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第17話 「正教会と深愛」

嫉妬センサー④を公開する前に17話を公開してしまいました。本当にすみません。



「俺は王国軍空中騎士隊第一部隊長、“レルアス”。国王陛下の勅命により、貴様ら魔王軍を討伐しにきた」


そう言って剣振り─────否、レルアスは名乗り出た。


「王国軍…だって!?」


王国軍。国王または女王の直属の軍隊にして、国軍。陸海空からなり、3つの軍がそれぞれの責務を全うし、王国を守備する。


「なんでその王国軍のお偉いさんが俺たちを…!?」

「聞いた話では、今過激派と穏健派がぶつかり合っているそうだな」


レルアスは落ち着いた声でそう話す。その話し口調から、戦況自体は王国軍は全て把握しているようだった。


「王国にとって、穏健派のアジトが王都にあるのは不都合なのだよ」

「それで、俺たちはなんで狙われてるわけなんですか…!?」


レロスはリーナスの肩を掴んで自分に引き寄せて、安心してせめてもの守りを固めることにした。

レルアスは険しい顔をして続ける。


「君たちを狙うのは、その戦いに加勢しているからだ」

「加勢してるだけで狙うのか…!?」

「ああそうだとも。狙うさ。狙うしかない。なぜならば」


そこで少し言葉の合間を開けた。

レロスにとってそこから続く言葉が何よりも恐怖でしかなく、いい言葉が続くとは到底思えなかった。その感情は、「正しかった」。


「その戦いに加勢している以上、君たちも王都を戦乱に巻き込んだ何かでしかないからな」

「そんな…首謀者ですらないってのに…!!」

「レロ、落ち着いて。これはおそらく投降をするよう促してるんだよ」

「投降…!?」


投降。もっと簡単に言えば、「降伏」。

彼らはどうやら、レロスとリーナスのことに関しては完全には王国の脅威とは感じていないらしい。


「レルアス隊長、申し訳ありません。王都の正門より、正教会が接近中とのこと」

「なに?正教会だと?それは本当か?」

「は、はい。警備兵がすでに確認済みで…」

「まったく、面倒な者どもが来てしまった。君たちは今回は免罪だ、ただ今後おかしなことをすれば…わかっているな?」


レルアスはそう言って剣をかざす。単なる脅しではない。また今後怪しいことをすれば、王国と戦争になる、と。そういう警告にも思えた。しかし、レロスは「正教会」に興味が湧いた。


「答えなくてもいいんですけど、『正教会』ってなんなんですか」

「…『正教会』は、この王国の国教だ。神ベルニカを信仰対象とし、神からの力を得て、この世の理を教える。…そういう宗教だが、少し厄介な存在」

「誰が厄介、だと?」


そう言ってやってきたのは白装束の男だった。


「私は『正教会-最高顧問』ヴィナス。王国軍、貴様らに物言いしにきたのだ」

「正教会…また面倒なことを…!!!」


レロアスはその白装束の男を見て激昂する。

その白装束の男────『最高顧問』ヴィナスは、そう言って手を伸ばし、数珠をかざした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あの2人は『希望』…!!」

「それは穏健派の『強欲』だ……!!!」

「違う!!」

「違わない!!」


レロスとリーナスが王国軍、そして正教会の乱入で大困惑していたころ、こちらでは戦闘がクライマックスを迎えようとしていた。どちらも互角。どっちが負けてもおかしくない状況だった。そんな状況が揺ごうとしていた。


「───神よ、聞き届け給え」


そう、神聖魔法の詠唱が耳に入ったのだ。

目を向ければ、レロスとリーナス以外に2人の人影が見える。1人は浮遊し、剣を持っている。もう1人は、白装束に身を纏った中年男性だった。


「まさか…『正教会』…か…?」

「ええ!?過激派にとってそれは死活問題なのに!!」


正教会と魔王軍過激派は、ほぼ因縁の相手のようなもので、ことあるごとに衝突、正教会による過激派撃退を繰り返されてきた。ごく稀に逆襲したこともあったが。

どちらにせよ看過できるものではない。少なくともエフェルにとっては。


「これは好都合、この盤面を利用させてもらおう」

「…は?」


そう言ってウヌクは天に手を向けて結界を張った。


「ぐえっ!?」

「うえっ」


過激派は結界に当たると壁に当たったかのような仕草をしてその場に倒れて頭を押さえた。


「なんだこれ!?」

「見えない壁か!?」


下っ端の一般兵が次々と同じ状況に陥る。

いくら叩いても、体当たりしても自らの体を痛めるだけ。エフェルはウヌクを見る。


「まさか…あんた…」

「ああその通り。これは『過激派だけを出させない、通させない』結界だ」

「そんなものが…」

「あるんだよ。現に俺が使用してるんだからな」


ウヌクは魔王軍七大幹部最古の存在であり、およそ100年以上前からその座に座る人物である。その座に座って以降、あらゆる知識を蓄え、活用し、新しいものを作ってきた。その長い年月を過ごしたが故に、人間たちとの争い、身内揉め、人間たちとの和解、身内の分裂を目の当たりにしてきた。───これは、彼にとってとてつもなくちっぽけな出来事。


