第4話 「関係性」
丁寧な口調でその男...ウヌクは、魔王軍幹部、と名乗った。
突如として現れたヴィラン的存在に、レロスは迷うばかりだった。
「急に話しかけてきて、急に魔王軍幹部って...なんなんですか...?」
レロスは今や聞くことしかできない。
否、それしかできない。何をしでかすかわからない。
今は丁寧な態度をしているが、その口調のまま急に暴れ出すかもしれない。
予測不能。それが今のウヌク、という男に相応しい言葉だった。
「そう警戒しないでいただきたい、お兄さん。我々魔王軍は今はただの魔族のアイデンティティを維持するための組織にすぎない。幹部は指導者としてあちこちにいるだけだ」
ウヌクはそう説明した。
しかしレロスは不審さを拭いきれなかった。
なぜ、今自分たちの前に来て、魔王軍を名乗ったのか。慣習なら仕方ないとはいえ、怪しさ満々である。
「怪しさを拭いきれないというならば...ふん!」
投影されたのは、ある1日の業務...らしい。
映し出されていく中で、会議を行う様子や、人助けをする場面も見られた。レロスのウヌクへの不審さは、ひとまず拭い切ることができた。
「...で、なんでここにいるんだ?」
レロスはリーナスと共に暮らしている一室でウヌクに対してそう言った。
「え?居たらまずかったか?お邪魔だったか?」
「ちっげえよそういうことじゃねえよ」
どうやら誤解されているようだ。リーナスとはまだそこまで関係を踏み込めていない。
パーティ結成から2、3週間は経過したとはいえ、まだまだである。
幸いにも今の話はリーナスには聞こえていなかったようでひとまず安心、だが...
「それでなんで俺らのパーティに入りたい、と?魔王軍の部下と組めないのか?」
「みんな俺に畏怖してしまうんだ...」
魔王軍幹部。魔王軍の歴史は古いので少なくとも200年近い歴史を築いているらしい。
200年。長そうに見えてちっぽけだし、その逆も然り。
その歴史の中で見れば、自分たちはちっぽけな存在なのだろう、と考えた。
「畏怖するのも仕方ないと思うけどね。まあ、幹部ってだけで俺はへこへこしちゃうかな」
レロスは笑いながらそう言う。
「どうぞ、コーヒーです」
リーナスがコーヒーを淹れてくれた。...苦かった。
「美味しいコーヒーですね、お嬢さん。カフェで働いてみては?」
「いいえ、私は魔法使いとして頑張るって決めてるの。今は...私を必要としてくれてる人がいるから」
そう言いながらレロスが視界に入る。自然と目で追ってしまう。自分を必要としてくれる人。自分にとって、とても大事な人。
「ん?何か言った?」
レロスはコップを洗い物に出していたので良く聞き取れなかったらしい。
「いいえ、大したことない。」
ほんのちょっと気まずい。
でもそれがいい。むず痒くてもいい。
レロスはそれが心地よかった。
「…ああ、そうなのか」
ウヌクはそう言ってから立ち上がる。
何やら察したようにレロスにウィンクしてからドアの前に立つ。
「それじゃあこれで失礼するよ。また機会があれば、その時はよろしくね」
そう言って、訪問者は立ち去った。
「...なんだったんだろう、あの人。急に訪問して、変なこと聞いたりして...」
リーナスはそう言い切った。
すごく不愉快だったらしい。
「なんだかナンパみたいに見えたし。あー、きもいきもい!」
リーナスは不機嫌そうにそう言う。
レロスはどうとも思わなかったが、確かに言い寄る様はナンパに近かったかもしれない。
ウヌク自身の話によれば彼は魔王軍幹部で、敵対する意思はないこと。それは確か。
「ひとまず落ち着いて...ね?一時的な来訪者だったし」
レロスはリーナスを宥めるようにそう言う。
「うん...ごめん」
リーナスは素直に謝った。ソファに腰掛けてコーヒを口にした。
少しため息をついてからリーナスは口を開いてから、レロスを隣に招いた。
「私...ああいう人は嫌い。一緒にパーティを組んで...よかったの。うん。そう、よかった。とてもね」
急に自分のことを褒め始めたので、レロスはびっくりした。
恥ずかしくて頭を掻いた。
「あー...そう...?」
レロスは恥ずかしい思いのまま、そう聞いた。
「うん。頼りにしてる。とてもね。コーヒー飲んだら、気も紛れたわ。ちょっとのんびりしてる」
そう言ってリーナス自室へ向かっていった。
「寝ててもいいから。その時は...起こすし」
レロスは控えめに言った。夜這いと思われたくないからだ。
「ええ、その時は、お願い」
「これは一体...本当になんなんだろう?」
そう言って手に取ったのは、先ほどモンスターを撃退した立方体だった。もはやブロックではない。魔法を術者から受け取って放つ道具ですらない。なら一体これは...?
「お前が意思を持っているなら、何かの手段で教えてはくれないだろうか。いや、無理強いはしない。さっきは助けられた。それは、本当にありがとう。感謝してもしきれないんだ」
実際に彼が死にかけのところで立方体が助け舟を出したのだから、意思を持っている...のかもしれない。
立方体は動じなかったが、少し点滅した。何かしらの手段で反応はしているようだった。
自分の言葉に反応したのであれば、もしかして本当に意思が...?
「どちらにせよ、お前は俺をこの世界に連れてきた...元凶は言い方が悪いな...ええと、キーパーソン?いや、人じゃないもんな。異世界への扉の『鍵』ってところかな?」
立方体は反応するようにレロスの発言一個一個に点滅した。
「俺の言葉を聞き分けているのか?まるで人工知能みたいだな...そのうち喋れたりしそうだな」
聞き分けている、というところには反応を示し、その後は一切反応しなかった。
しばらくすると立方体が机の上にある一枚の紙切れを生成した。
前の所持者が書いていた...とみられる紙切れだった。
「なになに...?」
レロスはその紙切れを読んでみた。
『この立方体は、持ち主次第で役目は変わる。誰であっても、取り扱いには注意することだ。一番危険なのは、それがとんでもない代物だって気付かずに所持することだ。』
...と、立方体のイラストと共に記載されていた。
「え...そんなに危険なのか...?」
立方体に目をやる。立方体は動じなかった。点滅すらしてくれない。「もう答えた。要件はもうないだろう?」と言わんばかりに。
「ああ、そうだな。俺の今の最大の疑念が少し解けた......かな。まあでも俺の手元にある限りは、悪いことには絶対使わせないぞ」
そう言って、立方体は新たな在処...腰のポーチに収納されたのだった。
疑念は晴れたが、再び疑念が生じた。最後の文。
「一番危険なのは、それがとんでもない代物だって気付かずに所持することだ。」という一文。
リーナスはどこでこれと出会ったのか。
この立方体について...少なくともこの謎は自分が解いてみせようと、心に誓ったのだった。




