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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第二部 禁忌超越
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28/65

27,禁忌超越。超えろ、禁忌を纏った大天使ッ!!


 快晴、朝日が一切の邪魔を受ける事なく降り注ぐ河川敷。

 二つの巨影が、対峙する。


 片や、緑色に輝く装甲を纏った三〇メートル級のごっつい機械巨人。

 河童族の特機級機装纏鎧(きそうてんがい)大威禍破安ダイカッパー】が、皿助と幽子…二人分の【気合】によって強化された存在。

 ダイカッパー・魂合実現コンゴウ


 相対するは、七色に煌く一四枚の巨翼を負った二〇メートル級の美麗な巨大天使。

 堕撫尤タブーパン・ドーラーが、【禁忌解禁】を行い、【受肉体】内に封じられていた【天使としての力】を一部解放した姿。

 大天使パン・ドーラー。


『チュラカワ・ベースケ、ツメタイ・ユーコ……ふふ……ワタクシを、貴方達が倒すですってぇ? ツメタイ・ユーコの方はともかく……チュラカワ・ベースケ、貴方は【知っている】はずよねぇん…ワタクシの【恐ろしさ】』

『……ああ、確かにな。正味なコメント、俺はお前の事が少し恐いッ!!』


 人型部分の大きさだけで言えば、皿助&幽子ペアダイカッパー・コンゴウ優勢ッ。だが、翼を含めれば大天使パン・ドーラーの全高は軽く四〇メートル級はあるので、一概に「ダイカッパーの方が大きい!! すごい!!」とは言えない。


 何より、大天使パン・ドーラーには、恐るべき【超越権】が三つあるのだ。


 一つ、開封した者に【不思議】を齎す【匣】を精製する権利。

 齎される不思議は非常に攻撃的で強烈。洒落で済む威力ではない。何発も連続で喰らえば普通に死ねる。

 しかも並のストーカーなら裸足で逃げ出すレベルの執拗な追跡ホーミング機能有り。【匣】を破壊しても【中身を外に出した=開封】と見なされ不思議体験させられる。絶対不可避。非常にインチキ仕様。


 二つ、【やりたくない】【ダメだってば】と言う気持ちを、【やろうぜ!】【ダメじゃあないぜ!】と言う気持ちに変換する権利。

 これのおかげで、一つ目の権利で精製された【匣】を【開けたくない】と思っても…いや、思えば思う程、ついつい開けてしまう。

 術中にハマる経緯は不明。少なくとも、接触の必要は無し。おそらく、大天使パン・ドーラーが「あいつに行使しよう」と【対象を認識した】時点で発動する。確実必中。非常にインチキ仕様。


 三つ、一つ目の権利で精製した【匣】を、【ターゲットが滅びるまで永遠に開き続ける匣】に強化する権利。

 一度その【匣】を開けてしまえば最期。開けた者が死ぬか消え去るまで【匣】が開き続ける…つまり、不思議体験がエンドレスに続く。一撃決まれば、絶対確実にトドメまで保証する。

 絶対不可避・確実必中の【匣】が、一撃必殺になる。信じ難いインチキ。訴訟も辞さないレベル。


 この三つの権利がコンボって放たれる確実必中・絶対不可避・一撃必殺の【匣】……実際、皿助はそれを喰らって一回マジに死んだ。


『だが……先程とは違う……今の俺には、【策がある】と言ってくれた人が憑いているからだッ!!』

『そう、それが私ッ!! えっへんッ!!』


 ダイカッパー・コンゴウが「どうだまいったかッ!!」と言わんばかりに胸を張る。堂々威張るッ!!

 幽子、相当【策】に自信がある様子ッ!!


