34,ペインフル・ロックンロール
「【余りの迫力】もしくは【感動の余り】に【息を飲む】【息が詰まる】【息をする事を忘れる】……そんな経験、あったりしないかい?」
ジャガジャッ♪ とギターを軽快に弾きながら、ザ・キルブリンガーズの刺客、義田が不敵に笑う。
「俺はあるぜ~♪ すんばらしいギターテクを持つロックンローラーの演奏をナマで聞いた時だッ♪ 【魂が震えに震えて、肉体なんてどうでも良くなっちまう】…そんな感覚だぜありゃあよ~…本当、ギターはやっぱり最高だぜぇ~♪ 俺も誰かに取ってそう思える様な演奏ができるギタリストになるのが夢なのよなァ~~!! 例えば高中正義とかよぉ~~~!! 松本孝弘も尊敬してるし布袋寅泰も渋くていいなぁ~~~!! うっとり……しちまう♪」
「とことんギターが好きな様クマね」
「モチのロンだぜ悪魔っ子ベイベーッ♪ 俺のギター愛を感じ取れるとかよ…これからイジめなきゃあなんねぇのが躊躇われるくらい気が合いそうじゃあないの♪」
クマリエスの指摘に上機嫌ハイになったらしく、義田が奏でる旋律のテンポが一気に速くなった。
「じゃあ見逃して欲しいクマ」
「そいつはできないロッケンローだ♪」
ジャァアンッ♪ と一際力を込めて、義田が弦を弾く。
その音色の力強さから否定のニュアンスがよく表現されていた。
「まぁ、だが手心は加えるとするぜ♪ 元々、【ハイドへの同情】から悪魔の駆逐計画に協力するとは決めてるが、流石に悪魔相手とは言え生命を奪うのは気が退けてたからよ~……」
「何……ハイド博士への、同情?」
「ああ、そうさ♪ 俺達ザ・キルブリンガーズは基本的に全員そうだ♪ 俺が知る限り【個人的に悪魔と因縁がある】のはハイドだけ。俺達は【事情】を知っている【協力者】に過ぎねぇ。……だから、まぁ……戦うのはあんまノリノリじゃあないから、ちゃちゃっと魔界に帰ってくれよってロッケンローだ」
最初に戦った個性と言う概念が死んだ世界に生まれた様な地味野郎…えーと……あ、臼朽だ。
確か、臼朽も「悪魔とは言え殺生は気が進まない」的な発言を何度かしていた。思い返せば、クマリエス達を暴力で狙う一方で、最初から「魔界に帰ってくれればそれでいい」と言うスタンスも一貫していた。
悪魔を駆逐するだ殺し尽くすだと物騒な事を謳ってはいるが、それはまぁ「悪魔をビビらせて退かせる」ための建前の様なものなのだろう。
「だが、本当に殺す気は無いとしても……その思想や、やっている事はやはり横暴であり看過し難い……一体、ハイド博士はどんな事情で悪魔を虐げんとしているんだ!?」
「その辺は、他人が吹聴するモンじゃあねぇなぁ……そりゃあロックじゃあない。ロックじゃあねぇよ」
「……結構シリアス重い系なのか……?」
「ん……まぁ……少なくとも【ハイドやあいつのの人となりを知ってる奴】からすりゃあ、【大惨事】だったな、ありゃあ……」
義田が思わず指を止める程度には、何やら悲惨な事があったらしい。
「……っと、いけねぇ」
気を取り直す様に、義田は一度咳払い。
指を弦に戻す…かと思いきや、その手はズボンのポケットへ。
「その辺がどうしても気になるってんなら、ハイドに直接聞きな……まぁ、無理だろうけどな♪」
義田がポケットから取り出したのは……指輪だ。
若干くすんだ茶色……年季の入った荒縄を彷彿とさせる妙な色合いの指輪。
義田はその指輪を、右手中指にキュッと嵌めた。
「何でかって? 決まってる♪ お前達はここで俺にロッケンローされるからだッ♪」
そしてそのまま、右手中指をおっ立てて、右手を天へと掲げる!!
