第7話 「絆」
「ずっと、貴方を殺したくてたまらなかったの」
彼女は不気味な笑みを浮かべてレロスに斬りかかった。
レロスは必死で避けることしかできない。
「待て待て!どういうことだってんだ...!」
リーナスは、ここまで1ヶ月近くの間、仲睦まじく過ごしていた。彼女からの不信感といったものは、感じることは全くできなかった。感じていれば、パーティは解散したり、あらゆる結末を生み出していただろうが、今日この日まで存続できていた。それはレロスとリーナスの相性がよく、仲良くできていたことの一種の証明となる。
そんな仲良しコンビの2人が衝突する。そんなことがあっていいのだろうか。
「リーナス、落ち着け!俺は何かしたのか!?」
「何かしたってわけじゃないわ...あなたと出会ってから狙っていたの。あなたの命をね」
ますます訳がわからなくなる。どうして俺なのか...わからなかった。理解したくてもできない。
なぜこのタイミングで...?まさか彼女は魔王軍過激派のスパイだったとか...?レロスの脳内は、疑うことしか考えられなかった。
リーナスはそんなことをする人間ではない。そんなこと、他の誰よりも俺が一番よく知っているのだから。
することはないと、そう信じたかった。
「そっちがその気なら…例えば好きな人だろうとやってやるぞ…!」
心は痛むが、仕方ない。
彼女がその気なら、自分はこの世界の真相究明を目指すべく生き続けなければならない。そう思って、魔法を詠唱する。
「ポラリス」
リーナスの目には、広い草原で綺麗な夜空が広がっていた。そこに、目を奪うように輝く星が「2つ」。
「…北極星って2つもないでしょ。なんの意地悪な訳?」
そんな言葉を発した直後だった。
彼女は、倒れ込んだ。否、上半身と下半身が泣き別れになった。
体の中に張り巡らされている臓器といった内臓物はは汚い音を出して地面に落ち、血はたちまち大量に吹き出した。
あたりは血まみれに、レロスも血を浴びて赤くなった。
「油断したな、偽物。俺の中ではすでに結論に達している。お前はリーナスの皮をかぶった化け物だ。俺の好きな人を汚した罪は大きいぞ」
レロスは酷い怒りに満ちていた。
目には光は宿っていない。返り血を浴びて血塗れで。
ただただ目の前の敵を殺すことに全てを捧げている。
そんな彼の手には、立方体しか乗っていない。剣といった鋭利なものは一切握られておらず、何をどうやったら彼女を真っ二つにできるかはわからない。
彼の腕が剛腕で、腕を人に当てたら切れてしまうのか、それとも手刀で簡単に切れてしまうのか。
「酷いよレロス…女の子をこんな目にして…」
「酷いのはどっちだよ。舐めてるのか、お前。お前の口から発された言葉なんて、聞く価値もない」
そう言い切って、さらに彼女を切り刻んだ。
愛人の皮をかぶった何かを、無慈悲にも微塵切りに。二度と生き返らないように。二度とその顔、その声で生きていけないように。
「お前なんて、生まれなかった方が良かったんだよ」
そう言い捨てて立ち去ろうとした。
「全く酷いよ、君ってやつはさ」
切り刻んだはずの“リーナス”は当たり前のように背後に立って後ろから抱きつく。
「んなっ...切り刻んだはず...」
「流石に私でもあれは避けられないよ。短期間でだいぶ上達したみたいだけどさ、やっぱりまだまだ使い慣れていない」
レロスはその言葉を聞いてから、体制を崩した。
致命傷は普通に考えれば避けられないであろう位置に一刺し。
「最期に教えてあげよう」
リーナスはそういって真の姿を見せ、レロスを踏みつけた。
「私は魔王軍7大幹部が1人、エフェル。君の世界の言葉で言えば...「色欲」さ。まあ、また来世でね!」
そう笑って去って行こうとした...その時だった。
炎の魔法が、レロスを踏みつけていたエフェルを燃やそうとしたが、軽々と避けられてしまった。
「レロス...!?な、なんで...!」
炎の魔法を放ってから回復魔法を発動させたのは、リーナスだった。
リーナスは青ざめた顔でレロスを見て駆け寄り、治癒魔法をかけ続ける。過呼吸気味で、涙を流しながら、必死で生き返らせようとする。
「リーナス...逃げろ...!」
「嫌!絶対に嫌!死ぬなら一緒に死ぬ!!」
駄々をこねる子供のように、彼女はそう言った。
泣きじゃくって、とても必死に。