『【策】……ふふ。ちゃんちゃら…そう、ちゃんちゃら可笑しいわねぇ……いくら二人分の力を結集していると言っても、所詮貴方がたは低次元生物の分際。だのに……このワタクシの【匣】を、【攻略】できると言うのぉん?』

『『そう言った()』』


 嗤う大天使パン・ドーラーに、皿助と幽子がハモりで堂々と返してみせた。


『へぇ……じゃあ、やってみせてもらおうかしら……その【策】を』

『あらあら、言われなくてもやるわよ。皿助くんを勝たせる……そのために、私はここにいるのだからッ!!』

『あっそ』


 幽子の啖呵を軽く一蹴する様につぶやいて、大天使パン・ドーラーがその右手をもたげる。

 掌の照準を、ダイカッパー・コンゴウに合わせ…


『『ふんッ!!』』


 大天使パン・ドーラーがダイカッパー・コンゴウに狙いを定めようとした瞬間、ダイカッパー・コンゴウがあるアクションを起こした。


 それは……【合掌】ッ!!


示祈歪己シキガミ発動ッ!!』


 響いたのは、幽子の声。


『【魂乞淋堕拉迩コンゴウリンダラニ】ッ!!』


 それは、生前は元エクソシストな陰陽師だった冷体井幽子の示祈歪己シキガミ……ではないッ!!

 音は同じだが、当てられている漢字に注目してもらいたいッ!!


 生前幽子の示祈歪己シキガミは、仲間と魂的に融合して強化する【魂合隣抱良迩コンゴウリンダラニ】。

 今、幽子が発動したのは……【魂乞淋堕拉迩コンゴウリンダラニ】。


 コン合隣抱良ゴウリンダラ

 コン乞淋堕拉ゴウリンダラ


 前者は、生前の幽子が【仲間を失うと淋しいので仲間を守る】ために発現した示祈歪己シキガミ

 後者は、地縛霊幽子が【仲間がいないと淋しいので仲間を作る】ために発現した示祈歪己シキガミ


 地縛霊幽子が【生前記憶】を全て失い、生前示祈歪己(シキガミ)発現のトリガーになった【強い祈り】とは別の【強い祈り】を抱いた事で新たに発現したのが【魂乞淋堕拉迩コンゴウリンダラニ】なのだ。


 ダイカッパー・コンゴウが合わせた掌から、眩い閃光が弾ける。

 その光に照らされ、ダイカッパー・コンゴウの影が八本に分岐。それぞれの影の先端から、ニュニュニュ~~~ッ……と這い出して来たのは……なんと、ダイカッパー・コンゴウだッ!! 両眼…ツインなアイカメラが真っ黒な闇的マテリアルになっている点以外は本体のダイカッパー・コンゴウと全く差異の無い、ダイカッパー・コンゴウの分身、×八ッ!!


 地縛霊幽子の示祈歪己シキガミ能力を端的に言うと……【分身】ッ。

 八体の分身を作り出し、狙った獲物を囲んで確実に殺して【幽霊(仲間)】にする示祈歪己シキガミ……だった。


『そしてッ!!』『こうですね、幽子さん!!』

『ッ!!』


 突然ッ、ダイカッパー・コンゴウとその分身体八体が、軽快なステップで踊り出したッ!?


 否ッ!! このステップはただの陽気な愉快ダンスにあらずッ!!


『ダンスは得意だッ!! 何故なら、体育授業に置いて組体操に次ぐマイフェイバリットだからな!!』

『成程……【シャッフル】しようって訳ねぇん』


 そう、ダイカッパー・コンゴウとその分身達は軽快なステップで踊り狂い、河川敷を所狭しと舞いまくる事で、それぞれの立ち位置をシャッフルッ!!

 どれが本体か分身か、立ち位置で判別する事を不可能にしたッ!!


『ワタクシに狙いを定めさせない魂胆…まぁ、悪くはないわ』


 でもマヌケねぇん……と大天使パン・ドーラーは口角を高くする。


 ダイカッパー・コンゴウ本体の目元は、希望に満ち輝く様なクリスタル的アイカメラ。

 対して、分身の方の目元は、墨をブチまけて塗りつぶした様な真っ黒お目目。


 いくら街中ゲリラ的フラッシュ・モブを彷彿とさせる集団ブレイクダンスで激しく入り乱れようと、判別は容易で平易。何の問題も……


『お前の狙いは読めているぞ、パン・ドーラーッ!!』


 皿助の叫びの直後ッ!! ダイカッパー・コンゴウとその分身体が、一斉に手を振り上げ……その手で目元を隠したッ!!