このポーズは臼朽がボックサッツを起動した時と同じッ!! またもモザイク案件ッ!!
「絞め殺すんだベイベー♪ 【逐殺躯叉栓添】♪」
義田の言葉を合図に、指輪が発光。
その光に呼び起こされる様に、彼の足元…レンガ調タイルを砕け散らして【何か】が飛び出したッ!!
「何!?」
半ばビックリ、半ば警戒して、皿助はバックステップ。義田から距離を取る。
レンガ調タイルを砕いて地中より現れたのは……【太い縄】だ。
すごく極太の……まるでアナコンダの様な縄が、何本も、大地から吹き出したのである!!
謎の不思議縄出現により、義田の周囲に集まっていたカピバラや猿達が「おぉう、なんかえらいっこっちゃ!!」と蜘蛛の子を散らす様に退散!!
極太縄は義田を中枢に巻き込む形で絡み合い、見上げる程に大きな縄玉を形成。縄と縄が捻れ合い、軋みながら、縄玉は徐々に徐々に変形していく。
最終的に、縄玉は長く伸び、巨大な蛇の様な……いや、手足が付いているからトカゲと言うべきか。巨大なトカゲの様な形状へと変化した。
全長は三〇メートルに届きそう。無数の極太縄が絡まって形成されたすごく太くて大きい一本の縄……沖縄県で秋頃に開催される那覇大綱引きで使われる縄にも似たそれを中心に、これまた極太縄が絡まり合って形成された雄々しい四肢。
巨大縄トカゲ……RPGにモンスターとして登場すれば、【ビッグロープドラゴン】とか名付けられていてもおかしくない外観だ。
「これが……お前の殺尽機か!!」
『ォーイエス♪ 絞殺特化型殺尽機、逐殺躯叉栓添だ♪』
義田の声を響かせながら、チッソクサセンゾーはその先端部の裂け目…トカゲで言えば口に当たる部分から、チョロチョロと細い縄を躍らせる。
オーソドックスな人型機動兵器だったボックサッツとかなり雰囲気が違う。
何と言うか、勧善懲悪のスーパーロボット物に登場する悪の組織の機動兵器っぽい。
察するに、機体を形成している極太縄は、縄の様に見えるだけの機械的な何かなのだろう。
『おうおう、この大きさは見晴らしがいいぜェーーーッ……このサイズならよー、南米辺りに生息してるっつー人間を殺す事もある毒蜘蛛【黒後家蜘蛛】に噛まれたって平気だよなァ~ッ……♪ で、さてさぁてだが皿助くんよぉ……俺のロッケンロォォ…セッションできる自信はあるかい♪』
「……正味、ここは全力でスルーして先を目指すと言う手もあるが……後々別の刺客と組んで出てこられても面倒だ!! これは【単機で出てきてくれた好機】と捉え、ここで倒していく!! ガッさん!!」
「おうガミ!!」
皿助が名を呼んだ意図をすぐに察し、ガミジンがその黒翼を強く振るった。
すると、その翼に収められていた首掛用布紐付きの赤銅メダルがスッポーンと飛び、皿助の元へ。
皿助はそれをノールックでキャッチし、速やかに首にかける。まだ二回目だのに慣れたものだ。流石は皿助。
「やるぞ、DAIカッパァーッ!!」
魔機鞍の名を呼び、赤銅メダルを笑顔で齧るッ!!
直後、メダルは粉々に砕け散り、粒子レベルにまで分解されたその破片は皿助の額へ収束していく!!
皿助の額に形成された紋様は【円に収められた五芒星】、魔術感たっぷりのマーク!! 「わかりやすさは正義である」と主張する様なわかりやすい【魔法陣】!!
「相変わらず、素敵なパワーが漲るッ!! 漲るぞォォォーーーッ!!」
額の魔法陣を起点に、皿助の全身に不思議なパワーが漲る様な感覚を知るッ!! その感覚は皿助の身体に魔機鞍が馴染んでいっている証拠だ!!
