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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第三部 リバーハイド・フルブレイカーズ
48/65

45,ファイア・パンツ


 友達妖怪・【餓者髑髏ガシャドクロ】の芽志亜ガシアの力を借り、ザ・キルブリンガーズの刺客・臼朽うすくちを退けてもらった皿助べいすけ一行は、次のショートカットポイントを目指す。


「次は奥武守町おうもりちょうの密かな観光名所のひとつ、【不思議隕石広場】を突っ切る」

「隕石クマ?」


 皿助の発言に、ガミジンの背で揺られていたクマリエスが若干の興味を示した。


 隕石……遥かな宇宙からの来訪者……人間界でもそう在る物では無いし、魔界穴でもそれなりに珍しいものなのだろう。


「ああ、三〇〇年も前に、すごく大きめの隕石が落ちた場所なんだそうだ」


 気まぐれか運命か、それを知る者はいないが、この奥武守町へと訪れたその隕石を記念碑代わりに中心に据え、設けられた広場。

 それが奥武守町の不思議隕石広場。


「パワースポットとして、知る人は知っている通な名所らしい。基本的に閑散とした場所だが、希にとてもキャラが濃ゆそうな人を目撃する事がある」


 ただの隕石がただ落ちた場所ならば、きっと記念広場として整備される事はなかっただろう。


 三〇〇年前に奥武守町に落ちたとされるその隕石の一体【何】が特別だったか。


 それは、【大きさ】だ。

 通常、一〇メートル級の隕石が地表へ落下した場合の衝撃は、それひとつで核爆弾一発分の威力があるとされている。


 奥武守町不思議隕石広場が設けられた場所にかつて落ちた隕石の大きさは……直径にしてなんと【三〇メートル】ジャストッ!!


 そんな巨大隕石落下事件にも関わらず、奥武守町の史文に置いては、要約すると「日もまだ登らない頃、すげぇ大きな音がしたと思って村中の皆が飛び起きた。なんかすげぇ大きな石がポツンとそこにあった。多分空から降ってきたパターンのやつだこれ」とだけ記されている。


 もし本当に隕石として空から降ってきたならば、この辺りの大地は吹き飛んでいて然るべきサイズの岩石。

 だが、実際は近隣住民が大きな音にビックリして「わひゃあ」となった程度の被害しか出ていない。

 しかし、空から降ってきた以外の出現ルートが全く推測できない。


 なんて不思議な大岩……いや、隕石だろうか。


 もしかしたら、これは神様のウ●コかも知れない。

 いやいや、女神様のかも知れん。

 神獣のと言う線もある。

 何にしてもやべぇ奴じゃん。


 とにかく、祀っといた方が無難だろう、この手の不思議オカルトな奴は。


 そう言う方向で話はまとまったらしく、その不思議隕石を祀る(とは言うが実際は中心に放置してるだけ)、現在の不思議隕石広場がある。


 ちなみに、現在もっとも有力視されている説は【通りすがった凄腕の波動戦士がこの隕石を受け止め、大災害を未然に防いだ説】である。


「この広場を突っ切り、更にその先、燃乃望塊川もののけがわから分岐した大河川のひとつである无異琉ないる川の【河川敷】を進めば……恵朱えす市はすぐそこ。つまり、俺達の目的地である【奥武守町と恵朱市の狭間にある県立美術館】は間近だ!!」