『なッ……!? 目元を隠された……!?』


 さながら風俗サイトの風俗嬢紹介画像の如く、手で目元を隠したダイカッパー・コンゴウと八体の分身が、なおも踊り狂い続ける。


 立ち位置はシャッフルされ、唯一の相違点である目元は風俗嬢流のプライバシー保護術で秘匿された。


 大天使パン・ドーラーは、ダイカッパー・コンゴウ本体を見極める術を完全に見失ったッ!!


『皿助くんから話を聞いて不思議に思っていたわ……貴女は、【匣】を発射する時、【毎回、わざわざ照準を合わせる様に手をかざしていた】…何故、わざわざそんな事をするのか……理由は絶対にある。おそらくは、【照準を合わせる様に】ではなく、【実際、照準を合わせていた】ッ!! 【狙いを定めていた】ッ!! つまり、それが貴女の【匣】が持つ【追跡ホーミング機能】の起動トリガー!! 違う!?』

『くッ……違わない……!! 名推理過ぎる……!!』


 大天使パン・ドーラーの表情に、ちょっと悔しみが滲む。

 そう、幽子の推測通り、大天使パン・ドーラーの【匣】は、最初に手で照準を定めた対象をめちゃんこホーミングする。


『マヌケと言う心象は撤回してあげるわぁん……でも、まだ【甘い】ッ!! ホーミングを封じられた所で、ワタクシの【匣】からは逃げられないのだから!!』


 そう、まだ、大天使パン・ドーラーには第二超越権【欲望反転(アケルナ=マエフリ)】がある。

 照準適当で飛ばしても、皿助達がちょっとでも【あの匣は開けないぞ!!】と思えば【うわッ、開けたくてしょうがねぇ!! 辛抱たまらん…開けるべ!!】って気持ちにして、向こうから【匣の方に向かわせる】事ができる。

 そして、第二超越権は大天使パン・ドーラーが【対象】を決定した瞬間に発動する。


 対象は当然、皿助ッ!!


『その蕩ける様な甘さを、呪いなさぁい!!』


 発射ッ!! スポンッ!! と言う音を伴って、大天使パン・ドーラーの手から虹色の【匣】が射出されたッ!!

 そこそこのスピードで、風俗嬢流プライバシー保護をしながら踊り狂うダイカッパー軍団の方へ、真っ直ぐに飛んでいく。


『甘いのはお前だ、パン・ドーラーッ!! お前は想定できなかった……【匣が本体おれに向かって飛んで来ない】……それだけで、【俺の気がとても楽になる】と言う事をッ!!』


 大天使パン・ドーラーが【匣】を発射するやいなや、ダイカッパー軍団が動き出した。

 九体全員、真っ直ぐに、大天使パン・ドーラーへ向かって突進を始めたのであるッ!!


『ふふ、いくら開けたくてしょうがないからって、全員で喰らい付いちゃって……がっつき過ぎよぉん』

『あらあらあら…余裕たっぷりね。この後が楽しみだわ』

『へ?』

『良い事を教えてあげる……私はね……【皿助くんの守護霊】であり、【皿助くんの手になる】そう宣言してここに来たのよ』

『【手になる】……? はッ……まさか……!?』

『そう、【私】が【皿助くんの手】として【匣】を開ける……つまり、【私が匣を開ける】ッ!!』


 ダイカッパー軍団の中から、一体だけが郡を抜いて前へと躍り出たッ!! 目元は真っ黒、分身だッ!! その操作権は今、幽子にあるッ!!


 今、【匣】は皿助を、ダイカッパー・コンゴウ本体をホーミングしていない。

 つまり、標的は定まっておらず、その【匣】は誰でも開けれるフリーダムッ!!


 それを、幽子が分身を操って開けてくれる。

 つまり、皿助に【匣】は届かない。


 皿助は【俺は匣に襲われる事はない】と安心を得ている。

 なので、【匣】を【開ける】か【開けない】かなんて考える必要無し。

 皿助は「【匣】? ああうん、確かに飛んできているな。だが、分身を使って幽子さんが開けてくれるから俺にはぶっちゃけ正味関係ないッ!!」と言う一種の傍観者的心持ちでいられる。「【匣】を開けたくない」なんて思う事はないのであるッ!!


