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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第三部 リバーハイド・フルブレイカーズ
49/65

46,ヒートファイト・ヴァーンハード《前編》


 普通に良い成績を残し続けるパンツ一丁のプロテニスプレーヤー・百永坂もえさか苑丞えんじょう

 その裏の顔は実はッ、なんとザ・キルブリンガーズ幹部集団【七殺衆セブンスキル】の一角、【焼殺】の百永坂苑丞だったッ!!


 さっきまで美しく見えていたファイアーブリーフが、今ではなんと脅威的かッ!!

 檻の中のシルバーライオンが檻の外に出てきてしまった様な心境の変化が、皿助に襲いかかる。


「ま、まさか……お前までザ・キルブリンガーズだったなんて……!!」


 そう言えば、先程アムは「試合が終わったらしい百永坂さんを迎えに行きます」と言っていた。

 つまり、何処ぞでテニスの試合をしていた百永坂苑丞を迎えて、皿助達が通過するだろうこのポイントに刺客として送り込んできた様だ。


 プロテニスプレーヤーまでラインナップしているなんて……何と言う人脈ッ!!


「何故……何故お前の様な【良い人】が……【悪魔の駆逐】なんて理不尽を謳う集団に協力している……!?」

「正直、俺は悪魔が人間界にいてもいなくても熱くなれればそれで良い!! それで満足的だッ。更にぶっちゃけた言い方をするなら……悪魔がいてもいなくてもマジでどっちでも良いしどォォでも良いッ!! と言う感じなんだァァィッ!!」

「だったらば本当に何故だ!?」

「ハイドさんはテニサー時代の先輩だからなァッ!! その縁もありッ、俺は熱く協力している!!」

「ッ、体育会系特有の……【先輩後輩】の【圧倒的上下関係】かッ……!!」


 運動部に置いて、【先輩の言う事】は【特に断る理由】が無い限り【絶対順守が基本】。

 例えば、先輩に「来い」と言われれば、先約が無い限りは現場へ直行。それが大原則。コーラを飲んだらゲップが出るのと一緒と言っても過言では無い【この世の理】。

 つまり、NOとキッパリ言えない場合は自動的にYESとなるのである。


 百永坂苑丞は正味な所、日常的に悪魔と関わり合う事が無く、悪魔がいてもいなくても生活に欠片の影響も無いのだろう。

 つまり、悪魔を駆逐する動機は特別無いが、悪魔を人間界から追い出す事を拒む強い理由も持ち合わせていない。

 よって、運動部の伝統的暗黙の了解……そして世界の理により、ハイド博士の協力要請を断れなかったと言う事だ!!


「だが、そうは言っても理不尽バイオレンスは余り趣味ではない!! とことん熱い事はする所存だがッ、あまり酷い事はしないと約束するッ!! なんなら神前にて指きりげんまんしても良い!!」

「他のザ・キルブリンガーズ構成員と同様、やり過ぎるつもりは無いと言う事か……!!」

「組織名や武器名がとことん物騒な割に、消極的な輩が多いクマね。お国柄クマ?」

「悪い事ではないと思いますガミ」


 百永坂苑丞と皿助が指きりげんまんを交わし終え、お互いに臨戦態勢に入る。


「さて……チーフから熱く聞いているぞッ!! 君は今、魔力の補充期間……筋トレで言えば超回復の時期にあたる状態だそうだなッ!! さぁ、君に代わり俺との試合に臨む【覚悟】のある【友達妖怪】を呼ぶが良い!! 俺が殺尽機ジ・キルを起動するのはそれからだッ!!」

正々堂々(スポーツマンシップ)……俺が直接相手をできないのが一層に悔やまれる相手だ、百永坂苑丞ッ……!! ここは有り難く提案に乗らせてもらう!!」


 皿助は右袖に装着した妖怪バッジを一瞥。

 キュウリ・雪ダルマ・髑髏のバッジは既に使用済み、インターバル時間中なので使用不可。

 つまり、残る黒い羽・箒・虎&蛇のバッジからチョイスする事になる。


「先程、大物に大物をぶつけた様に……熱くて良い人には、熱くて良い妖怪をぶつけさせてもらう!!」


 皿助が指を押し当てたのは、黒い羽の妖怪バッジ。


「黒い羽ッ……まるで【カラスの羽】を思わせる絵柄のこのバッジは、お前以外に有り得ないだろう!! いくぞ、出てこい俺の友達……いや、親友ッ!! 妖怪バッジ、ドライブ・オン!!」


 皿助は確信している。

 このバッジが呼び出す相手は、かつて二度に渡り自身と衝突し、最終的には共に同じ風呂で尻を洗い、後に協力して難敵を退けた【あの男】であると!!


『――いでよ、【烏天狗カラステング】』


 このバッジも召喚ラップ回路が故障しているらしく、事務的なコールと和太鼓のBGMだけが響き渡るッ!!

