第3話 「暗がり」
あのオオカミの一件後、ギルドにレロスたちが報告したことで、あの森にオオカミが出没する異常事態が正式に発覚した。
あのオオカミたちはどうやら何者かによって連れられ、そこに潜んでいたという。
現在は王国軍が駆除したため、あの森にオオカミはいない。
「一体誰があんなことしたんだろうな...」
レロスはそう溢す。
リーナスの話によれば、あの森は本来は草食動物などが住み着くのどかな森だそうだ。
春になれば花が咲き乱れ、夏になれば緑が栄え、秋になれば色づき始め、冬には全てを消し去るように白くなる。
そんな森だとリーナスが語っていたのを思い出した。
王国軍の駆除兼調査で分かったことがいくつかあった。
まず生態系に問題はなかった。
問題のオオカミには謎の紋章が刻まれていたそうで、その話を聞いた時も、そして今もあまりいい気はしなかった。むしろ、何か嫌な予感が近づいているとさえも、感じてしまう。
何よりリーナスが大事そうにしていたあの森になんともなくてよかった。
ギルドを出た直後、外でリーナスが下を俯いて立っていた。
「リーナス?どうした?そんなところで突っ立って...」
リーナスはハッとして顔を上げる。
見知ったパーティメンバー、なんなら相棒と言える存在が目の前で自分のことを心配していそうな顔をしていた。
「ううん、大丈夫。森のことで少し気がかりなことがあるだけ」
やはり気にしているようだ、とレロスは受け取った。
誰が、一体なんの目的で...縁があるのかはわからないが、知っている土地が勝手に個人の都合で改変されるのはよろしくない。
むしろそれが地域全体の問題となれば、さらに世界規模に広がる恐れだってあった。
あってはならない。そんなことは。そう考えているのだろう、とレロスは考えた。
かく言うレロスも思い悩んでいる。
闇属性の魔法だが、やっとこさ一つ覚えることができた。
「アルコル!!」
詠唱すると、暗がりが生まれた。
まさにその空間は、周りに照らすものはない夜そのもの。ただ照らすのは、星々だけ。
──奇しくも、闇属性ながら対局の存在であるはずの「星」を利用する技である。
「まさかこんな技があるとはな」
自分でも驚きである。こんなに綺麗な夜空は見たことがない。
周りは真っ暗だし、改めて宇宙の広大さを受け取れる。
しかし思い悩んでいるのはそこではなかった。
「なんでまたこれが出てるんだ...?」
暗がりは出ている。しかし中身がおかしい。
本来のアルコルの内容は「星々に魅了させること」である。いわゆる錯覚系の技。
しかしレロスが放っているのは「拘束する」技だった。
「俺が何かおかしいのか...?」
レロスはずっとこのことで思い悩んでいる。
「大丈夫?なんか思い詰めてる感じがするけど...」
リーナスが心配そうな顔で見つめている。
「いや、大丈夫。ちょっと難しいなって思ってるだけ」
レロスは軽く言ってのけたが、実際はそんなことはない。ただの言い分。言い訳。その程度でしかないのだ。
思い詰めている日から数日が経過した。
2人はいつも通り、魔物討伐のクエストを受けていた。
「さ、いつでも放ってくれ!」
レロスは声を上げて合図を送る。
リーナスがそれを受け取り、
「おっけー!“サンブレイク”!!」
詠唱の直後、魔物に向かって火の玉が落ちてくる。
火の玉と魔物が接触すると、魔物はあっという間に焼き尽くされた。
「ふう、これを回収して...」
何か異変を感じ取った。何かが来ている。
今すぐに行動を起こさないと、まずい気がした。
「リーナス!!こっち来い!!」
相棒を呼んだ。死んでほしくない。その一心で。
直後、リーナスがいた場所が急激に盛り上がり、巨大なミミズのような生き物が姿を現す。
「あれは...オオミミズよ!!」
オオミミズ。全長35m、直径5mの巨大な図体を持つ地下の番人。
本来、オオミミズは湿地帯に生息するため、湿潤帯の王都には生息していない。
