第14話 「攻撃準備」
王都はどこか忙しなかった。というか全体的に強張っているというか、なんというか。リーナスは1人不安に思いながらレロスを追いかける。
「レロ!?大丈夫!?」
「ああ、大丈夫。現実に引き戻されて夢心地だったのが最悪になっただけだ」
「それは…大丈夫じゃないよ…」
アルウェルで灯された多くの星の一部が、心の中の星が、王都の緊張感で現実を味わい、少しだけ光を失ったのだった。───一晩の間レロスは先に休憩を取ることとなったのだった。
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昼頃、リーナスは1人で穏健派のアジトへと乗り込んだ。
「なるほどなるほど。つまり彼は若干闇に閉ざされている、と。アルウェル旅行は楽しめましたか?」
「ええ、それはもうそうですね。あんたに提案されたことが唯一癪だったけども」
「本当に彼に対する態度と180度反対ですね」
「うっさい黙れ」
入って早々ウヌクのうざ絡みに付き合わされたリーナスはその美貌から出るとは到底思えないようなものすごく汚い言葉を浴びせ続ける。
ウヌクはそう言うリーナスを見て微笑んでいる。年長者だからだろうか、とんでもなく余裕の佇まいである。
「作戦は今夜決行です。彼もおそらく今晩には復帰ですが、大丈夫でしょうか」
「ええ、まあレロは昼ぐらいには意思疎通がちゃんとできてたし、普段通りの生活を営めてた」
「そうですか。まあ、彼はおそらく大丈夫でしょうね」
「?それはどういう…」
「直ぐにわかることではないですが、今晩過激派がやってきます。やはり予告時刻よりはやい」
「予告時刻どころか日付すら早いけど…」
「まあこれくらいは許容ですね…前回なんて予告1日後でしたし」
「対策できようがない…」
リーナスとウヌクはそうやって会話を弾んでいく。
レロスがいれば「いつからそんなに仲良くなったの!?」と言いそうな場面だが、リーナスは別に仲良くなったとは思っておらず、ウヌクもまた「彼女からすれば迷惑に思っているだろうと勘づくくらいの嫌われ具合を把握していた。
「まあ今晩に向けて準備は進めておくように」
「はーい、わかったわかった」
そう言ってリーナスは足早にレロスの元へと帰還していくのだった。
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「もお、心配して損した」
「え?何が?」
「何がって、帰ってきたあとだいぶしんどそうで今朝は大丈夫そうだったけど、今はもう大丈夫そうだね」
「うん、全回復したよ」
2人はそうやって雑談を重ねていく。次第に話題は魔王軍の襲撃の話に移り変わった。
「それで、今晩なのか」
「うん、そうみたい。できる限りの対策はしてる、ってウヌクは言ってたけど、実際どうなのかはさっぱり…」
「『色欲』が何をするかわからない…それだけがただただ怖い」
「確かにそうね、うん。でも大丈夫!私もいる!そばにいるから、ずっと。くっついとくし。私が本物って印が欲しいな…」
「うーん、そうだな。じゃあこれはどうかな?」
そうして手渡したのは、ブレスレットだった。それも少し高そうなもの。
どこでどうやって入手したのか…それがリーナスにとって疑問だった。
「これ、どこで買ったの…?」
「ん?アルウェルに行く時のおっちゃんいたでしょ?馬車のおっちゃん。あの人がくれたんだよ」
「え?あのせっかちなおっちゃんが?」
「まあ色々あって、ね」
「…とても嬉しいよ、ありがとう。これをつけておくね」
そう言ってブレスレットをつけてみる。
宝石が埋め込まれていて、その宝石が時折輝きを放ってくるのがとても美しいと感じた。
「すごい綺麗…」
「でしょでしょ?これとても綺麗だなって俺も思った」
そうして2人は宝石の話をぺちゃくちゃぺちゃくちゃと話し続ける。この宝石は───。あれはこうで───などと、会話はどんどんと弾む。次第に周りは夜となり、戦争の雰囲気が王都中に広がっているのをレロスは実感した。
「俺はちょっと出遅れるよ」
「え?まあいいけど…追いつくよね?」
「ああ、追いつくとも」
「じゃあ、また後で」
そう言ってレロスはリーナスを見送っていく。彼女が見えなくなるまで、ずっと手を振って。
そうして見えなくなってからポーチから立方体を取り出す。
「今日はお前が頼りなんだ…頼むぜ、相棒」
そう言ってレロスは立方体に話しかける。
立方体は「おう、任せやがれ!」と言わんばかりに自慢げに光ってみせたのだった。
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王都の正門前では数多くの冒険者、魔王軍穏健派や元過激派、過激派から寝返った者が数多くいた。
「ウヌク、ここであってる、よね?」
「ああ、あっているとも。…彼は?」
「レロは少し遅れるとかなんとか」
ウヌクは少し悩んだ末に「了解」とだけ言って全員に聞こえるように大声で話し始めた。
「奴らはもうくる!!全員戦闘準備を整えろ!いつくるかわからんぞ!!!」
そうして大声をあげたのち、丘の上から大勢の人がこちらを見ていることに気がつく。
その人数はおよそ1000名。数多くの魔族がこちらを遠目で睨みつけていた。
「きたか、過激派ども。我々穏健派に終止符を幾ら打とうと、無駄だ」
「本当に『傲慢』。でもその素質がありながら穏健派であることが勿体無い」
そう言うのは外幹部ケルベス。今度は彼本人である。
本人はやはりレロスと瓜二つ…生き違えた双子のようにも見える。
その雰囲気、オーラ、その全てが。レロスと同じであることにリーナスは憤りを感じたのだった。
「あんたみたいなのがレロと同じ姿形で喋ってるのが腹立つわ」
「リーナス、そう怒るなよ。俺と思いを通じ合わせただろ?」
「あんたとはしてない」
「………そうか。まあこれからわかることだ」
ケルベスはそう言って空を見上げた。
空には満天の星空が広がっていた。まさに天気は晴天。星空は澄んでよく見え、清々しいほどに美しい。
多くの民衆が遠くから見守り、一触即発に雰囲気が漂っていた。
「…いつ出てくるかわからん」
「だよね、何もわからない。私たちからやる人もいないってわけ?」
「今のところは、な」
しばらくして空は暗くなり始めた。
星空は隠れるように黒が覆い尽くし始める。
「これはケルベスの…?」
「わからん。とりあえず何か起こるんだろう」
しばらくして、そんな黒から光が灯り始める。
無駄はない。清々しいほどに、見惚れるように輝き出す。そこから「何か」が急スピードで落ちてき、辺りは土埃で満たされた。
「な、なんだ!?」
「何者だ!出てこい!!」
そうして土埃が立ち込め、薄れてくるとそこにいたのは黒いフードを被った男だった。
その男はしばらく穏健派の方を見てから、過激派へと目線を向ける。向けた直後に風は強くなびき、彼のフードを強制的に降ろさせた。
見えたのは黒い髪。黒いローブに黒いズボン、黒い服。腰部にあるのはポーチで、そこから立方体が飛び出し手のひらの上に乗り意気揚々に点滅する。
「ブラックホール」
数多くの星に救われ、その星々の支えとなる明るい闇の使い手────レロスが、目に希望という名の光を灯して先制攻撃を打ったのだった。




