第8話 「作戦会議」
レロスとリーナスは、魔王軍穏健派のアジトへと足を運んだ。
というのも、再び過激派からの襲撃予告が律儀に行われたためだ。前回に襲撃とは比べ物にならないスケールでの襲撃がすでに予測されている。つまり、過激派が甚大な被害を起こしかねない状況であることがほぼ確定しているのだ。
「来てくれたか、レロス!前回は本当に助かったよ」
そう言って無事生還したことをウヌクが喜び、駆け寄った。しかしレロスのそばには相変わらずリーナスが小さい子供のようにがっちりとつかまっており、頬を膨らませてウヌクのことを睨んでいる。まさに小さな子供がぶーぶーと文句を言わんばかりの顔で。
ウヌクは困った顔でレロスを呼ぶ。
リーナスは自らから離れようとするレロスが再び1人で何かしようとしてまた死のうとしているのか、と深く考えて駄々を捏ねた。
「嫌だ!レロと離れたくない!!」
「リー、落ち着いてってば!深く考えすぎだってば!」
側から見ればただのバカップル。ウヌクは呆れつつも呼んだ。
「レロス、何があればああなる...?それとなんだ、“リー”だの、“レロ”だの...」
「ああなったのは俺の失態が原因。呼び名は...距離が縮まったから、かな。ああやってすぐ駄々こねるし、くっつかないと何をしでかすか不安なんだとか」
それはもう、充分なほどにレロスのことを意識しているのでは、とウヌクは思ったがこのむず痒い感情を浴び続けるのも好きなのであえて黙った。
「本題に入ろう。件の過激派襲撃予告の件だ」
ウヌクは改まってそう言った。
よほどの事態なのだろう、彼も冷や汗をかいている。
「まずまず過激派の襲撃予告が律儀に行われたのは前回が......およそ55年前だな。それ以来の形となる。こういう形での襲撃は、大体が大規模なので、いつも以上に、入念に対応しなければならないんだ」
レロスとリーナスはお互いに顔を見合わせた。
魔王軍過激派。言ってしまえば国家規模のテロ集団。旧魔王軍の野望だった人類の殲滅を目標に掲げているとんでもない集団である。
「それで、前回の55年前はどうやって対処できたんだ?」
レロスは疑問を抱いたので即座に質問を投げ飛ばした。
「前回は失敗している。予告時間を信じ込みすぎていた。彼らは時間を守る気はない。ただただの目安だということがそれでわかった」
過激派はどうやら予告時刻をきっちり守らない集団のようだ。そんな集団とこれまでどうやって渡り合ってきたのだろうか...
「ひとまず守りを固めておくのが最善じゃないのか?」
「そういうわけでもないんだよ、奴らすでに潜入してる可能性だってある。俺も魔王軍の全員がどっちの派閥にいるのか把握してないからな」
「それじゃあ、有力人物が裏切ってくる可能性も、あっちから裏切ってこっちにやってくる可能性もあるのか」
「まあそういうことになるな」
レロスとウヌクは軽い問答を交わす。
レロスの腕には現在もリーナスがひっついている。ちゃっかりレロスからの配慮としてローブから腕を出して掴みやすくしている。
「…それで、レロ。この件はどうするつもりなの?」
「どうするって、普通に参戦するけど…」
「…なら私も参戦する」
リーナスはじっとレロスのことを見つめてそう言った。
おそらく彼女は自分のことを心配しているのだろうが、レロスは自分に好意を持っていると淡い期待を心のどこかで思っていた。
レロスはウヌクへ目線を向け、続けて話を進める。
「傾向的にどう言う形でやってくるんだ?」
「空爆、といった感じだな。王都の壁沿いから順に、どんどんと内側にやってくる可能性が極めて高い」
ウヌクとレロスの間でひたすら議論は交わされて行く。
時折脱線したりしたが、それでも概ねの作戦は決定するのだった。
「────それで、『王都周りに防衛軍を配備してそれぞれ動く』…それでいいんだな?」
「ああ、それでいいとも。まあ任せたまえ、我々の計画が内通されていない限りは真なる作戦にも気づくまい!」
真なる作戦というのは、こちらから先に先制攻撃を行うという作戦である。相手の混乱を狙っている…らしい。
どこまでもまあカッコつけたいのか、とレロスは思うのだった。
「まあ少なくとも攻撃は3ヶ月ほど先だ。それまでクエストなりなんなりして…2人で絆を深めるのもありではないか?」
ウヌクはこっそりそう耳打ちする。
