33,ミーツ・フェイラー
奥武守町、燃乃望塊川の河川敷。
爽やかな朝日の元、静かな時が穏やかに流れている……と思いきや、突如、その水面に大きな波紋が幾重にも広がり始めた。
そして、大きな水柱と飛沫が舞い上がり、川の中より現れたのは……巨大な影。
ずんぐりむっくり熊さんかと突っ込みを入れたくなる様な立派な大柄の…青年だ。
青年の肌の色は焼きを入れた赤土…要するに陶器の様な色合いで、天を衝くツンツン髪は虎柄…タイガーストライプ。頭髪のカラーに合わせてか、身に纏っているファーコートも虎柄である。派手。
「人間界、到着ッス」
どすん、と思い着地音を伴って、ずんぐりむっくり系虎髪褐色肌の青年は川原の草原に降り立った。
青年は落下の衝撃で舞い上がりファーコートのファーに付着した土汚れをファッと軽く払い、コートの下に着ている黒いカッターシャツの襟を整え始める。
本日のコーデは余り着慣れていないのか、些細な事が気になるらしい。言うなら「田舎から出る時、お父さんに『仕事は気合から!!』とド派手なコーデ一式を仕事着としていただいたけど、どうにも馴染みません助けて」って感じだ。
「おう! まずは第一段階クリアだナ!!」
甲高いミニキャラの様なその声は、ド派手コーデの大青年の臀部、ズボンに開けられた丸い穴からチョロリとこぼれた長いモノから。
よく見るとそれは……蛇だった。この青年、尻から喋る蛇が生えているのだ。
それも仕方無い。
鳥に翼がある様に、魚にエラがある様に、力士にパワーがある様に。【鵺】には【喋る蛇の尻尾】があるのだ。
青年の名は夜鳥ヶ峰蛇尾淀。最近都会に出て来た【鵺】だ。
詳しくは第二九話前の【間 スタンバイ・サブジェクト】を参照。
きっちり読んできた方にはリフレインになってしまうが、「【間】って事は本編に関係無いんでしょ?」と読み飛ばした浅はかなる者がいるかも知れないので、少しだけダビデについて説明をしておこう。
ダビデはついこの間【妖怪保安局】の一員となった新米局員である。
彼の個人情報を軽く挙げるなら、迸るネガティバーであり、尻尾の蛇の名はスーパー☆テイル。
ダビデは本日、妖怪保安局からの【プレゼント】を我らが主人公【美川皿助】に届けるため、人間界にやってきた。
要するに、新米下っ端らしく使いっ走りに来た。
「さて……局長の言っていた通りだと、このポイントで美川皿助さんは僕を待っててくれて、【これ】を渡す……はずだったんだけど……」
「……誰もいねぇナ。馬鹿デケェ謎のクレーターはあるガ」
河川敷はとても静か。
そりゃあ、ダビデが現れるまで静かな時が穏やかに流れてたんだもの。
人っ子一人どころか、雑草にとまって一休みする小虫共くらいしかいない。
「遅刻……はしてないッスよね…………あ……!! もしかして……美川皿助さん……僕の負のオーラを気取って【忌避反応】を起こしどっか行っちゃったッスかァ~ッ!?」
「いやいやいや、数秒前まで別の次元、妖界郷と人間界を繋ぐ道ん中にいたんだゾ? 仮におめーのクソみてぇな負のオーラが気に食わなかったとしても、そもそも察知できるわきゃあねーだロ」
※皿助ならできます。舐めんな蛇公。
「……ん? ってかおい、おめー、【アレ】見ろヨ」
スーパー☆テイルが舌先で指したのは、馬鹿でかいクレーターの中心部。
そこには周囲の土色からは浮いた白い正方形の物体が。
「あれは……メモ書きッスか?」
「それっぽいナ。もしかしたら、美川皿助の【書き置き】かも知れねぇゼ」
ダビデはズダンッ!! と大地を蹴り付けて跳躍。
音はすごかったが、ダビデ自身の挙動は僅かな物。傍からは軽く跳ぶ程度の感覚に見えただろう。しかし、ダビデの巨体は天高くへと舞い上がった。