 その最中。まるで噴水の様にバッジから吹き出し、豪勢な花吹雪の様に一面に舞いそそいだのは、カラスの羽を思わせる無数の黒い羽。


「呼ばれて飛び出てクゥーカッカッカッカッカッ!!」


 いつの間にかッ!!

 舞い散る黒い羽に紛れて、その大きな影の大きな黒翼が、青空を切り裂いていたッ!!


 皿助に並ぶ体格の良さに、明るいチョコレートの様な色合いの褐色肌、やたらに高い鼻、背から生やした一対の巨大な黒い翼ッ!!

 その男は手に黒鋼の錫杖を持ち、服装は黒袴の着物一式に、足には歯の長い一本歯の下駄を履いていたッ!!


 知っている……!!

 我々も、この男を知っている!!


「ようようようようッ!! 俺っちが一体誰かって!? 聞かれずとも答えてやるぜい!!」


 まるで空を支配する様に堂々と浮かぶ大男が、その手に持っていた黒鋼の錫杖をじゃらんと鳴らしながら振り上げる。

 そして、歌舞伎役者さながらの大見得を決め、高らかに叫んだ。


「あぁッ、俺っちァ!! 天狗山てんぐのやま特殊部隊【天狗の鼻は(テング・オブ・)すごく長いんだぜロング・ロング・ノーズ】通称TOLL(トル)ノーズ所属ゥゥ!! 【烏天狗】の畔杉くろすぎ冠黒武カンクロウでぇぇいッ!! クゥーカッカッカッカッカァァッ!!」


 烏天狗の冠黒武ッ!!

 記念すべき第一話にて皿助と初めて戦った妖怪にして、今では彼の親友的妖怪ッ!!

 皿助と晴華の物語の始まりに居合わせ、やられ役として花を添えた男ッ……つまり、場合によっては第三の主人公とも呼べる事も無くは無い存在ッ!!


「やはりお前だったか、冠黒武ッ!!」

「おォう皿助ェ!! 河童姫様がさっき連絡くれたから事情は大体把握してるぜい!! 相変わらず物騒な事に首突っ込むのが大好きな奴だぜい、お前は!!」

「べ、別に好きで突っ込んでいる訳ではない!! 何故みんな俺をトラブルダイバー扱いするんだ!? 俺はただ、突っ込まなきゃダメだと思う場面に出くわす事が多いだけだ!!」


 要するにトラブルセンサー&トラブルダイバーである。ある意味、トラブルメイカーよりタチが悪い。


「だが、まぁ、気持ちはわかるぜい、皿助。種族が違う・出身世界が別ってだけで交友を持つ事を全否定ってのァ、俺っちも看過できねぇって話だ。皿助のためもあるが、それ以上に俺っちも戦わざるを得ねぇなァ、ザ・キルブリンガーズさんよォ!! 皿助の事を茶化した傍からアレだが、俺っちも前傾姿勢で首を突っ込ませてもらうぜい!!」


 冠黒武と皿助はお互いにお互いを親友と認識している。

 ザ・キルブリンガーズが人間界に悪魔の介在を許さない理屈(「住んでる世界が元々きっちり分けられてるんだから、無理に交流する必要無いじゃん。余計なトラブルの種だよ」)は、妖怪と人間の交友も否定している様なモノ。

 人間である皿助と親友である妖怪・冠黒武としても、黙っていられる相手ではないのだ。


「ぬッ……熱い……熱さを感じるぞ、空を舞う黒翼の君……烏天狗の冠黒武だったか!!」

「おうッ、俺っちは冠黒武でい!!」

「冠黒武……ああ、冠黒武ッ!! 君とならば良い……良い試合ができそうだと俺は今ッ、確信したぞ!!」

「褒められたと受け取っとくぜい。ありがとさん!! だが、いくらお調子者の俺っちでも、多少褒められた程度で火加減はしてやんねぇぜい!!」

「結構だッ!! お互い、最大火力で燃え上がろうじゃあないかァァァーーーッ!! 俺は百永坂苑丞ッ!! 百永坂苑丞だッ!! お互いヒートなベストを尽くそォォォうッ!!」

「カカッ!! 敵の癖に中々……いんや、上々に良いノリじゃあねぇの!! 気に入ったッ!! 百永坂苑丞ッ!! 望む所だぜい!!」

「なんか早速に意気投合し始めてるクマ」

「性格と言うか、生きるテンションが近い者同士と見たガミ」

「ああ、俺の見立て通りだ!! 頼んだぞ、冠黒武!!」

任せとけ(まかちょーけ)って奴だぜいッ!!」

「では、まずは俺の方から起動させてもらァァうッ!!」


 早速、百永坂苑丞が、紅い指輪を嵌めた右手中指を天へと掲げたッ!!


「燃え尽きるまで焼き殺せッ!! 【焚灰殺炫炉燠ヤケコゲロウ】!!」


 ぼうぅあッ!!

 突如として響き渡った豪快な爆発音……否ッ、燃焼音!!

 百永坂苑丞を中心点に、極太の火柱が大空高く、太陽を突かんばかりの勢いで吹き上がった音だッ!!


