第2局 機械仕掛けの月女神
「レンちゃん! コラボのお誘い来てるよ! やったー!」
配信から数日後の朝、レンちゃんが眠い目をこすって居間に来ると、テンちゃんはぴょんぴょんと飛び跳ねるように、はしゃいでいた。
「テンちゃん、マンションだから下に響くよ。それで、そのお誘いって何?」
テンちゃんがふんすふんすと興奮気味にスマホの画面を見せる。
そこに映っているのは麻雀配信チャンネル『ツモってあそぼ!』のSNSアカウントに届いたDMの文面。
「VTuberの『ユエ』さん……初めて見る名前だね。誰だろ……私たちのチャンネルに来てたっけ?」
「私も知らないけど、きっとチャンネル見てくれたんだよ!」
レンちゃんは落ち着き払った態度でDMに目を通した。
そこにはこう書かれている。
『平素よりお世話になっております。VTuberのユエと申します。突然のご連絡失礼いたします。貴チャンネルの配信を拝見しました。貴殿の打牌における期待値の欠落について議論の余地があります。対局を希望します。つきましてはコラボの予定のすりあわせを――』
「……なにこれ」
「すごく丁寧なDMだよね!」
――丁寧というより、慇懃無礼に見えるんだけど……。
レンちゃんは内心、相手に対する不信感を抱いた。
「テンちゃんはこの人とコラボしたいの?」
「うん! 麻雀を通して色んな人と知り合えるの、良いことだと思うよ!」
「……そう。テンちゃんがいいなら、私もいいけど」
「やった! じゃあお相手さんとコラボの予定を合わせよう!」
テンちゃんは嬉しそうにスマホをいじり、ユエと連絡を取る。
こうして、立直姉妹の初めてのコラボ配信が決定した。
数日後、いつもの配信の時間、夜の20時。
「はーい! 皆さんこんばんは~! 『ツモってあそぼ!』の時間だよ~!」
「今回は初のコラボということで、テンちゃんがいつもよりテンション高いです」
黒髪に赤チャイナのテンちゃんと、白髪に青チャイナのレンちゃんが画面に並んで映っている。
その間には、人がひとり分入るスペースが空いていた。
『コラボ! めでたい!』
『女の子だよな!? 立直姉妹の間に挟まる男などお父さん許さんぞ!』
「誰がお父さんですか」
リスナーのコメントにジト目でツッコむレンちゃんは通常運転である。
「今回のコラボ相手は~! じゃん!」
テンちゃんの掛け声と同時に、相手の立ち絵が表示された。
サーバーチックなスーツに、月の意匠が入った近未来的なデザイン。
銀縁のメガネの奥には冷徹な目が光っている。
「V雀士のユエと申します。皆様、お見知り置きを」
『ゲェ~ッ!? ユエさん!?』
『AI並みの期待値で「機械仕掛けの月女神」とかいう異名を持つVTuberだよ、そいつ!』
『なんでこんな弱小エンジョイ系麻雀チャンネルに来てるのぉ!?』
「えっ、ユエさんって結構有名人!?」
「っていうか今、弱小とか聞き捨てならない単語が見えたんですけど」
ざわつくリスナーと立直姉妹を尻目に、ユエは淡々とした口調で話し始めた。
「先日、立直姉妹の配信を拝見しました。それで我慢ならなくなったのです」
ユエはテンちゃんを厳しい視線で見ている。
「テンホー・立直。貴方の打牌は非効率の塊。字一色を狙って南をカンするなんて、成功率を自分で削っているようなものです。それは打牌ではありません。ただの浪費です」
「は?????」
即座に反応したのはレンちゃんのほうであった。
彼女の声音に怒気が混じる。
「ユエさんって言いましたっけ。あなた、そんなことを言うためにコラボを申し込んだんですか?」
『そうだそうだ、言ったれレンレン!』
『コラボ相手に喧嘩売りに来るのヤバすぎて草』
『ギスギスしてきたな』
『さすが機械仕掛けの月女神、人の心がない』
一瞬にして空気が悪くなった。
コメント欄も煽るなどして混沌とする。
「す……」
テンちゃんは言葉に詰まってしまった。
「……すっごーい! 道場破りってこと!? 私、生で初めて見た!」
「テンちゃん??」
「レンちゃん、うちのチャンネルもとうとうこの領域まで来たんだねえ」
「いや、多分絶対違う……」
テンちゃんはレンちゃんの両手を握ってブンブン振る。
レンちゃんも、もちろん彼女のポジティブさに困惑しているのだが、それ以上に腑に落ちないのはユエだった。
「……理解に苦しむ。このチャンネルは麻雀道場だったの?」
「そのツッコミもなんかズレてるんだよね……」
「じゃあさ、じゃあさ! 早速打とうよ! 楽しい対局にしようね!」
配信画面が雀卓に切り替わる――。