皿助と魔機鞍の同調率が一定ラインを越えたその時、皿助の全身を巡っていた【魔力】が額の魔法陣へ吸い上げられ集中……そこから無数の【カブト虫の群れ】を模した赤銅色のエネルギー体に変換され、皿助の体外へと飛び出していく!!
無数のカブト虫型のエネルギー体は皿助を中心に渦を形成し、そして弾ける。
渦中から出現したのは、赤銅色に輝く無骨な巨人。
その額を穿って天へと真っ直ぐ伸びるのは、先端が二重の逆ハの字型に割れた雄々しい一本角。
角以外にも、胸部と両前腕に埋め込まれた紅い宝玉が目を惹く。
パワーと堅さと空中起動力の三点にステータスを極振り特化させたDAIカッパー、DAIカッパー1だ。
『DAIカッパー起動完了ッ!! 行くぞ義田曳緒ッ!! お前もさっきの人と同様に【投げ】て倒してやるッ!!』
『ほほう…そいつが臼朽をヤったっつぅ赤銅色のマッチョかよ♪ ん~? だがアムちゃんからは「カイ●キーめいた四本腕で攻めてくる」って聞いたが~……これじゃあただの日焼けし過ぎたゴー●キーだぜ……どうなってんだ♪?』
『その辺は秘密兵器だ!! 後でビックリさせてやるぞ!!』
DAIカッパー1は両脇腹に隠し腕的複腕が収納されている。言わば秘密兵器だ。
大人の礼儀を踏まえて言えば、【手の内を隠す】のは余り褒められた事ではない……だが、【秘密兵器】となると秘匿してここぞと言う時にババァーンと大公開したくなるのが【少年心】。皿助はまだ高校生なのだ。許してあげて欲しい。
『【後】……【後で】ねぇ♪ ふっ…そんな悠長な心構えでこの【チッソクサセンゾー】の前に立っちゃってる時点で……お前はもう楽曲終盤に入っちまってるぜ♪』
『何……それはどう言う意味だッ?』
皿助がそう問いかけた刹那。
『こう言う事だよ♪』
義田の声が、DAIカッパー1の背後から響いた。
『なっ……』
瞬き一往復すらできない程の間で、チッソクサセンゾーの巨体がDAIカッパー1の背後へと回り込んでいたのだ!!
伊達に爬虫類を模してはいないと言う事か、バジリスクが水面を駆ける数百倍の速度で移動しつつも、まるでハンティングモードの蛇が獲物へ這い寄る様に無音だったッ!!
『ぐっ……』
咄嗟に皿助はDAIカッパー1を振り返らせるが……時既に遅い。
チッソクサセンゾーはさっきまでDAIカッパー1が正面に捉えていた方向へ…つまり、またしてもDAIカッパー1の背後へと回り込んだッ!!
まるで泥手なモンスターの如く執拗に回り込む精神ッ!!
『す、素早い……それにしたって、素早過ぎるんじゃあないか……!?』
『ああそうさ。チッソクサセンゾーは【すごく素早い】……さて、ここで俺から質問だ。なんでだと思う? 【なんでチッソクサセンゾーはとてもすごく素早いと思うね?】』
『機動力で敵を翻弄するためか!?』
質問に答えながら、皿助はDAIカッパー1を振り返らせ、張り手を繰り出す。しかし、張り手は空を切った。外れた。
チッソクサセンゾーはまたまたしてもDAIカッパー1の背後を取る。
『残念、不正解だぜ♪』
『くっ……それ以外に機動兵器に高機動性を付加する理由があると言うのか!?』
わからない。だが、皿助は狼狽えない。
皿助は決して勉強ができる方ではない。秀才ではない。だが彼は指折り進学校である綾士歌高校に通っている(幼馴染と一緒に過ごしたいから)。
故、彼に取って、未知の問題に直面するのはある意味では日常茶飯事。狼狽えるに値しない。
わからない問題に直面した時、どうすれば良いか。
簡単な話だ。昔から言う。「知らぬは一生の恥、聞くは一瞬の恥」。
手を挙げれば良いのだ。
もちろん、【降伏】のハンズアップではない……【先生、質問があります】のハンズアップだ!!
