカッパー1、皿助は続ける。


『よく聞け!! お前の姉はな、惚れた相手がたまたま悪魔で、たまたま同性愛者だった!! だがそれでも愛し、愛されたいと【思った】!! だからお前の姉は兄になる道を選んだのだろう!? お前の姉は、その悪魔と共に在る為に【性別を変える】と言う努力を厭わなかった、その努力をする事が【正しい事】だと確信できるだけの、情熱があったんだ!!』

『ぁの美貌を捨ててまで、何故悪魔を、異種と愛し合う必要があるんだァァァァァ!!』

『そこが間違っていると言っているんだ!! 確かに、【異種と愛し合う必要】など、何処にも無い!! そうだ、そんなもの【在る必要が無い】のだから!!』

『!?』

『お前の姉は、相手が悪魔でなく人間の同性愛者だったとしても、同じ道を選んだはずだ!!』

『ッ』

『断言してやる。お前の話を聞いた限りの御仁であるならば、そう言う道を選ぶべくして選んだんだ!!』

『ぅ、うぁ……』

『いい加減に、気付けッ!! お前が悪魔に向ける感情それは……ただのワガママ的逆恨みの暴走……!! 悪魔を駆逐した所で、何も解決などされない!! 痕に残るのは、誰かの傷と、虚しさだけだ!!』

『あ、ぁあああ、ああぁ……』

『お前が悲劇だと早計に決めつけた【情熱的ラブストーリー】は、決して霞まず、この世から潰える事も、無いッ!!』

『ぅああ、うああああああああああああああああああ!!』


 言い返せなくなったハイド博士!!

 テンセイオーの腕をがむしゃら滅多に振るわせて、DAIカッパー1へと殴りかかる!!

 しかし、皿助の反応は疾い。テンセイオーの胸ぐらを掴んでいた腕を即座に放し、テンセイオーの腕を取り押さえた。

 そして、すぐに、DAIカッパー1腹部に収納されている隠し腕を解放、テンセイオーの弥次郎兵衛やじろべえめいた一本足もがっちり拘束。


『ぎッ……』


 およそ一〇メートル近い体格差がありながら、テンセイオーはDAIカッパー1の拘束から逃れる事ができない。

 当然だ。いくら大きくとも、テンセイオーはあの特異空間の支配を目的として造られた特殊運用機体、正面からのガチンコ勝負に重きを置いて鋳造されたDAIカッパー1に、パワーで勝てるはずが無い。


『……今のお前に、この理が、この心が、届くなどとは最初から思ってはいないさ』


 だから、行こう。

 DAIカッパー1の背面装甲が開き、黒いビームウィング・カッパーウィングが展開される。


『無限の彼方へ……無限の果てへと、さぁ、行くぞ!!』


 輝き始めるDAIカッパー1の紅い宝玉。

 魔術装備(イビルアームズ)強者証輝レヴィルアタン】、皿助の魔力を喰らい、更なる豪力を得るDAIカッパー1の魔術的装備。


 魔力を豪力に換えて、DAIカッパー1がテンセイオーを拘束したまま、翔ぶ!!


『ぅああああ放せ!! ちくしょう!! ちくしょう!! こんなぁぁわつあ、たし、私は、僕は、僕はああああああああ!!』

『高所は嫌いか!? すぐに放してやるとも……必殺の一撃と共に!!』


 天高く、星の海に浮かぶDAIカッパー1。

 そんなDAIカッパー1が、テンセイオーを拘束したまま、身体を大きく捻る。

 それはさながら野球で言う所のトルネードスローのモーション!!


力士百人力嵐転投撃ドッセイ・デモリッシャァァーーッ!! どッ、せいッ、らぁぁぁぁぁあーーッ!!』


 光を置き去りにしかねない速度で、DAIカッパー1の巨体が、回転する。

 その冗談めいた遠心エネルギーを一身に受け、テンセイオーが、射出……投げ落とされた!!


 それはさながら、桜色の流星一条。


 大気摩擦にガリガリと装甲を削られながら、テンセイオーは真っ直ぐに、河川敷へと落下する!!

 着弾と同時に、吹き荒れる衝撃波の嵐、震度2にまで匹敵する大地の揺れ。


『……ぎ……あ……ぁ』


 最早、テンセイオーは、ハイド博士はろくな呻きすらあげられない状態。

 即ち、戦闘不能。


『――言っただろう。この戦い……俺は、勝つべくして勝つのだと』



 ザ・キルブリンガーズ最終戦――皿助、当然の勝利である!!



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