鵺はあの河童にも並ぶ…個体によってはそれ以上の剛力を誇る種族だ。たかだか数十メートル先のクレーター中心部までなら、一回の軽い跳躍で充分。
ダビデはそのままクレーターの中心部に着地と言うか着弾。
ダビデが落下した衝撃により、メモ書きは文鎮代わりの石ころごと舞い上がる。それをすかさず、スーパー☆テイルがその口で咥えてナイスキャッチ。
「ほれ」
「ありがとうッス」
スーパー☆テイルからメモ書きを受け取り、ダビデはその内容を確認。
そのメモ書きは先程のスーパー☆テイルの予想通り、皿助からこれからここに来る予定の妖怪保安局局員(つまりダビデ)に宛てた書き置きだった。
内容は、クマリエスと偶然に出会った事から始まり、ザ・キルブリンガーズをどげんかせんといかんと思い立った経緯がわかりやすく掻い摘んで説明されており、最後には皿助からの謝意の込められたメッセージも。
「…『こちらの都合勝手に大変申し訳ありませんが、本日はお会いできそうにありません。現在勤務中なのか丹小又さんは連絡が通じない様なので、後で、日を改めてこちらから伺うと伝えておきます。重ねて、本日は本当に申し訳ありませんでした。ご足労をおかけした事、申し訳なく思うと同時に、深く、誠に感謝いたします。貴方への謝罪と感謝もいつか必ず直接』……か」
「あー……まぁ、こりゃあ、事情が事情だわナ」
「ッスね……」
こちらはただの荷物受け渡し、しかしクマリエスさんとやらはとても物騒な展開に発展している。
どちらを優先すべきか、ダビデやスーパー☆テイルも充分に理解できる。
それに、メモ書き全体に染み込み滲んだ強い思念……皿助が断腸の思いでダビデとの待ち合わせをすっぽかした事がひしひし伝わってくる。
きっと「俺が分け身の波動を体得していればどちらも両立できたものを……未熟が憎い……!!」と奥歯を軋ませながら書いたに違いない。
「こうなっちゃあしゃーネェ。今回は残念だが、もう帰ろうゼ」
「……いや……美川皿助さんを追いかけるッス」
「あァ? 何言い出してんダ、おめー。随分とやる気じゃあねぇかヨ。珍しイ」
「……僕みたいなペーペーのゴミクズ鵺相手にこんなに誠意を込めて謝ってくれるなんて……美川皿助さんはきっと聞いてた以上に良い人ッス……!!」
「いや、事情が事情とは言え、約束をすっぽかすんだからそりゃあ誰だって謝り倒すだろうヨ」
「僕相手にでもッスか!? そんな訳ないッス!!」
「おめー本当にちょっと自分の事を過小評価し過ぎじゃあねぇカ!? 今に始まった事じゃあねぇがヨォ!? おめーはもう少し法律で保障されてる自分の基本的権利と向き合っても良いと思うゾ!?」
「とにかくッス……!! こんな良い人が困ってるの、放ってちゃあ駄目ッスよ!! 兄さんの弁を借りるなら、【男が腐る】ッス……!!」
そう言って、ダビデは懐からある物を取り出した。それは、指輪ケースより少し大きい…小物のアクセサリーを四つか五つくらい収めて置けそうな小箱。
これが、本日皿助へ届ける予定だった逸品が収まった箱だ。
「それに、【これ】は妖界の皆が、【美川皿助さんが困った時の一助になれば】と言う思いでプレゼントしようとしてる物ッス……美川皿助さんは今、有事の真っ只中……今届けないで、何時届けるんスか!!」
「おお、なんだかんだ…かつてない良い意気じゃあねぇノ……良いゼ良いゼ!! 今のおめーはすげぇ良いゼ!! 尻尾として付き合うゾ!! どこまでもナ!!」
「ありがとうッス……じゃあ、行こうッス!! 美川皿助さんの所へ!!」
「応ヨ!!」
………………………………。