「レロス無しで私は誰と...!パーティを組んでくれるわけ!?私なんて『あなたとは組めない』とか言われてずっと拒否されて、やっと組んでくれたのがレロスだったよ!?死なないでよ!お願いだから...!!!」
涙を流しながら彼女はそう言う。
レロスは死にかけながらも彼女を想い続け.......意識を失った。
目が覚めた時、見えたのは天井だった。
病院だろうか、とにかく白い。ふと隣を見れば、花が飾ってあった。立方体も置いていた。レロスが起きたことに呼応したのか点滅して何か合図を送っていてからポーチの中へ入っていった。
「...状況を確認しな...」
起き上がってから、自分の腹で寝ている誰かがいることに気づいた。リーナスだった。
リーナスのそばには、「色欲」に関する資料、そして、家に飾ってあったパーティ結成記念の2人で撮った写真が置いてあった。
「ごめんな...俺が未熟すぎたばかりに...君をこんな目に合わせて...」
途中まではよかった。まさか生き返るなんて思いもしなかった。本当にそんなことをできるものが実在するなんて。あんなに切り刻んでなお生きることに執着しているのだろうか。
そう想いながら、頭を撫でる。
「…本人には申し訳ないけど、本当に可愛いなあ...」
目覚めた時に初めて見た人間が彼女で本当によかったと思う。しばらくしてから、彼女は目覚めた。
「レロス、おはよう...あの日から3日...ずっとあなたは昏睡してる...私が目を離さなければ、レロスは...大事なあなたは、こんな目に遭わなかったはず。これは私の失態。だからどうか...今日も許して」
そういって彼女は顔を上げてレロスの顔を見る。
レロスは、頬を赤らめてリーナスを見つめていた。ポカーンと口を開けて。
「レロ...ス...?起きて...いやこれ、夢。絶対。早く起きないと」
そういって自殺する準備をするリーナスを見てレロスは、急いで止めようとする。
「待て待て待て待て!死ぬな!俺は起きてる!生きてる!」
「へ...?これ...夢じゃない...の...?現実...?本当に、じゃあ、レロス...なの?」
「ああ、俺だとも。貴女の友人であり、貴女の唯一無二の...パートナー、レロスだよ」
パートナーという言葉を言うに詰まってしまう。変な誤解を与えたらまずかったが、杞憂だった。
気づけば彼女は泣きじゃくって、彼に抱きついたのだから。
「レロス....!生きててよかったよおおおおおおおおお!!!」
勢い余すぎて首に腕を回し、その腕で首を絞めるようにかなりキツくくっつく。
「リーナス!リーナスさん!首!首しまってるううううううう」
その後レロスは、リーナスに勢い余って抱きつくなら首を絞めるなと注意した。
「あのお、リーナスさん...」
「なに?レロス」
「そんなくっつかなくても良くないですか...?」
退院した直後、彼女はレロスの腕にずっとしがみついていた。
恋人でもないのにな...いやそうあって欲しいとレロスは思いながら内心まんざらでもなく、嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「いいえ、くっつかないと私が不安。だからくっつく。嫌?」
「嫌じゃないけど...むしろ本望...いや違う、ちょっと恥ずかしい、と思ってて...」
うっかり本音が漏れてしまったが、実際その通りで恥ずかしい気持ちと同時に嬉しい気持ちも込み上げていた。
レロスにとっては好きな女の子からこんなことをしてもらえて嬉しさでどうにかなってしまいそうだった。
「嫌じゃないならいいでしょ?私は今こうしていたいの」
リーナスはそう言う。目を離せばまた死にかけになるかもしれないと思いながら。心のどこかでは、この人から離れたくない。そう想いながら。
死にかけにはなったが、魔王軍の一軍、幹部と互角に戦ったレロスは、街からは称賛の目を向けられていた。リーナスも聞いた。黒いモヤが過激派をたちまち全て「吸い込んだ」という目撃情報を。
さらに聞いてみれば、四角い何かを持っていたレロスが何かをつぶやいてからモヤが一瞬大量に出てから吸い込んだとかなんとか。
四角い何かはおそらく立方体のことだろう、2人は何処かと相性がいい。なんの因果かわからないが...とリーナスは思いながら、大事な人であり、大事な友人であり、大事なパートナーであるレロスから離れまいと、腕にずっとしがみついて離れなかったのだった。