「ぬぅおぅ!? す、すげぇ火柱だぜい!?」


 冠黒武が驚くのも無理は無いッ!!

 百永坂苑丞が放った火柱は、その熱量の余り、晴天の一部をまるで夕暮れさながらに朱色に染めてしまっている!!

 不思議隕石広場のそこら中から陽炎が沸き立ち、景色が歪みまくるほどの豪熱だ!!

 その火柱が巻き起こした莫大な上昇気流が、そこら中のゴミや、冠黒武召喚演出で散った黒羽などを、朱色の空、天高くへと舞い上げていくッ!!


 この現象は決して必殺技とかではなく、ただの変身演出であると言う事を忘れてはならないッ!!


「ぐへぇ……一気にむちゃくそ熱くなったクマ……熱血キャラだからで許される領域じゃないクマぁ……」

「う、うぅむ……変身ひとつでなんと傍迷惑な奴ガミ……」

「むッ、不味いッ。一瞬にして熱中症の一歩手前の症状が出てるじゃあないかッ!!」


 美川流の鍛錬を受けている皿助や、天狗軍の軍事修練過程を履修した冠黒武ならともかく。

 貴族であるクマリエスとそのペットのガミジンにこの熱さは毒ッ。


 皿助は速やかにクマリエスとガミジンを抱え上げ、冠黒武と百永坂苑丞から距離を取るべく走り出す。


「すまん冠黒武!! 少し遠目に見守る事になる!!」

「おう、構わんぜい!! 向こうの自販機でポ●リスエット的な清涼飲料水でも買って与えとけ!!」


 と言う訳で、皿助達は不思議隕石広場入口付近の自販機を目指す。


「クカカカ……さてさて、ザ・キルブリンガーズ……【妖怪科学】に比べてヒジョーに後進的な【裏科学】に頼っている大した事の無い組織だと軽く見積もっていたが……こりゃあ兜の緒をギュッと締めた方が良さそうだぜい……!!」

『緊張してもらえた様だな……「とても強そうだ」と評価してもらえたと、光栄に感じるぞォォォーーーッ!!』


 百永坂苑丞の声に吹き飛ばされる様に、火柱が爆裂四散した。


 火柱の跡地に立ちはだかるは、全高おおよそ三〇メートル超の朱色の巨体。


 メタリックな朱色に輝くその機体の全体的なシルエットはオーソドックスな人型。

 後頭部からは炎の様な色合いのプラズマ体が絶えず吹き出しており、まるで飾り髪の様になっている。

 その背には(百永坂苑丞に合わせてか)テニスラケット型の大型武装も配備。ただ、形がラケットと言うだけで、その面部分にはガットが張られておらず、ぽっかりと空いている。下手すると「しゃぼん玉で遊ぶ時に使うアレ」と思われても仕方無い外観の武装だ。


『これぞ焼殺特化型ヴァーンパレード殺尽機ジ・キル……焚灰殺炫炉燠ヤケコゲロウッ!! ご覧の通り、とても燃え滾っている機体だァァァーーーッ!!』


 百永坂苑丞の熱いシャウトに応える様に、飾り髪的紅いプラズマ体がボバッと弾け、勢いを増した。

 爆裂的に増長したそのプラズマ体の全長は一体何メートルになるのか……ヤケコゲロウ本体とのサイズ比はもうさながら【世界一尻尾の長い猫】だと注目されている(我々の世界に置ける2017年7月現在時点)ラグドール種の【シグナス】さんを彷彿とさせる様相である!!


『うぉおおおお!! 熱く熱く熱くファイ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』


 炎めいたプラズマ体が、まるで猛暑に苦しむ大蛇の如く、凄まじい勢いでのたうち跳ね回る。

 暴走してるんじゃあないかと思える様なプラズマ体の激しい発熱のせいで、火柱が消えてもなお広場全体が陽炎で揺らめきたち、広場直上の空はやや朱色に焼けている!!


「ふん、皿助も粋な事してくれるぜい……炎熱タイプに、俺っちをぶつけてくれるとはよう!!」


 ヤケコゲロウの熱量、そしてその爆熱が生み出す気流に物理的に圧され煽られつつも、冠黒武は不敵に笑った。


「確かに凄まじい熱……だが、見せてやるぜい、ザ・キルブリンガーズ……いや、百永坂苑丞ッ!!」


 冠黒武が、右手の袖を少しだけまくり上げる。

 すると、顕になった右手首には、クリアブラックカラーの太い腕輪が装着されていた。


 我々はアレを知っている。

 アレは天狗族が【開発中】の補助兵器【禍弄魔カルマ】の腕輪タイプだ。


 ……だが、実は違う。

 見た目こそ我々が知る禍弄魔カルマ腕輪だが……圧倒的に違う!!


 その違いとは、一体何かッ。


「この【完成した禍弄魔カルマ】で、地獄の業火も真っ青な領域へと昇華した俺っちの熱さをなッ!!」


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