第19話 「偽造した愛と本物の愛」
「じゃあ、レロスの返事を聞かせて」
「へ…??返事?何の返事…?」
「とぼけないで」
リーナスはほんのり顔を赤らめながらレロスを取り押さえる。
「私の思いに対する返事。待てない。1週間とか待てないよ」
「わ、わかったわかった!いつ言って欲しいんだ」
「今」
「今ぁ!?!?!??!!??!?」
レロスは大慌てで気持ちを整える。いや、気持ちは整えてあった。というかすでに一点に決まっている。
伝える勇気さえ、それさえあれば…
「リー、デートしよう」
「!!いいよ、どこ行くの?」
「山の上の展望台」
夕方に行けば、いい感じだと思った。
その方がリーナスは喜んでくれるかな、と。そう狙って言った。
2人は支度をする。準備を整える。
これを済ませたら、どちらにせよ自分たちの関係は変わるのだとそう思って2人は着替えて街へ出ていったのだった。
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「なあウヌク、あの2人いつもより何か様子が変じゃないか?」
「ん?」
「ほら見てみろよ。いつもより挙動がおかしい」
「本当だな」
「なんでお前はそんなにわかったように言ってるんだ、何か知ってんのか」
「知らんよ。温泉街で何かあって、その時のお返しをする感じじゃないか?」
「ああ、そういうことか。ひょっとしたら告白かもしれんな」
「…決着1週間前にのんびりとよくしていられるな、レロス…」
2人をそうやって遠目で見守る保護者2名は、片方は微笑ましく、片方は決着1週間前にのんびりとしていることに少々不安を感じて見ていた。
しかしウヌクはこれが決定打になるとも思っていた。
というのも、『色欲』は愛を欲していた。愛という欲を、強く求めていた。偽造していた愛でも、なんでもいいからという思いで。
しかし2人はどうだろうか。偽った愛などあるだろうか。いや、ない。あるわけがない。あったとしたらこれまでの茶番はどうなる。
偽造した愛は、本物の愛と似ても似つかない。
本物の愛は、何よりも優る。勝っている。揺るがない。
そう考えれば、今回の挙動不審は「どちらかが告白する」と見ていいだろう。そう思いながらウヌクは遠目で2人を観察する。
一方レロスとリーナスは店前の看板を見ていた。
「このサンドイッチ美味しそうだね」
「朝食メニューいいね、これ食べようかな」
「じゃあさ、後で分けてよ」
「…!いいよ、分けたげる」
「やった、ありがとレロ大好き」
「はいはい、可愛い可愛い」
「何それー!」
レロスとリーナスはいつも通りバカみたいにイチャイチャしていた。ウヌク達は勢いで平然を装って2人に接触する。
「お二人とも朝から仲睦まじいですね」
「うおっ!?ってウヌクか…」
「ちっ」
「あれ?リー、舌打ちした?
「してない」
リーナスはきっぱり否定するが、レロスは耳元でこそっと喋る。
「今日は2人きりがいいんでしょ?」
リーナスは、ちょっとだけ頷く。
それだけでよかった。
「2人とも、すまん!」
「?」
ウヌクとグェードの2人はキョトンとした顔をしたが、すぐに察した。ついにレロスが動いたのだと。それを遠目で見ておこうと今日のやるべきことを決めた。もっと他にやるべきことはあっただろうに。
「じゃあ入ろっか」
「うん………」
そうしてリーナスはほんのり顔を赤らめながら入店したのだった。
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「思った通り、このサンドイッチ美味しいよ!」
「本当に!?こっちの目玉焼きも美味しいよ」
「本当だ!…レロ」
「はい、なんですかリーナスさん」
「これあげるから、さ」
「?」
「もう!わかってよ!分け合いっこ!」
「……!!わかった。じゃあこれ…目玉焼きもう一個あったからあげる」
2人は分け合って、すぐに頬張った。
おいしいという感情に勝るくらい、心臓が鼓動を重ねる。相手に聞こえそうなくらい、心臓の音がよく聞こえる。
「おいしい」
「でしょ?美味しいよ、サンドイッチも」
「でしょ?」
そう言って普段と変わり映えのないことを話す。
リーナスは、いつレロスに告白されるかを考えながら頬張る。レロスはいつリーナスに告白されるか、どう反応されるかわからなかった。
そんなドギマギを抱えながら午前は時間を過ごした。
「あのお店の店主がね───」
「え?そうなの!?」
そんな些細な会話を挟みながら昼も時間が過ぎていく。
リーナスは考える。
愛とは何か、と。レロスから移った好奇心がモゾモゾ動いて仕方がない。
改めて自分が今レロスに対し抱いているこの感情を整理する。レロスのことを考えたり、意識したり、目に入れたりするとモゾモゾする謎めいた感情。くっつきたい、離れたくない、愛でたい。
そんな感じの感情。誰にも偽れないような感情。もし偽るならそれは化けるのが得意な何かだろう。