「……ところで、書き置きには書いてないんスけど……美川皿助さんは何処に向かったんスかね……? ハイド博士ってのを倒しに行ったってのはわかるんスけど……」
肝心のそのハイド博士の所在…つまり【これから自分達がどこへ向かうのか】について、皿助は書き置きに記していない。結構重要な点であるはずだのに。
何故か。
書き忘れである。
皿助だってミスはする。未熟だもの
「………………あー……アレだヨ。局長に連絡して野郎の状況を教えてもらおうゼ」
「あ、いや、それはちょっと……僕なんかが局長に必要以上の迷惑をかけるなんて駄目ッスよ……例え天と局長とその他大勢のオーディエンスが許しても、僕の胃は死ぬッス……」
「繊細かヨ……」
……さて、どうしたものか。
◆
「……む……何かを忘れている気がしないでもない」
恵朱市へ向かうべく、住宅街を歩きながら、我らが皿助が小首を傾げた。
「ぬぅぅ……かなり大事な事のはずな気がしたんだが……思い出せん。俺もまだ未熟か……!!」
「いやいや、そこまで考えても思い出せないなら、大した事じゃあないと思うクマよ?」
皿助の傍らを歩く熊耳少女クマリエスが【どうでもいい他人事感】満載な調子で適当に言う。
「……クマリエス様は大事な会食の予定だとかもよく忘れますガミけどね」
クマリエスの後ろに付く彼女の有翼愛馬、ガミジンは溜息混じり。かなり重い溜息。聞いただけで長きに渡る苦労の累積が伝わってくる様だ。
「失礼なクマ。クーはそう言うの忘れてる訳じゃあないクマ。サボタージュの理由を考えるのが面倒だから毎回そう言ってるだけクマ。サボタージュの理由を考える事すらサボタージュするクーの徹底ぶりを評価して欲しいクマ」
「……ガッさん。苦労している様だな」
「……わかってくれるガミ?」
クマリエス・タタンタンは常時淡々としているテンションなので【お転婆元気】って感じではないが、どうも【お転婆クール】らしい。静かなる天真爛漫。無言でウェイウェイとマイウェイ爆走。
貴族令嬢にしてもこの徹底された自己確立ぶり……河川敷で今後の方針を話し合っていた時のガミジンの口ぶりからして、クマリエスはかなり高位の貴族…その令嬢なのだろう。半分王族みたいな位置にいるのかも知れない。
「にしても、まだ恵朱市って所には着かないクマ? もうかれこれ一〇分くらい歩いてるクマよ?」
「む? まだまだかかるぞ?」
皿助達のスタート地点は奥武守町北部、美川邸近くの河川敷だ。そして恵朱市は南部方面の隣り町。
目的のエジプト展をやっている県立美術館は奥武守町と恵朱市の市町村境を的確に跨ぐ形で建設されているので、奥武守町をほぼ横断する道程になっている。
皿助達の移動速度だと多分一〇時間はかかる。
バスや人力車、民間ヘリなどを使えば飛躍的に時短できなくはないが……ザ・キルブリンガーズがどこでどう仕掛けてくるかわからない以上、襲撃への対応策が大幅に制限される公共機関の利用は避けた方が良い。
「えぇー……スーパー面倒くさいクマ……ガミジン、背中に乗せてクマ」
「ははーッ!! どうぞガミ!!」
クマリエスは慣れた調子でガミジンに跨り、その背にぽすんと尻を下ろした。
「あ、そうだ。ガミジン、皿助も乗っけて恵朱市までひとっ飛びとかできないクマ?」
「申し訳ありませんガミ、クマリエス様。重量制限的に厳しいガミ」
「じゃあ、皿助がDAIカッパー1に変身してクー達を掌に乗っけてひとっ飛びはどうクマ?」
「ガッさんくらいならともかく……あのサイズの飛行体を無許可で飛ばして警察に発見されたら撃墜されかねない」
まぁ、DAIカッパー1の装甲ならそう簡単に墜とされる事は無いだろうが……日本警察は諦めないだろう。