『先に【質問に質問で返す無礼】を詫びる!! その上で聞く…一体どう言う理由なんだァーーーッ!?』
答えを知るだろう義田に問いかけながら、皿助はDAIカッパー1の【魔術装備】、【強者証輝】を起動した。
DAIカッパー1胸部と両前腕部の紅い宝玉がほんのりと光り始める。これにより、DAIカッパー1の装甲はより堅牢になり、パワーはモリモリになる。
腕を振るうパワーが上がれば必然アタックスピードも上がる。
皿助はチッソクサセンゾーの超スピードを力任せに捕らえようと考えたのだ。
『そこだ、チェストォォォーーーッ!!』
しかし残念、DAIカッパー1の張り手はさっきよりも素早く空を切るだけだった。
『くそぅ!! 思いっきりいっただけに悔しさが!! 悔しさがさっきよりも込み上げる!!』
『はっ……素直だねぇ♪ 行動が素直の塊だよお前は。わからなきゃあ手を挙げて聞く、学生としてそれは大正解だぜ…♪ だが、もう俺が答える必要は無い頃だッ♪』
『何だと!?』
『そろそろ【違和感】を覚えちゃあいないか?』
『違和感……?』
言われて、皿助はふと思った。
『お前……何故さっきから【俺の背後を取るばかり】で一切仕掛けてこない……!?』
そうだ。妙だ。
何故、義田は、チッソクサセンゾーは全く攻撃してこない?
さっきから執拗にDAIカッパー1の背後を取るばかりだ。
背面フェチ……? いや、だとしてもそれは【背後へ回り込み続ける理由】であっても【攻撃してこない理由】にはならないはずだ。
攻撃しない……いや、【できない】理由があるのか……!? だとすればそれは何か……
『まさか……その機体、見た目の雄々しさ程のパワーは無く…そしてロクな武装を積んでいないのか!?』
『ォーイエス♪ チッソクサセンゾーは素早さのためにパワーを捨てた機体……そんで、コンセプト的に武器なんぞ足枷でしかないからな♪』
『ッ……そうか……その素早さ……【相手の息切れ】を狙ってのスペックか!!』
即ち、チッソクサセンゾーは……【ひたすら逃げ回って相手を疲れさせる事】に特化している、と言う事か?
『んん~……まぁ、三割くらいは正解だなァ♪』
『まだ完全な正解じゃあないのか!?』
『そりゃあ……それだけなら【絞殺特化型】なんてロックな異名で呼ばれねぇさ♪ まだ【感じねぇ】のかい? 意外に感性が鈍いんだなァ~♪ もっと俺のロッケンローに耳を澄ましてくれよぉ~♪』
『絞殺特化型…………、はっ……!!』
ここに来て、皿助はようやく気付いた。
『少し……本当にちょっぴりだが……【喉の辺り】に【違和感】があるぞ……!? こ、これは……緩やかな【圧迫感】か!?』
皿助が感じた違和感……それは、徐々に徐々にジリジリ強くなっていく……【喉への圧迫感】!!
まるで真綿…いや、ふわっふわのオコジョが首に巻き付いている様な感触だッ!!
『気付いてなかった様だな……♪ 実は最初、お前の背後に回り込んだ時…ちょろっとこの【舌】をお前の機体の首に巻き付けたのさ。この【舌】を相手の【喉】に当たる部分に【一瞬でも巻き付ければ】、瞬間、【チッソクサセンゾーの特性】が発動するのさ♪』
その【特性】とは……
『【相手は少しずつ呼吸機能が低下し…、約一分後……窒息状態に陥いる】』
『ッ!!』
『魔機鞍起動中は水中や宇宙空間でも活動できるのに【窒息する訳がない】と思うかい? おいおい……殺尽機は【対魔機鞍を想定した裏科学兵器】だってのを忘れちゃあいないかァ~? その【特性】が魔機鞍に通用しないとなっちゃあ、マヌケも良い所じゃんかよォ~~~?』
『ッ……え、エグい……なんてエグいロックンロールなんだ……!!』
つまり、だ。
チッソクサセンゾーは【相手が生身か魔機鞍かに関わらず『相手を一分後に窒息状態にする特性』を持ち、その『一分』を稼ぐために『攻撃手段』を全て捨てて『逃げ切り』に特化した殺尽機】と言う事なのだ!!