リーナスは愛とは誰かを心の底から大事にすることではないかと仮ではあるが結論付ける。
これが今後揺れ動くことがあっても根本に大事にしておきたいなと、リーナスは思った。
リーナスが考えているうちに時刻は夕方、目的地である展望台へやってきた。
草むらの中に怪しい影が二つ見えたが、多分気のせいだろう。
「もうちょっとで着くはず。頑張って」
「ううう、おんぶしてよお」
「仕方ないなあ、よいしょっと」
「重くない?」
「重くないよ、むしろ軽い。でも今日は疲れたからどこかで降ろすかも…」
「りょーかい」
レロスは結局降ろさずに頂上へ運んだ。
頂上から見える王都の景色は、それはそれはアルウェルの時と同じような感じで綺麗だった。
「綺麗だね」
「うん」
リーナスは率直な感想を述べる。
夕焼けに照らされる王都はとても輝いていた。普通の人であれば、目を離せない、そんな感じだと思う。でもリーナスは隣の人から目を離せなかった。
「ねえ」
「え?どうしたの」
「そろそろいいでしょ」
「…そんなに聞きたい?」
「聞きたいよ」
レロスは顔を赤らめて深呼吸をして口を開く。
いよいよ返事を聞けるのだと、リーナスは期待を胸にその口から発せられる言葉を待つ。
「ずっと好意を持たれてるって自覚はあったよ」
「うん」
「でも僕がそれに応えられるか不安だった」
「!」
「でも、応えてみせるって、そう思った。支えてくれて、助けてくれて、導いてくれて、……愛してくれる人を、そんな軽い気持ちでねじ伏せたりしたくない」
「…!!レロ…」
「僕も好きだ。君のことが、好きで好きでたまらない」
出会った瞬間から彼は突き動かされていた。結論は好奇心ではなく、この愛おしい存在を守ることだったのだ。
「私も好き、大好き」
「恋人ってことで…いい、よね?」
「え、当たり前じゃん、よろしくねレロ」
「うん、よろしく」
しばらく気まずい空気が流れる。
恋人同士の関係になれたことはお互い嬉しいはずなのに、どこかむず痒くて、話を振りずらかった。
沈黙を破ったのはレロスだった。
「約束は達成できたよねこれで」
「いやまだだよ」
「え?」
そっと口に手を当てる。
それが何を意味しているのか─────レロスはすぐに察した。
「え!?そこまでやるの!?」
「やってよ!好きなんでしょ私のこと!」
レロスはしばらくしゃがみ込んで、うずくまって悩んだ末に、顔を赤らめたままリーナスを見つめた。
「これが下手だったとか思わないでね」
「思わないよ」
「そ、そっか。じゃあ」
そっと、一瞬だけ口づけを交わす。
その瞬間は世界に2人だけしかいない気分だった。そんな夢心地だった。とても気分が良かったのは、言うまでもない。
それを草むらの中から見る2人組─────ウヌクとグェードは、ロマンチックすぎるその光景を見ていた。なんなら消音シャッターでカメラに収めていたほどだ。
コソコソと2人は話し始める。
「すごいなあの2人」
「若いな」
「それもそうだが、周りを見てみろ。人が多い中こんなことをしてるんだぞ」
「それもそうだな」
「でも」
「?」
「あの2人が結ばれてよかった」
「だな」
「長かった」
2人は見守ってきた。かなり最初の方から。
最初はレロスの微弱なアタックから始まり、その後リーナスの甘えん坊が急加速し、レロスも負けじと少し加速。ちょっとずつ歩み寄って、やっとくっついた。
これからどうなるのか観察していたい。そう思った。
「さあ、俺たちは帰ろう」
「そうだな、長居するとバレるしな」
「「何がバレるって?」」
2人の後ろに、男と女がいた。
すごく怖い顔をしていた。とても怖い笑顔だった。
「あの、お慈悲とか……」
「ない」
「あのお、薔薇いる?」
「いるけど今じゃない方が良かったかな」
2人はこのあと木っ端微塵にされたという。
決戦まで残り6日。
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翌日、いよいよ未完成魔法の完成が近くなってきた。
ここさえ変えれば、いよいよ化け物みたいな魔法が出来上がる。
「できそう?」
「できた……ってうわ、可愛い女の子が真横にいる。超可愛い」
「ばか、で、どうなの?」
「えっと、もうすぐ完成だね。超可愛いなやっぱ」
「付き合い始めてからこの調子!私の彼氏どんだけ褒める訳!?」
「?ずっと褒めるけど…」
「なんで!?」
「可愛いから」
「ううう……」
レロスはそっとリーナスの頬をつついてみる。
「えいっ」
「ぴえっっっっっっっっ」
「だからその『ぴえっ』って何?」
「秘密!!」
レロスの探究心が深まりそうな発言をしてしまったと、リーナスは後ほど後悔することとなる。知っての通りだが、付き合い始めてからもレロスの好奇心は止まらなかった。
そんな2人が過ごす部屋の窓際には、一輪の花が飾られていた。その花は、赤いカーネーション。花言葉は、もはや言うまでもないだろう。