つまり、これも誰かがやった、と言うことだ。
「また誰かがやったんだ...間違いない...!」
すぐに立ち上がって応戦する覚悟をする。
負けてはいられない。このまま惨めにも喰われることも論外だ。
オオミミズはその大きな体で辺りを一網打尽にしていく。
「アルコル!!!!」
黒いモヤがいつも通り出た...そう、感じた。
異変は「起きてしまった。」
ポケットにしまっていたブロック、否、立方体が突如としてポケットから飛び出してレロスの手のひらに乗る。
そしてその黒いモヤを、どんどんと吸い尽くし、黒く染まる。周りはなんともない。立方体とモヤの周りが異常だった。
しばらくじっとしていた立方体が、急に気迫を帯び始める。
今の自分では勝てるはずのない、とてつもなく悍ましい力。それをこの手のひらの小さな立方体から感じた。
しばらくするとオオミミズが抵抗をやめて急に倒れる。
「は………?何が、起きた...?」
状況をうまく掴めない。
何が起きていたのか。さっぱりわからなかった。
「これ...リーナスがやったのか?」
リーナスにとりあえず聞いてみた。
「いや私じゃない...レロスでもなくて?」
「俺じゃない...まさか...コレが...?」
2人の目線はレロスの手に向けられる。
小さな立方体。まさかこれがやったのか?2人は考えに考えたが、何もわからなかった。
「私...今までこんなものを使い回してたってわけ...?」
リーナスはそう、少しだけ驚いたように言った。
しばらくその場で立ち止まっていたが、急に我を思い出し、狩った魔獣を回収した。
あの瞬間何があったのかはわからなかったが、ひとまず言えることといえば、これは今の自分たちではわからないものである。ただそれだけであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後日、図書館に行った。
書物を手当たり次第探した。
何も手掛かりは見つからない。
熟練の魔導士にも聞いてみたが、そんな話を聞いたことはないと突っぱねられた。
「わからないもの...なんだな...」
レロスは思ったよりこれが深刻な問題を引き起こしていることに驚きを隠せなかった。
リーナスは特段気にしている様子はしていなかったが個人的な好奇心で調べてきたが無駄足だった。
もはや気にしなくてもいいと思い、魔法の特訓に時間を費やした。
レロスは、立方体のことのついでで自分の魔法について調べた。
すると、自分が普段アルコルと唱える魔法が、「ポラリス」と言う別の魔法であることが判明した。
リーナスによれば、詠唱するとなぜか別の魔法が出るのは初心者にあることで、珍しいことではないそうだ。
何より成果はもう一つあった。
闇属性の属性は、────────。
その後、自分の中でもいろんなことがまとまって、2人でクエストを受けていた時だった。
その日はとても暗い天気だった。空は暗く、どことなくズーンとしていた。
「これでおしまいだな!あとは帰るだけ!簡単だ!」
レロスはクエストが無事終わったことを祝った。
「ええ、今日はもうゆっくりしよ...疲れた...」
そう言ったリーナスと笑い合った。
───こんな日が、ずっと続けばいいのに。
そんな時だった。
「そこのお兄さんとお嬢さん。失礼」
黒い男が、急に声をかけてきた。
あからさまに怪しい。フードも深くかぶっていて顔もよく見えない。
「な、なんですか...?」
レロスがリーナスを庇うように前に出てそう言う。
「ああっと、困らせてしまったか。失敬」
男はそう言う。
テンションというか、何かがおかしい気がする。頭のネジが外れてるのか?とレロスは内心感じた。
「私は“魔王軍幹部”ウヌク。どうぞよろしく。…あなた方と対立する気は、我が命にかけて、ない」
突如として目の前に現れた魔王軍幹部、そして一方的な中立宣言に、レロスとリーナスは呆然としていた。




