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第18話 「色欲-エフェル」



貧しい村にいた。そこに愛はなかった。

嫌われていた。もちろん愛はなかった。

村を出て街に出る。愛を得たかった。

町でしばらく過ごす。愛は得られなかった。

街にいた。そこに愛はなかった。

愛が得られないなら──────。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リーナスとエフェルは場所を空けて対峙する。

リーナスは相手を睨みつけるが、レロスは相手を観察していた。そう、レロスの好奇心はエフェルその人に向けられていた。今現在、この場においてレロスの好奇心はエフェルにもっとも向けられているのが事実だ。


「あんたが興味深いよ」

「私に興味が?愛するってわけ?」

「何言ってんだお前、俺が愛を向けるのは…」


そう言ったレロスはリーナスを見る。リーナスも気づいてこちらを見て、首を傾げる。レロスはそれを見て微笑んで頭に手をポンっと置き、言葉を紡ぐ。


「この子って決めてるんだ」

「ななな…」


レロスが突拍子もないことを急に言ったからか、リーナスは顔をみるみる真っ赤にする。そうしてリーナスはポカポカと、「バカ」と言って叩く。その行動が可愛らしくて、愛おしくて、尊い。


「そ、愛は向けてもらえないんだね」

「ああ、残念ながら」

「なら奪い取るしかなくなっちゃった」


そう言ってエフェルは飛びかかる。

さっきまで顔を真っ赤にしていたリーナスがさらに前へ出る。


「“ヘイシャル”!!!」

「ちぃっ!!泥棒猫!」


リーナスが幻惑系防御魔法を放ち、レロスをエフェルから守る。獲物を守られたエフェルが声を荒げて罵声をリーナスに飛ばす。


「泥棒猫…?あんた、何言ってるわけ?あんたこそ泥棒猫でしょ!?」

「はあ?!!?!?」

「あのねえ!!レロスは私と『婚約』してんの!!ふざけた言ってるとぶっ殺すわよ?!?!?」

「リーナスさん!?婚約した覚えないよ!??!あとぶっ殺すみたいな物騒な発言やめて!!」


リーナスは血が上っているのか、変なことばかり言い始める。レロスはその中の発言にかなり反応してびっくりしている。


「レロス、これは想定内か?」

「……これは想定外、ある意味だけど…はは…」


ウヌクは青ざめた顔でレロスの横へとやってくる。

レロスも呆れた顔をして愛想笑いを尽くすことしかできなかったのだった。





「だからさあ!!泥棒猫はそっちだってば!!」

「いや、あんただね!!私は彼がこの世界に来た時から目をつけてた!!」

「いや私なんてこの世界にくる直前、元いた世界にいた時のこともある程度知ってるし見てたこともあったし!」


時刻は夕方。日も暮れ始めていた。女はずっと同じことを言い合っていた。ウヌクとレロスは「何やってんだこいつら」と言う目で見ることしかできない。


「マジでいつまでするんだよ」

「拉致が本当にあかないぞこれ…」

「かと言って止めようとしたら…なあ?


遡ること、数時間前。

レロすはこのままだと戦線が動かないと悟り、無謀な言い争いを止めようとした。


「リー、ちょっといいですか」

「!レロ、邪魔しないで。これは女の意地を見せるところなの」

「ええ…」

「あなたが口出すことじゃない。私がこの女を打ち負かして、あなたと一緒に未来永劫暮らすの」

「それは嫌だ!!!!」

「さあおいで?私と一緒に………」

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」


レロスは止めようとしたのにまさかの返り討ちにされ、止めようにも止めれない状況が続いていた。なお、ウヌクも同様に返り討ちにされた。

つまり、今の所男性陣はなす術なし。どうしようもなかった。



「さっさと引きなさいよ、身の程知らず…!!」

「あんたこそねえ!!」


もはやここまでだと察し、レロスは立方体を取り出す。

リーナスもろとも、一度抑え込もう、そう思ったのだ。

ウヌクはレロスを見て「そろそろ力ずくでもやらないとまずい」と言いたいような顔をして覗き込む。

レロスは顔を上げてやる気を出し、ウヌクの方を向いて喋り出す。


「ウヌク、エフェルを頼む。これから“ポラリス”で幻惑を見せて動きを封じる」

「ああ、わかった」


そう言ってやっとこさ行動に移し始めた男性陣だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


エフェルの生まれは貧しい村だった。両親からの愛はなかった。彼女の人生は今も昔も愛に飢えていた。親からも友人からも、知り合いからも愛は向けられなかった。

残念ながら、彼女を愛した人は何名かいたがエフェルの重圧に耐えきれることなく「押し潰れた」。


「なんで…みんな私を愛してくれないんだろう?」


彼女の人生最大の疑問は、この時点ですでに成立していた。彼女は愛に飢えていた。結論はすでに目に見えていた。────自分はすでに嫌われているのだろう、と。

そんな村で過ごすことはできるはずがない、したくもなかったから、街へ出た。しかし、結果は同じだった。彼女の命運は「愛されないこと」。


『色欲』として覚醒したのは、間もないことだった。

世間から名を恐れられていた、魔王軍七大幹部。その一角、『色欲』は惑わす者をそのまま体現したものだった。誰かの大事な人に化ける。動物に化ける。町内会の会長に化ける。子供に化ける。赤ん坊にすら化けた。