「ようやくゴールが見えてきたクマね」

「長い様で、実は短い道程だったな」


 思い返せば、クマリエス達と出会ったのは午前一〇時ちょい過ぎ……現在時刻が一五時ちょい前なので、約五時間前からハイド博士の元を目指す旅は始まった計算になる。

 ここまで色々とイベントが有り過ぎて、なんだか三ヶ月くらい前から旅をしている気分を錯覚してしまいがちになるが、実際はまだ五時間ほどだ。


 まぁ、それでも出発当初の「ショートカットルートならば四・五時間で着ける」と言う進行予測よりは遅れてしまっている。

 ザ・キルブリンガーズの妨害と割とガッツリ休んだ昼飯休憩が地味に響いている様だ。


「さっさとハイド博士なる不届き者の真意を検め、本件を解決したいガミ」

「……できれば、穏便にいけば望ましいがな」


 ここまでのザ・キルブリンガーズの対応からして難しいかも知れないが、やはりそれが理想だろう。



   ◆



「ほへー……本当に、件の隕石以外は何も無い広場クマね」

「全く以てガミ」


 それが、不思議隕石広場を目にしたクマリエスとガミジンの感想。

 まぁ、仕方無いだろう。純然たる事実なのだから。


 二〇メートル級の機動兵器がタイマン決闘を繰り広げられそうな広大な広場には、例の不思議隕石をそのまま利用した記念碑以外何も無い。

 ただただレンガ色のタイルで整備された更地が広がっている。


 余りの殺風景さ。

 パワースポット目当てのキャラが濃ゆそうな人以外がそうそう来ない所以である。


「うむ、相変わらず何も無い……そして人気も……いや、誰かいるな」


 丁度、不思議隕石記念碑の真ん前に、人影がひとつある。


「熱くなってきたぞぉぉぉーーーッ!!」


 その人物は、すごくハツラツとした大声を張り上げながら、記念碑の前で倒立腕立て伏せに興じていた。


 凄まじい速度だ。

 まるで炎の様な毛先に行く程に色が薄くなっている特徴的な赤髪を振り乱し、汗を滴らせ、アバウトな目算でも秒間五回はこなしている。


「やべぇテンションの奴がいるクマ」

「アスリート関係の方だろうか」


 重力に負けてほぼほぼ脱げかけているウェアやポケットが大きい半ズボン、そして記念碑に立て掛けられたテニスラケットからして……テニスプレーヤーと推測される。


「むむ……待て……あの人、見覚えがある……! そうだ、あの頭が大炎上している様な赤髪に、瞳が大きくやたら白目面積の少ない大きな目、そしてあの引き締まって一見スリムだがよくよく見てみると恐ろしい質量密度である事が一目瞭然の筋肉ボディ……!」


 その男を、皿助は知っている。

 何故なら数年前にとてもスポットライトを浴びた人物だからだ。


「恵朱市出身の超プロテニスプレーヤー・百永坂もえさか苑丞えんじょうッ!!」

「むむむッ!! 誰かが俺の名前を呼んだのが聞こえたぞ!!」


 皿助の言葉に反応したッ!!


 間違いない、あの男は百永坂苑丞だッ!!


 百永坂ッ! 百永坂苑丞ッ!!


 その男はさながら燃えるシューティングスターッ!!

 高校総体男子テニスシングルス部門に置いて圧倒的優勝を果たし、その後、スポーツ推薦で恵朱大学スポーツ学部運動科学科へ進学、息をする様にテニスサークルへ加入。

 在学中にプロデビューし、弱冠二〇歳にしてあの【テニス一〇八大国際大会】のひとつであるウィーンブルゾン選手権トーナメントで準々決勝まで進んだッ!! つまりベスト8ッ!!


 二六歳となった現在の世界ランクは一六〇位ッ!!

 意外と低くね? と思われがちな節もあるが、世界ランク二〇〇位以内に入る日本人は彼を含めて七人しかいないと言う事を考慮していただきたいッ!!


 つまり百永坂苑丞と言う男は、世界では上位一六〇名、日本では上位七名に名を連ねるテニスプレーヤーなのだッ!!


「そうだ、俺が……二〇歳の頃に一世を風靡したその後の六年間、消える訳でも爆裂する訳でもなく普通に燃え盛ってそこそこ良い感じの成績をキープし続けている百永坂苑丞だァァァーーーッ!!」


 簡単な自己紹介を叫び上げ、百永坂苑丞の逞しい両腕が躍動した。

 両掌で地面を叩き、鍛え抜いたその身体をぶわっと宙へ押し上げる。

 上昇に合わせて、倒立姿勢のせいでただでさえ脱げかけていたテニスウェアがスポーンッと脱げ飛んだ。


「俺に、何か用かァァァーーーッ!?」


 見事な三回転に捻りを加え、百永坂苑丞は着地ッ。

 その衝撃で、彼の履いていた半ズボンがストーンッと脱げ落ちた。

 顕になったのは、黒地の布に炎の柄をあしらったぴっちりブリーフッ!!


