第20話 「輝けるか」
輝きは灯してこそ価値を見出せる。輝きのそれがなければ輝いているとは無論言わない。レロスはそう考える。果てしない、永遠のループに囚われるように、ずっと深く、深く……
「レロ、大丈夫?」
「心配してくれてありがと。でも大丈夫」
「なんか、思い詰めてた顔をしてたからさ…」
「そんなに?ごめんね、心配かけて」
何気ない会話を挟んでいる2人だが、先日めでたく結ばれたばかりである。それ故に、普段と代わり映えない会話を挟むことしかできない。しかし、その当たり前を当たり前のように壊したのはリーナスだった。
「ねえ、レロ」
「はいなんですか」
「私たちって付き合ってるよね?」
「うん、付き合ってる」
即答。あまりの返答の早さにリーナスは度肝を抜かれる返答が返ってきたかとヒヤッとしたが、杞憂だったようだ。2人が付き合っているという事実はここにある。事実はあっても、実感が全く湧かないのだ。実感が欲しい。
でも彼氏彼女というか、カップルってどういうことをするのだろう?リーナスの疑問はそこだった。どういうことをすればいいのかわからない。
「ねえレロ」
「はいなんですか」
「彼氏彼女ってどういうことをすると思う?」
「えー…」
レロスは魔法の改変作業を一旦止めて考え始める。かなり悩んでくれている。
リーナスはそれだけで若干実感を得ることができた。しかしもう少し欲しい。
しばらくするとレロスは口を開き、近づく。
「こういうことをするんじゃないかな」
「へ……?」
「ごめん、僕にはこれしか思いつかなかった」
レロスはそっと正面からリーナスのことを抱きしめた。
リーナスはレロスがこうすると、予想はしていた。していたが、いざ実際にされると、予想外というか、なんというか、恥ずかしかった。
「……これ仲が良い兄妹でもしない?」
「するだろうね。というかしてたよ。されてた」
「え?されてた?」
「姉ちゃんがいたんだよ」
「あ、ああ!!なるほど、ね…」
少しリーナスの声のトーンが落ちたのは気のせいだろうか。心なしか寒気がする。
「まさか嫉妬してる?」
「してる」
「してるでしょってええええ!?認めた!!」
「最初のぎゅっが私じゃないのが悲しい…」
「で、でもさ!!」
レロスは肩を掴んで一回引き離すが、リーナスの顔をじっと見つめて続ける。
「俺の初めては、まだまだたくさんあるし、なんならもうリーナスが初めてを取ったやつだってあったよ」
「え?例えば何?」
そっと口元に人差し指を指す。それだけで察せた。
キス、なのだと。しかも唇の方。
「え!?やった!!」
「なんで喜んでるの…普通にファーストキスだったよ」
「だって嬉しいもん!レロスの初めて、もらっちゃったね」
「ちょっといやらしい言い方しないでもらって良い?」
2人で笑い合う。
これが自分たちなりの付き合い方なのだと思いながら過ごす。それがちょうどよかった。
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しばらくして、レロスは再び魔法構築に目を向けて集中した。
リーナスはそれを眺めて時々口を出してくる。しかし茶々ではない。いい意味で口を出してくるのだ。
「そこはこうしたらいいよ」
「え?こう?」
「そうじゃないって。そうすると効率が悪いよ」
やはり王国屈指の魔法使いは的確な指摘をしてくるなあとレロスは思う。何を言おう彼女こそ、王国屈指の魔法使い、「紫」のリーナス。なんでも7分野で各1名、総勢7名いるそうだ。……七大幹部となんだか雰囲気が似ている気がしているが。
「こうしたらいいよ」
「ありがとう、助かったよ」
「どういたしまして」
そうして再び作業を進める。
レロスがどんな魔法をいま作っているのか、リーナスは興味が湧いた。どんな魔法だろうか。彼は希望を抱いた闇、「光明」の使い手。星空に魅了させて油断を狙うのか。それとも、他の何かなのか。
「ねえレロ」
「はいなんですか」
「どんな魔法を作ってるの?」
「えーとね」
そういってレロスは自分が使える魔法を紹介し始めた。
アルコル、ポラリス、ブラックホール、一応使えるものが「深淵」。そして未完成なのが─────。
「ペテルギウス、なの?」
「僕が一回失敗して落ち込んでた時期があったでしょ?あれはペテルギウスが未完成だったからなんだ」
「そうなんだ」
「うん、そうなの。で…」
そこからレロスの熱弁が止まらなくなったのは言うまでもないが、しばらくしてからレロスは話を整理し始めた。ペテルギウスは未完成であること。しかし、完成形はすでに自分の中ではできているので、あとは構造を弄ってそれっぽくなるように調整を重ねるだけだということ。
「まあ案外簡単そうに見えて難しかったんだ」