特性を発動した後もDAIカッパー1の傍をウロチョロしているのは、【特性の継続にはある程度の距離感を保つ必要がある】、つまり【射程距離】があるとかそんな理由だろう。
ならば射程距離外に一度逃げれば良い……? だがこの【超スピード】がそれすら許さないッ!!
『一分だッ♪ ロックンローラーな俺は粋な感じにあえてこう言わせてもらう…「砂時計ならぬ闘いの息時計だ」ってな♪ お前に残された時間はクールにアバウト一分♪ ロックだろぉ? TVサイズのアニソン一曲すら歌えない尺で俺に勝てるかな?』
『お、おのれ……残りたった一分でその超スピードを攻略する術を見出さなきゃあならないと言うのか……!!』
中々のハードモードッ……本気シビアッ……!!
だが、難度の高さに戦慄する時間すら惜しい。
刻一刻、喉をふんわり締め付けるオコジョマフラー的圧迫感が強くなっていくのを感じる。本当に一分程で呼吸ができなくなりそうなペースだ。
「べーキチー。こう言う時こそDAIカッパーの【本領】を発揮するクマよー」
と、ここでベンチに座りながらDAIカッパーVSチッソクサセンゾーを観戦していたクマリエスから一声。
『DAIカッパーの【本領】……、はッ!!』
そうだ、ついさっき、ボックサッツ戦でガミジンが説明してくれたじゃあないか。
『DAIカッパーは、【変態】する!!』
DAIカッパーは【多目的戦闘対応型魔機鞍】の【最新試験機】。
そのコンセプトは『戦闘中に速やかな【変態(形状変化による実質的な換装)】を行う事で様々な戦場に単機で瞬時に対応させる』と言う欲張り贅沢な代物。
『今それを言う……つまり、クーたん、ガッさん!!』
「うむガミ!! 完全に言い忘れていたガミが、DAIカッパーには【超スピード戦闘に特化した変態】があるガミ!!」
ベンチでくつろぐクマリエスに寄り添って雑草を食んでいたガミジンがドヤ顔で叫ぶ。
「その名もDAIカッパー【2】、【ヴァティン】!!」
『ヴァティンッ!! カッコ良い響き!!』
「ちなみにDAIカッパーを変態させる時は、微妙なデリバリー嬢が来た時の様に渾身で【チェンジ!】と叫び、そして変態したいDAIカッパーのナンバーを呼び上げ、あと気が向いたら【スイッチオン】とも言うガミ!! 特に理由は無いけど変形ロボの雰囲気でるガミ!!」
『わかった、ありがとう!! ただちに変態するぞ俺は!! 俺は変態する!!』
『はッ♪ 何か策を講じるかい♪ やってみな、このチッソクサセンゾーを攻略できると思うならよ~♪』
『無論、やるぞ!!』
いざ見せつけよう、DAIカッパーの本領を。
『チェェェェェンジッッッ!!!! DAIカッパー2ゥゥーッ!! スイッチオン!!』
カチン、と何かのスイッチが入った様な音が、DAIカッパー1から響いた。
そして、DAIカッパー1の全身が赤銅色の輝きを放つ!!