 結果ッ!!

 皿助に対しては、第一超越権のホーミング機能も第二超越権による強制【匣】開けも、効かないッ!!

 なんと、あの絶対不可避・確実必中に思えた【匣】を回避できるッ!!

 そして、【匣】を躱せば、第三の超越権、一撃必殺の効果も必然関係なくなるッ!!


 おや、おやおや……?


 これは……【攻略】できているッ!!

 大天使パン・ドーラーの【匣】を、ダイカッパー・コンゴウは今、【攻略】したッ!!


 幽子の意思がダイカッパー・コンゴウの中にあり、幽子のおかげでダイカッパー・コンゴウが分身できたからこその攻略法ッ!!


『あらあらあら!! こうやって開ければ良いのかしら!?』


 と言う訳で、先行した分身が【匣】を殴り、破壊した。【匣】が破壊され中身が外に出された事で、【不思議】が分身へと襲いかかる。


 分身に襲いかかったのは、ごうごうと燃え滾る紅蓮の炎剣。

 炎剣は紅い軌跡を刻んで分身を一刀両断ッ!! その一閃で、分身は消失。

 開封者ターゲットが消滅した事で、それ以上【匣】が開く事は無く、炎剣も【匣】も虹色光粒子になって霧散したッ!!


『ッ……そ、そんな……!! ならば、対策は単純!! 全員分、【匣】を飛ばしてやるんだからッ!!』


 大天使パン・ドーラーは、一回の精製で最大三個【匣】を造り、発射できる。そして、連射スパンは約一秒。つまり、毎秒三個の【匣】を発射できる。

 ダイカッパー軍団は残り八体、つまりあと三回の発射…あと二秒あれば充分。


 そう、二秒、あれば。


 ダイカッパー軍団は今、真っ直ぐに大天使パン・ドーラーに突進してきているッ!!

 到達まで二秒…あるのか!?


『くッ……ワタクシに、近づくなァァァーーーッ!!』


 大天使パン・ドーラーの手から、【匣】が三つ、発射される。


『あらあらあらあらあらあらッ!! 余裕が無くなってキタわねッ!!』


 その三つに、先程同様、先行した分身が【匣】目掛けて突進。次々に【匣】を開封し、先程の再現を繰り返す。デジャヴッ!!


『このッ……!!』


 一秒が経過し、大天使パン・ドーラーは再度、三つの【匣】を発射。


『あらあらあらあらあらあらッ!!』


 でもでもまたまたデジャヴッ!! 幽子が操る分身三体が、それぞれの【匣】を開封ッ!! んもうデジャヴに次ぐデジャヴ!! 圧倒的デジャヴッ!!


 だが、これで残るダイカッパー軍団はたったの二体ッ!!

 次の発射で、決められるッ!!


 しかぁしッ!! 残るダイカッパー軍団(二体)も、もう間近に迫っているッ!!


『ッ、間に合うはずッ!! ワタクシやればできる子ッ!! 【喰らえ】ぇぇぇーーーッ!!』

『あらあらあらぁぁはいはぁぁいッ!! 【喰ら】っちゃうぅぅぅ!!』


 瞬間、残る二体のダイカッパーの内一体が、大天使パン・ドーラーへ向かって、跳ねた。

 幽子が駆る分身だ。


 大天使パン・ドーラーに跳びかかったその分身に、異変が起きる。


 なんと、分身ダイカッパーのマウスガード…要するに、口に当たる部分が、横一文字にバックりと裂け開いたのだッ!!

 まるで獣の様に!! 暴走した紫色の人造人間の様に!!


『……は……?』


 幽子は以前、先程のと全く同じセリフを吐いて、皿助が駆るダイカッパーに襲いかかった事がある。

 その時、幽子が何をしたか……皆様は覚えているだろうか。


『いッただき、まッす!!』


 大きな口を裂け拡げた分身ダイカッパーが、大天使パン・ドーラーが構えた右手に、【喰らい付いた】。

 そしてそのまま、その全霊の顎力を以て……大天使パン・ドーラーの右手首から上を、喰い千切るッ!!