「おっと失礼」


 半ズボンが勢い良く落ちてしまった事に気付き、百永坂苑丞は足を振るって半ズボンを放り捨てる。

 これで完璧なパンツ一丁だ。飾らない男前スタイル。そのナイスバディに余計な布は必要無い。


「おお……さっきの地味筋肉野郎の【暴力的筋肉】とは何かが違う雰囲気ガミ……言うなればあれは……【紳士的筋肉】ガミか……!? 【戦い】ではなく【スポーツ競技】のために特別強化された筋肉……クールなフレーバーを感じる仕上がりガミッ!!」

「素晴らしい……ワンダフル素晴らしい……きっと恐ろしいほどに弛まぬ鍛錬を積んだに違いない……!! もはや芸術作品の類だな……それも美的感性の機微に疎い俺でも感銘を受けるほどの名作だッ……!!」

「……男子って筋肉好きクマね」


 暴力的筋肉と紳士的筋肉とやらの差がイマイチわからないクマリエスは既に、百永坂苑丞への興味を失い始めていた。


「筋肉だけじゃあないぞ。あの人は人格的にもとても【良い人】だ。例えばこんな逸話がある。あの人の趣味は【熱くなる事・燃え上がる事】で、ある日SNSを炎上させるべくゲス不倫の写真をアップしようと試みたそうだ。だが、どうしても妻以外の女性を愛する事ができず、ゲス不倫は物理的に不可能だった……なので妻に別人レベルのケバい化粧をしてもらい、ツーショットを撮影……それをゲス不倫写真としてアップした……が、ファンの中に人相鑑定のプロがいたらしく、投稿後二分で虚偽不倫を見破られ、炎上作戦を失敗したとの事だ!!」

「良い人って言うか、ただ変な趣味の阿呆が間抜けを晒したエピソードでしかないクマ」

「で、この俺、百永坂苑丞の名前を呼んだ少年とその一行ッ。改めて聞くがッ。俺に何か用かァァァーーーッ!?」

「……いちいちうっさい奴クマ」

「おおぉっとすまないッ、熊耳が特徴的でキュートなお嬢さんッ!! 生来な話だが、俺には、わからないんだ!! 己の熱さを、己の全力を、抑える方法と、抑える必要性がァァァーーー!! 常に俺は全力一直線んッ!! もっと……もっと熱くなりたァいッ!! もうこの際、熱くなれるならば摩擦熱でも良い!! 空気摩擦で燃え尽きるまで駆け抜けたいんだァァァーーーッ!! 多分だが俺は止まったらば死ぬ生き物なのだろうッ!! 陸上のマグロとは俺の事なのかァァァーーー!? そうなのかァーッ!?」

「知らねぇクマ」


 本当にやべぇ奴だったクマ……とクマリエスは若干げんなり気味。

 それでも一応は答えてあげたのは、百永坂苑丞が彼女の事をキュートだと評価したからだろう。


「貴方が陸上のマグロかどうかはともかく……申し訳無い。俺は謝罪する必要があります……」

「むむッ、それは何故だ、良い身体つきの少年!!」

「実は、用件があるから貴方の名前を呼んだ…訳ではないんです。ただのミーハー精神から、つい……本当に申し訳無い」

「そうか!! そうだったのかーッ!! ……だが良い身体をした少年ッ!! 君は謝る必要など無い!! 仮に君がそのミーハー精神を押さえ込んでいたとしてもッ!! 俺の方から声をかけざるを得なかったからだァァァーーーッ!!」

「……な、何だって……!? それは一体どう言う事ですか!?」

「これを見てくれれば、わかるはずッ、だッ!!」


 そう言って、百永坂苑丞はその逞しい腕を勢い良くファイヤーブリーフの中へと突っ込んだッ!!


「むむッ、どこにしまったか……!? …………、あったァァァーーーッ!! コレダァァァーーーッ!!」


 百永坂苑丞はブリーフの股間の辺りを数秒間たっぷりとグリグリまさぐってから、【ある物】を天高々と取り出した。


 それは……


「なッ……紅い……【指輪リング】……!! ま、まさか……」


 百永坂苑丞が、かの有名なスター的俳優ジョン・ジョセフ・トラボルタの代名詞のひとつと言っても過言では無い【サタデー・ナイト・フィーバーの決めポーズ】めいた姿勢で掲げるその指輪……皿助はその色違いを今日だけで五回は見た!!


殺尽機ジ・キルの起動トリガー……つまり貴方も……いや、お前もッ!!」

「俺は百永坂苑丞……先に言った通り、良い感じの成績をキープし続けるアルコールランプの火の様に安定したプロテニスプレーヤァァァッ!! だが、それだけじゃあ……それだけじゃあなァァいッ!!」


 紅い指輪リングを右手中指にキュッと嵌め、百永坂苑丞が叫ぶ。


「ザ・キルブリンガーズ七殺衆セブンスキル一灯いっとうッ!! 焼殺しょうさつの百永坂苑丞……それもまた、俺だァァァーーーッ!!」


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