「ほらな、お前たちなんてこの程度なんだよ」

「んなあっ……なんでこんなことがっ…!」

「まかり通るのか、か?」


ウヌクは姿勢を崩してうずくまっているエフェルを踏みつけて見下ろす。


「『お前はその程度なんだよ』、結局は。結論が。そう言ってるんだよ」

「何をわかったように……!!!!」

「わかってるさ。少なくとも私は100年以上生きてるのだからね。君たちなんて『若造でしかない』。ただ反抗期を通り越そうとしているようにしか見えんよ」


ウヌクにとっての今回、これまでの『色欲』の動乱は、「反抗期」という言葉で片付けられてしまう。


しかしどうにも人間の若者は少し違った。魔族より大人びた、子供じみたものではない雰囲気を纏っていた。

レロスは、今回の戦闘に加わったことで魔王軍の内情をよく、詳しく知る数少ない人物に。リーナスはそんな彼のパートナーであり、王国トップクラスの魔法使い。そんな2人を結びつけた立方体。

謎は深く、好奇心もより強く駆り立てられるだろう。


「……でもさ」

「?」

「あんたのその力は欲しいと思ってたんだよ」

「!?」


形勢逆転。それがまさしく体現された。先ほどまで踏みつけていたのがウヌク、踏みつけられていたのがエフェルだったのが────逆転したのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「正教会…最高顧問…」

「肩書きだけ見ればすっごくお偉いさん?」

「おや、お二人……は………」


最高顧問はレロスとリーナスを見て、絶句した。否、そこにいるという事実を認められなかった。あって良いのだろうか?という、疑いが。自らの目への疑いが。


「これは失礼いたしました。お二人に御用がございます。この戦いが終わってからで構いません。お時間をいただけないでしょうか」

「え、まあ、良いよね」


最高顧問は落ち着いた声でレルアスの猛攻を片手で受け止めながらそう話す。話を振られたレロスは、リーナスに意見を求めた。


「また嫉妬しても知らないよ」

「また!??!?!!!!!?!?」

「そんなに驚くこと?」

「いやでもその時は…いいよ、僕のこと、好きにして」

「言ったね?言質とったよ?」

「言いましたとも」


レロスはリーナスからの忠告ありの承認を受けて、改めてヴィナスへ顔を向ける。最高顧問は穏やかそうな笑顔をしてこちらを見ている。


「良いですよ、時間が空けばいつでもどうぞいらしてください」

「…本当ですか、ありがとうございます」


ヴィナスはそう言って一礼すると、腕を払いのけるような形でレロアスを投げ飛ばす。一応彼は王国軍の一部隊を従える部隊長のはずなのだが…


「クソぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「変な雄叫びをあげないでいただきたい」


ヴィナスはそう一蹴する。しかしこの2人は周りにいた過激派のことを忘れていたことが1番の欠点だった。


「何俺たちのことを忘れてんだ!?」

「2人とも、危ねえっ!!!!“ポラリス”!!!」

「“ウィンド”!!!」


そう言って飛び出す過激派たちから守るようにレロスとリーナスがそれぞれ技を繰り出す。黒い霧が放出されたが、リーナスの風属性の魔法によって吹き飛ばされる。


「お二方…!!」

「変な奴に気を取られて…こんな目に遭うなんて…失態だ!!!」

「失態もクソもあるかよ」


そう言ったのはレロスだった。

腰に手を添えて、過激派との戦闘を繰り広げた経験者として物言いは、様になっていた。


「王国軍だか、正教会だか、なんだか知らねえけどここは過激派との戦闘場所だ。喧嘩なら他所でやってくれねえか?今非常に迷惑してるんだ」


そう言っていると後ろから迫っていた過激派が一瞬にして肉塊にされる。次々と、ゴロゴロと。


「一旦来てたやつはやっといたよ!」

「さんきゅ」


レロアスはこの2人に実力を今見た。

まずレロス。貧弱者かと思いきや、今さっき名前を知ったばっかの2人を守る根性はある。しかも、魔法属性がかなり稀な「闇」。しかも通常の闇属性とは異なる魔法まで使用している。