『づ、ぎ、ぃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!?!!?!?』


 大天使パン・ドーラーが、泥水の様に濁った汚い絶叫を上げた。

 そりゃあお前、いくら高次元生命体と言っても、流石に手首から先を喰い千切られたら痛いって。普通に考えて。


 だけど……うん。大天使パン・ドーラーには、そんな余裕は無かった。悲鳴なんて上げてる場合じゃあ、なかった。


『パン・ドーラーッ!! すごく同情するが…それとこれとは話が別と言う事にさせてもらうッ!!』

『ぎぃッ……!?』


 皿助が…ダイカッパー・コンゴウが大天使パン・ドーラーとの接触距離クロスレンジに入り、【打撃の威力を高める装備】である【覇皿バサラ】を装備した平手を振りかぶる。


 皿助も同じく、幽子に手首から先を喰い千切られた身。正味、今の大天使パン・ドーラーの状態にはものすごく同情する。場合が場合だったらば抱きしめて慰めの言葉を贈るレベルで不憫に思う。


 だが、その同情に任せて今、この勝機を逃す訳にはいかないッ!!


『幽子さんッ!!』

『あらあら、はいはぁ~いッ!!』


 皿助の声に応え、幽子が駆るダイカッパー分身も肩から覇皿バサラ射出して掌に装備。


『ッぁ、ご、の……!!』


 大天使パン・ドーラーが左手を構え、【匣】を射出しようとしたが……遅かった。

 やっぱ、悲鳴をあげていたあの時間は、致命的だった。


『さぁ、行くぞッ!!』『確か掛け声はぁぁぁ……』

『ぅ、うがぁぁぁあああああッ!! こんちくしょぉぉぉ共がぁぁぁああああッ!!』

『『ドォスコイッ!!』』

『ぼへぐぁッ!?』


 皿助が駆るダイカッパー・コンゴウと、幽子が駆るダイカッパー分身の張り手が、同時に大天使パン・ドーラーの顔面に突き刺さるッ!!


『ぎゃ、はッ……』


 腐っても堕撫尤タブー首魁と言った所か。

 大天使パン・ドーラーは顔面に思いっきり張り手二発を喰らった痛みに喘ぎながらも、咄嗟に一四枚の虹色巨翼で自身の巨躯を包み隠した。追撃に備えた防御態勢である。


 しかし、悲しいかな。

 彼女の翼はそれなりの強度を誇るが、あくまで本質は【飛行機構フライトユニット】兼【わかりやすく威厳を示すための派手な装飾品】。

 決して、【防御に特化した装備】と言う訳ではないのである。


 そんな代物で……攻撃に特化したダイカッパー・コンゴウとその分身の全力攻撃を耐え切れる道理は、希薄と言わざるを得ない。


『『ドスコォォイッ!!』』

『ぐがッ……!!』


 ダイカッパー・コンゴウとダイカッパー分身の張り手が、またしても同時に大天使パン・ドーラーへ襲いかかる。

 二発とも、虹色巨翼で形成された盾に衝突。美しい羽が派手に舞い散り、巨翼の骨組みを粉砕する。


 これで終わり……だったらば、大天使パン・ドーラーが再度攻勢に転じ、優位を取り戻す展望もあっただろう。

 だが当然、皿助達はこれで終わらせなどしない。


 ここで決める。

 大天使パン・ドーラーを倒すまで、その張り手を止める事は無いッ!!


 張り手、超連打ッ!!

 放つは、必殺【力士百人力鋼掌ドスコイ・デストロイヤー怒涛激連破ボルテマウル・オーバー極限到達ウルティマード】ッ……×二ッ!!


 言うなれば、【力士百人力鋼掌ドスコイ・デストロイヤー怒涛激連破ボルテマウル・オーバー極限到達ウルティマード烈撃倍咬(デュアルヴァイパー)】ッ!!


『『ドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッッッ!!!!!!!!』』

『ふが、が、ががががが、づ、ぎゅ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッ!?!!?!?!』


 過去最長の涛張り手ラッシュ!!

 まぁ、二倍だからね、当然だねッ!!