光の放射は一瞬。
その一瞬で、DAIカッパー1は【変態】を終えていた。
『おお……これが……DAIカッパー2!!』
一瞬の変態時間だったのに対し、DAIカッパーの見た目は大きく変化していた。
まず、シルエットからして違う。
額から伸びる一本角の雄々しさはそのままだが…それ以外が異様にスレンダーになった。
DAIカッパー1がマッチョだとすれば、今のシルエットはめちゃんこスレンダーとしか言い様がない。実に細身。ひと目でわかる軽量化。
そして、一番の変化は下半身。
なんと、腰部が後方に伸び、脚部が四本になっていた。DAIカッパー1では複腕だった【五本目と六本目の足】が複脚になっているのだ。
ちなみにDAIカッパー1の時は胸部と両前腕に嵌め込まれていた【紅い宝玉】は、前脚の股座…つまり股間の位置に一つと、両前脚の太腿前面に一つずつ移動している。
その全容を簡単に言うと、まるで赤銅色の【ケンタウロス】……【スリムなカッパーケンタウロス】!!
神話の時代…魔界には、血色の悪い馬に乗り、瞬間移動かと思う様な速度で地を駆け抜ける【神速の魔神】がいたと言われている。
このDAIカッパー2【ヴァティン】は、その魔神をモチーフにしているのだ!!
『ほぉ……変形かよ♪ さながらそいつはスピード特化のモードってとこかい?』
『変形ではない、変態だ!! そして後半は肯定する!! DAIカッパー2…すごく速く走れる気がするぞ!!』
『そいつはおめでとう。実におめでとう♪ 良い事だぜ、すごく良い事だぜ~……どうせチッソクサセンゾーのスピードにはついて来れないだろうって点に目をつぶればよぉ~ッ』
義田が自信満々に言い放った、その直後。
『……はれ?』
チッソクサセンゾーの前方。義田の視界から……DAIカッパー2の背中が、消えた。
『【マッハカッパースペシャル】……略して【マッパスペシャル】と言った所か……』
『ッ♪!!?』
皿助の声は後方、それもかなり後方!!
義田が急ぎチッソクサセンゾーを振り返らせてみれば、DAIカッパー2は数十メートルは向こう……広場の隅っこにまで移動していた!!
『なッ……ろ、ロッケンロォッ…嘘だろ……今の一瞬……一瞬でそこまで移動したってのか!? し、しかもこの【距離】は……この【距離】ではァァ……!!』
『【息苦しさ】が消えた……どうやら、チッソクサセンゾーの【射程距離】の外へ出れた様だな!!』
DAIカッパー2とチッソクサセンゾーの間距離は数十メートル。
実は射程が一〇メートルも無いチッソクサセンゾーの特性は余裕で射程外ッ!!
『にしても…なんだ…この漲る様な【脚力】は……!! ちょっと急いで後退しようとしたらこんなスピードで動けるなんて……これがDAIカッパー2の……魔術装備!!』
DAIカッパー1が【劇的換装】によりDAIカッパー2へ【変態】した事で、その魔術装備は変化した。
DAIカッパー2。通称:【ヴァティン】。
この形態で使用可能な魔術装備の名は、機体の通称と同じく【瞬神顕現】。
今、DAIカッパー2の股間と両前脚太腿で輝く【紅い宝玉】型の魔術装備が機体に齎している効果は、【地上に置ける移動速度の超絶強化】。
DAIカッパー2は【高機動攪乱戦闘】に特化している。
要約すると、【すごく速く動いて相手をめっちゃビックリさせて隙を作らせる】事に特化しているのだ!!
現に、義田は今、すごくビックリしている!!
気付かぬ間に射程距離外に逃げられてしまった…そりゃあ、スピード以外のほぼ全てを捨て去った自機よりも素早いDAIカッパー2の存在へのショックは、計り知れない物があるだろう。
ビックリとショックでめっちゃ隙だらけになるのも仕方の無い事だ。
そして、いくら皿助と言えど……その大き過ぎる隙を見逃す程、未熟ではない。
『もう一度……マッパスペシャルを!!』
魔術装備を発動し、皿助は先程の【チッソクサセンゾーから離れる】時とは逆の動き……つまり、DAIカッパー2をチッソクサセンゾーへ向かって走らせた!!