あらゆるものに化ける、それが『色欲』だった。


「私は魔王軍七大幹部が1人、エフェル」


しかし彼女は『色欲』とは一切名乗らなかった。相手が自分が『色欲』であると確信するまで黙る。なぜそうしていたのか。

────私は愛が欲しい。偽造した愛でもいい。純愛でもいい。なんでもいいから、自分を認めて、受け止めてくれる愛が欲しい。

その一心だった。


「お前は…『色欲』か。私は『傲慢』だ、よろしく」

「あ、よろしくお願いします」


『傲慢』とも出会った。人柄は良さそうだった。相談したらなんでも結論を出してくれそうな、そんな存在。


「君が『色欲』か!俺っちは『暴食』、よろしく〜」

「え、ああ、よろしくお願いします」


『暴食』は飢えていそうだった。偏見ではない。見た目からも飢えていそうだった。自分も食われるかもしれない、と。暴飲暴食。その4文字がとてつもなく似合う人物だった。


色欲は思う。愛されたい、と。あの村で愛してくれた「誰か」のように。この思いが報われるとは思っていない。でもいつか達成できるのではないかと、心の奥底でそう思っていただけなのだ。


せめて死ぬ前には、愛に辿り着ければいい。

小さい頃から叶えたかった、「愛されたい」という夢を。そんな夢を、叶えたい。子供心に、がむしゃらに、時には人を殺めてでも、叶えたい。そんな独善的な考えで、その一心で突き進んだのが『色欲』だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ポラリス」


レロスはそうつぶやき、黒いモヤをエフェルとリーナスにまとわりつかせる。彼女たちの目には、今綺麗な夜空が上空一面に広がっていると思っているはずだ。


「ウヌク!始めよう!」

「了解した。しかし大丈夫なのか?」

「大丈夫。普段のやり返しと思えば楽ちん」

「お、おう…」


ウヌクはレロスが今まで見たこともない、普段リーナスがしているような意地悪な顔を見て「似た者同士だな」と内心思ったのだった。


しばらくして、ウヌクはエフェルを動かないように捕まえる。ウヌクがエフェルを対応している隙に、レロスはリーナスの元へ駆け寄って、後ろからそっと抱きついて無力化する。

無力化と言ってもこれはリーナスにやるならばレロスが適任であるだけだが。


「ねえリー?いつまで僕を待たせるの?」

「ぴえっ」

「ぴえっ??????????何それ可愛い…」

「ぴえって…なんだよそれ………」


リーナスから突如として放たれた言葉は、レロスとウヌクの2人を一瞬困惑させた。しかし大丈夫だった。少しの油断が、チャンスでしかないのだから。


レロスはこれまで3ヶ月以上にも渡る同棲で、彼女の喜ぶこと、嫌がることなど、知り尽くしていた。知らないのは本質と、内面だけ。完璧に理解することは難しいが、それでも自分にも、彼女にも、心の奥底に絶対お互いを愛する心があったのは確かだった。2人は愛し合っていた。愛し合っていたとも。そう決定づけるのが今の状況なんだとレロスは確信する。


無事リーナスとエフェルを引き離すことに成功すると、レロスはエフェルにかかっていたポラリスを解除した。


「これはどういうつもり?」

「最後の戦いを始めようかな、と」

「決着なら、別の日にしましょ」

「は?」


レロスはエフェルの撤退宣言を聞いて、驚いた。


「このままじゃ全力を出せない。それはあなたも同じ。でしょう?」

「うっ…それは確かに…」

「なら一週間後。またこの場所でやりましょう。一騎打ちで。楽しみにしてるわ」


2人は会話を交わした。最後の戦いの日時は決まった。あとはその日までに対策するだけ。レロスは「好奇心」に身を委ね、戦いに向けて自身の未完成魔法を完成させると誓ったのだった。


一方その頃、リーナスは「ポラリス」が解除されていないのにも関わらず、レロスと第三者が会話していることを察知して嫉妬センサーをビンビンに働かせていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最後の対決は、およそ1週間後。レロスは自らの闇属性と真剣に向き合い、日夜研究と実験、検証を行った。


「ここの形式を変えれば、より威力が増すかもしれないな」

「レロ、まだなの?私の出番は?」

「そういえばリーって王国最強クラスの魔法使い…だよね?」

「え、うん。そうだけどどうしたの」

「リーナス先生」

「先生???」

「お願いします、魔法について教えてください!!!」


レロスは勢いよく頭を下げた。

リーナスは目を大きく開いて驚いたがすぐに微笑んだ。


「いいよ、教えてあげる」

「いいの…?やった、ありがと、リー」

「じゃあまずは…」

「?」


レロスはその後ギョッとした。

リーナスがあり得ないほどの紙の束を出したのだから。


「まずは基本講座ね!やりましょうね!」

「や、やっぱ遠慮しとくよ…」

「え?いつもの好奇心はどこ行ったの?」


レロスは後退りしてリーナスと距離を置いた。

しばらくしてリーナスは戦いの中で「約束」を交わしたことを思い出した。


「ねえレロ」

「なに?」

「…『約束』」

「え?ああああ!!したね、したした!どうしたの、やること決めた?」

「じゃあ、レロスの返事を聞かせて」

「………へ?」


リーナスはレロスに告白しろと、遠回しにそう言ったのだった。

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