ハイド博士をどうこうする前に、正義に燃える日本警察隊と一戦交えるなど時間手間的にも倫理道徳的にも冗談ではない。
「あれも駄目これも駄目……教育ママに包囲された気分クマ。自由を重んじるクーとしては嫌いな状況クマ。静かに不機嫌クマ」
「まぁ、そう言わないでくれクーたん。最善は尽くす。そしてその最善の一環として、まずはそこの【奥武守公園】を突っ切って良い具合にショートカットをしよう」
真っ当な道沿いに行けば一〇時間はかかる道程と言ったが、皿助達は徒歩。行動の自由度の高さはすごい。当然、至る所で裏道的近道を選択する事ができる。
皿助の計算なら、ショートカットに次ぐショートカットを繰り返す事で五・六時間程でエジプト展まで辿り着ける。
と言う訳で、皿助はガミジン・オン・ザ・クマリエスを引き連れて、奥武守公園へと入った。
奥武守公園は県が管理する庭球場や二〇〇メートルトラックがある多目的グラウンドなんかが収まっている町内最大規模の公園だ。
皿助は月匈音とたまに遊びに来るので、奥武守公園の構造は完璧に頭に入っている。
なので入口横の地図案内はあっさりスルー。ズンズン突き進む。
このまま真っ直ぐ行くと、まずはレンガ調のタイルが敷き詰められた噴水広場がある。
その名の通り噴水を中心に据えた広場で、とても広い。【二〇メートル級の機動兵器】が一騎打ちをしても差し支えないくらいには広い。まぁ、こんな場所でそんな事をする輩はいないだろうが。絶対にいないだろうが。
ちなみに、噴水の水は近場の源泉から湯を引いているので、冬場なら湯を嗜む猿やカピバラ等を見てホッコリできる定番のデートスポットにもなっている。
たまーにストリートミュージシャンもいて、空気を読み次第ムーディなラブバラードなんかを奏でてくれちゃったりもするのでメイクラブが止まらない。
「む……」
平日の中途半端昼前のこの時間帯。
まぁ広場にいるとしてもカピバライドした猿や定年後のセカンドライフを持て余した御老人くらいだろうと思っていた皿助だが……
「あ、なんかギターを弾こうとしてる人がいるクマ」
「ストリートミュージシャンって奴ガミね」
「ああ。こんな時間帯にこの場所にいるとは珍しい」
皿助達の視線の先、そこでは何やらキラキラした金色タイトスーツに身を包んだお兄さんが、今まさにギターケースからクラシックなギターを取り出そうとしていた。
ギターのお兄さんの周囲には、猿やカピバラが「おう兄ちゃん、なんかキラキラしとんなぁ」と興味本意でまばらに集まっている。
こんな人気の無い時間帯に来ればそりゃあそうなる。
猿やカピバラ達に聞かせるためだけに来たのだろうか。
動物大好きお兄さんなのかも知れない。
「普段なら一曲聞いていきたい所だが……今は時間が無い。先を急…」
「へぇい!! そこのガチムチ学ランボーイと黒いミニペガサスに乗った熊耳のお嬢さん!! ちょっとこっちにロッケンロォォーーー♪!!」
ギターのお兄さんはシャウトと同時にギターを一発「ジャーンッ!!」と鳴らした。
「何!? 呼ばれた!? 今俺達が呼ばれたのか!?」
「他には誰もいないし、多分そうクマね」
「他に誰かいてもワシらの事以外ありえない呼び方だと思いますガミ」
「むぅ……先を急ぎたいが、呼ばれてしまった以上は行かざるを得ない」
無礼は趣味じゃあないので、皿助は猿とカピバラが集まってできた垣を掻き分け、ギターのお兄さんの元へ向かう。
「ロッケンロォ♪ こんにちわだガチムチ学ランの少年ボーイ」
「はぁ…こんにちわ、キンキラキン衣装のギターのお兄さん。俺達に何か御用でしょうか?」