「でしょうね、至難の業だよ」
「そこでリーナス先生が少し手助けしていただければなと」
「あのねレロ」
「はい!なんですか先生!!」
「先生やめて。あと普段のレロに戻らないと怒るよ」
「なんで?????????」
「だって、なんか、壁を感じるんだもん」
確かにそれはそうだった。言われるまでもなく、壁を感じた。とても大きい壁。いくら叩いても削ってもビクともしない壁。強靭で、強大で、強い壁だった。
「それはごめん」
「いいよ、次からしないって約束できる?」
「…わかった」
「なんで間が空いたの?」
レロスはそっぽを向いた。
そうして魔法の構造を改変する作業を2人がかりで開始する。レロスの構想通りに作業を進めるため、イメージを簡単に書き記す。リーナスが難しい作業を、レロスが簡単な作業を分担することで効率は向上した。
そうしているうちに決戦まで残り4日を切ってしまいそうな時間帯になった。輝きは、増していた。
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残り3日目となった日も、天候に恵まれたので実験へ向かった。名目上は「実験」だった。が、ピクニックになってしまった。
「あの、リー?これ大丈夫?」
「なーに心配してんの!大丈夫大丈夫!」
本当かな、とレロスは疑った。
リーナスはウキウキでピクニックの準備を進めていく。レロスの隣にはリーナスが勝手についてきたというウヌクが立っていた。
「レロス、これは大丈夫なのか」
「僕にもわからない」
「だろうな、私にも理解できない」
ウヌクにすらわからないことならそれはもはや新技術・/新勢力そのものだと思われる。しかしそれが信頼する相手ならば、予想外のことだと思われる。リーナスは予想外のことをしたのだろう。
戦闘3日前にすることではないとレロスもウヌクも実感はしていた。していたのだ。
「しっかし美味いなあ」
「だな、予想外だぶえっ」
「何が予想外だって???」
リーナスはウヌクの頭を鷲掴みにする。
レロスはそれを見てニコニコしている。その笑顔の裏に何かあるとは思えないくらい。
「さ、なんで次は…」
しばらくして地面がぐらっと揺れる。
かなり大きい揺れが襲ってくる。レロスは揺れ始める前から異変を察知していた。
鳥。小動物。森のざわめき。魚たちの挙動。
どことなく不審だった。その不審さを感じてから揺れ始めた。
「かなり大きいぞ!2人とも戯れてないで体制を整えて」
「えええ!?なになに、なんなの?!」
「これは一体…」
リーナスとウヌクは何も知らなさそうだった。
この揺れがなんなのか。しかし、あたり一帯から魔物が現れてくるにはすぐに見えた。ウヌクもリーナスも、そしてレロスも臨戦体制を構え、魔法を放つ。レロスのポーチから立方体が飛び出す。
「“フィードバリア”!!!」
「”ブラックホール“」
「………」
ウヌクだけ何かを呟く。
リーナスの風属性防御魔法で風の壁ができ、レロスのブラックホールにより、黒いモヤが放出される。
「よし。風属性を貫通して黒いモヤだけ通ったか?」
「え?ああ、通ったが…」
「あーーー!!!ウヌク!!まさか小細工したのはてめえかごらあああああああああ!!!」
リーナスのブチ切れが始まった。レロスは冷や汗をかいて止めに入る。ウヌクも聖属性で応戦しようとする。森のざわめきはまだ騒がしかった。
しばらくして落ち着きを取り戻した。
しかし3人には疑問が生まれた。
「ピクニックどころじゃなかったね…」
「魔王軍の仕業とかじゃないよな…?」
「わからんぞ、もしかしたら…」
ウヌクはそう口を開いた時だった。森のざわめきは急に静かになる。そのタイミングが、とても不自然だった。
「…静かになった?」
「だね。何か起きるかも」
レロスとリーナスは周りを見渡す。何か来るという直感は働いていた。しばらくして、森から何かが飛び出してくる。その何かは明らかおかしいオーラをその図体から放っている。
「…レロス、リーナス。下がっててくれ」
「なんだ、あいつは。お前の知り合いか?」
「……想定外が起きてしまった」
その想定外は、近づきながら口を開く。
「私は……私は、魔王軍七大幹部が1人……」
「言語化能力を失ったのか。欲深い奴め!!」
その何かは、魔族の男だった。そして、七大幹部とは。
「七大幹部…3人目…!?」
「ええと、『色欲』『傲慢』しか見たことがないぞ…!?」
「あいつは『強欲』だ」
「ああそうだそうだ、私は七大幹部が1人、ベリエヌ」
レロスとリーナスは混乱して2人で話す。魔王軍七大幹部は7人いるという話だから、残り5名…と話していたところにウヌクが口を出した。
そうして『強欲』のベリエヌは思い出して名乗ったのだった。