「お前なあ………はあ、わかった。じゃあありがたくそうさせてもらうよ。リー、行くよ」
リーナスにそう声がけするレロスだったが、返事をしなかったのでふとリーナスに目を向けると、頬を膨らませていた。なんでも、「自分のことをそっちのけで話そを勝手に進めていたことに怒っている」のだとか。レロスは「本当に何から何まで可愛い子だな」と思った。
「ごめんな、リー。無視するように話を進めてしまって」
「…いいよ、別に。気にしてなんかないし!」
ぷいっとリーナスは外を向く。
ちょっと怒っているような仕草もしていて、とことん可愛らしい。
「さて、お邪魔しました。作戦のこともよろしくお願いしますね」
レロスは一礼して、リーナスを当たり前のようにおんぶして連れ帰った。
「なあリー、そろそろ許しておくれよ…」
「いーやーだー。絶対に許さない。次のクエストはレロスが私を守って!!」
「うう…わかった、わかった。わかったから!くすぐるのは…やめてくれよぉぉぉおおぉぉぉ!!」
大笑いしながら家に帰るレロスとくすぐり続けるリーナス。2人の姿はどことなくバカップルを彷彿とさせるものだった。
数日後、レロスは立方体を手に、草原で大量のモンスターと相対した。
「あの、多すぎやしませんかね…」
「多くないよ!これくらいこなさないとね」
「だってこれ…周りに100匹くらいいるぞ!?これでどうやってやれってんだ!?」
「頑張ってね〜」
グッと親指を上げてニコッとする彼女はまさに鬼畜だった。呼び寄せたのは他の誰でもない、彼女だった。
「そもそも大人数向けのクエストだろこれ!!」
「あれー、そうだったっけー、ごめーん」
「すげえ棒読みだなおい!!!」
リーナスはそっぽを向いて口笛を吹いているような素振りを見せた。
あとでリーナスには説教をするとして、ひとまずこの魔獣の群れをどうにかしなければならない。
「…まあ、お前がいるしな。ひとまずは解決できるよな」
手元の立方体にそう言ってのける。立方体は呼応するように点滅したのち、徐々に黒く染まる。
「見てろ、リーナス。お前が消しかけたこの魔獣は…一瞬で消える」
リーナスにそうレロスは言って見せたが、リーナスは信じ切れなかった。
いままで自分のアシストなしで魔獣の群れを片付けることすらできなかった男が、どうやって対処できるのか。
魔王軍幹部襲来の際も、闇属性魔法で応戦していたようだったが、実際にこの目で見てはいない。
「ブラックホール」
レロスの前にいた魔獣の群れに向かって立方体から黒いモヤが放出される。そうして世界は再び、闇に閉ざされた。
リーナスは闇に閉ざされる直前に一瞬だけレロスの思い描く「闇」を視認した。
その闇は、花が咲き乱れる広大な野原の上で輝く星々が見えていた。一瞬とはいえ、見惚れてしまった。
これなら魔王軍幹部をも惑わすこともできるのかもしれない。そう思った。
リーナスは信じ切れなかったレロスの現在の実力を目の当たりにし、目の前で立っているレロスのことを見つめることしかできなかった。
───自分の後ろにいる魔獣の群れの残党にも気付かず。
気づいて振り返った時には、魔獣たちはその場で静止していた。
「あんまり近づくなよ、俺のパートナーにさ」
レロスがそう言った直後に、魔獣の群れは一匹ずつ真っ二つに切り裂かれた。血はたちまち吹き出し、体の中のありとあらゆる臓器もよく見える。
「ふぇええええ…」
リーナスは変な声を出して腰を抜かし、その場に座り込んだ。
「危なかった。こいつがいなければリーナスは重症だっただろうな」
そう言って見せたのはあのブロック…否、立方体だった。どこか自信ありげに光っていたそれは、しばらくしてからポーチに吸い込まれるように入っていった。
「さあ、リー。話をしよう」
レロスはそう言ってしゃがんでリーナスの目線に合わせる。
「リーは俺の実力を分かってなかったからしょうがなかったけど、あんな大技本来は使うべき場面じゃなかった。それに自分の命の危機にすら気づけなかったじゃないか。…二度とこんな真似はしないでほしい。これはパートナーとしてのお願い」
レロスは真摯にお願いした。実際2人して命の危機だったのは間違いなかったのだから。
「ご、ごめんなさい…」
ちょっと泣きそうな声でそうリーナスは謝ったのだった。
レロスはほっと安堵の息をついてから、そっと頭を撫で、慰めてからおぶって自分たちの帰るべき場所へと帰宅したのだった。




