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ツモってあそぼ!〜VTuberたちの麻雀コラボ〜  作者: 永久保セツナ


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3/12

第3局 初心者ゆえの奇跡

 今回はコラボのため、三麻(さんま)――3人麻雀で行われた。


「テンホー・立直。あなたの不合理な打牌を叩き潰します」


「はあ~? テンちゃんが飛ばされる前にあなたを箱下まで叩き落してあげる」


「うんうん、ユエさんもレンちゃんも白熱してるね! これは撮れ高が楽しみ!」


 牌が配られ、3人はそれぞれ自分の手牌を見ながらどんな役が組めそうか考える。

 最初の親――東家(トンチャ)はユエ。迷うことなく一萬(イーワン)を河に捨てる。


「このチャンネルで三麻初めてだし、リスナーさんに軽く説明しておくね!」


 テンちゃんは牌を切りながら喋り始めた。


「三麻は萬子(マンズ)が1と9しかないから、階段が作れないんだ。だから最初に切られることも多いよ」


「一萬や九萬を残しても、雀頭もしくはコーツで使われることが多い。それゆえ、配牌の時点で1枚しかない場合、残しておくのは効率的ではありません」


「なるほど。ユエさんは効率主義ってわけね」


 レンちゃんの指摘に、ユエはパチパチとまばたきをする。


「何を言っているのですか? 麻雀とは牌効率が全てです。どこまでも効率を追究し、どこまでAIに近い打牌ができるか、そこに尽きる。ゆえに、私はテンホー・立直を非効率の極致と呼んでいるのです」


「言ってることは正しい。けど……気に入らないな」


 レンちゃんが牌を横に曲げ、1000点棒を卓に叩きつける。

 その音は、いつもの楽しい配信のそれではなく、冷たく鋭い「宣戦布告」の響きだった。


「――立直」


 途端、立直専用のBGMが流れ出す。


『処刑用BGMキター!』

『……あ、これレンレンがマジな時の音だ』

『あ、あのダマテンアサシンのレンレンが立直を……!?』

『行けーっ! 刺せーッ!』


 コメント欄が熱気で盛り上がる。


「私は、テンちゃんと私の夢を壊す人間を許さない」


 レンちゃんの目は夜の底のような温度をしていた。

 ユエは、それを意に介さず、牌を引く。


「……残念。ツモです」


「なッ!?」


 ユエの手が引いた牌を置く。


「ツモ、タンヤオ、三暗刻(サンアンコー)、ドラ3。親の跳満(ハネマン)、18000点です」


「――ッ!」


「わ、開幕から高得点だ!」


 テンちゃんとレンちゃんの点棒が9000点ずつユエに渡った。

 レンちゃんの顔に焦りが浮かぶ。

 ――この人、言葉に棘がある。けど、間違いなく強い。

 テンちゃんをこれ以上、傷つけさせるわけにはいかない。

 なんとか和了って親を流さないとまずい、と拳を握りしめた。


「現時点で私のトップ率は87.4%。ここからテンホー・立直が逆転できる確率は、天文学的な奇跡を待つ以外にありません。……無駄な抵抗です」


 ――……この人、本当に人間? 打ち方に一切の迷いがない……!


 レンちゃんは信じがたい思いで唇を噛む。

 東1局、親のユエが勝ち越して1本場。


「ダブルリーチ」


「は!?」


 第1打からリーチ宣言牌が置かれる。

 ユエ専用の冷徹な旋律の立直BGM。

 低く、規則的な電子音が、雀卓そのものを制御するかのように鳴り響き、対局者の思考を一拍ずつ追い詰めていく。


「宣言しておきましょう。私は五面張(ゴメンチャン)です」


「な……」


「えっ、五面張って待ちが5種類あるってことだよね!? すご!」


 声が詰まるレンちゃんに対し、テンちゃんは素直に驚いていた。


「……テンホー・立直。あなたには恐怖という感情が欠落しているのですか?」


「え、怖いけど、別になにか失うわけでもないでしょ?」


 テンちゃんの言葉に、ユエはピクリと眉を動かす。


「……なるほど。そうですね。あなたは雀士を職業としているわけでもない。あくまでエンジョイ勢」


 ユエの声色には失望が混じっていた。


「では、大人しく私に振り込んで箱下にでも行けば良い」


「せっかくのコラボだから、少しでも長く打てるように頑張りたいなあ」


 テンちゃんは事実、いつもよりは慎重に安全牌を探っている。

 レンちゃんも無事に打牌し、一巡した。


 一方、後方腕組みリスナーの一部は、この状況を冷静に見ている。


『今のリーチ、期待値的には正解だけど、テンちゃん相手に「正解」を打つと死ぬぞ……』


「……立直一発は回避しましたか。しかし、私の優位には変わりない。おまけにダブルリーチでは捨て牌を手がかりに安全牌を探ることも至難――」


「じゃあ私も立直しちゃお!」


「は?」


 テンちゃんの追っかけ立直。

 ユエの立直BGMが張り巡らせた冷たい支配領域を、テンちゃんのおもちゃの行進のように軽やかな旋律が、無遠慮に塗り替えていった。

 ユエのメガネも思わず割れそうになる。


「……この状況で追っかけ? 放銃のリスクが高すぎる。よほど待ち牌が良形? いやしかし……五面張に勝てるわけが……」


 動揺するユエは、それでも冷静、平常心を保とうと――。


「あっ! ロン! それロンだよ!」


「はぁぁぁ!?」


 ユエは立直をしているため、当たり牌を引くまでは引いた牌を捨て続けなければいけない。

 その捨て牌が刺さった。


「……なぜ、この牌で待ったのですか? カンチャン、おまけに残り牌は1枚だけ。あまりに博打すぎる。ハッキリ言ってあなたは頭がおかしい」


「え、なんか立直のボタンが出たから」


「――」


 ユエがフリーズしたように動きを止める。


『草』

『ユエさん、五面張をカンチャン1枚に抜かれるとか、これもう呪いだろ』


 しかし、リスナーにとって、このテンちゃんの「初心者ゆえの奇跡(ビギナーズラック)」もお馴染みのものであった。


「――ありえない。1枚切れのカンチャン待ち? 期待値マイナスの極致。そんな打牌が、私の完璧な五面張を……? ――エラー。計算不能。宇宙の法則が乱れ――」


 ボカンッ!

 派手な音と共に、ユエの立ち絵のメガネが爆散し、そのまま消滅した。


「ゆ、ユエさーん!?」


「理解不能……。これ以上の対局維持は不可能。レンホー・立直。棄権します。もう私の負けでいいです」


「え、あ、はい」


「お邪魔しました」


 ユエは画面から立ち絵を消し、退室する。


『なんだったんだ……?』

『嵐のような女だったな』


 リスナーたちがざわめいたあと、テンちゃんは「レンちゃん、どうしよっか」と話し合う。


「配信終わりにする?」


「まだ時間余ってるから、通常通り参加型配信に戻そう」


「はーい! じゃあ『参加希望』で受け付けるよ~!」


 ――こうして、『ツモってあそぼ!』は平和を取り戻した。


 ユエは、ひとりで反省会を行っている。


「テンホー・立直……いったい何者なの……。私の効率を追究した脳髄にバグが混じったような感覚……解析しなければ……」


 実のところ、テンちゃんは初心者ゆえに何も考えていないのだが。

 こうして、ユエも『ツモってあそぼ!』の常連リスナーとなる。

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