もう片方の薄紫髪の少女はいうまでもない。

────王国最強クラスの魔法使い。

そう呼ばれているのが彼女だった。だから知らないわけがない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


形勢逆転されたウヌクはもがいてどうにか立ち上がり、再び膠着状態へ突入する。このままでは埒があかないと確信していた。


「へえ、面白い異能だね…!!」

「クソ、異能の中身を知られたか…!!」


エフェルに『傲慢』の異能を知られてしまったようだった。極めて不味かった。なってはならない状況だった。あってはならないことだった。そう思える。そう思った。


「こうなったらあいつらに助けを求めなければ…!」

「どこまでも『傲慢』だね…!!自己のためだけに他人に助けを求めるなんてね」


エフェルが何か言ったような気がしたが、ウヌクは無視してレロスの元へ。しかしそれにしがみつくようにエフェルもついていったのだった。


一方その頃、レロスは戦場で王国政府に近しい勢力のトップ…に近しい2人を説教し、ついでに説得もしていた。


「……申し訳ない。王国軍の一騎士として、あるまじき発言を見せてしまった」

「こちらからも申し訳ない。事情は知っていたのに、乱入したのがよろしくなかったのだと思う……私どもはこれにて撤退させていただきます」

「私たちはこの敵を一掃するまで加勢しようかと」


2人はかなり潔く反省してくれているようだった。

ひとまず魔王軍過激派の一掃に専念しよう、そう決心しレロスはやる気を引き出す。そこに、強大な力のぶつかり合いが急接近しているとわかるまでは。


「そう、それでこそ『傲慢』!!」

「『傲慢』ばかりうるさいな、そろそろ良い加減にしないか!!“ホーリー”!!」


七大幹部のもめ合いがこっちに降りかかってきた。

ウヌクからは「聖なる光」が解き放たれる。それは正教会の神聖魔法とは異なる、また別の輝きを灯していた。


「ウヌク!!!」

「レロスか…!無事で何よりだ」

「さっきはちょっと言いすぎた、ごめん」

「いや、大丈夫だ。そんなことよりかなり疲弊させた。今のあいつならお前でも事足りる」


レロスとウヌクは先程の言い合いを一旦謝罪した上で、作戦を考え直していた。


「僕にやってくれってか。お前はどうするんだ」

「俺の分析ではお前の攻撃は『ブラックホール』でまとめて一掃できるが、デバフが大きい。そう考えれば、私がモブの一掃に加担し、君があいつの相手をすれば良い」

「そう…か。わかった、でも因縁は?」

「大丈夫だ。お前に託す。何かあれば呼んでくれ」

「あ、ああ。任された!」


そう言ってエフェルと再度対峙する。


「『色欲」さんよ、随分汚されてるじゃねえか」

「随分心配してくれるんだね、敵なのに」

「そうだな、まあ君が『闇に侵されている』のを確認したからね」


「闇に侵される」、これは闇属性の副作用と言える。

闇属性には魔法発動に失敗、または不完全な魔法を放った際に闇に侵されることがある。ついこの前、レロスがペテルギウスの発動に失敗した時のように。エフェルも侵されているのだと確信した。その理由は…


「お前から溢れてる闇属性のそれは、通常の放出とは全く異なるメカニズムだ」

「………」

「例えば。通常であれば、意思すればそこから出る。しかしお前の場合は常時体中から溢れ出ている」

「そうなの?」

「自覚なしとかあるのか」


レロスとエフェルは議論を重ねる。それを横目で見ていたリーナスは心中穏やかではなかった。なぜ……と。


「レロ」

「あ、はい」

「いつまで話すの」

「あごめん」

「本当に思ってる?」


リーナスはレロスの心内を探るように聞く。

エフェルと対峙しているとは考えられない状況での会話だが、続行する。


「思ってるよ」

「そ、ならいいよ。やい!『色欲』!!私は『深愛』のリーナス!!」

「『深愛』…」

「隣の男に寄り付く全てに嫉妬するぐらい愛してる!!たとえ『色欲』でもこの愛は似せられない」

「私は魔王軍七大幹部、『色欲』のエフェル。そんな愛も、私が真似っこして騙してあげる」


そう言って隣にいた薄紫髪の少女は、自信満々に前線を飛び出し、黒いモヤをとことん出す女も飛び出す。男を想う女と紛い物の愛を抱える女のぶつかり合いが始まるのだった。

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