 たった二発で砕けた翼の盾が一四枚程度では、必然防ぎ切れるはずもなくッ!!


 ダイカッパー・コンゴウとダイカッパー分身の張り手は翼の盾をほぼ一瞬で喰い破り散らし、大天使パン・ドーラー本体を襲ったッ!!


 そして、数千発を悠に越える張り手ラッシュに、シメの瞬間が訪れる。


『『ドドドドド……ドッシャァァァァァーーーッ!!』』

『ぶぱ、ぱげるぁぁぁぁああああーーーッ!?!?!!』


 二体のダイカッパー、その張り手が、大天使パン・ドーラーの腹を突き破り、貫通ッ!! 完全破壊ッ!!


『『()達のぉ……【勝ち】だァ(よォ)ッ!!』』



   ◆



「ふ、ふふ……見事……見事過ぎるわ……チュラカワ……べー…スケ……ぐふッ……」


 河川敷に転がるパン・ドーラー。

 禁忌解禁は解け、黒髪黒目の受肉体姿に戻っているが……その腹から下はすでにもげ散り、消滅していた。

 腹から上に関しても、もうトンカチでブッ叩いたガラス版の如く細かい亀裂が無数に走っている。完全に崩壊し、天界星雲へ還るのは時間の問題だろう。


「さぁ、俺達の勝ちだ、パン・ドーラー。お前に聞きたい事があるが、構わないな?」


 ダイカッパーを解除し、元の逞しい学ラン高校生に戻った皿助。

 そしてその傍らでは、修道服に身を包んだ幽子(霊体)が「はぁ~い、ミッション・コンプリ~」とかつぶやきながら欠伸&背伸び中。


「……ええ……敗者を弄ぶのは勝者の権利……ワタクシを好きにすれば良いわぁん……まぁ、もう上半身しか残ってないけどぉ……」

「話が聞ければ良いので上半身さえ残っていれば充分だ」

「あらそぉ」

「……質問だ。絶対に答えてもらうぞ……お前達…【堕撫尤タブー】の【真の目的】とは、一体何だ!?」

「あぁ……その事……」


 皿助に問われ、パン・ドーラーはひび割れだらけの頬を少しだけ裂き上げた。その動作で、頬の表面がボロボロと崩れ落ちる。それも気にせず、パン・ドーラーは良い笑顔。


「ワタクシ達の【真の目的】…それはもう、既に【達成された】わぁん……」

「何……ッ!?」

「いいえ……今まさに、【達成されつつある】と言うのが正解かしらぁん……」

「ッ……もっと詳しく教えろ!! 一体それは何がどうして今まさに達成されようとしているんだ!?」


 堕撫尤タブーは、【生命体を選別し、悪い奴らは問答無用で廃棄処分だゾ☆】とか言うとんでもない【目的】を掲げていた連中だ。

 そんな連中の【真の目的】、達成させて良いものだとは思えないッ!!

 皿助としては、なんとしてでも、それこそ運命を捻じ曲げてでも、阻止したいのだッ!!


「ふふ……必死ねぇん……何か、勘違いしているんじゃあないの? ワタクシ達の真の目的は……貴方の性格から考えて、【阻止したい】と考える様なものではないわよぉ……」

「……え……?」

「ま、それもそうよね……バレネッタが画策した【未来】に辿り着くため、貴方にそう言う【ピエロ】を演じさせていたのは、ワタクシ達だもの……」

「【ピエロ】……【ピエロ】だと……!? 俺は【ピエロ】だったと言うのか……!?」

「……もう、【全て】が終わる……貴方を【騙す必要】は、もう無くなる……今こそ、話しましょう……堕撫尤タブーの、全て……三〇〇年前に起こった、【歓喜】と【悲劇】のお話を……」

「……………………」


 不敵な笑顔のまま、パン・ドーラーは語り始めた。

 昨夜から始まった堕撫尤タブー騒動と、三〇〇年前の堕撫尤タブー騒動。

 それらが一体どう言う【使命】と【目的】と【真の目的】があって起こされた事なのかを。


「ワタクシの名は……【Παν(パン)δωρα(ドーラー)】……この名の意味は……【素晴らしき贈り物】」


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