「ああ、まさしくそうだぜ…♪ 少年ボーイ、随分顔色が良くない。すごく良くないぜ……!」
「何……? いや、失礼ですが、そんな訳がない」
皿助は今日、すごく快調。朝の占いでも乙女座は不動の一位を確立していた。顔色が優れない…即ち体調が悪いなんて、あるはずがない。
それに、このギターお兄さんの【雰囲気】は……
「いやいや……♪ 俺ぁ今でこそスーパーロックンローラーの一人だが、かつてはあの【義田総合病院】院長の次男坊として恵朱大学の医学部に通ってたんだぜ?」
「義田総合病院と言うと……あのすごく大きな病院か」
最終的には波動による超速再生(自己・他者を問わず治せる)すら会得してしまう美川家は医療機関と縁が無いので、皿助は全くピンと来ていないが……義田総合病院は奥武守町でも最大クラスの大病院である。すごい。
「そんな俺が言うんだから間違いない…少年ボーイは今、顔色悪い。心配だから軽く問診してやるぜ♪」
「……………………一つ、聞きたい。お兄さん……こんな人気の無い時間に何故ここでストリートを?」
「ん~♪ 俺はよぉ…恵朱大の医学部に通ってたから、その時に恵朱市に住居を移してそのまま向こうに住んでたんだよ。だが、今日は【バイトの都合】で久々の奥武守町♪ ついさっき奥武守町入りしたんだがよ…そしたら胸の内がほんわかロッケンローし始めた♪ ガキの頃にギターを掻き鳴らしてたこの場所が懐かしくなって仕方無くて、一曲弾きに来たって訳よ♪ ま……【ノスタルジィ】って感情かな……子供の頃を思い出すのもロックンローラーの性なのさ」
「…………成程」
人に聞かせる目的ではなく、自分の中のモヤモヤ欲求不満を晴らすための演奏をするために来たと言う訳か。
まぁ、聞いた感じ筋は通っている。
「で、だ。少年ボーイ。まずはこの【万年筆型体温計】で熱を計るとしようぜ♪」
「おお、それは懐かしい」
万年筆型体温計。その名の通り、万年筆によく似た形状の体温計だ。
美川家の者に取って体温計なぞ縁の無いものではあるが、皿助は中学生の頃、一時期保健委員でたまに保健室へ行っていたので知っている。懐かしい中学時代の記憶の片隅に結びつく代物だ。
「確か、体温計は口に咥えて熱を計るんだったか……」
実際に使った事はない皿助だが、漫画でそう言う風に熱を計っているのを見た事がある。
「口に咥えるぅ? オーノォー。何を言ってるんだ少年ボーイ。そんな昭和の漫画みたいな使い方は実際にはしないぜ♪」
「え、そ、そうなのか……!? み、未熟……!! では、実際はどうやって熱を計るモノなのですか!?」
「教えてやるぜ♪ ……こうするんだよぉぉぉーーーッ!!」
突然!! 本当にビックリする程に突然!!
ギターのお兄さんは、万年筆型体温計を皿助の…【目】ッ!! 皿助の右目に向かって、万年筆型体温計を突き立てたッ!!
これが体温計の使い方……!? 絶対に嘘だ!!
右目に体温計を突き立てられた皿助の運命は……!?
「……成程、【やはり】、お兄さんは…いや、お前は【敵】だったか……」
「! ……へぇ……中々ロッケンローじゃあねぇの……」
平然とした声!! 皿助は平然としていた!! 右目に万年筆型体温計を突き立てられたのに何故平然としていられるのか!?
答えは簡単!!
「瞼でガッチリ止められた……【真剣白刃取り】って奴か……♪」
そう、皿助はギターお兄さんの万年筆型体温計による目潰しを、瞼で挟んで止めていたのである!!
皿助はそのまま瞼に力を込め、瞼周りの筋力で万年筆型体温計の先端を破壊するッ!! 余りの破壊力で発生した余波により、万年筆体温計が先端だけでなく全体的にグシャアッてなった!!