瞬間移動かと見間違う速度で、DAIカッパー2はチッソクサセンゾーの眼前へ。
『ひ、ひぇッ……』
DAIカッパー2にいきなり逃げられたビックリショックも冷めやらぬ中、今度はいきなり目の前にDAIカッパー2が現れた。
もう義田はプチパニックである。
高機動攪乱戦闘を本分とするDAIカッパー2の思うツボだ。綺麗にドツボ。掌の肉が抉れかねない程に掌の上で踊ってくれている様なもの。
『そしてチェェンジッ!! DAIカッパー、1ンッ!! スイッチオン!!』
一瞬の輝きの後、細身ケンタウロスだったDAIカッパー2は、元のガチムチ人型DAIカッパー1へと変態を完了。瞬即変態。
『すかさず、カッパーホールド!!』
間髪いれずに、皿助はDAIカッパー1の両脇腹に格納されていた複腕を開放。
四本の腕を使って、チッソクサセンゾーの太縄四肢を力強く拘束した。
『んがッ……う、腕が増え…って言うか、し、しまった!? 俺とした事が驚きの余り……とんだミステイク♪を!?』
義田は今更ながら必死懸命に足掻くが、無駄だ。
既に皿助はDAIカッパー1の魔術装備【強者証輝】を発動している。
今、DAIカッパー1の全身にはとんでもないパワーが漲っているのだ。
スピード以外のほぼ全てのステータスを捨てたチッソクサセンゾーが、このホールドから抜け出られるはずが無い。
『宣言通り、ビックリさせられた様で何よりだ……では、義田曳緒!! 狼狽えてないで歯を食いしばってもらおうか!!』
ボックサッツ戦の時とは違い、皿助はカッパーウィングは使わず、そのまま地上で【投げ】の体勢へ移行する。
何故か。
今回は噴水広場での戦闘。草原と川だけの河川敷と違い、ここに派手にクレーターを作ると後々多くの人の迷惑になるからだ。
人気の無い燃乃望塊川の河川敷ならば、ハイド博士の一件が片付いてから修繕に向かっても問題無いだろう。
あんな草原と川しか無い場所で一体誰が何をするか。皿助が虫歯になった時に黄昏に行くくらいだ。
しかし、この公園は朝っぱらだからこそ人気が無いだけで、昼は散歩好きが来るし、夜はデートスポットとしてのポテンシャルをいかんなく発揮するし、深夜は特殊な性癖のカップルが集うのだ。
あまり破壊する訳にはいかない。絶対に駄目。
なので地上での投げ。ボックサッツの時よりも大幅に威力を下げる。
最低限の威力で、チッソクサセンゾーを撃破してみせるつもりだ。
……決め技、張り手に戻せば良いのに(小声)。
『俺はミュージシャンではないのでロックンロールのセッションは無理だが……代わりに渾身の回転で応えるぞ!!』
『ちょ、待…多分お前が今からやろうとしているそのロールはロックンロールのロールとは違うから待っ♪』
『すまないが、勝負に待ったは無しだ!!』
DAIカッパー2はハンマー投げの要領でその場で全力回転。
そして遠心力が乗りに乗ったピークを見逃さず、チッソクサセンゾーを斜め下方向へ向かって……
『はァァ!! 力士百人力嵐転投撃ァーーーッ!! どっせいィ……ぅらァァァァアアアアアーーーッ!!』
全力で、放り投げた……と言うより、叩き付けたッ!!
ズガァァンッ!! と言う豪快な破壊音を伴って、チッソクサセンゾーの巨体が広場のタイルを抉り弾き飛ばす。
DAIカッパー1のパワーが強烈過ぎた事もあり、チッソクサセンゾーは坂を転げる岩の様にゴロンゴロンと広場のタイルを破壊しながら転がっていき、広場の外周柵を潰して止まった。
『ロ……ロッ…ゲ、ン…ロッッ……!!』
一本。勝負ありだ。
『し、しまった……思ったより公園を壊してしまった……!!』
皿助はちょっと勝利の余韻どころの話じゃあないが……ザ・キルブリンガーズ戦、二戦目。
絞殺の義田とその殺尽機チッソクサセンゾー…撃破。
皿助の勝利である。