「先程、お前は【嘘を吐いた】……【俺の顔色が悪い】と言う嘘……そして【ノスタルジィな感情からこの公園で演奏しようとしていた】と言う嘘……二回、二回もだ。初対面の相手に二回も続けて嘘を吐く……まともな関係を構築しようと考えている者の所業ではない。つまりお前は、【俺と友好的な関係を築くつもりは無いのに声をかけた】……考えられる可能性は【街頭アンケートの人】か【ただの変な人】か【敵】……この三つくらいだ」
「……♪」
皿助は相手が嘘を吐いているかどうか、ある程度、相手の【雰囲気】から直感で見抜く事ができる(幽霊や天使など、生きている次元が違う相手は無理だが)。
そして皿助は感じた。ギターお兄さんの【嘘】を。
お兄さんは、ノスタルジィに駆られてここに来た……のではない!!
「……ふふ、確信を持ってるな……皮膚の汗の感じでも見て見抜いたか……? まぁ良い。ああ、そうさ♪ 確かに俺は嘘を二回吐いたぜ……少年ボーイ…いや、美川皿助くん。お前の顔色はすごく…とても良い…それに万年筆型体温計の動きを見切った反応速度と言い、それを止め砕いた瞼の筋力と言い、こう言う元気な防御行動ができるんならお前の健康状態は間違いなく【良好】だ……そして、俺が【ノスタルジィからここに来た】ってのも大嘘……♪」
ギターのお兄さんは不敵に微笑し、ベンッ♪ とギターを一鳴らし。
「しっかしまぁ、おニューの万年筆型体温計がグッシャグシャだぁ……こんな不意打ちが通じる訳無いとは思っちゃあいたが、ここまで余裕綽々と防がれるかね……ふぅ、アムちゃんから聞いてた通り、【美川家の人間】ってのは【始末】が難しそうだなァ~~~」
「あ、今アムって言ったクマ」
「あの眼鏡の女の事ガミか!! 今ここでその名前が出てくると言う事は……貴様……!!」
このタイミングであの有裏存アムの関係者。
そんなの、決まっている
「オォー。ロッケンロォ~……♪ いかにも、……俺はお前達を【始末】するために来たのさ……」
「……俺の事は、あの素敵なお姉さんから聞いている様だな。名乗る必要は無いと判断する……そちらの名を聞かしてもらおう」
「んん♪ 俺は義田曳緒♪ 最高にクールなロックンローラー……そしてお察しの通り、【ザ・キルブリンガーズ】のメンバーだぜ♪」
ジャラ~ン…♪ と、義田が静かに、ややムーディな感じでギターを鳴かせる。
「用件はわかってるよな~? ……さぁ、一曲、付き合ってもらうぜ♪ ……この七殺衆が一音、【絞殺】の義田が奏でる痺れる様なロックによぉ~~~♪♪♪」
◆
一方、河川敷のダビデくんは……
「こ、ここはあれッス…まずは保安局員らしく足を棒の様にカチンコチンにしてでも【聞き込み】ッス……!!」
皿助の行方を掴むべく、スーパー☆テイルと作戦会議中だった。
「つっても、この辺にゃあ人気が微塵も無いゾ」
燃乃望塊川周辺にはこれと言った娯楽施設も住宅街もない。
朝の通勤通学時間や帰宅時間以外に人気が無くなるのは道理。
「確か、この辺に【奥武守公園】って言う大きな公園があったはずッス。大きな公園なら人もいっぱい集まるはずッス!! その中に、もしかしたら美川皿助さんの事を知る人がいるかも知れないッス!!」
「おめー、初対面の人間に話しかけられんノ?」
「………………や、やってやるッスよ!! 僕は新米とは言えほ、ほほほ保安局員なんスから!! 聞き込みくらい……聞き込みくらい……!! その……あの…………うん!!」
(初対面の奴に話しかけるのを想像しただけで震えてやがル……俺が聞いた方が良さそうだナ……)
果たして、ダビデは皿助に接触する事ができるのか!?
続く!!




